Linux Kernelの脆弱性 CVE-2026-68162、SCTPのUse-After-Freeでローカル権限昇格のおそれ Ubuntu向けPoC公開

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Linux Kernelの脆弱性 CVE-2026-68162、SCTPのUse-After-Freeでローカル権限昇格のおそれ Ubuntu向けPoC公開

Linux kernelのSCTP(Stream Control Transmission Protocol)実装に存在するUse-After-Free 脆弱性 CVE-2026-68162について、公開PoCがGitHub上で確認されました。

Linux kernel CVEチームによると、CVE-2026-68162はSCTPのauth_enable sysctl処理とネットワーク名前空間(network namespace)の終了処理が競合することで、解放済みのSCTP制御ソケットへアクセスできる可能性がある問題です。

CVE.org/kernel.orgのCVSS v3.1評価は7.8(High)で、攻撃条件はローカルアクセス、低権限ユーザー、ユーザー操作不要となっています。

セキュリティ研究チームNebuSecは、Ubuntu環境を対象としたCVE-2026-68162のPoCコードをGitHubで公開しています。SecurityOnlineは、このPoCによってUbuntu 26.04上でローカルユーザーからroot権限へ昇格できると報じています。

一方、Linux kernelの公式CVE情報は、脆弱性の影響をUse-After-Freeとして説明しており、root権限奪取そのものを公式に実証したとは記載していません。Red Hatも、ローカル攻撃者によるメモリ破壊を通じてシステムクラッシュや未定義動作、条件によってはコード実行につながる可能性があるとしています。

9月3日時点で、実際の攻撃でCVE-2026-68162が悪用されていることを示す一次情報は確認できませんでした。また、CISA Known Exploited Vulnerabilities(KEV)Catalogへの掲載も確認できませんでした。

CVE-2026-68162のサマリー

  • CVE-2026-68162はLinux kernelのSCTP実装に存在するUse-After-Free脆弱性です。
  • 問題箇所はnet/sctp/protocol.cnet/sctp/sysctl.cです。
  • CVSS v3.1は7.8(High)です。
  • 攻撃ベクトルはローカルです。
  • 低権限ユーザーで悪用可能と評価されています。
  • ユーザー操作は不要です。
  • ネットワーク名前空間の終了処理中に、解放済みのSCTP制御ソケットへアクセスできる可能性があります。
  • Red Hatは、メモリ破壊によるクラッシュや未定義動作、条件によりコード実行につながる可能性があるとしています。
  • NebuSecがUbuntu向けのPoCコードをGitHubで公開しています。
  • SecurityOnlineは、PoCによってUbuntu 26.04でroot権限昇格を確認したと報じています。
  • Linux kernel公式はroot取得の実証については記載していません。
  • Linux kernel CVEチームは最新のstable kernelへの更新を推奨しています。
  • 5.4系列では5.4.292、6.6系列では6.6.151、6.12系列では6.12.101で修正されています。
  • 5.10系列では5.10.266、5.15系列では5.15.217、6.1系列では6.1.184にも修正がバックポートされています。
  • 6.18系列では6.18.42、7.1系列では7.1.6、メインライン側では7.2-rc5で修正されています。
  • Ubuntuは9月3日時点で複数のサポート系列を「Needs evaluation」としています。
  • 9月3日時点で実環境での悪用確認は一次情報で確認できませんでした。
  • 9月3日時点でCISA KEVへの掲載も確認できませんでした。
項目 内容
CVE CVE-2026-68162
対象 Linux kernel
コンポーネント SCTP
脆弱性 Use-After-Free
CWE CWE-825(Red Hat)
CVSS v3.1 7.8(High、kernel.org)
攻撃ベクトル Local
必要権限 Low
ユーザー操作 不要
影響 メモリ破壊、クラッシュ、条件によりコード実行・権限昇格のおそれ
PoC NebuSecがGitHubで公開
root取得 NebuSec/SecurityOnlineがUbuntu環境でのPoC成功を主張
実悪用 9月3日時点で一次情報による確認なし
CISA KEV 9月3日時点で掲載確認できず
推奨対応 ディストリビューションが提供する修正済みカーネルへ更新し再起動

SCTPのネットワーク名前空間終了処理でUse-After-Free

CVE-2026-68162は、Linux kernelのSCTP実装におけるネットワーク名前空間の初期化・終了処理に関係する脆弱性です。

Linux kernel CVEチームによると、proc_sctp_do_auth()net.sctp.auth_enableを変更した後、SCTPの制御ソケットを更新します。

問題は、auth_enableを扱うsysctlファイルを開いた状態でネットワーク名前空間の終了処理が進んだ場合です。

従来の実装では、SCTPのsysctlテーブルが制御ソケットより先に登録され、終了時には制御ソケットが破棄された後もしばらくsysctlが書き込み可能な状態となる時間帯が存在しました。

その結果、すでに解放されたSCTP制御ソケットをsysctlハンドラーが参照し、Use-After-Freeが発生する可能性があります。

修正では、SCTP制御ソケットの生成後にsysctlを登録し、終了時は制御ソケットを破棄する前にsysctlを解除する順序へ変更されました。

ネットワーク経由の未認証RCEではない

CVE-2026-68162はSCTPというネットワーク機能に存在しますが、リモートから未認証で直接悪用する脆弱性ではありません。

kernel.orgのCVSSベクトルは、

CVSS:3.1/AV:L/AC:L/PR:L/UI:N/S:U/C:H/I:H/A:H

です。

つまり、攻撃者は対象Linuxシステム上で何らかの低権限ローカルアクセスを持っていることが前提です。

そのため、

「インターネットからSCTPポートへアクセスするだけでrootを奪取できる」

という脆弱性ではありません。

一方、共有サーバー、開発サーバー、コンテナホストなど、複数ユーザーや低権限プロセスが存在する環境では、ローカル権限昇格脆弱性として重要です。

CVSS 7.8、Red Hatは攻撃複雑度をHighと評価

kernel.orgがCNAとして登録したCVSS v3.1スコアは7.8(High)です。

一方、Red Hatは自社製品への評価としてCVSS 7.0を付与し、Attack ComplexityをHighとしています。

この差は、オープンソースのLinux kernelが各ディストリビューションで異なる設定やパッチ、ビルド条件で提供されるためです。

Red Hatは、CVE-2026-68162について、ローカル攻撃者がsysctlファイルを開ける状況で悪用できる可能性があり、メモリ破壊によってクラッシュや未定義動作が発生し得ると説明しています。

また、Use-After-Freeの性質上、条件によっては不正なコード実行につながる可能性も示しています。

したがって、共通CVSSだけでなく、実際に利用しているLinuxディストリビューションの評価を確認する必要があります。

NebuSecがUbuntu向けPoCを公開

NebuSecはGitHubリポジトリ「CyberMeowfia」で、CVE-2026-68162向けのPoCコードを公開しています。

公開ディレクトリ名は、

Linux-CVE-2026-68162-Ubuntu-7.0.0-28

となっており、エクスプロイト用コードや関連ファイルが含まれていることを確認できます。

SecurityOnlineは、NebuSecがUbuntu 26.04環境で非特権ローカルユーザーからroot権限へ昇格できるPoCを公開したと報じています。

本記事ではPoCの存在と研究者側の検証結果のみを扱い、具体的な悪用コード、ビルド方法、実行手順は掲載しません。

影響バージョンは単純な「2025年以降」ではない

SecurityOnlineは、この問題が2025年1月に導入されたと説明しています。

しかし、Linux kernel CVEチームの公式情報では、影響範囲はkernel系列ごとのコミットとバックポート状況で整理されています。

上流では問題の原因となった変更がLinux 6.13で導入され、その後stable系列へバックポートされたことで、旧系列にも影響が入りました。

Linux kernel CVEチームが公表した主な影響・修正版は次のとおりです。

系列 影響開始 修正
5.4 5.4.290 5.4.292
5.10 5.10.234 5.10.266で修正を確認
5.15 5.15.177 5.15.217で修正を確認
6.1 6.1.125 6.1.184で修正を確認
6.6 6.6.72 6.6.151
6.12 6.12.10 6.12.101
6.13以降 6.13で導入 6.18.42、7.1.6、7.2-rc5など

stable系列では今後もバックポート状況が更新される可能性があります。

そのため、上表だけを固定的な判定基準にせず、利用しているディストリビューションのセキュリティアドバイザリを確認してください。

Ubuntuは複数系列を「Needs evaluation」

SecurityOnlineはUbuntu 26.04上でPoCが動作したと報じています。

一方、CanonicalのCVEページでは、9月3日時点でUbuntu 26.04 LTS、24.04 LTS、22.04 LTS、20.04 LTSなど複数のkernelパッケージについて「Needs evaluation」と表示されています。

つまりCanonicalとして、各Ubuntuパッケージが影響を受けるか、どの更新で修正済みかの評価が完了していない状態です。

そのため、

「Ubuntu 26.04を含むすべてのUbuntuが確実に脆弱」

「Ubuntuは未修正」

と一括して表現することはできません。

実務では、UbuntuのCVEページやUSN、導入しているkernelパッケージの更新状況を確認する必要があります。

Linux kernel CVEチームは最新stableへの更新を推奨

Linux kernel CVEチームは、CVE-2026-68162への対応として、最新のstable kernelへ更新することを推奨しています。

Linux kernelコミュニティは、個別コミットだけをcherry-pickするのではなく、stableリリース全体を利用するよう案内しています。

これはkernelの修正が単独ではなく、ほかの変更と組み合わせて検証されているためです。

企業環境では、kernel.orgから直接新しいカーネルを導入するのではなく、

  • Red Hat
  • Ubuntu
  • Debian
  • SUSE
  • Amazon Linux
  • Oracle Linux

など、利用中のディストリビューションが提供するセキュリティ更新を適用するのが基本です。

カーネル更新後は、修正版を実際に使用するため再起動が必要になる場合があります。

SCTPを使っていない環境でも「カーネルに含まれるか」を確認

今回の脆弱性はSCTPコードに存在します。

そのため、影響評価では対象システムでSCTPが利用可能かどうかを確認することが重要です。

SCTPは、通信事業者向けシステムや一部の産業・ネットワーク用途で利用される一方、一般的なWebサーバーでは日常的に利用されていないケースもあります。

ただし、「業務アプリがSCTPを使っていない」ことと「カーネルにSCTP機能が存在しない」ことは同じではありません。

ディストリビューションによってはSCTP機能がモジュールとして提供され、ローカルプロセスからロード可能な場合があります。

影響判定では、

  • SCTPモジュールの有無
  • 現在ロードされているか
  • 非特権ユーザーから利用可能か
  • network namespaceを作成できる環境か
  • コンテナやサンドボックスでnetwork namespaceを利用しているか

などを確認する必要があります。

コンテナホストでは優先度を上げて確認

CVE-2026-68162はネットワーク名前空間の終了処理に関係します。

network namespaceはDocker、Podman、Kubernetesなどのコンテナ環境でも広く使われています。

ただし、コンテナを利用しているだけで直ちにCVE-2026-68162を悪用できるわけではありません。

攻撃には低権限ローカルアクセスや、対象kernel上で脆弱なSCTP処理へ到達できる条件が必要です。

一方、マルチテナント環境、CI/CDランナー、開発基盤など、低権限ユーザーやコンテナが同一kernelを共有する環境では、ローカル権限昇格の影響が大きくなります。

PoC公開後は、こうした共有kernel環境を優先して更新する判断が適切です。

セキュリティ対策Labで扱ったLinux KernelのLPE

セキュリティ対策Labでは2026年、Linux kernelのローカル権限昇格脆弱性とPoC公開を複数取り上げています。

Linuxカーネルの脆弱性 DirtyClone(CVE-2026-43503)でroot権限奪取が可能―JFrogがPoCを公開

DirtyCloneはページキャッシュを利用したローカル権限昇格で、今回のSCTP Use-After-Freeとは原因が異なります。

また、act_peditモジュールのCVE-2026-46331でも、公開PoCによるroot権限取得が確認されています。

Linux カーネルの act_pedit モジュールに脆弱性(CVE-2026-46331)―RHEL・Debian・Ubuntu 全バージョンに影響

これらの事例に共通するのは、リモートから直接侵入する脆弱性ではなくても、攻撃者が低権限アカウントやコンテナ内の足場を得た後、rootへ権限を引き上げる手段としてLinux kernelのLPEが利用され得る点です。

情報システム部門への示唆

CVE-2026-68162は「ローカル攻撃だから緊急度が低い」と一律に判断すべき脆弱性ではありません。

インターネットから直接悪用される脆弱性ではないため、外部公開サーバーで直ちに未認証侵入が成立するものではありません。

一方、攻撃者がWebアプリケーションの脆弱性、漏えいしたSSH認証情報、CI/CD侵害、コンテナ侵害などで低権限の足場を獲得した後、root権限へ昇格するための後段手段として利用される可能性があります。

特にPoCが公開された現在は、

  • Linux kernelのバージョン確認
  • ディストリビューションの修正状況確認
  • SCTP機能・モジュールの利用可否
  • マルチユーザー環境
  • Kubernetes/Docker等の共有kernel基盤
  • CI/CDランナー
  • 踏み台・開発サーバー
  • 再起動待ちのkernel更新

を確認する必要があります。

また、Linux kernelはディストリビューション側でセキュリティ修正をバックポートすることが多いため、単純なkernelバージョン比較だけで脆弱性有無を判定すると誤検知する場合があります。

脆弱性スキャナーの結果だけで判断せず、利用しているOSベンダーのCVE情報やerrataを照合することが重要です。

今回のCVE-2026-68162は実悪用確認済みではありませんが、High評価のローカル脆弱性で公開PoCも存在します。共有サーバーやコンテナホストなど、低権限コードが実行される可能性の高い環境では、修正済みkernelへの更新を優先すべきです。

出典