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2025年4月6日未明、中日本高速道路(NEXCO中日本)のETCシステムで発生した大規模障害は、8都県・108カ所の料金所に波及し、ETCレーンの閉鎖や渋滞など、全国的な交通混乱を引き起こしました。この障害の根本原因とその後の対応、そして中日本高速道路、東日本高速道路、西日本高速道路の高速道路3社による再発防止への取り組みが明らかになっています。
目次
発端は「未実装の削除処理」:技術的な設計ミスが引き金
障害の原因は、NEXCO中日本が4月5日に実施したETC深夜割引制度見直しに向けたシステム改修にあります。この改修では、ETC料金所の上位システム構成変更や他システムとの連携調整が行われましたが、その中で処理完了後に削除すべき「宛先データ」が蓄積され続ける設計ミスが存在していました。
この「宛先データ」は、ETCカードの使用可否判定を担う重要な情報ですが、削除処理が未実装だったため、蓄積が進行。データ領域の侵食・破損を引き起こし、ETCと車載器間の通信障害やバーが開かないトラブルが広域的に発生するに至りました。
対応は「切り戻し」+無料通行措置、復旧まで38時間
障害発生後、NEXCO中日本は改修以前のシステム状態に戻す「切り戻し作業」により復旧対応を実施。また、出口のバーが開かず渋滞が拡大したことを受け、13時間後にバーを開放し無料通行を許可する緊急措置が取られました。最終的にシステムが完全復旧したのは、38時間後の4月7日でした。
今回の無料通行により、ドライバーが料金を後日精算する必要が生じ、中日本高速道路によれば、4月15日時点で延べ3万6000人が事後精算を申請しています。なお、約400万件超のアカウントに影響が及んだ可能性があり、今後もドライバーには申請が呼びかけられています。
対策の方向性:技術面・運用面の両輪で再発防止へ
4月22日には、中日本高速道路・東日本高速道路・西日本高速道路の3社が合同で会見を開き、ゴールデンウィーク前の暫定対策として以下の方針を打ち出しました。
システム障害発生時の早期開放ルール
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広域障害時は即時に出口バーを開放し通行を許可。
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渋滞や混乱の拡大を防ぐ迅速対応をルール化。
情報発信体制の強化
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各社バラバラだった情報提供を統一。
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本社に専任担当者を配置し、情報収集・発信のハブを担う。
24時間連絡体制の構築
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システム復旧の迅速化を目的に、関係事業者・グループ会社間で24時間体制の連携強化。
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トラブル時の対応を“個別の現場対応”から“全社統一対応”へ進化。
技術的検証とマニュアル化
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「なぜ削除処理が未実装だったのか」について、技術的検証を継続。
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6月中を目処に再発防止マニュアルの策定を進める。
共通インフラとしてのETC:横断的リスクマネジメントの必要性
今回の障害は、ETCという全国共通の社会インフラに対して、1事業者のシステム障害が広範囲に波及し得るリスクを改めて浮き彫りにしました。すでにNEXCO東日本・西日本も検討委員会に参加しており、システム構成・運用体制の共通ルール化や障害情報の一元管理体制の確立が今後の課題となります。
情報システム部門への示唆
今回の事例は、高速道路インフラに限らず、クラウドサービスや大規模認証基盤など、広域に展開される共通インフラの管理に携わる情報システム部門にとっても他人事ではありません。
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改修作業後の検証手順・テストシナリオの見直し
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ログ蓄積や処理済みデータのクリーンアップ処理の自動化
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障害発生時のユーザー向けアナウンス手順の統一
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「切り戻し」可能なシステム構成と運用訓練
こうした視点は、今後すべての企業インフラに求められる「事前防御から前提とした侵害(Assume Breach)」の体制構築に直結する重要な教訓です。再発防止への取り組みが、今後の日本全体のIT運用ガバナンス強化にもつながることが期待されます。
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