神戸製鋼グループの中核商社・神鋼商事(大阪市中央区)の100%子会社、神商鉄鋼販売(大阪市)の元土木建材部担当部長・泉谷桂一被告(52)が、約5年間にわたって架空発注を繰り返し会社に損害を与えたとして、大阪地裁は2026年6月30日に懲役4年の実刑判決を言い渡しました。被告は2026年2月26日に大阪府警捜査2課によって会社法違反(特別背任)の疑いで逮捕されており、審理の過程で起訴内容を認めていました。不正が約5年間にわたって継続したにもかかわらず、発覚のきっかけは外部の告発ではなく内部監査でした。
承認フローや支払い処理の仕組みに構造的な問題があった可能性を示しており、同様の購買権限を管理する情報システム部門にとって見落とせない事例です。
サマリー
- 大阪地裁は2026年6月30日、神商鉄鋼販売の元土木建材部担当部長・泉谷桂一被告(52)に懲役4年の実刑判決を言い渡した。検察側求刑は懲役5年
- 泉谷被告は2020年5月〜2025年5月の約5年間、土木建材の架空発注を25回繰り返し、会社に合計約1億1000万円の損害を与えた
- 手口は、長年の取引先である兵庫県宝塚市の建設会社の代表名義口座を譲り受けて管理し、架空の請求書を作成して振り込ませるというもの。被告は仕入れと支払いの両権限を持っていた
- 着服した資金の大半はオンラインカジノや競馬などのギャンブルに使われたと供述
- 不正は2025年5月の親会社・神鋼商事による内部監査で発覚。その後、懲戒解雇・大阪府警への告訴を経て2026年2月に逮捕
- 購買権限と支払権限の集中・取引先名義口座の悪用・架空請求書の組み合わせは、ERP・会計システムの承認フロー設計と内部監査の盲点を突く典型的な手口
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 被告 | 泉谷桂一被告(52歳)・岡山県笠岡市在住 |
| 元職 | 神商鉄鋼販売・土木建材部担当部長 |
| 会社 | 神商鉄鋼販売(大阪市)・神鋼商事の100%子会社・神戸製鋼グループ |
| 神商鉄鋼販売の売上高 | 2025年3月期:約500億円 |
| 不正期間 | 2020年5月〜2025年5月(約5年間) |
| 架空発注回数 | 25回 |
| 会社への損害額 | 約1億1000万円 |
| 手口 | 仕入れ・支払い権限を悪用した架空発注。取引先名義の口座を管理し振り込みを受けた |
| 着服の用途 | オンラインカジノ・競馬などのギャンブル |
| 発覚 | 2025年5月・内部監査(神鋼商事) |
| 懲戒解雇 | 2025年6月 |
| 逮捕 | 2026年2月26日(大阪府警捜査2課・特別背任容疑) |
| 判決 | 2026年6月30日・大阪地裁・懲役4年実刑 |
| 検察求刑 | 懲役5年 |
事件の経緯と手口
泉谷被告は神商鉄鋼販売において土木建材関連商品の仕入れおよび支払い業務を担当する部長として、調達から支払いに至る一連の処理権限を持っていました。2020年5月からの約5年間、この権限を悪用して資材などを仕入れたように見せかける架空の請求書を繰り返し作成していました。
使用した口座は取引の実態がある兵庫県宝塚市の建設会社のものです。その建設会社は長年にわたって神商鉄鋼販売の取引先であり、泉谷被告はその代表名義の口座を自ら管理できる状態に置いていたとされています。神商鉄鋼販売から振り込まれた金は泉谷被告の実質的な管理下に入り、大半はオンラインカジノや競馬などのギャンブルに使われていたと、大阪府警の捜査に対して本人が供述しています。
5年間で25回・合計約1億1000万円という規模からみると、一回あたりの平均は400〜500万円程度です。大きすぎれば目につき、小さすぎれば手間が増えるという感覚で金額を調整してきた可能性があります。部長クラスが持つ決裁権の範囲内に収めることで、上位承認が求められる金額を避けていたとすれば、権限の設計そのものが悪用されていたことになります。
発覚の経緯と法的帰結
不正が明るみに出たのは外部通報でも取引先からの照会でもなく、2025年5月に実施された親会社・神鋼商事による内部監査でした。架空計上の疑いが浮上したことで泉谷被告に対する会社側の聴き取りが行われ、本人が不正行為を認めたことから翌2025年6月に懲戒解雇されています。神鋼商事はその後、大阪府警に告訴しています。
大阪府警捜査2課は2026年2月26日、会社法違反(特別背任)の疑いで泉谷被告を逮捕しました。特別背任とは、会社の取締役や業務執行に関わる権限を持つ者が、自己または第三者の利益を図る目的でその任務に背き、会社に財産上の損害を与える行為を指します。泉谷被告は調べに対して容疑を認めていたため、公判においても起訴内容を全面的に認めました。
大阪地裁は2026年6月30日の判決で、「権限や立場、勤務の中で得た知識を悪用し、私欲のために犯行を繰り返した」という事実を認定したうえで懲役4年の実刑を言い渡しました。検察側は計画性と悪質性を強調して懲役5年を求刑していましたが、判決は1年軽い懲役4年にとどまりました。
神鋼商事はこの件について「事態が発生したことを厳粛に受け止め、グループ会社を含めた管理体制の強化に努める」とコメントしています。
情報システム部門が確認すべき内部統制の視点
今回の事件が情報システム部門に問いかけるのは、購買・調達システムの設計と内部監査の実効性です。架空発注による横領は日本でも繰り返し発生していますが、内部不正の犯罪心理学的背景として「機会・動機・正当化」という不正のトライアングルが指摘されるとおり、この事案でも仕入れと支払いの両権限を一人が持つという「機会の集中」が核心にあります。
中規模のBtoB企業では承認フローが現場担当者の裁量に委ねられているケースを少なくない頻度で見てきました。今回の事件で押さえておくべき確認ポイントは以下の3点です。
購買・支払い権限の分離については、仕入れの発注権限と支払いの承認権限を同一人物が単独で行使できる構成になっていないかを確認することが必要です。
特に担当部門の長が発注も支払い確認も兼務している場合、内部統制上のリスクが集中しています。ERPシステム上でのロール設定を見直し、両権限を分離した設計になっているかを定期的に検証することが求められます。
取引先マスタと口座情報の管理については、支払先の銀行口座が変更された際に別経路で承認を取る仕組みが機能しているかどうかを確認することが重要です。今回の事案では長年の取引先の口座を被告が直接管理していたとされており、口座の名義と実際の管理者が一致しているかを定期確認する手続きがあれば、より早い段階で異常を検知できた可能性があります。
三方向の突合については、発注・納品・請求の3点を自動または定期的に照合する仕組みを持つことが有効です。架空発注は実際の納品や受領が伴わないため、発注記録と納品実績・検収記録を突合するプロセスがあれば検知の機会が増えます。今回は内部監査によって発覚しましたが、約5年間気づかれなかった背景には、この突合が機能していなかった可能性があります。
組織の沈黙と内部不正の心理学的メカニズムでも示されているとおり、長期にわたる内部不正には組織文化的な要因が絡んでいることも多いです。購買システム上の設定やログの確認と並行して、異常な発注パターンや同一取引先への高頻度支払いを検出できるモニタリングの仕組みを構築することが、情報システム部門として貢献できる内部統制の具体策として位置づけられます。
TKP元社員によるインサイダー取引事件や北海道共同募金の横領事件でも同様の「権限集中と牽制機能の欠如」という構図が見られました。内部不正は外部からのサイバー攻撃とは異なり、正規の認証情報と権限を持つ人間が引き起こすため、ネットワーク境界の防御では防ぐことができません。ERP・購買システムの承認フロー設計を見直すことが、組織全体のリスク低減につながります。
出典
- 架空発注で会社に1億1000万円の損害 神戸製鋼G元部長に懲役4年の実刑判決・読売テレビ/Yahoo!ニュース
- 懲役4年 架空発注で会社に1億1000万円の損害 神戸製鋼G子会社の元部長に判決・MBSニュース/ライブドアニュース
- 神戸製鋼所のグループ会社「神商鉄鋼販売」の元部長逮捕・読売テレビ/Yahoo!ニュース
- 神鋼グループ会社元部長を逮捕 1.1億円特別背任容疑・時事ドットコム
- 神戸製鋼系列元部長を特別背任容疑で逮捕 ギャンブルで1億円消費か・朝日新聞/Yahoo!ニュース
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