英国政府は、Post Office Horizon問題を受けて新規の政府顧客への入札を自主的に停止している富士通について、政府調達フレームワークへの参加後も自粛を適用し、新規の公共部門顧客を獲得するために利用しないとの保証を同社から得ていると明らかにしました。
英内閣府のMark Ferguson政務次官が2026年8月12日付で下院Business and Trade Committeeへ送った書簡によると、政府調達を担うGovernment Commercial Agency(GCA)は富士通のフレームワーク上の活動を監視し、同社と定期的に連絡を取っています。GCAは同書簡で、現時点まで富士通が自主的な入札制限を守っていると説明しました。
問題になったのは、富士通が新規政府顧客への入札を自粛する一方、Digital Outcomes and Specialists 7(DOS7)など複数の大型政府調達フレームワークに供給者として登録されていることです。
フレームワークへの採用は個別契約の受注を意味しません。しかし、登録事業者はその後の個別調達に参加できるため、英議会では「自粛中の富士通が新規顧客の案件へアクセスできるのではないか」と疑問が出ていました。
富士通の英国政府調達をめぐるサマリー
確認できている内容:
- 富士通は2024年1月、Post Office Horizon問題の公的調査が報告を出すまで、新規の政府顧客向け案件への入札を自主的に停止すると表明しました。
- 2024年2月6日付の富士通から英内閣府への書簡では、この自粛をFramework AgreementやDynamic Purchasing System(DPS)を含む公共調達全般に適用すると明記しています。
- 富士通は既存の政府顧客について、既存契約の延長や再調達、同社の能力が必要と判断される一部の新規案件への参加余地を残しています。
- 2026年、富士通はDigital Outcomes and Specialists 7(DOS7)など複数の政府調達フレームワークに登録されました。
- 下院Business and Trade Committeeは7月28日、フレームワーク参加が新規公共顧客への入札自粛と両立するのか政府へ説明を求めました。
- 内閣府は8月12日の回答で、富士通から「フレームワーク経由の個別契約にも自粛を適用する」との正式な保証を得ていると説明しました。
- GCAは富士通のフレームワーク上の活動を監視し、定期的に同社と連絡を取っているとしています。
- 英政府は、法的根拠なく供給者を一方的・恣意的にフレームワークから排除することはできず、富士通はGCAのフレームワークから制裁・排除されていないと説明しています。
- Business and Trade Committeeは2026年3月、自粛対象をより広げ、必要不可欠なサービス継続の場合を除き、新規政府契約への参加を直接入札だけでなくコンソーシアムや下請けまで含めて控えるよう富士通へ求めました。
- 6月の政府回答ではこの勧告を「Accepted」としていますが、8月の書簡からは、委員会が求めた拡大措置が具体的にどのように運用されているか確認できません。
- Northern Irelandの土地登記システム案件など、自粛開始後に新規政府顧客との契約となった案件については、自粛との整合性をめぐる議論が続いています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 自粛開始 | 2024年1月 |
| 対象 | 原則として新規の政府顧客への入札 |
| 期間 | Post Office Horizon Inquiryが報告するまで |
| 既存顧客 | 契約延長、再調達、一部の新規案件は対象外となる余地あり |
| Framework / DPS | 富士通は自粛を適用すると2024年書簡で明記 |
| 2026年の主な論点 | DOS7など大型フレームワークへの富士通の参加 |
| 政府の説明 | フレームワーク参加自体は個別契約の受注ではない |
| GCAの対応 | 富士通の自粛遵守を監視、定期的に同社と連絡 |
| GCAの確認 | 8月12日時点で自主規制を守っていると説明 |
| 議会側の要求 | 自粛をコンソーシアム、下請けを含む新規政府契約全般へ拡大するよう要求 |
富士通は2024年、新規政府顧客への入札を自主停止
富士通が英国公共部門での入札を制限したのは2024年1月です。
Post Office Horizon問題への批判が強まる中、Fujitsu ServicesのPaul Patterson氏は、将来の公共部門契約への入札を自主的に停止する方針を英政府へ伝えました。
2024年2月6日、富士通UK Public Sector責任者のDave Riley氏が内閣府のCrown Representativeへ送った書簡では、その具体的な適用範囲が説明されています。
同書簡によると、富士通は新規の政府顧客について、Horizonの公的調査が報告するまで入札を停止します。富士通はこの方針について「制限や留保はない」と説明し、新規政府顧客については、相手側から入札を求められた場合にのみ参加するとしていました。
一方、既存顧客については異なります。
既存契約の延長、同種サービスの再調達、既存顧客で新たに発生した案件のうち富士通の能力が必要と判断されるものについては、入札する余地を残しています。
同社が定義する「Government」には、中央政府省庁、政府外郭団体、自治政府、地方自治体、NHSが含まれます。
自粛はFramework Agreementにも適用すると富士通自身が明記
今回の政府回答を理解するうえで、2024年の富士通書簡の記述がポイントになります。
富士通は、自主的な入札制限について、Framework AgreementやDPSを使った調達を含む「すべての公共調達に一貫して適用する」と明記していました。
したがって、2026年に富士通が政府調達フレームワークへ登録されたからといって、自動的に新規政府顧客向けの個別案件へ入札できるという整理ではありません。
フレームワークは、政府や公共機関があらかじめ選定された供給者から商品・サービスを購入するための調達手段です。
供給者として登録されても、それだけで売上や個別契約が発生するわけではありません。
問題は、フレームワーク上で個別調達、いわゆるcall-off contractの機会が発生した場合です。
英国政府は今回、富士通から、こうしたフレームワーク経由の個別案件についても新規公共部門顧客への自粛を適用するとの保証を得ていると説明しました。
DOS7参加を受け、英下院委員会が政府へ4点を質問
2026年7月28日、Business and Trade CommitteeのLiam Byrne委員長は、富士通が複数の政府調達フレームワークへ参加していることを受け、政府へ書簡を送りました。
特に問題視されたのがDigital Outcomes and Specialists 7(DOS7)です。
DOS7は、公共部門がデジタル、データ、テクノロジー関連のサービスや専門人材を調達するためのオープンフレームワークです。中央政府だけでなく、地方自治体、医療、教育、警察・消防など幅広い公共機関が利用できます。
委員会は、フレームワークへの採用自体は個別契約の受注ではないと認めています。
そのうえで、
- 富士通はフレームワークを使って既存顧客ではない公共機関へ入札できるのか
- フレームワーク参加と自主的な入札停止を政府はどう整合させているのか
- 政府は富士通とどのような協議を行ったのか
- 富士通から新規公共顧客を獲得するために利用しないとの保証を得ているのか
という4点を確認しました。
今回公表された政府書簡は、この質問への回答です。
英政府「富士通は新規公共顧客の獲得には使わないと保証」
Mark Ferguson政務次官は8月12日付の書簡で、DOS7のようなGCAフレームワークへ登録されることは、供給者を承認済み事業者の一覧へ載せるものであり、それ自体が個別契約を意味するものではないと説明しました。
そのうえで、富士通はGCAに対して、フレームワークから発生するcall-off契約にも自主的な入札制限を全面的に適用すると保証しているとしています。
つまり英国政府の整理は、
「フレームワークには残るが、その資格を使って新規公共顧客を取りに行かない」
というものです。
GCAは富士通の遵守状況を「actively monitors」と説明し、同社のフレームワーク上の活動を監視しています。担当者も定期的に富士通と連絡を取り、自主規制に沿っているか確認しているとしました。
8月12日時点では、GCAは富士通が自主的な制限を守っていると確認しています。
富士通がフレームワークから排除されていない理由
今回の政府書簡は、富士通がHorizon問題を抱えながらフレームワークへ採用されている理由にも触れています。
英政府は、公共調達ではPublic Contracts Regulations 2015とProcurement Act 2023に従う必要があり、法的根拠なく供給者を一方的・恣意的に排除することはできないと説明しました。
富士通はGCAフレームワークから制裁を受けたり、除外されたりしていません。
将来的にフレームワークからの停止措置が必要になった場合も、GCAのSupplier Assurance Policyに沿って対応するとしています。
ここは「富士通が自粛しているのに政府が大型契約へ復帰させた」という理解とは分ける必要があります。
現在の自粛は富士通自身による自主措置であり、政府による公共調達からの法的な排除処分ではありません。
DOS7は大型フレームワーク、ただし「総額=富士通の受注額」ではない
The Registerは、富士通が参加するDOS7について最大約149億ポンド、Technology Services 4について最大約190.8億ポンド、Transport Technologyについて約23億ポンド規模のフレームワークだと報じています。
これらの金額はフレームワーク全体の想定規模であり、富士通が受注した金額ではありません。
また、DOS7について、英国政府のFind a Tenderに掲載された2025年の当初入札公告では、総推計額はVAT除外で120億ポンド、VAT込みで144億ポンドとされていました。The Registerが2026年7月の記事で示した149億ポンドとは数字が異なります。
調達段階や契約変更による数字の違いがあるため、記事上では「富士通が149億ポンドを受注した」と表現することはできません。
確認できるのは、富士通が大規模な公共調達で利用される供給者リストへ参加していることです。
議会は2026年3月、自粛範囲をさらに広げるよう要求
政府と議会の間には、自粛の適切な範囲をめぐって温度差もあります。
Business and Trade Committeeは2026年3月の「Post Office Horizon scandal: Justice for sub-postmasters」で、富士通が新規政府顧客への入札を一定程度控えていることを認めました。
一方、政府から富士通への支払いは依然として大きいと指摘しています。
委員会によると、2024年5月1日から2025年9月15日までに、英国公共部門は富士通と8件の新たな契約を結び、合計額は3億6200万ポンドでした。これとは別に21件の契約延長が行われています。
2026年1月の議会証言でPaul Patterson氏は、これらを合計すると契約期間全体で約5億ポンドになると説明しました。
政府側は、こうした契約について、各機関が再調達やサービス再編を完了するまで重要な公共サービスを継続するために必要だったと説明しています。
委員会はそのうえで、富士通に対して自主規制をさらに拡大し、必要不可欠なサービス継続の場合を除き、あらゆる新規政府契約への参加を控えるよう求めました。
要求は富士通が直接入札する場合だけではありません。
グループ、コンソーシアム、他社の下請けとして公共調達へ参加する場合も対象にするよう求めています。
政府は「Accepted」と回答、ただし拡大措置の具体像は不明
2026年6月19日に公表された政府回答では、この委員会勧告に「Accepted」と記されています。
ただし、その説明部分では、政府と富士通の契約・契約延長額をProcurement Actなどに基づき公開していることが主に説明されています。
委員会が要求した、
- 自粛をすべての新規政府契約へ広げること
- コンソーシアム参加も対象にすること
- 下請けとしての参加も対象にすること
- 例外をessential service continuityに絞ること
が具体的にどのように導入されたのかは、同回答からは確認できません。
さらに、8月12日のFerguson政務次官の書簡は、2024年に富士通が定めた「新規政府顧客」向けの自主規制を前提として、フレームワーク参加との整合性を説明しています。
したがって、政府が6月に「Accepted」とした議会のより広い自粛要求が、実際の富士通の入札ルールへどこまで反映されたかは、今回の書簡でも明確になっていません。
Northern Irelandの1億2500万ポンド契約では自粛との整合性が議論に
自粛の適用範囲をめぐっては、すでに別の案件でも議論が起きています。
富士通はNorthern Ireland Department of FinanceのLand Registration Delivery Partnerとして、新しい土地登記システム構築に関わっています。
The Registerは、この契約を約1億2500万ポンドと報じています。
この案件について富士通は、2024年の入札自粛開始前となる2023年にpreferred bidderへ選ばれていたため、自主規制との整合性があるとの立場を示しました。
一方、The Registerは2025年6月、Northern Ireland政府から、富士通に入札継続を要請してはいなかったとの回答を得たと報じています。
2024年の富士通書簡では、すでに進行中だった調達については、政府業務や調達を混乱させないよう継続関与を慎重に判断するとしていました。
今回の8月12日付の政府書簡は、Northern Irelandの案件をどのように自粛と整合させたのかについては説明していません。
新規顧客、既存顧客、入札開始前から進行していた調達、サービス継続のための契約という区分が、富士通の自主規制を評価する際の論点になっています。
Horizon公的調査は継続、富士通の自主規制も継続
富士通の入札自粛は、Post Office Horizon IT Inquiryが報告するまでという条件です。
同調査は2025年7月、最終報告書のVolume 1を公表しました。Volume 1では被害者への人的影響と補償制度を扱っています。
HorizonシステムやPost Office、富士通などの責任・ガバナンスを含む残りの論点については、別の最終報告が予定されています。
このため、2026年8月の英政府書簡でも、自主的な入札制限は継続中のものとして扱われています。
セキュリティ対策Labでは、Horizon問題と富士通の英国公共部門での契約をこれまでも取り上げています。
背景については「英国で深刻化する富士通と英郵便局の史上最悪の冤罪事件」、2025年に新規公共部門契約が問題視された経緯は「富士通、英郵便局 冤罪 問題後に公共部門から新規契約を落札し非難」、補償負担をめぐる協議については「富士通、英の郵便局 冤罪事件で英政府と3億ポンドの賠償金に関して協議開始」で整理しています。
IT調達・ベンダー管理で見るべき「フレームワーク登録」と「個別契約」の違い
今回の一連のやり取りは、政府・大企業のIT調達でも参考になる論点があります。
フレームワークへの登録、入札への参加、preferred bidderの選定、個別契約の締結、既存契約の延長は、それぞれ異なる段階です。
「認定供給者リストに載っている」ことと、「新しい顧客から契約を受注した」ことを同一視すると、調達状況を正確に把握できません。
一方で、フレームワークへ登録されていれば将来の個別案件へ参加するための入口は維持されます。
重大な事故やガバナンス問題を起こしたベンダーについて自主規制を運用する場合、企業側でも、
- 新規顧客だけを対象にするのか
- 既存顧客の新規案件を認めるのか
- 契約延長を認める条件は何か
- グループ会社・コンソーシアム・下請けを対象に含めるのか
- 例外を認める場合、誰が承認するのか
- 例外案件と金額を公開するのか
まで定義しなければ、形式上は自粛を守りながら取引が継続する余地が残ります。
英国で現在問われているのも、富士通がルールに違反したかだけではありません。
自主規制の範囲そのものが、Horizon問題後の説明責任として十分なのか。そして、数十億ポンド規模の政府調達フレームワークへ参加しながら新規顧客への営業を止めるという運用を、GCAがどこまで検証・公開できるのかが次の確認点になります。
出典
- Letter from the Parliamentary Secretary for the Cabinet Office relating to Fujitsu’s inclusion on Government procurement frameworks, 12 August 2026 – UK Parliament
- Letter to the Secretary of State relating to the inclusion of Fujitsu on Government procurement frameworks, 28 July 2026 – UK Parliament
- Fujitsu Public Sector Bidding, 6 February 2024 – UK Parliament / Fujitsu
- Post Office Horizon scandal: Justice for sub-postmasters – Business and Trade Committee
- Post Office Horizon scandal: justice for sub-postmasters: Government Response – UK Parliament
- Digital Outcomes and Specialists 7 – Government Commercial Agency
- Digital Outcomes and Specialists 7 – Find a Tender
- Volume 1 of the Post Office Horizon IT Inquiry’s final report – Post Office Horizon IT Inquiry
- UK government says Fujitsu won’t use framework places to chase new customers – The Register
- Fujitsu joins £14.9B UK framework despite public sector bid freeze – The Register
- Improving Land Registers NI – Northern Ireland Department of Finance








