米上院、中国出資比率15%超の自動車メーカーを米国市場から締め出す法案を可決-メルセデスベンツなども対象に

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米上院、中国出資比率15%超の自動車メーカーを米国市場から締め出す法案を可決-メルセデスベンツなども対象に

米国上院商務科学交通委員会は2026年7月22日、中国に関連する接続型自動車および技術を米国市場から排除する「コネクテッドビークル安全保障法(Connected Vehicle Security Act of 2026、S.4429)」を発声投票で可決しました。委員会ではモレノ議員が提出した修正案を反映した修正版が採択されています。この法案はバーニー・モレノ上院議員(共和党・オハイオ州)とエリッサ・スロットキン上院議員(民主党・ミシガン州)が共同提案した超党派立法です。最大の焦点となっているのは、中国の出資比率に応じた企業の規制条項であり、中国資本が合計約19.67%に達するメルセデス・ベンツがその対象となる可能性が生じています。ただし現時点では委員会通過にとどまり、上院本会議採決・下院における審議・大統領署名という立法プロセスが残っており、条文の修正も含め今後の変更が予想されます。

サマリー

  • 2026年7月22日、米上院商務委員会がモレノ修正案を反映したS.4429を発声投票で可決(上院本会議での採決はこれから)
  • 中国(ロシア・イラン・北朝鮮も対象)に関連するコネクテッドビークル・ソフトウェア・ハードウェアの輸入・製造・販売を禁止
  • 出資比率の閾値は用途によって異なり、車両メーカー・開発者・設計者・供給者については15%超、ソフトウェア・ハードウェア企業は原則25%超が基準
  • メルセデス・ベンツは中国系資本が合計約19.67%(BAIC 9.98%+李書福氏 9.69%)を占め規制対象となる可能性があるが、確定はしていない
  • メルセデス・ベンツは閾値を25%に引き上げるよう米議会にロビー活動中、モレノ議員は2030年までの猶予と免除申請手続きを言及
  • 車両・ソフトウェアの規制は2027年モデルイヤー相当から、ハードウェアは2030年から段階的に発効
  • Polestarは商務省の既存判断を受け米国事業から撤退する方針が報じられており、Volvo Carsは商務省の個別許可を取得済み
  • 主要日本メーカーについて現時点で確認されている情報では15%基準に該当する事例はないが、接続技術のサプライチェーン適合は全メーカーに共通の課題

項目 内容
法案名 Connected Vehicle Security Act of 2026(S.4429)
委員会通過日 2026年7月22日(上院商務科学交通委員会、発声投票)
可決内容 モレノ修正案を反映した修正版
提案者(上院) バーニー・モレノ(R-OH)、エリッサ・スロットキン(D-MI)
提案者(下院) ジョン・ムーレナール(R-MI)、デビー・ディングル(D-MI)
中国出資閾値 車両メーカー等:15%超 / ソフトウェア・ハードウェア企業等:原則25%超
車両・ソフトウェア規制発効 2027年モデルイヤー相当(既存BIS規則と整合)
ハードウェア規制発効 2030年(猶予措置あり)
規制対象国 中国・ロシア・イラン・北朝鮮
執行機関 米国商務省(商務長官、BISを通じて)
次の立法ステップ 上院本会議採決→下院審議(3委員会に付託済み)→上下院で同一文言の可決→大統領署名

概要―接続型自動車技術を標的にした安全保障立法

コネクテッドビークル安全保障法は、接続型自動車(インターネット接続機能を持つ自動車)に搭載されたカメラ・センサー・GPS・テレマティクス・通信システムが、中国など敵対国に機密データを送信したり、サイバー攻撃の糸口となったりするリスクを根拠としています。バイデン政権下の2025年1月に商務省・産業安全保障局(BIS)が策定した接続型車両規則を法律として明文化し、行政だけでは変更しにくい安定した規制基盤を築くことが立法の主たる意図です。ただし法律化後も議会による改正・廃止は可能であり、商務省の許可・免除制度も残ります。

法案は次の3本柱で構成されています。第一に、中国など規制対象国に関連する接続型車両・ソフトウェア・ハードウェアの輸入・製造・販売・転売を禁止します。第二に、中国による出資比率が一定の閾値を超える企業が関与する接続型車両の米国市場での販売を禁止します。この閾値は車両メーカー・開発者・設計者・供給者については15%超、ソフトウェア・ハードウェア企業は原則25%超と区分されています。第三に、商務省に高リスクな車両技術・部品・取引を特定・遮断する権限を付与します。

施行スケジュールは既存のBIS規則と整合する形で設計されています。車両とソフトウェアに関する規制は2027年モデルイヤー相当から発効し、テレマティクスユニット・セルラーモデム・GPSモジュールなどのハードウェアは2030年から適用されます。新たに規制対象となる技術や取引には個別の猶予措置が設けられる場合があります。

背景―なぜ今、自動車に安全保障規制か

中国の接続型車両への警戒は、スマートフォンやルーターに向けられてきた懸念と同じ構造を持っています。現代の接続型車両はカメラ・マイク・位置情報・乗員行動データを常時収集しており、中国の国家情報法(2017年施行)は中国企業に対し、当局の求めに応じて情報提供を義務付けています。

米議会や安全保障当局は、中国製車両やその部品が米国内で広く普及すれば、機密施設周辺の地図情報収集や要人の行動追尾が可能になると懸念しています。

スロットキン議員は「中国の車は車輪のついた監視装置だ。米国市民や機密拠点について情報収集する能力を持っている」と立法の根拠を説明しています。

競争政策上の側面も無視できません。中国政府は自国の電気自動車メーカーに巨額の補助金を供与しており、米欧の競合メーカーが太刀打ちできない価格水準での輸出を可能にしています。モレノ議員は「欧州やメキシコが市場を中国の捕食者に明け渡す一方、米国はそうなる前に行動しなければならない」と述べています。

こうした背景から、既存のBIS規則を法制化することで安定した規制基盤を整備する動きが超党派で進んでいます。下院では中国特別委員会のジョン・ムーレナール委員長とデビー・ディングル議員が同内容の法案を提出しており、上下院での同時審議が進む構図となっています。

中国出資を受けている主要自動車メーカーと出資比率

15%閾値の直接的な影響を受ける可能性として現時点で最も議論されているのがメルセデス・ベンツです。中国国有自動車メーカーのBAIC(北京汽車集団)が9.98%、Geely創業者の李書福氏が9.69%を保有しており、合計約19.67%が中国系資本に帰属しています。

ただし、法案成立前に条文が修正される可能性があり、メルセデスが実際に規制対象となるかどうかは現時点では確定していません。メルセデス・ベンツはアラバマ州タスカルーサに1997年から稼働する組立工場(累計生産450万台以上)やサウスカロライナ州の施設を持ち、米国で1万1000人超を雇用しています。

企業 中国系出資比率(概算) 主な出資者 規制との関係
Polestar 約51%(Geely過半数保有) Geely Holding 商務省が将来モデルの販売認可を否定、米国事業撤退の方針が報じられている
Volvo Cars(ボルボ) Geelyが過半数保有 Geely Holding 商務省の個別許可を取得済みで現時点の米国事業継続が認められている
メルセデス・ベンツ 約19.67% BAIC 9.98%、李書福氏 9.69% 15%基準を超える可能性があるが規制対象は未確定、閾値引き上げをロビー活動中
アストン・マーティン 約7.6% Geely Holding 現時点では閾値未満
ロータス 約51%(Geely過半数保有) Geely Holding 閾値超過の可能性(米国販売への影響は精査中)
BYD 中国国有・民間(実質100%) 比亜迪股份有限公司 既存BIS規則により実質的に市場参入を制限

上院商務委員会のテッド・クルーズ委員長は審議の中で「メルセデス・ベンツを排除しようとは考えていない」と述べ、条文の見直しを示唆しました。モレノ議員は「2030年まで猶予があり、免除申請手続きも設けている」としており、同社の雇用や米国内製造実績を踏まえた対応が議論されています。メルセデスは閾値を25%に引き上げるよう求めるロビー活動を展開しており、閾値引き上げかCFIUS(対米外国投資委員会)方式への変更かが選択肢として議論されています。

Volvo Carsについては、商務省が個別に安全性を審査・許可したことで現時点の米国事業継続が認められています。同社は2030年までに米国製造拠点に40億ドルを追加投資することも発表しています。Polestarについては、商務省が将来モデルの販売を認めないと判断したことを受け、米国事業から撤退する方針が報じられています。

日本の自動車メーカーへの影響

主要な日本メーカー(トヨタ・ホンダ・日産・マツダ・スバル・三菱)について、現時点で確認されている情報の範囲では中国の企業や政府が親会社株式の15%以上を保有している事例は確認されていません。ただし各社の最新株主構成を網羅的に検証したわけではなく、断定には各社の最新開示情報の確認が必要です。

接続型車両技術の規制は出資比率とは別の問題です。法案は車両の製造国だけでなく、搭載されているソフトウェア・ハードウェアの出所を問います。日本メーカーが中国系サプライヤーからテレマティクス制御ユニット(TCU)・セルラーモデム・GPSモジュール・車載OS等を調達している場合、2027年以降のソフトウェア規制・2030年以降のハードウェア規制の対象となり得ます。サプライチェーンの精査と代替調達先の確保は全メーカーに共通した喫緊の課題です。

日産固有のリスクとして中国での合弁関係があります。日産は東風汽車集団(Dongfeng Motor Group)との50対50の合弁会社である東風日産を中国に持ち、2025年11月には輸出合弁会社(日産中国投資会社60%・東風汽車40%)を設立しています。東風汽車集団は日産モーター(親会社)の株式を直接保有しているわけではありませんが、中国合弁由来のプラットフォームや技術を採用した車両を米国に輸出する場合、接続型車両技術規制の精査対象となります。

競争優位の観点では、中国系EV勢が米国市場から参入制限を受けることは、日本メーカーにとって市場機会の拡大を意味します。ただし供給網適合コストとコンプライアンス負担は避けられません。また、中国系メーカーがメキシコ等の第三国生産で迂回しようとする動きに対して、同法案は製造場所ではなく設計・制御・技術の出所を規制するため、こうした迂回路も封じる設計となっています。

現状と今後の見通し

委員会通過後の次のステップとして、上院本会議での採決、下院での審議(すでに3委員会に付託済み)、そして上下院が同一の文言を可決したうえで大統領署名というプロセスが必要です。上下院協議会(Conference Committee)は両院で異なる文言が可決された場合に設けられるものであり、必須の工程ではありません。クルーズ委員長はメルセデス条項の修正を示唆しており、閾値の引き上げやCFIUS方式の採用が選択肢として検討されています。

法案自体の成立可否にかかわらず、商務省のBIS規則はすでに発効しており、中国・ロシア関連の接続型車両技術に対する規制は2027年・2030年のタイムラインで実施される見通しです。S.4429はその規制をより安定した法的基盤の上に置くものですが、議会が改正・廃止する手段や商務省の許可・免除手続きは法制化後も存続します。

経済安全保障の観点から見ると、今回の法案はTikTok規制・半導体CHIPS法・重要鉱物サプライチェーン政策と同じ文脈に位置づけられます。接続型自動車を情報インフラとして捉え、製品単体の安全性ではなくデータ主権とインフラへの依存度を問うという規制思想は、今後の日本の経済安全保障政策立案においても参照すべき枠組みです。


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