防御だけを考える企業は、なぜ攻撃を防げないのか-オフホワイトハッカー・田中 悠斗氏が語る「攻撃学」と攻撃者が見ている景色

コラム・インタビュー

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防御だけを考える企業は、なぜ攻撃を防げないのか-オフホワイトハッカー・田中 悠斗氏が語る「攻撃学」と攻撃者が見ている景色

サイバーセキュリティの世界で「攻撃学」を提唱した株式会社Fore-/Fore-Z CEOの田中 悠斗氏。

防衛大学校でのレジリエンス研究、自衛隊幹部としての実務、海外でのレッドチーム経験。その異色のキャリアを経て田中氏が辿り着いたのは、「日本のサイバーセキュリティは攻撃そのものを理解していない」という問題意識でした。

2026年6月に上梓した著書『攻撃学』では、サイバー攻撃をシステムへの侵入という技術的文脈だけで捉える現状に強く疑問を呈しています。今回は、攻撃者が実際に何を見ているのか、そして「対策を増やせば安全になる」という考え方がなぜ根本的に間違っているのかについて、田中氏に話を伺いました。


インタビューに答えていただいた方のプロフィール

田中悠斗(たなか ゆうと)

株式会社Fore-/Fore-Z 代表取締役

防衛大学校卒業後、自衛隊幹部として勤務。その後、海外軍事関係業務や攻撃部隊の指揮官(レッドチーム指揮官)を歴任。帰国後、ベトナム・ドゥイタン大学においてサイバーセキュリティ・ハッキング教育に携わりながら、ベトナム国防省との連携も担う。現在は株式会社Fore-/Fore-Zにて、インテリジェンス、サイバーセキュリティ、分散型台帳技術の研究開発を展開。2026年6月、著書『攻撃学』を出版。「オフホワイトハッカー」という呼称でも知られる。

経歴と「オフホワイトハッカー」という肩書き

――田中さんは珍しいキャリアをお持ちですが、現在の「攻撃学」という研究テーマに至るまでの経緯をお聞かせいただけますか。

田中氏:大まかにお伝えすると、14歳の頃からP2P関係の活動を始め、その後、防衛大学校に入学しました。

防衛大学校では1年生の3月11日に東日本大震災を経験し、4年生の卒業論文では「津波のエネルギー減衰に関する考察」というテーマで多段階防御の研究を行いました。

研究では1本の防波堤だけでは、裏側で渦流が発生してどんな堤防もいつかは崩れる。だから多段階で守って、都市インフラに到達するときには問題ないエネルギー量になっているという考え方です。これが今の攻撃学の原体験の一つになっています。

卒業後は自衛隊の幹部として勤務し、退官後海外活動を経ていわゆるレッドチームの指揮官を務めた経験があります。渉外活動を中心とした実任務で、ここが一番深い経験です。

帰国後も同様の活動を行い、最近ですとベトナムのズイタン(デュイタン)大学でベトナム国防省と連携しながらハッキングを教えています。

――「オフホワイトハッカー」という呼称はどこから来たのでしょうか。

田中氏:苫米地 英人さんに命名いただきました。

セキュリティの世界ではもともと西部劇に由来する善人のホワイトハット・悪人のブラックハットという分類があり、近年はレッドチーム・ブルーチームという呼ばれ方にもなっています。

この間では「ハッカーとクラッカー」や「ホワイトハッカー・ブラックハッカー」という言い方もあって、定義が曖昧ですが

僕のバックグラウンドを知っている苫米地さんが「君は唯一無二だけど、それをどう表現するか」と言って、「オフホワイトじゃないか」と命名してくれた。

攻撃学とは何か—「ハッキング」はオペレーションの一局面にすぎない

――改めて、「攻撃学」とはどのような考え方なのでしょうか。

田中氏:端的に言うと、日本のサイバーセキュリティの議論が「システムに侵入されるか否か」という局面だけを「攻撃」と呼んでいることへの違和感から出発しています。

例えばランサムウェアの攻撃者は、暗号化の仕方を考えるだけでなく、「身代金を払ったら解読キーが帰ってくるかもしれない」とちらつかせて、やられた側の経営者を揺らがせることも攻撃の一部です。

参考:攻撃学 認知・時間・構造が生み出す「不可逆的変化」の正体(版元ドットコムサイト)

 

さらに、取得した情報をどのルートで売り捌くか、二重脅迫にするか、IAB(Initial Access Broker)を通じてセカンダリで売るか、まで全部オペレーションなんです。

攻撃は戦略・戦術・作戦という構造で成り立っていて、日本が「サイバー攻撃」と呼んでいるCVEやゼロデイなどのシステム侵入の話は、その戦術レイヤー以下の一局面に過ぎません。

攻撃のオペレーション全体には経済的手段も、政治も、相手の認知も含まれる。格闘技で言えば、打撃・投げ・組み技全部あるMMAのようなものです。

これがあまりにも世の中の理解と実態でずれているので、発信しようと思ったのが攻撃学です。

――防御だけを研究しても攻撃を防ぐことができないと感じた原体験はありますか。

田中氏:防衛大学校の卒業論文でやった多段階防御の研究がそうですし、格闘技の世界を見ても、防御しかない武術はない。攻撃しかない武術もない。攻防は必ず一体なんですよ。

なのに、なぜかサイバーセキュリティの世界になると「防御」だけで語られる。

時間的制約からあらゆる防御は事後対策です。

どういう攻撃をしてくるかを想定した上で防御策を考えるのは格闘技でも同じで、右ストレートを打ってくると思うから左ガードを上げる。

攻撃側の手法を想定した上で防御策を考えるというのは当たり前のことですが、ミクロではみんな理解できるのに、マクロになると突然「対策を増やせ」だけになってしまう事に違和感がありました。

攻撃者が見ている景色—防御側が見落としている「組織の境界」

――攻撃者は具体的に何を見ているのでしょうか。

田中氏:防御する側は製品やルール、システムの構成を見ます。攻撃者は「どこまでは動けてどこからは動けなくなるか」という境界を見ます。

例えば〇〇という企業に〇〇システムという子会社があれば、そこがシステム開発をやっているとすぐ分かります。取引先一覧にロゴを掲載している企業はたくさんありますよね。

そこから開発委託先が概ね特定できる。さらに、日本では不正アクセス禁止法があって反撃してこない、逆探知してこないということも見ます。

もちろん全ての脅威アクターやRaaSグループがこのような事をやっているわけではありませんが、攻撃者側は普通にこういった事前偵察を行っています。

海外と日本の基準は違いますが、日本の基準で防御側が安全になったと判断する基準は「侵入経路がなくなったこと」です。

でも攻撃者が攻撃しにくくなったと感じるのは、侵入経路の問題だけじゃない。

 

どんな監視エージェントが入っているか、内部の構造が見にくいか、そして何より本質的には、やり返してくる可能性があるかどうかです。

日本では逆探知エージェントがほぼゼロなんですよ。監視エージェントが入っていても、報告が上がるのはシステムベンダーまでで、そこで止まる。

他国では全てではないですが、APTのテイクダウン活動では相互に侵入し合い、侵入を検知したら相互にマルウェアを送り合うなどは普通に行います。

そのため、攻撃者側も侵入については遠回りに行います。

日本の場合は侵入した後に逆探知してくる機構がありませんし、侵入経路やC2サーバの情報が分かったところで何かやっても反撃されない。フォレンジックされる前に破棄して離脱しますしね。

――防御側が最も見落としやすいことは何でしょうか。

田中氏:反撃してこないということが分かっている相手を殴るのは簡単、という前提がそもそも欠落しているところです。

本質的な「攻撃しにくい状態」というのは、攻撃者の安全が脅かされるか否かなんです。逆探知されて居場所が特定され、国際機関や現地警察に通知されて逮捕される可能性があるならば、攻撃しにくくなる。

日本は反撃の意思の表明が欠落したまま「対策を増やす」だけをやっている。ミサイルを配備した国に対してミサイルを撃ちにくくなるのは「撃ち落とされる、やり返される構造を持つから」であって、反撃の意思の表明が抑止になるのと同じ構造です。

対策の数は安全性と比例しない—本質的な抑止は反撃の意思の表明

――「対策を増やすほど安全になる」という防御側の発想を、攻撃学の観点からどう見ますか。

田中氏:対策の数と攻撃されにくさは比例しません。なぜかというと、攻撃してみないと対策の数が分からないからです。

攻撃してみて「攻撃しにくいな」「攻撃が成功するまでの時間がかかるな」というのは比例しますが、対策を増やしたからといって攻撃されにくさが上がるわけではない。

抑止の観点から言えば、「反撃の準備をしているかもしれない」と攻撃者に思わせることで攻撃されにくさが上がります。これが防衛でいう抑止でしょう。本質的な抑止は反撃の意思の表明から始まる。

そして対策を増やすこと自体が目的化すると、何が起きるかというと「自分たちは安全だ」という錯覚が生まれるんです。これが一番危ない。

リカバビリティ、つまり回復可能性に関しては倒れないようにする努力とは別に、たとえ何かあったとしてもT+0で通常体制でやるべき事を継続できるかどうか、この観点が今最も重要だと思います。

時間の問題で攻撃はどんどんしやすくなっていく。

その中で、やられたとしても即座にやるべき事を再開できる冗長性を担保できているかどうかが、商売を継続するうえで問われる核心です。

ペネトレーションテストの問題—ポジティブリスト方式は「型の演習」

――演習となると企業が行っているペネトレーションテストについて、どのように見ていますか。

田中氏:今の日本のペネトレーションテストは、限定範囲・限定環境でやっているケースが多い。

対象のIPアドレスを開示して、いついつやりますと合意した上でやる。攻撃者は別にそんなところから入ってこないんですよ。

これは自衛隊のポジティブリストと全く同じ問題構造です。

「やっていいことを規定して、その中でやる」のがポジティブリストですが、攻撃者にとってその限定はまったく意味がない。

例えばデータベースの破壊やシステムを落とすことはしないでください、というような、やらない事を決める、ネガティブリスト方式で行わないと、本質的なテストになりません。

攻撃者からすれば対象環境が別のシステムと繋がっているならば、弱いところから入っていくのは当然です。

結局「型の演習」で終わっていて、やった感だけが出る。そしてそれで安全だと錯覚するのが一番もったいない。

大前提、反撃の枠組みがない国においては、本質的に安全になるという事はありません。

そのため、私は攻撃される前提で企業は犯人をリアルタイムで逆探知できるレベルまでは少なくとも必要だと思います。

サイバー攻撃がなくならない構造的理由—1945年のアーキテクチャとCHERIフレームワーク

田中氏:技術的な話をすると、今の世の中の攻撃の7割くらいはメモリへの攻撃なんです。なぜかというと、今使っているコンピューターのほとんどはノイマン型コンピューターと呼ばれる1945年に発明されたアーキテクチャのままだからです。

ノイマン型コンピューターにはメモリ同一性問題と呼ばれる根本的な構造的課題があります。簡単に言うと、コンピューターのメモリの中で「データ」と「OSに対する指令」が同じ情報空間上で扱われているんです。本来は分けて管理されるべきものが混在しているため、攻撃者はデータ領域から指令空間へ侵入する経路を作れてしまう。

ここにもう2つの要素が掛け合わさります。LinuxやUNIXが持つ権限昇格の問題―ユーザー権限から始まって管理者権限まで上がれる構造です。

そしてインターネット―外部からメモリに対して指令を送ることができる経路です。

ノイマン型コンピューターのメモリ同一性問題、UNIX/Linuxの権限昇格、インターネットによる外部からの指令送信。この3つの掛け算が最強に相性が悪い。

現在のアーキテクチャが変わらない限り、サイバー攻撃による被害をゼロにすることは構造的に不可能です。対策を積み重ねることは意味がありますが、それはバンドエイドを何枚も貼っているにすぎない部分があります。

この問題を解消しようとGoogleが2023年からCHERIというフレームワークの開発を始めています。タグ付きメモリと呼ばれるアプローチで、メモリの中のデータと指令にそれぞれタグを付けて区別する処理の仕方です。ARMもRISC-Vという新しいアーキテクチャで同様の取り組みを進めています。ただしこれらが主流になるには相当な時間がかかります。今使っているコンピューターが1945年のアーキテクチャのままであることを、業界全体がきちんと認識することも必要です。

攻撃者が欲しがる情報から逆算して、守るべき情報を決める

――守るべき情報の優先順位については、どのように考えればよいでしょうか。

田中氏:これも攻撃者の視点から逆算すべきです。ダークウェブの市場でどのデータが高く売られているかを起点に考えると、防御の優先順位が変わってきます。

例えばクレジットカード情報は1件あたり20ドル程度です。一方で医療情報・診断書などは1件250ドル前後で取引される。

医療情報の方が高いのは、LTV(生涯価値)が長いからです。

病気の情報があれば、ターゲットに合わせた精巧な詐欺を長期にわたって仕掛けられる。何度も擦って、リターゲティングができるんです。

日本では「個人情報が漏洩した場合は報告義務がある」というフレームで優先順位が決まりますが、攻撃者から見ると、守るべき情報の順番はそれとは異なる場合があります。

攻撃者が欲しがる情報から逆算した上で、それに応じた対策のコストと種類を変える。そういった順序で考えることも必要なのではないでしょうか。

攻撃知識を広めることへの倫理観—「正義の味方側が無力なことが問題」

――攻撃学を学ぶことは攻撃手法の拡散にもつながりかねないという懸念があります。この危険性についてはどうお考えですか。

田中氏:よく聞かれるのですが、論理の前提が間違っていると思っています。

攻撃の仕方を誰も教えなかったとしても、悪いことをする人は発生します。

格闘技を教えたら、暴行する人間が増えるかというとそうではなくて、

何でもそうですが、結局やるやつはやるんですよね。

本質は、正義の味方側の能力が低いことが問題です。

例えば、暴行事案が発生した時に多くの人が安心できる理由は

自分に自衛の能力がある、

強い知り合いがいる、

警察が一定以上の武力を持っている。

など、この三つが成立しているから抑止が機能している。

一方、サイバーに関しては潜在的に取り締まる側の能力が攻撃側と比べると低いという不安があります。

攻撃知識を学ぶことは、警察だけでなく一般の方々が学んで正義の味方側として能力がより高くなれば問題は起きにくくなります。

私はそう思って今後も攻撃側の知識の啓蒙活動をおこなっていきますし、興味を持ってもらう動機付けも全員に対して行っています。

未成年の不正アクセスと能力の活用について

――未成年の不正アクセス事件で「その能力を将来セキュリティ分野に活かせばいい」という意見や、倫理的な観点からそれに慎重な見解を示している方もいます、田中さんはどう考えますか。

田中氏:シンプルに言うと、再犯したら懲役を重くすればいいと思っています。

未成年でやってしまった場合に社会に戻す仕組みは絶対に必要ですが、2回目が発生したら非常に重い罪にする。それと、2回目を検知できる政府側の能力が必要です。韓国では性犯罪者に足首のGPSアンクレットをつけるような仕組みがありますが、それに近い発想で良いのではないかと。

一線を踏み越えない理由

――攻撃者の思考を深く研究する中で、田中さん自身が「攻撃する側」に踏み越えないのはなぜでしょうか。

田中氏:シンプルに、周りの人たちが僕にホワイトでいてほしいと思っている間は、そちら側にいます。それは友人であり、家族であり、商売仲間であり、パートナーであり、先輩後輩。そういった人たちが僕に対してそう思っている間は、ホワイトでいます。ぜひ、後ろ髪を引き続けて欲しいですね。

YouTubeチャンネル開設と、次世代育成への思い

――最近YouTubeチャンネルを開設されていますが、自ら表に出て発信しようと思った経緯を教えてください。

田中氏:人のチャンネルで話させてもらう機会がいくつかあったのですが、構成や編集で言いたいことが伝わりきらないと感じることが多かった。だったら自分で作るかと思ったのと、周りからもずっと「自分のチャンネルを作れ」と言われていたからです。

ただ、YouTuberになりたいわけではないので、飽きたらやめます。

こういうのを見ていて面白い、次はこれをやってほしいと言ってくれる人がいる間は続けます。

参考:BACK DOOR -田中悠斗公式チャンネル-

――次世代の育成や若い人材への期待についてはどのようにお考えですか。

田中氏:若手を引き上げる事は意識しています。日本は社会構造の循環が壊れていると感じています。

高校から大学に行って社会に出る。でも教育の場に戻ってくる機会がほとんどない。

先頭を走っている人間が、先を生きている先生として後ろを引き上げないと、若い人たちが「こんな大人になるくらいなら」と諦める数が増え、結果国は弱くなります。

優秀な若い人たちを引き上げたり、他では得られない刺激を求めている人たちに仲間になってほしいという気持ちで発信しています。

「攻撃者体験訓練」—経営者・CISOが攻撃者の視点を体験する

田中氏は現在、経営者やCISOを対象に「攻撃者体験訓練」を実施しています。攻撃メールを受け取る側ではなく仕掛ける側の視点を体験することで、防御の何が機能していないかを腑に落とすことを目的としたプログラムです。詳細・問い合わせはセキュリティ対策Labフォームから「攻撃者体験訓練について」とご連絡ください。

謝辞

攻撃学の根本的な考え方から、攻撃者が実際に何を観察しているのか、対策の数と安全性の非比例関係、ペネトレーションテストの構造的問題、情報資産の優先順位付けの逆算、そして「オフホワイトハッカー」という立場の倫理まで、田中悠斗氏より率直かつ深い知見を共有いただきました。

本記事の作成にあたり、田中悠斗氏および株式会社Fore-の皆様に心より御礼申し上げます。

なお、本記事の編集方針・記述の最終的な責任は合同会社ロケットボーイズ(セキュリティ対策Lab)にあります。