犯罪心理学者が診断する「モノ言えぬ組織」〜ニデックが示す,内部不正が蔓延する組織の共通構造

コラム・インタビュー

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犯罪心理学者が診断する「モノ言えぬ組織」〜ニデックが示す,内部不正が蔓延する組織の共通構造

前回の記事では,パワーハラスメントがどのように内部不正を誘発するのか,そのメカニズムについて解説しました。

その中で,ニデック株式会社(旧日本電産株式会社:以下,ニデック)の不適切会計の問題に触れました。

著者の一人は,前職の会社で内部会計監査を含む内部統制を担当していました。加えて,犯罪心理学者として人がルールから逸脱する心理も研究してきました。これらの経験から感じることは,「モノ言えぬ組織」という問題は,ニデックに限らないのではないかということです。条件が揃えば,どのような組織も,「モノ言えぬ組織」となり,内部不正という罠に引きずり込まれるリスクがあると考えています。

そこで,今回は,ニデックの不適切会計問題をケーススタディとして,犯罪心理学の視点から,こうした「モノ言えぬ組織」に共通する,内部不正が蔓延する構造を分析していきます。こうした共通構造を理解することは,読者が組織を守る際の重要なリテラシーとなるはずです。

ケーススタディ:ニデックの不適切会計問題の犯罪心理学的分析

2026年4月17日に,ニデック(2026)は,不適切会計に関する第三者委員会の最終報告書(以下,最終報告書)を公表しました。最終報告書は,創業者の強力なリーダーシップの下で,役職員が心理的安全性と自浄作用を失い,「意見したくとも言えない」,「例え言ったとしても物事が改善しない」という「モノ言えぬ組織」へと変貌していったか実態を浮き彫りにしています。

最終報告書でも指摘されている通り,創業者のトップダウンによる厳しい業績目標の設定とその達成に向けた苛烈な管理と叱咤激励が不適切会計に多大な影響を与えたことは否定できません。詳細は前回の記事と最終報告書に譲りますが,「不正のペンタゴン」理論に基づいて分析すると,以下の心理が働いている可能性が見えてきます。

 

  • 動機(プレッシャー):厳しい業績目標の苛烈な管理と叱咤激励は,役職員の間で強烈なプレッシャーになりました。
  • 機会:「何よりも業績目標の達成を優先しなければならない」という誤った認識が組織に浸透したことで,本来守るべきルールの形骸化を招き,不適切会計を実行する機会が生まれました。
  • 正当化:「業績目標の未達および決算スケジュールの遅延を避けるため」という理由が,不適切会計の実行を正当化させました。
  • 能力と傲慢さ:能力と傲慢さが不適切会計の実行性を高めました。人事評価(昇進や給与)に対する不安から,本来組織の発展を支えるための役職員の高い専門知識や実務能力などの能力が,残念ながら,不適切会計やそれに関わる隠蔽工作の実行において悪用されてしまいました。同時に,本来最も遵守されるべき社会のルール(法律や会計基準)よりも組織内の論理が優先する傲慢さが,不適切会計を実行するための心理的ハードルを下げ,結果として不適切会計の連鎖を止める機会を失ったのです。

不正のペンタゴン

ニデックの不適切会計は「特殊な問題」なのか?

ニデックの不適切会計問題を「強力なリーダーシップを発揮する経営者が率いる組織で起きた「特殊な問題」と,他人事として片付けてしまっては,せっかくの教訓を得られる機会を失ってしまいます。この問題から,「モノ言えぬ組織」に共通する構造を犯罪心理学の視点から分析することは,内部不正の未然防止に向けた取り組みを行う上での基礎資料となります。

ここでは,5つの構造を示しますので,自らの組織がどれだけ当てはまるのかを確認しながら読み進めて下さい。

1の構造:情報の仲介者の多層化

「モノ言えぬ組織」に見られる第1の構造は,組織のトップから発信される言葉が現場の層に伝わる過程において,情報の仲介者が多いことです。

組織の規模が大きくなるほど,トップが発信する言葉が現場の層に届くまでに,役員,管理職や担当者などの様々な層を仲介します。本来,これら各層の仲介者の役割は情報を正しく伝えることです。しかし,情報の伝達に関する先行研究(Allport & Postman, 1947)を参考にすると,仲介者は,以下の心の働きにより,自身も気づかないうちに情報を加工してしまう可能性があります。

 

  • 平均化:情報を伝達する際,その内容を短く,簡潔に整理します。例えば,仲介者は,組織のトップが発信した言葉に含まれる複雑な情報内容を削ぎ落とし,現場には単純化した内容の情報を伝えてしまいます。
  • 強調:平均化によって簡潔に整理された情報のうち,仲介者の関心が高いものは実際よりも強調して伝えます。例えば,仲介者が「組織のトップからの叱責」を恐れている場合,そうならないように,トップの言葉の一部である「目標の未達は許されない」といった過激な側面を強調し,現場に対してトップの意図を超えた情報を伝えてしまいます。
  • 同化:組織内の「暗黙の常識」や仲介者が持つ認識や価値観に沿った内容になるように,情報を書き換えます。例えば,「成果至上主義」の組織風土の中では,トップが「法令遵守を前提にしながらも,成果は常に追い求めて下さい」と発信しても,仲介者は「建前ではそう言っているだけだ。」と歪んだ解釈をし,「トップは,とにかく成果さえ出せば良いと言っている」といった誤った情報を伝えてしまいます。

以上のように,仲介者が多い組織ほど情報は変質し,トップの真意が伝わりづらく,現場にはプレッシャーだけが届きやすくなります。これが,「不正のペンタゴン」理論における「動機(プレッシャー)」に影響するのです。

実際,最終報告書を見ると,ニデックの創業者は,ヒアリングに対して,

「未達でも構わないと言っているが,同時に弱音を吐かないように教育してきたので,弱音を吐く者がいない。」,

「2010年頃までは,工場に直接出向いて現場を見る機会も多く,現場の役職員と議論をして,無理な計画は改めさせることもできたが,グループの規模も拡大し,現場に頻繁に行けなくなってから,おかしくなってきたと思う。」と述べています。

創業者が「未達でも構わない(本意)」と考えていても,仲介者である役員層には「達成されなければならない絶対的な数値」として受け止められ,情報の「強調」と「同化」が起きていました。その結果,目標達成の困難さを訴える一部現場の声があっても,役員層が目標を見直すことはなく,現場にはプレッシャーだけがかかり続けることになったのです。

第2構造:威圧的なマネジメント

「モノ言えぬ組織」に見られる第2の構造は,威圧的なマネジメントによって個人の意思が失われることです。

こうした環境下では,役職員は組織の指示に従うだけの道具と化す「代理人状態」に陥りやすくなります。社会心理学者のスタンレー・ミルグラム(Milgram, 1974)は,人は権威者(例:社長,取締役,部長)から強い指示を受けたとき,

自分を「権威者の意向を実行する代理人」と見なす心理状態に陥ることを提唱しました。この状態に陥ると,たとえその指示が社会のルール(法律,常識,道徳,慣習)に反する内容であっても,「自分は指示に従っているだけだ」,「責任は指示した権威者にある」と考え,罪の意識を感じづらくなります。

ここで注目すべきは,「代理人状態」に陥った役職員は本来持っている高い専門知識や実務能力を「権威者の指示を完璧に実行する」という目的のために最大限活用します。指示内容が社会のルールに反する内容であった場合,発覚しないようにするため,高度な隠蔽工作が行われる可能性があります。

以上のように,威圧的なマネジメントは,役職員を「代理人状態」に陥らせ,個人の責任感や倫理観を麻痺させていきます。これが,「不正のペンタゴン」理論における,「機会」や「正当化」に影響を及ぼすのです。そして,「代理人状態」に陥った役職員は,「不正のペンタゴン」理論における「能力」を駆使して,指示内容(不正)を確実に実行しようとするのです。

実際,最終報告書においても,ニデックの現場の役職員がこの「代理人状態」に近い状況にあったことが推察されます。創業者は,ヒアリングに対して,「未達でも構わないと言っているが,同時に弱音を吐かないように教育してきたので,弱音を吐く者がいない。」と述べています。

創業者の「未達でも構わない」という真意よりも,組織内で絶対視される「弱音(未達の報告)は許されない」という言葉が,創業者が有する人事権の絶対的な影響もあり,現場の役職員にとっては「権威者からの指示」となり,自分の意志を捨てさせ,「代理人状態」へと追い込んだ可能性が考えられます。その結果,「上位者の指示遂行」が「ルールの遵守」よりも優先され,不適切会計の「機会」が形成され,同時に「組織のために,指示通りにやっただけだ」という「正当化」も行いやすくなります。

また,本来は組織の発展に活用されるべき役職員の高度な専門知識や実務能力が,指示を完璧に遂行し,かつ不適切会計を外部から見えにくくするための「能力」として悪用されることとなりました。こうした心理や能力の誤用が影響し,役職員は,不適切な会計処理を指示・実行することへの抵抗感を低下させ,売上の前倒し計上や費用の繰り延べなどの行為を実行するに至ったと考えられます。

3構造:「異論を唱えない」という歪んだ集団規範

「モノ言えぬ組織」に見られる第3の構造は,「異論を唱えない」という「沈黙への同調」を求めるルールが集団規範として定着していることです。

共通の目標の下にメンバーが集まり,活動するようになると,メンバーの行動が似てくる現象が起きます。これを行動の斉一化と呼びます。社会心理学者のフェスティンガー(Festinger, 1950)によれば,斉一化された行動は,メンバーがどう行動するべきかを判断する際の基準となります。これが,集団規範です。

先に書いた威圧的なマネジメント下にある組織では,役職員は「代理人状態」に陥り,組織の指示を忠実に実行することに注力します。その結果,誰もが「異論を唱えない」という行動をとるようになり,これが「正解」であるという強力な同調圧力が形成されます(Asch, 1951)。こうした心理の連鎖によって,この組織では,役職員に対して「沈黙への同調」を求める歪んだ集団規範が形成されます。これが,「不正のペンタゴン」理論における,「正当化」をより強固なものにします。

ニデックの最終報告書でも,役職員が「意見したくとも言えない」状況にあったことが指摘されています。これは,威圧的なマネジメント下で「代理人状態」となった役職員が組織の指示を忠実に実行してきた結果,「異論を唱えない」ことがニデックで生き残るための集団規範として形成されてしまったことを物語っています。その結果,多くの役職員は,不適切な会計処理であると理解していても,それに対して沈黙せざるを得なかったのです。

4構造:閉鎖的な組織風土

「モノ言えぬ組織」に見られる第4の構造は,閉鎖的な組織風土です。閉鎖的な組織風土として,先に書いた「異論を唱えない」ことを「正解」とする集団規範に加え,役職員の結束力が高い,絶対的なリーダーの存在,自組織の実力への過信,外部の介入を「脅威」と捉える傾向などが挙げられます。

こうした組織風土では,集団浅慮(しゅうだんせんりょ)が発生しやすくなります。集団浅慮とは,集団の発展よりも,他のメンバー,特に絶対的なリーダーとの意見の相違を避け,全員一致の意見を目指すことを重視するあまり,最終的に集団として非合理的な判断を下してしまうことです。(Janis, 1972;Janis, 1982)。

集団浅慮が起きる兆候として,組織において,以下のことが見られるとされています。

 

  1. 代替案の調査を十分にしない
  2. 目的や判断内容の精査を十分にしない
  3. 選択した案が抱えるリスクを十分に検討しない
  4. 1度却下した選択肢については再検討しない
  5. 情報収集を十分にしない
  6. 都合の良い情報を選択する
  7. 不測の事態が起きたときの対応策を検討しない

最終報告書を見ると,ニデックには,「3. 選択した案が抱えるリスクを十分に検討しない(不適切会計の影響度を過小評価する)」,6.都合の良い情報を選択する(会計監査人から都合の良い意見を引き出そうとする)」,「7. 不測の事態が起きたときの対応策を検討しない(不適切会計が発覚した際に,この問題にどのように対応するのかについて検討していない)」などの兆候が見られますので,集団浅慮が起きていた可能性が考えられます。

以上のように,閉鎖的な組織風土は,「不正のペンタゴン」理論における「傲慢さ」と「正当化」を助長し,役職員に組織の判断を絶対視させ,「この判断しかない」と思い込ませます。その結果,組織の判断を見直す機会を失わせます。

5構造:正しさよりもコストと現状を重視する組織文化

「モノ言えぬ組織」に見られる第5の構造は,社会的な正しさよりも,それまでに費やしたコストと現状を過度に重視する組織文化です。

こうした文化の下では,一度下した決定を覆すことが「これまでに投入した多大な時間,労力,あるいは資金を無駄にすること」と見なされます。その結果,心理的拘泥現象(しんりてきこうでいげんしょう)を引き起こします(Staw, 1976)。心理的拘泥現象とは,これまでにかけてきたコストを無駄にしたくないという心理や自分たちの判断が間違っていたと認めることへの心理的な抵抗などから,決定した内容が明らかに間違っていても,その決定を覆すことのできない状態です。

以上のように,正しさよりも費やしたコストと現状を重視する組織文化は,「不正のペンタゴン」理論における「正当化」を決定的なものにし,「今さら後戻りできない」として,不正の「機会」を固定化させてしまうのです。

ニデックの最終報告書においても,不適切な会計処理を一度行ってしまった後,それを正すことよりも,翌期以降の数字で帳尻を合わせようとする心理的拘泥現象が見られます。

「モノ言えぬ組織」における内部不正の犯罪心理学モデル

ここまで,ニデックの不適切会計の問題から導き出された「モノ言えぬ組織」に共通する5つの構造を見てきました。これら5つの構造が,役職員の「心の働き」と集団心理を介して,不正リスクを増幅し,これらが組織に定着していくプロセスを可視化したのが以下のモデル図です。

「モノ言えぬ組織」における内部不正の犯罪心理学モデル

図 「モノ言えぬ組織」における内部不正の犯罪心理学モデル

 

この図が示す通り,情報の仲介者の多層化や威圧的なマネジメントといった組織の構造的な問題(A)が,役職員の心理過程(B)に影響し,情報(真意)の変質や代理人状態を引き起こします。これらが積み重なることにより,「不正のペンタゴン」理論で示される「動機」,「機会」,「正当化」,「能力」,「傲慢さ」の5つの不正リスク要因(C)が増幅されていきます。一度このプロセスが働き始めると,「モノ言えぬ組織」の状態が固定化されます。その結果, 組織の自浄作用は失われ,不正が起こりやすく,かつ自ら止めることができない「負の連鎖」が続くことになります。

おわりに

内部不正は,必ずしも悪意に満ちた役職員が個人的な理由で引き起こすわけではありません。組織の指示に忠実であろうとする真面目で知識や実務能力のある人々が,歪んだ組織構造の中で「仕方がなかった」と自らを正当化しながら不正に手を染めてしまう悲劇的な事例も少なくありません。

今回分析した5つの構造は,組織が「モノ言えぬ組織」に陥っていないかを点検するうえでの重要な「診断基準」となります。まずは,読者の皆様の組織において,これらの兆候が一つでも現れていないかを見つめ直すことが,「組織の健康」を維持する第一歩となります。

それでは,こうした兆候が一つでも現れてしまった組織は,どのようにして「健康な状態」を取り戻せば良いのでしょうか。

次回の記事では,まずは自らの組織が「モノ言えぬ組織」にどの程度当てはまるのかを可視化するチェックシートで現状を診断し,その結果に基づいて組織を改善するための具体的な「4つの処方箋」について詳しく解説する予定です。

引用文献

Allport, G. W., & Postman, L. (1947). The psychology of rumor. Henry Holt.

Asch, S. E. (1951). Effects of group pressure upon the modification and distortion of judgments. In H. Guetzkow (Ed.), Groups, leadership and men; research in human relations (pp. 177-190). Carnegie Press.

Festinger, L. (1950). Informal social communication. Psychological Review, 57(5), 271-282. https://doi.org/10.1037/h0056932

Janis, I. L. (1972). Victims of groupthink: A psychological study of foreign-policy decisions and fiascoes. Boston: Houghton Mifflin.

Janis, I. L.(1982). Groupthink: Psychological studies of policy decisions and fiascoes. Boston: Houghton Mifflin.

Milgram, S. (1974). Obedience to Authority. McGraw Hill.

Nemeth, C., Brown, K., & Rogers, J. (2001). Devil’s advocate versus authentic dissent: Stimulating quantity and quality. European Journal of Social Psychology, 31(6), 707-720. https://doi.org/10.1002/ejsp.58

ニデック株式会社 (2026).  第三者委員会の調査報告書(最終報告)の受領 及び当社の対応に関するお知らせ Retrieved from https://www.nidec.com/files/user/www-nidec-com/corporate/news/2026/0417-01/260417-01j.pdf (2026年5月1日取得)

Staw, B. M. (1976). Knee-deep in the big muddy: A study of escalating commitment to a chosen course of action. Organizational Behavior & Human Performance, 16(1), 27-44. https://doi.org/10.1016/0030-5073(76)90005-2

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