前回の記事では,ニデック株式会社(旧日本電産株式会社:以下,ニデック)の不適切会計問題をケーススタディとして,第三者委員会の最終報告書(ニデック,2026)を分析し,「モノ言えぬ組織」に共通する5つの構造を指摘しました。そして,これらの構造が役職員の心理に負の影響を与えて不正リスクが増幅し,組織に定着していくモデルを示しました。それが,以下の「モノ言えぬ組織」における内部不正の犯罪心理学モデルです。

図 「モノ言えぬ組織」における内部不正の犯罪心理学モデル
このモデルが描く現象は,もしかしたら日本の様々な組織においても発生している可能性があります。実際,著者が様々な業種の方々と意見交換をする中で,「情報が現場に正しく伝わってこない」,「現場の声が経営層に届かない」,「会議で異論を唱えづらい」,「閉鎖的な職場」,「事なかれ主義」といった言葉をよく耳にします。
そこで,今回の記事では,読者の皆様が所属する組織や部署(以下,所属先)の「モノ言えぬ組織」の度合いを測定するチェックシートを提示します。さらに,その結果を踏まえ,この状態から組織を脱却させるための具体的な4つの処方箋について,心理学の確かな理論的背景をもとに詳しく解説していきます。
関連:犯罪心理学者が診断する「モノ言えぬ組織」〜ニデックが示す,内部不正が蔓延する組織の共通構造
「モノ言えぬ組織」の度合いの測定
以下が「モノ言えぬ組織」の度合いを測定するチェックシートです。
カテゴリ1からカテゴリ5には,所属先における情報の伝達,マネジメント,暗黙のルール,組織の風土,組織の文化のあり方について,それぞれ4項目の設問があります。計20項目の設問について,ご自身の所属先の現状にどの程度当てはまるか,直感でチェックして下さい。なお,「上層部」という言葉が出てきますが,読者の皆さまの所属先の体制に応じて,社長,役員,部門長,経営層,幹部,本部などの言葉に置き換えてお読み下さい。
カテゴリ1:情報の伝達
□ 所属先では,上層部の情報(例:方針,計画,判断)が現場に届くまでに様々な層(例:役員,管理職,担当者)の人間を介する機会が多い。
□ 所属先では,上層部が発信した情報(例:方針,計画,判断)の複雑な背景や目的がそぎ落とされて現場に届くことが多い。
□ 所属先では,上層部が発信した情報(例:方針,計画,判断)の一部分だけが強調されて現場に届くことが多い。
□ 所属先では,上層部が発信した情報(例:方針,計画,判断)の一部内容が途中で書き変わって現場に届くことが多い。
カテゴリ2:マネジメント
□ 所属先では,上層部がマネジメントにおいて威圧的な手法(例:激しい叱責,過度なプレッシャー)をとる機会が多い。
□ 所属先では,上層部の指示に強い疑問や倫理的な違和感を覚えても,「指示だから仕方がない」と従ってしまう人が多い。
□ 所属先では,上層部の指示に基づいて実行した業務で問題が発生した際,「自分は指示に従っただけで,責任はない」と考える人が多い。
□ 所属先では,上層部からの叱責を避けるための自己防衛に,自らの能力を使用する人が多い。
カテゴリ3:暗黙のルール
□ 所属先では,上層部の方針,計画や判断に対して反対意見や問題提起をしない方が良いという空気を感じる機会が多い。
□ 所属先では,上層部の方針,計画や判断に対して反対意見や問題提起をしない人が多い。
□ 所属先では,上層部の方針,計画や判断に対して反対意見や問題提起はしない方が良いと考える人が多い。
□ 所属先では,上層部の方針,計画や判断に対して反対意見や問題提起はしない方が良いという自らの考えを周囲にも求める人が多い。
カテゴリ4:組織の風土
□ 所属先では,方針や計画を組織決定する際,自分たちに都合の良くない情報や意見を受け入れない状況を目にする機会が多い。
□ 所属先では,方針や計画を組織決定する際,特定の担当者の情報に頼り,客観的な情報の収集を十分にしないことが多い。
□ 所属先では,方針や計画を組織決定する際,選択した案が抱えるリスクの検討を後回しにすることが多い。
□ 所属先では,方針や計画を組織決定する際,選択した案の修正や代替案の検討をしないことが多い。
カテゴリ5:組織の文化
□ 所属先では,決定された方針や計画を進める際,変更や撤退の客観的な判断基準があらかじめ設定されていない状況を目にする機会が多い。
□ 所属先では,決定された方針や計画が明らかに上手く進んでいなかったとしても,費やしたコスト(例:時間,予算,労力)を惜しんで,その方針や計画を変更できない人が多い。
□ 所属先では,決定された方針や計画が明らかに上手く進んでいなかったとしても,その方針や計画の間違いを認められない人が多い。
□ 所属先では,一度決定された方針や計画の修正や間違いを認めることが,その担当者の能力不足,人事的な低評価,責任問題に直結することが多い。
「モノ言えぬ組織」の度合いの判定
このチェックシートは,単に点数を出して安心するためのものではありません。所属先において,情報の伝達,マネジメント,暗黙のルール,組織の風土,組織の文化のあり方のどこに,どのような「モノ言えぬ組織」の「兆候」が表れているのかを特定し,優先的に対応する事項を判断するための戦略的な分析ツールです。
それでは,チェックシートの読み解き方を解説します。以下に,「モノ言えぬ組織」度合いの判定表を示します。
表 「モノ言えぬ組織」度合いの判定表

「モノ言えぬ組織」度合いの判定表
この表とお手元のチェックシートを確認しながら,具体的なチェックシートの読み解き方を見ていきましょう。
まず,各カテゴリにはそれぞれ4項目の設問があります。3項目以上の設問にチェックがあるカテゴリは,一時的なものではなく,所属先の組織構造として定着している可能性が高いと判断して下さい。こうしたカテゴリが1~2個ある場合には,「モノ言えぬ組織」の度合いは「中」と判定して下さい。判定結果が「中」の所属先には,職場の一部に「モノ言えぬ組織」の兆候が見られます。手遅れではありませんので,本稿の『「モノ言えぬ組織」を脱するための処方箋』を確認し,該当するカテゴリについて,早期に対応して下さい。
さらに,5個のカテゴリのうち,3個以上のカテゴリにおいて3項目以上のチェックがついた場合,「モノ言えぬ組織」の度合いは「高」と判定して下さい。判定結果が「高」の所属先は,早急かつ高度な対応を図る必要があります。担当者や特定の部署(例:総務,人事,経理,法務)の努力で解決できる段階は過ぎています。所属先全体が構造的な機能不全に陥っているため,経営層主導や外部の専門家の活用による抜本的な対応が不可欠となります。
特に,カテゴリ2(マネジメント)とカテゴリ4(組織の風土)の両方で3項目以上の設問にチェックがある場合は,注意が必要です。威圧的なマネジメントによって,所属先のメンバーは倫理的な責任感が低下し,ただ指示に従って行動しているだけの状態(代理人状態:Milgram, 1974)に陥っている可能性があります。同時に,所属先全体が自分たちに都合の良い情報だけに頼ってリスクを軽視する集団浅慮に陥っている可能性があります。つまり,内部不正がいつ起きてもおかしくない状態にあります。内部不正といっても,不適切な会計処理のように重大なものから,職場の備品や販促品の勝手な持ち出し,営業秘密の流出,社内規程に基づかない業務の実施など身近なものまで様々です。是非,所属先を冷静に見渡し,こうした「小さなルール違反」が水面下で起きていないかを確認して下さい。
次に,設問のチェックが特定のカテゴリに偏っている場合は,そのカテゴリが,所属先が優先的に対応するべき組織の構造となります。例えば,カテゴリ1(情報の伝達)に設問のチェックが集中している場合,上層部が発信する情報の複雑な背景や目的が,現場に正確に届くように,情報の伝達手段やルートを分析し,改善することが優先事項となります。
「モノ言えぬ組織」を脱するための処方箋
それでは,チェックシートによる診断結果の分析を踏まえ,特定された所属先の組織構造の問題について,読者の皆様はどのような対応をとるべきでしょうか?ここでは,4つの処方箋を提案します。どれも,特別難しいものではなく,明日から取り組める内容となっています。
情報の伝達手段・ルートを工夫し,上層部の真意を浸透させる(カテゴリ1への対応)
カテゴリ1(情報の伝達)で見られた仲介者(例:役員,管理職,担当者)による「情報の加工」を防ぐには,仲介者による情報の省略,強調や都合の良い解釈を回避し,情報の劣化を最小限に抑える仕組みが不可欠です。
例えば,上層部が重要な方針を発信する際は,文書だけでなく動画や音声を活用することが有効です。話し手の表情や声のトーンといった「非言語情報」,話の文脈などをそのまま届けることで,仲介者による伝え漏れ,主観的な解釈や特定の情報の強調を防ぎ,メッセージの真意を正確に現場へ浸透させることができます。
また,上層部は,仲介者からの報告(加工された情報)のみに頼るのではなく,自ら現場に足を運び,「加工前」の情報とその背景にある文脈や感情に触れることの優先順位を上げることが必要です。上層部が自らの目で現場の空気感や実態を確認し続ける姿勢こそが,仲介者による「情報の加工」に対する強力な抑止力となります。
役職員の主体性を尊重する仕組みを整える(カテゴリ2・カテゴリ3への対応)
カテゴリ2(マネジメント)で見られた威圧的なマネジメント手法(激しい叱責や過度なプレッシャー)や,カテゴリ3(暗黙のルール)で見られた「異論を唱えないこと」を「正解」とする歪んだ集団規範を防ぐには,役職員が単なる指示の実行役ではなく,個人の専門知識,実務能力,責任感や倫理観に基づき,「正しい」と判断したことを,正しく実行する「主体性」を尊重する仕組みを整えることが必要です。
例えば,会議,打ち合わせや班会・チーム会などにおいて,主催者,管理職,班長やリーダーが,「メンバーの多様な意見の表明を歓迎する」,「メンバー全員の意見を平等に扱う」と毎回宣言をしてから話し合いを開始するというルールを設ける方法は,一見地味に見えますが,「自分の判断で意見を言って良いのだ」という認識を現場に浸透させ,主体性を呼び覚ます上で非常に有効です。
批判的視点を会議の場に意識的に組み込む(カテゴリ4への対応)
カテゴリ4(組織の風土)で見られた,客観的な情報収集を怠りリスクの検討を後回しにしてしまう「集団浅慮」(Janis, 1972; Janis, 1982)を防ぐには,組織の判断に対して批判的視点を意識的に取り入れる仕組みが必要です。
具体的には,会議において,主催者があえて多数派の意見に反論を述べる役割の人を指名します。その人は,多数派の意見の問題点や検討が不足している点を意識的に指摘します。これを,「悪魔の代弁者(デビル・アドボケート)」法と呼びます。
なお,心理学の先行研究(Nemeth et al., 2001)では,単に役割を演じるだけでなく,実際に少数派の意見を持つ人にこの役割を引き受けてもらう方が,より大きな効果が期待できることを示唆しています。
異論を唱えることを「組織がリスクを回避するための重要な貢献」と再定義し,批判的視点をあらかじめ会議のルールとして組み込むことが,組織の閉鎖性を打ち破る第一歩となります。
「当初の判断を見直す」ための基準を明確にする(カテゴリ5への対応)
カテゴリ5(組織の文化)で見られた,一度決めた方針や前例の間違いを認められずに泥沼化してしまう「心理的拘泥(こうでい)現象」(Staw, 1976)に陥らないためには,客観的な基準を基に,当初の判断を見直す必要がある状態や状況をあらかじめ組織の中で明確にしておくことが有効です。これにより,その基準に達した際には,費やしたコストを惜しんだり,間違いを認めることで感じる抵抗感に左右されることなく,組織的に当初の判断を見直すことができるようになります。
その際,判断の見直しを「費やしたコストがもったいない」と思うのではなく,組織がより良くなるための経験を積ませてもらった「正当な授業料」として捉える姿勢を持ちましょう。「間違いを早期に認めて修正することを高く評価する」文化へとシフトすることが,不正の連鎖を断ち切る強力な「武器」となります。
おわりに
前回と今回の記事で,内部不正が蔓延する「モノ言えぬ組織」の共通構造と,そこから脱却するための具体的なアプローチについて考えてきました。
まずは,今回ご紹介した「モノ言えぬ組織」度合いのチェックシートを,読者の皆様の所属先で実際に活用してみて下さい。一人で密かにチェックするだけでなく,上司,同僚や後輩の方と一緒に所属先の現状を客観的に見つめ直すツールとして使っていただくことにより,これまで言葉にできなかった所属先における歪みや内部不正の兆候が可視化されるはずです。
次に,「モノ言えぬ組織」を脱するための4つの処方箋は,明日からでもすぐに始められる「小さな工夫」ばかりです。だからこそ,読者の皆様には,これらを知識として頭に入れるだけで満足せず,実際に取り組んでいただくことを期待します。
その際,とても重要な視点をお伝えしておきます。もし,これら4つの処方箋を読者の皆様が所属先の中で提案した際,「そんなことをしても意味がない」,「外部の専門家の意見は当てにならない」といった反応が起きたとしたら,注意が必要です。その姿勢こそが,「閉鎖的な組織風土」が根付き始めている予兆かもしれないからです。
最後になりますが,今回紹介したチェックシートをデータとしてダウンロードできるようにしました。
【ダウンロード】「モノ言えぬ組織」度合いの測定(チェックシート)
このチェックシートと先に書いた処方箋が読者の皆様とその大切な所属先の対話のきっかけとなりましたら,嬉しく思います。
引用文献
Janis, I. L. (1972). Victims of groupthink: A psychological study of foreign-policy decisions and fiascoes. Boston: Houghton Mifflin.
Janis, I. L.(1982). Groupthink: Psychological studies of policy decisions and fiascoes. Boston: Houghton Mifflin.
Milgram, S. (1974). Obedience to Authority. McGraw Hill.
Nemeth, C., Brown, K., & Rogers, J. (2001). Devil’s advocate versus authentic dissent: Stimulating quantity and quality. European Journal of Social Psychology, 31(6), 707-720. https://doi.org/10.1002/ejsp.58
ニデック株式会社 (2026). 第三者委員会の調査報告書(最終報告)の受領 及び当社の対応に関するお知らせ Retrieved from https://www.nidec.com/files/user/www-nidec-com/corporate/news/2026/0417-01/260417-01j.pdf (2026年5月1日取得)
Staw, B. M. (1976). Knee-deep in the big muddy: A study of escalating commitment to a chosen course of action. Organizational Behavior & Human Performance, 16(1), 27-44. https://doi.org/10.1016/0030-5073(76)90005-2
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