Windowsの正規機能「Bind Link」を悪用しEDRを無力化する新手法-AppLocker・Sysmon・Mimikatz検知も回避可能に

セキュリティニュース

投稿日時: 更新日時:

Windowsの正規機能「Bind Link」を悪用しEDRを無力化する新手法-AppLocker・Sysmon・Mimikatz検知も回避可能に

セキュリティ企業Bitdefenderの研究チームは2026年7月15日、Windowsの正規機能である「バインドリンク(Bind Link)」を悪用し、エンドポイント検出・対応(EDR)製品を無力化する3つの新たな攻撃手法を公表しました。File-Binding、Process-Binding、Silo-Bindingと名付けられたこれらの手法は、ファイルシステム上で矛盾した「見え方」を作り出すことで、マルウェアをEDRの監視から隠蔽できてしまいます。

サマリー

  • Bitdefenderの研究者は、Windowsの正規機能「バインドリンク」を悪用してEDR製品を無力化する3つの手法(File-Binding、Process-Binding、Silo-Binding)を公表した
  • バインドリンクは、Windowsストアアプリ・Windows Sandbox・Windowsコンテナで正規に利用されている、カーネルレベルのファイルパスリダイレクト機能で、bindflt.sys(Bind Filterミニフィルタードライバー)によって実装されている。仮想パスを実際のバッキングパスへ透過的にマッピングする仕組みだが、このバッキングパスを攻撃者が制御するファイルへ書き換えることで、そのファイルへ事実上見えない形でアクセスできてしまう
  • 最も高度な手法であるSilo-Bindingは、Windowsコンテナの分離技術である「サイロ」を利用し、分離環境の内側と外側とで異なるファイルシステムの見え方を作り出す。マルウェアはサイロ内部では信頼されたアプリケーションとして実行される一方、サイロ外部で動作するセキュリティツールにはクリーンなファイルしか見えない
  • Bitdefenderは、この手法を用いてAppLockerの回避、Windowsファイアウォールの回避、Sysmonの汚染、AMSIの回避を実演したほか、通常であれば検知されるはずのMimikatz(Invoke-Mimikatz)を、信頼されたプロセスIDのもとで実行し検知を回避することにも成功したと報告している
  • Microsoftはこの問題について、悪用に管理者権限が必要であることを理由に深刻度を「低」と評価している
  • Bitdefenderはこれに対し、BYOVD(Bring Your Own Vulnerable Driver)攻撃も同様に管理者権限を前提とするが、今や一般化・産業化した攻撃手法の標準装備になっていると指摘し、管理者権限への到達を理由に検知の免除を与えるべきではないと反論している
  • これらはリモートコード実行の脆弱性ではなく、侵害後の検知回避(post-compromise evasion)技術と位置づけられている。Bitdefenderは、自社のEDR製品GravityZoneの利用者はすでに保護されているとしている
項目 内容
公表日 2026年7月15日(Bitdefender Labs)
悪用される機能 Windowsのバインドリンク(bindflt.sys、Bind Filterミニフィルタードライバー)
手法名 File-Binding、Process-Binding、Silo-Binding
正規の用途 Windowsストアアプリ、Windows Sandbox、Windowsコンテナ
悪用の前提条件 ローカル管理者権限
実演された回避対象 AppLocker、Windowsファイアウォール、Sysmon、AMSI、EDR(Mimikatz検知)
Microsoftの評価 低深刻度(管理者権限が前提のため)
Bitdefenderの反論根拠 BYOVD攻撃との類似性、侵害後の検知回避手法としての実用性
対象範囲 Windows 10 RS4以降、Windows 11の各バージョン

何が起きたか-バインドリンクとは何か

Bitdefenderの研究者によれば、バインドリンクはWindowsストアアプリ、Windows Sandbox、Windowsコンテナで正規に利用されている、カーネルレベルのリダイレクト機構です。仮想パスを実際のバッキングパス(実体のファイルパス)へ透過的にマッピングする仕組みで、通常はアプリケーションの動作に影響を与えることなく機能します。しかし、このバインドリンクが改ざんされ、バッキングパスが攻撃者の制御するファイルを指すように書き換えられた場合、そのファイルは事実上見えない形でアクセスされることになります。通常のユーザーモードのプロセスや、多くのEDRのファイルシステム監視機能にとって、この状態は検知が困難です。スキャナーは仮想パスを実際のパスであるかのように認識する一方で、実際には偽装されたバッキングパスからデータを受け取ってしまうためです。

3つの手法-File-Binding、Process-Binding、Silo-Binding

Bitdefenderが公表した3つの手法のうち、1つ目のFile-Bindingは、攻撃者がEDRのセンサーDLLのパスを把握している場合、そのパスを何もしない代替ファイルへリダイレクトするというものです。EDRが自身のセンサーを読み込もうとすると、実際には攻撃者が用意したDLLが読み込まれてしまいます。EDR側から見ると、読み込み自体は成功したように見えるため、異常として検知されません。

2つ目のProcess-Bindingは、File-Bindingの考え方をプロセスレベルへ拡張したものです。そして3つ目、最も高度とされるSilo-Bindingは、Windowsコンテナの分離技術である「サイロ(silo)」を利用し、分離環境の内側と外側とで異なるファイルシステムの見え方を作り出します。研究者らは、悪意あるペイロードがサイロの内部では信頼されたアプリケーションとして実行される一方、サイロの外部で動作するセキュリティツールにはクリーンなファイルしか見えない状態を実演しました。この3つの手法は、それぞれ前段の手法の弱点を補強する形で構成されているとされています。

Bitdefenderは、Silo-Bindingを用いてAppLockerの回避、Windowsファイアウォールの回避、Sysmonの汚染(ポイズニング)、そしてAMSIの回避を実演しています。さらに、通常のEDR環境ではMimikatz(認証情報窃取ツール)の実行(Invoke-Mimikatz)が検知されるところ、Silo-Bindingを併用した場合には検知されなかったことも報告されています。

MicrosoftとBitdefenderの見解の相違

Microsoftは今回の問題について、悪用にローカル管理者権限が必要であることを理由に、深刻度を「低」と評価していると報じられています。これに対しBitdefenderは、BYOVD(Bring Your Own Vulnerable Driver、脆弱なドライバーを持ち込んで悪用する手法)攻撃も同様に管理者権限を前提とする攻撃であるにもかかわらず、今や一般化・産業化された攻撃手法の標準装備になっていると指摘しています。Bitdefenderは、攻撃者が管理者権限に到達したことをもって、検知の「免除」が与えられるべきではないと主張しており、これらの手法はリモートコード実行の脆弱性ではなく、すでに侵害が成立した後の検知回避技術として位置づけるべきだとしています。同社は、「攻撃者がローカル管理者権限を得た時点で、Windows 10 RS4以降・Windows 11の全システムがこのリスクにさらされる」と説明しています。なお、Bitdefenderは自社のEDR製品GravityZoneの利用者についてはすでに保護されているとしています。

Windowsのバインドリンク悪用という研究の広がり

今回のBitdefenderの発表は、Windowsのバインドリンク機能を悪用してEDRを回避するという研究テーマが、この1年ほどの間に段階的に発展してきた流れの延長線上にあります。2025年10月には、バインドリンクとクラウドフィルタードライバーを組み合わせてEDRの実行ファイルフォルダを攻撃者の制御下のパスへリダイレクトする概念実証ツール「EDR-Redir」が公開され、複数の商用EDR製品に対して検証が行われました。この際、Windows Defenderは基本的なバインドリンクによる手法には耐性を示したものの、Cloud Filter APIを用いた代替手法によって回避が成功し、Elastic DefendやSophos Intercept Xについてもフォルダのリダイレクトに成功したと報告されています。さらに2025年11月には、Program Filesフォルダ内でバインドリンクを自分自身へ向けることでWindows Defenderの回避にも成功した改良版「EDR-Redir V2」が公開されており、今回のBitdefenderの研究は、こうした一連の研究の集大成として、より洗練された3つの手法を体系化したものだといえます。

情報システム部門への示唆

今回の一連の手法はいずれも、攻撃者がすでにローカル管理者権限を獲得していることを前提としています。この点は、当サイトで以前紹介したEDRSilencerRansomHubによるTDSSKillerの悪用The GentlemenによるEDRキラーツール群「GentleKiller」など、多くのEDR回避手法と共通する構造です。つまり、EDR自体の検知能力をどれだけ高めても、攻撃者が管理者権限を獲得してしまえば、EDR自身の監視機構が無力化されるリスクが常につきまとうということです。

この点を踏まえると、EDR単体の防御力に依存するのではなく、そもそも攻撃者にローカル管理者権限を獲得させないという、権限昇格対策そのものの重要性が改めて浮き彫りになります。具体的には、エンドユーザーに不要な管理者権限を付与しない最小権限の原則の徹底、特権アカウントの棚卸しと多要素認証の適用、そして権限昇格が発生した際に検知できる監視体制の整備が、今回のような侵害後の検知回避手法全般への根本的な対策になります。あわせて、EDR製品を選定・評価する際には、単純なマルウェア検知率だけでなく、ファイルシステムの整合性検証やカーネルレベルのリダイレクト機構への耐性についても、ベンダーへ確認することをお勧めします。当サイトで以前紹介したロシア系脅威アクターがAIエージェントを用いてEDR回避マルウェアを自動開発していた事例も踏まえると、EDR回避技術の開発自体が高速化・自動化されつつある中、単一の防御層に依存しない多層防御の重要性は今後さらに高まっていくとみられます。

出典