脆弱性インテリジェンス企業VulnCheckは2026年8月5日、中国メーカーZbtlink製のルーター20機種以上に、出荷段階からバックドアが組み込まれていたとする調査結果を公開しました。「ENDLESSDOORS」と名付けられたこのバックドアは、起動と同時に中国のクラウドサービス上にある指令サーバーへ自動的に接続を試み、接続に成功した相手はルーターをroot権限で完全に制御できる状態になります。認証の仕組みが一切存在せず、修正パッチも提供される見込みがないため、VulnCheckは機器の入れ替えを推奨しています。
この記事のサマリー
- VulnCheckは2026年8月5日、Zbtlink製ルーター20機種以上に、出荷時からバックドア「ENDLESSDOORS」が組み込まれていたとする調査結果を公開しました。
- 対象機種は世界中でZbtlinkおよびWiflyerというブランド名で、Amazon・AliExpress・Alibabaなどを通じて販売されており、VulnCheckは少なくとも10万台以上が世界で稼働していると推定しています。
- バックドアは起動時に自動的に実行され、あらかじめ組み込まれた中国拠点のサーバー(一部はAlibaba Cloud上)へ接続を試み続けます。
- 接続後の認証は一切なく、指令サーバー側から送られた任意のコマンドをroot権限でそのまま実行できる状態になっており、対話型のrootシェルも取得可能です。
- VulnCheckは、この挙動がソフトウェアのバグではなくベンダーが意図して組み込んだものと判断し、通常の協調的な脆弱性開示を行わずに調査結果を公開しました。
- 修正ファームウェアは提供される見込みがなく、VulnCheckは対象機種の特定と、可能であれば機器の入れ替えを推奨しています。
- 米国では今年、中国製ルーターの輸入規制の動きがすでに進んでおり、TP-Link製ルーターを中心に、中国製ネットワーク機器全般への警戒が高まっている流れの中での発表となります。
- 日本でも2018年以降、政府調達からのファーウェイ・ZTE排除や、2026年の陸上自衛隊の中国製偽造USBメモリ感染問題を受けた総務省の全自治体調査(ルーター・ドローン・監視カメラも対象)など、中国製情報通信機器への警戒が強まっています。
- 日本の個人情報保護委員会によると、中国の国家情報法・サイバーセキュリティ法・データ安全法は、企業や国民に国家の情報活動への協力を義務付けており、収集範囲の限定や独立した承認手続き、透明性確保の規定が存在しない点が、各国が中国製機器を安全保障上のリスクとみなす根拠になっています。
整理表
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 公表日 | 2026年8月5日 |
| 公表元 | VulnCheck(Jacob Baines CTO) |
| バックドアの名称 | ENDLESSDOORS |
| CVE番号 | CVE-2026-66747 |
| 対象メーカー | Zbtlink(深圳市志博通電子、Shenzhen Zhibotong Electronics) |
| 販売ブランド名 | Zbtlink、Wiflyer、および無名のOEM/ODM製品 |
| 対象機種数 | 20機種以上(21のファームウェアイメージで確認) |
| 推定稼働台数 | 少なくとも10万台以上(世界) |
| 通信先(主要) | zbtctl.epplink[.]net(Alibaba Cloud上海)、47.107.224[.]89(Alibaba Cloud深圳) |
| 通信先(副次) | online-string[.]com(Vultr)、rbdg4nzqadui.wikaba[.]com(江蘇東雲クラウド) |
| 認証の有無 | なし(39バイトの固定フォーマットで登録するのみ) |
| 権限 | root(uid 0)での任意コマンド実行、対話型rootシェルの取得が可能 |
| 修正パッチ | 提供見込みなし |
| 開示方法 | ベンダーへの事前通知なしで公開(意図的な実装と判断したため) |
何が起きたか
VulnCheckの最高技術責任者(CTO)を務めるJacob Baines氏は、Alibaba経由で購入したZbtlink製ルーター(型番Z8102AX-2DSIM、AX3000として販売)を自社の隔離された検証ネットワークに接続し、動作を調査しました。プロセス一覧を確認したところ、Linuxカーネルのスレッドを装った、しかし実際にはroot権限で動作する不審なユーザープロセス「kworker」が2つ稼働していることを発見しています。
このプロセスは、2015年にGitHubへ公開されて以降更新が止まっている、rctl(remote control linux)と呼ばれるシンプルな遠隔操作ツールを改変したものでした。起動すると、あらかじめ組み込まれたサーバーへ数十秒間隔で接続を試み続け、Baines氏の検証環境では47.107.224[.]89というIPアドレスと、rbdg4nzqadui[.]wikaba[.]comというDDNSドメインへの通信が確認されています。VulnCheckはこのバックドアを「ENDLESSDOORS」と名付け、CVE-2026-66747として採番しています。
攻撃の仕組み——認証なしの39バイトでroot権限を掌握
ENDLESSDOORSの通信プロトコルは極めて単純です。実装にはハンドシェイクも鍵交換も一切なく、バックドアが指令サーバーへ接続すると、固定長39バイトのデータ(ラベル情報とLAN側のMACアドレスを組み合わせたもの)を送信するだけで登録が完了します。送信元・送信先いずれの正当性も検証されません。
登録が完了した後は、サーバー側から送られてきた内容がそのままpopen()関数に渡され、root権限で実行されます。実行内容を制限する仕組み(許可リストやサンドボックス)は存在しません。特定の文字列(rctlbash)を送信すると、別のポートで対話型の疑似端末(PTY)とrootシェルが開かれ、攻撃者は対話的にルーターを操作できるようになります。
VulnCheckは実際に、このプロトコルを模した簡易的な指令サーバーを構築し、検証用のAX3000から接続を受け付けてrootシェルを取得できることを実証しています。バックドアは機器側から外部への接続(アウトバウンド通信)として動作するため、ルーター自体がインターネットから直接到達可能である必要はありません。NATやファイアウォールの内側にある機器であっても、外部への通信さえ許可されていれば同様に悪用され得ます。
VulnCheckがベンダーに事前通知しなかった理由
通常、脆弱性を発見した研究者は、ベンダーに修正の猶予を与える協調的開示(コーディネーテッド・ディスクロージャー)の手順を踏みます。しかしVulnCheckは今回、Zbtlinkへの事前通知を行わずに調査結果を公開しました。理由として、この挙動がパーサーのメモリ破損のような偶発的なバグではなく、ベンダー自身の初期化スクリプトによって起動される、複数機種・複数年のファームウェアイメージにまたがって組み込まれたコンポーネントである点を挙げています。VulnCheckは、意図して組み込まれたと判断される以上、調整すべき修正が存在しないとしたうえで、機器の所有者が早期に対策を取れるよう、検知用のルールとあわせて情報を公開する方針を取ったとしています。
対象機種と技術的な検知情報
VulnCheckが確認した対象機種は、CPE2801、WE1026-5G-WD、WE1326、WE2007、WE2008-DSIM、WE2416、WE3326、WE5927、WE5931、WE5931AC、WE826-T3-DSIM、WG108、WG1602、WG1608-DSIM、WG209、WG2105、WG2107、WG259、WG3526、Z8102AX-2DSIMです。VulnCheckは、Zbtlinkが同一のハードウェア・ファームウェアをOEM/ODM供給していることから、ブランド名ではなく型番で照合するよう呼びかけています。
技術的な検知情報として、SHA-256のファームウェア・バイナリハッシュ、通信先のドメイン・IPアドレス一覧、Suricata・Snort向けの検知ルール、YARAルールが、VulnCheckのブログ上で公開されています。
中国製ネットワーク機器をめぐる規制・警戒の動き
今回の発表は、中国製ネットワーク機器全般への警戒が高まる流れの中で公表されました。米国では2026年に入り、外国製ルーターの輸入規制を求める動きがすでに進んでおり、とりわけ北米市場で高いシェアを持つTP-Link製ルーターについては、米国の議員や議会委員会が国家安全保障上の脅威になり得ると繰り返し指摘してきました。当サイトでもこの経緯を継続的に取り上げており、TP-Linkのルーターは国家安全保障上の脅威-米国議員が指摘、米議会委員会が中国製ルーターの排除を勧告、TP-Linkも標的に、米国が中国製TP-Linkルーターの禁止を検討で解説しています。
また、中国のAPTグループVolt Typhoonが、家庭用・中小企業向けのルーターを踏み台にして米国の政府・軍事関連施設への侵入を行っていたことも報告されており、詳細はTP-Linkがやばい 中国のハッカー集団が8,000台をハッキングで解説しています。これまでの議論の多くは、既知の脆弱性が悪用されるリスクや、サプライチェーン上の懸念が中心でしたが、今回のENDLESSDOORSは、脆弱性ではなく最初から組み込まれた遠隔操作機能そのものが問題になっている点で、これまでの事例とは性質が異なります。
日本国内でも、中国製の情報通信機器に対する警戒は年々強まっています。この背景には、中国の国内法制度が持つ構造的なリスクがあります。2017年に施行された中国の国家情報法第7条は、いかなる組織および国民も法に基づき国家の情報活動を支持・援助・協力しなければならないと定めています。日本の個人情報保護委員会も、この法令には収集範囲を限定する規定や、第三者による独立した承認手続き、取得した情報の取り扱いに関する制限、活動の透明性を確保する規定が存在しない点を指摘しており、中国企業が提供する機器・サービスを通じて集められた情報が、これらの国家機関による収集・監視の対象になり得るという構造そのものが、各国が中国製情報通信機器を安全保障上のリスクとみなす根拠になっています。米国・英国・イスラエル・日本それぞれの排除政策の詳細や、排除と同時に自国産業を育成する必要性については、なぜ企業や公的機関は中国製Webカメラやルーターなどの通信機器を排除する必要があるのかで包括的に解説していますので、あわせてご覧ください。
こうした法制度上の背景を踏まえ、日本政府は2018年12月、安全保障上の懸念を理由に、各府省庁および自衛隊が調達する情報通信機器から、事実上ファーウェイ(華為技術)とZTE(中興通訊)の製品を排除する方針を固めました。2026年には、この動きが中央省庁にとどまらず地方自治体にも広がっており、当サイトの既報のとおり、総務省は政府がサイバーセキュリティを評価・認証したIT製品のみに自治体の調達を限定する方針を固め、2027年夏からの本格的な義務化運用を予定しています。
さらに直接的な事例として、2026年に陸上自衛隊が、ウイルスに感染した中国製の偽造USBメモリを使用していたことが判明した問題があります。これを受けて総務省は、全国の都道府県・市区町村を対象にUSBメモリの利用実態調査に乗り出し、調査対象はUSBメモリにとどまらず、ドローン、インターネット接続型の監視カメラ、パソコン、ルーターにも広がっています。当サイトでは自衛隊の中国製マルウェア混入USB問題を受け総務省が全自治体調査へ-ドローン・監視カメラも対象にで詳しく解説しています。日本経済新聞の調査報道では、同種の中国関連マルウェアが仕込まれた偽造USBメモリが、正規品より3〜5割安い価格でオンライン小売を通じて広く流通し、国内の複数の工場・研究施設のコンピューターに感染していたことも明らかになっており、自衛隊の一事案にとどまらない広がりを見せています。ルーターは、この総務省調査の対象にすでに含まれている機器区分であり、今回のZbtlink製品のようなケースは、日本国内での点検対象としても他人事ではありません。
情報システム部門が確認すべき対策ポイント
- ブランド名ではなく型番で、自社が保有する機器を確認してください。ホテルや支店の設置機器、車両に搭載されたセルラールーター、契約業者が設置した機器も対象に含めて棚卸しすることをVulnCheckは推奨しています。
- 可能であればSSHでログインし、psコマンドでプロセス一覧を確認してください。角括弧で囲まれていない「kworker」プロセスが、実メモリを使用する形で2つ存在する場合、バックドアが稼働している可能性があります。
- ファイルシステム上に/usr/sbin/kworker、/usr/lib/librctl.so、/etc/kworker.cfg、/etc/init.d/skworkerが存在しないか確認してください。
- 境界のファイアウォールやDNSリゾルバで、公開されている通信先(zbtctl.epplink[.]net、online-string[.]com、rbdg4nzqadui.wikaba[.]com、および関連IPアドレス)への通信をブロック・アラート対象に設定してください。
- ポート7000・7001への外部通信、特にネットワーク機器のセグメントからの通信を監視してください。
- 修正パッチが存在しないため、重要な通信を扱う機器については、ネットワークからの切り離しまたは機器の交換を検討してください。シェルアクセスがあれば初期化スクリプトを無効化することも可能ですが、VulnCheckは、そもそも同じイメージに含まれる他の部分についても信頼性が保証されないとして、根本的な対策としては機器の交換を推奨しています。
今後注目すべき点
本記事執筆時点で、Zbtlinkからの公式なコメントは確認されていません。今後は以下の点が焦点になると考えられます。
- Zbtlinkからの公式な説明や対応方針の有無
- 米国をはじめとする各国政府が、本件を踏まえて中国製ネットワーク機器の規制範囲をさらに広げるかどうか
- 同様の作り込まれたバックドアが、他の中国製ネットワーク機器メーカーの製品からも見つかるかどうか
- 実際にENDLESSDOORSが悪用された被害事例の有無








