日本政府、ガバメント AI「源内(げんない)」、政府職員18万人へ 国会答弁支援も開発、米英EUの政府AIと比較

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日本政府、ガバメント AI「源内(げんない)」、政府職員18万人へ 国会答弁支援も開発、米英EUの政府AIと比較

デジタル庁が内製開発した生成AI利用環境「源内(げんない)」の大規模実証が、全府省庁へ広がっています。

デジタル庁によると、2026年5月29日時点で約10万人の政府職員が利用できる状態となり、2026年度中に全府省庁約18万人へ拡大する計画です。文章作成、要約、校正、翻訳といった汎用機能に加え、国会質問の解析、過去答弁や根拠資料の検索、答弁草案の生成、更問予測、矛盾検証まで行う「国会答弁作成支援AI」の開発も進めています。

日本だけの動きではありません。

米国ではGeneral Services Administration(GSA)が連邦機関向け共通AI基盤「USAi」を構築し、複数モデルを一つの環境から使えるチャット、API、利用状況を確認するコンソールを提供しています。英国政府は「Humphrey」と呼ぶ行政特化AI群を内製し、パブリックコメントに相当する政府コンサルテーション5万件超を約2時間で分類した実績があります。欧州委員会も職員向けの「GPT@EC」を内製し、内部情報を外部事業者へ共有せずに処理できる生成AI環境を全職員へ展開しています。

各国に共通するのは、「政府が独自の巨大言語モデルを一から開発する」ことよりも、複数のAIモデルを安全に利用する共通基盤と、行政データを組み合わせた業務専用アプリを政府自身が管理する方向へ進んでいることです。

日本の「源内」も同様です。「国産AIシステム」と紹介される場合がありますが、源内そのものと国産LLMは分けて考える必要があります。デジタル庁が内製しているのはAI利用基盤や行政向けアプリケーションであり、基盤上で使うLLMについては複数モデルを扱いながら、国産LLM7モデルの試用・評価も別途進めています。

日本・米国・英国・EUの政府AIのサマリー

  • デジタル庁は2025年5月、全庁職員向けに生成AI利用環境「源内」の運用を開始しました。
  • 2026年5月から全府省庁への大規模実証を開始し、5月29日時点で約10万人、2026年度中に約18万人が利用できる環境を目指しています。
  • 源内ではチャット、文章作成、要約、校正、翻訳に加え、行政実務向けAIアプリを提供しています。
  • 国会答弁作成支援AIでは、質問解析、過去答弁・根拠資料検索、草案生成、更問予測、矛盾検証などを開発しています。
  • デジタル庁では、機密性2情報を含むプロンプトを源内へ入力できる構成としています。
  • 大量のパブリックコメント・意見のAI分類について、デジタル庁は2025年6月から他府省庁への技術支援として実施しています。
  • デジタル庁は国内LLM15件の応募から7モデルを選定し、源内で行政実務への適合性を評価しています。2027年度には評価結果を踏まえた有償調達も検討します。
  • 米国GSAの「USAi」は、連邦政府向けの共通AI環境で、FISMA Moderateに対応したマルチモデルのチャット、統一API、利用状況コンソールを提供しています。
  • USAiは2025年8月に全連邦機関向けの評価・試用基盤として始まり、2026年8月時点では無料トライアルを終了し、共有サービスとしての一般提供準備に移っています。
  • 英国の「Humphrey」はConsult、Parlex、Minute、Redbox、Lexなど、行政実務に特化した政府開発AI群として2025年に公表されました。
  • HumphreyのConsultは、政府コンサルテーション5万件超を約2時間で分類し、人間の専門家による確認も組み合わせています。
  • 英国では汎用チャットから業務特化型へ移行する動きもあり、Redboxの中央コードベースは2025年12月に終了し、Department for Business and Tradeでは「DBT Assist」として独自発展しています。
  • 欧州委員会の「GPT@EC」は、委員会内部情報を外部へ共有せずに処理できる内製の生成AI環境で、複数のLLMを用途や機密性に応じて利用できます。
  • GPT@ECは現在、欧州委員会の全職員が利用でき、他システムから利用するためのAPIも提供されています。
  • 日本、米国、英国、EUはいずれも、「政府専用LLMを一つ作る」より、政府が管理する安全なAI基盤と業務別アプリを整備する方向に進んでいます。

日本・米国・英国・EUの政府AIを比較

国・地域 主な政府AI 現在の位置付け 主な用途 セキュリティ・統制 基盤モデルとの関係
日本 源内 全府省庁約18万人へ大規模実証 文書作成、要約、翻訳、法令調査、国会答弁支援など 政府統一基準、GSS SSO、デジタル庁では機密性2対応 複数モデルを利用。国産LLM7モデルも別途試用
米国 USAi 連邦政府共通のAI共有基盤へ移行中 チャット、文書要約、コード、API利用、モデル評価 FISMA Moderate、利用状況分析 市場の複数AIモデルを統一環境から利用
英国 Humphrey 行政業務別AIを実運用・拡張 意見分類、議会調査、会議文字起こし、法務調査、政策文書 人による確認、機密情報に応じた個別設計 政府が業務アプリを内製。汎用モデルそのものとは別
EU GPT@EC 欧州委員会全職員へ展開 文書作成、要約、コード、調査、多言語、政策立案支援 内部情報を外部へ共有しない環境、リスクベース管理 複数LLM、オープンソース・ソブリンモデルも選択可能

各国を比べると、名称や実装方法は異なりますが、「政府職員が一般向け生成AIへ直接機密情報を入力するのではなく、政府側で管理された環境を用意する」という方向は共通しています。

一方、重点の置き方には違いがあります。

日本は全府省庁への共通基盤展開と国産LLMの育成を同時に進めています。米国は各省庁が複数モデルを試し、調達前に比較できる共有基盤としての性格が強く、英国は具体的な行政業務ごとにAIアプリを作り込んでいます。EUは欧州委員会全体の共通生成AI環境と、法案作成など個別業務のAIを並行して展開しています。

「源内」は2026年度中に政府職員約18万人へ

源内は、デジタル庁が2025年5月に全庁職員向けとして構築した生成AI利用環境です。

2026年5月からは全府省庁を対象とする大規模実証へ移りました。

デジタル庁によると、5月29日時点では約10万人の政府職員が利用可能となり、その後順次対象を広げ、2026年度中に約18万人が使える環境を整備します。

大規模実証は2027年3月までを予定し、2027年度以降の本格導入につなげる計画です。

ここで「約18万人が利用」と「約18万人が実際に日常利用している」は分ける必要があります。

公式発表で示されているのは利用可能な対象を約18万人まで広げる計画です。デジタル庁は利用開始率、月間利用率、1人当たりの実行回数などを可視化し、政府全体と府省庁別の利用状況を評価する方針を示しています。

文章作成だけではなく「行政実務AI」へ

源内には、一般的な生成AIと同じように利用できる汎用AIと、行政業務に合わせて作られた実務用AIがあります。

汎用AIでは、対話型チャット、文章作成、要約、校正、翻訳などを扱います。

一方、デジタル庁が現在力を入れているのが、行政の個別業務へAIを組み込む「高度なAIアプリケーション」です。

国会答弁作成支援AIのほか、厚生労働省との連携では、一般事業主行動計画策定届の受理、えるぼし・くるみん等の認定審査、個別労働紛争解決制度に基づく相談対応を対象にAIアプリを開発しています。

委員会運営や出張調整など、バックオフィス業務向けのAIも実証対象です。

デジタル庁が目指しているのは、職員が自由入力欄へ質問するだけの「政府版ChatGPT」ではなく、法令、官報、過去文書、業務マニュアルなどの政府データをAIが参照し、行政特有の作業を支援する仕組みです。

国会答弁作成支援AIは草案生成、更問予測、矛盾検証まで

報道で注目されたのが、国会答弁作成支援AIです。

デジタル庁の公式説明では、国会質問の内容解析、過去答弁や根拠資料の検索、答弁草案の生成、更問の予測、過去答弁などとの矛盾検証を統合的に提供する構想です。

答弁作成に必要な資料探しや過去答弁との整合確認は職員の負荷が大きく、AIによって検索と下書きを支援する狙いがあります。

ただし、「AIが国会答弁を決める」という構想ではありません。

松本デジタル大臣は2026年4月の記者会見で、源内が生成した数字や事実関係は確認が必要であり、出力をそのまま読み上げるのではなく、職員が内容を確認して大臣へ持ってくる方法や、職員が作成した答弁を源内にチェックさせる方法などを想定していると説明しました。

生成AIを国会答弁へ利用する場合、効率化と同時に、根拠資料への追跡性、ハルシネーション対策、過去答弁との整合、人間による最終責任が必要になります。

パブリックコメント分類は2025年からAI活用

今回の報道では、源内がパブリックコメントを自動分類する機能を持つと紹介されています。

デジタル庁の公式資料では、少し整理が異なります。

デジタル庁は「他府省庁の技術支援」の一環として、2025年6月からAIを使った大量のパブリックコメント・意見の分類処理を進めていると説明しています。

つまり、行政に寄せられる数千、数万件規模の意見をAIで整理する取組自体は公式に確認できますが、デジタル庁の現行の源内紹介ページでは、これを源内の汎用機能一覧ではなく、他府省庁へのAI技術支援として位置付けています。

この用途は英国政府の取組とよく似ています。

英国のHumphreyに含まれる「Consult」は、政府が募集した意見をテーマ別に分類することに特化したAIです。英国では既に実際の政策プロセスで大規模利用が始まっています。

英国Humphrey、5万件超の意見を約2時間で分類

英国政府は2025年1月、行政職員向けAI群「Humphrey」を公表しました。

Humphreyは一つのチャットAIではありません。

公開時には、政府コンサルテーションへの意見を整理する「Consult」、英議会の過去の議論を検索・分析する「Parlex」、会議を安全に文字起こしして要約する「Minute」、政策文書やブリーフィング作成を支援する「Redbox」、法令調査を支援する「Lex」が含まれていました。

日本の源内と比べると、特にConsultとParlexは用途が近いものです。

Consultは2025年、スコットランド政府による非外科的美容処置の規制に関する実際のコンサルテーションで初めて利用され、2,000件超の回答を分析しました。この初回利用では、AIが抽出したテーマを専門家が確認・修正したうえで、すべての回答について人間によるレビューも行っています。

その後、Independent Water Commissionのレビューでは5万件を超える回答を約2時間でテーマ分類し、費用は240ポンド、専門家による結果確認は22時間だったと英国政府は発表しています。

AIの分類結果は二つの専門家グループのいずれか、または双方と約83%一致しました。一方、人間の専門家グループ同士の一致率は55%でした。

この数字だけで「AIの方が人間より正確」と一般化することはできません。分類作業には主観が入り、詳細な回答については引き続き人間がレビューしています。

それでも、数万件規模の意見を最初に整理する作業について、英国では既に「実証」から実際の行政手続きでの利用へ進んでいます。

日本がパブリックコメント分類を広げる際、比較対象になりやすい事例です。

英国は「汎用チャット」から業務専用ツールへ変化

英国の動向でもう一つ注目したいのが、最初に作ったAIを固定的に全国展開しているわけではない点です。

Humphreyの一つとして紹介されたRedboxは、政策文書の要約やブリーフィング作成を行う汎用的な生成AIでした。英国政府によると、ピーク時には5,330人の職員が利用していました。

その後、Incubator for AI(I.AI)はRedboxの中央コードベースを2025年12月に終了しました。

一方、Department for Business and Trade(DBT)はRedboxをベースに独自開発を進め、「DBT Assist」へ移行しています。

DBT Assistでは、汎用チャットより、閣僚向け文書の品質確認、内部データベースからの企業情報抽出、交渉支援といった業務専用機能へ重点を移しました。

DBTは、AI生成結果から原文のページまで追跡できる引用、AI生成であることの表示、Official Sensitive情報の適切な処理などを、単なるセキュリティ機能ではなく「利用者がAIを信頼して使うための機能」と位置付けています。

政府AIは「一つのチャットを全員へ配る」だけでは十分な効果が出ず、業務ごとのデータと手順を組み込む方向へ進むことが、英国の運用からも見えます。

米国は共通基盤「USAi」で複数モデルをまとめて提供

米国では、GSAが2025年8月に「USAi」を開始しました。

USAiは、連邦政府が独自のLLMを開発するプロジェクトではありません。

政府職員が複数のAIモデルを安全な共通環境から試し、比較し、実際の業務へ導入するための共有基盤です。

GSAは開始時、チャットAI、コード生成、文書要約などを連邦職員が利用できる「secure generative AI evaluation suite」と説明し、調達前に複数AIシステムの能力や限界を比較できる環境として全連邦機関へ開放しました。

2026年7月時点でGSAはUSAiをFISMA ModerateのAIツールと説明しています。

現在のUSAiは、

  • 複数モデルを利用するChat
  • 市場のAIモデルへ共通形式で接続するAPI
  • 利用状況や活用状況を見るConsole

の3つを主要機能としています。

2025年の開始時には無料で提供されましたが、2026年8月時点では無料トライアルを終了しており、政府共通のShared Serviceとして一般提供する準備中です。料金体系も策定中としています。

日本の源内が「共通基盤+行政実務AI」の両方を一つの構想で進めているのに対し、USAiは現時点では複数の市場モデルを政府機関が安全に使い、比較し、APIで業務システムへ組み込む共通インフラとしての性格が強くなっています。

EUは「GPT@EC」を全職員へ、内部情報を外部へ渡さない

欧州委員会は2024年10月、内部向け生成AI「GPT@EC」のパイロットを開始しました。

開発したのは欧州委員会のDirectorate-General for Digital Services(DIGIT)で、Joint Research Centreが先行開発したGPT@JRCを基にしています。

GPT@ECでは文章作成、文書要約、ソフトウェアコード作成などを支援します。

一般向け生成AIとの大きな違いとして欧州委員会が挙げているのが、委員会内部の情報を外部の第三者へ共有せずに処理できることです。

さらに、一つのモデルへ固定せず、業務や情報の機微度に応じて複数のLLMを利用でき、オープンソースモデルやソブリンモデルも選択できる構成としています。

2025年10月の欧州委員会資料では、GPT@ECは全職員が利用できる内製生成AIとなっており、他の内部システムからAI機能を利用するためのAPIも提供されています。

欧州委員会は、AIシステムをリスクベースで分類して内部レジストリで管理し、AI利用・開発・調達・サイバーセキュリティのガイドライン、職員研修、AI Championsなども並行して整備しています。

EUは法案そのものの作成過程にもAI

欧州委員会では、GPT@ECとは別に「AI4DRPM(AI for Digital-Ready Policy-Making)」も運用しています。

これは法案の草案を分析し、デジタル分野との関連性を検出・分類し、各立法提案に必要となるデジタルステートメントの草案を生成するシステムです。

欧州委員会の資料では、最終出力は政策担当者が完成させ、人間側がコントロールを維持するとしています。

日本の国会答弁作成支援AI、英国のParlexや政策文書支援、EUのAI4DRPMを比べると、生成AIの行政利用は単純な文書要約から、政策立案・議会対応・法令作成を支援する領域へ入り始めています。

一方、こうした業務では「文章として自然か」より、どの資料を根拠に生成したのか、過去の決定と矛盾していないか、誰が最終判断したのかが重要になります。

「政府開発AI」は政府がLLMを一から作ることではない

日本、米国、英国、EUを比較すると、「政府開発AI」という言葉の意味を分けて考える必要があります。

現在、各政府が内製している中心部分は、

  • 政府職員がアクセスするUI
  • 認証・アクセス制御
  • 複数LLMへの接続
  • 行政データとの連携
  • 業務別のプロンプトやワークフロー
  • 根拠資料の検索
  • ログ・利用状況管理
  • AIアプリの開発・配布
  • セキュリティとガバナンス

です。

その下で文章を生成する基盤モデルまで、政府自身がゼロから学習させているとは限りません。

米USAiは市場の複数モデルへ接続する基盤です。EUのGPT@ECも複数LLMを利用します。英国のHumphreyも「政府が作った業務AIアプリ」であり、政府独自の基盤モデルを一つ作って全てを処理する構想ではありません。

日本の源内も同じです。

デジタル庁は源内の利用環境と行政アプリを内製していますが、同時に外部の複数モデルを評価し、国内企業が開発するLLMも別枠で選定しています。

そのため、「源内=日本政府が開発した国産LLM」と理解するのは正確ではありません。

日本は「国産LLM育成」を政府AI政策へ組み込む

他方、日本には米英EUとの比較で明確な独自要素があります。

政府でAIを使うことと、国内AI産業を育成することを同じガバメントAI政策の中で進めている点です。

デジタル庁は2025年12月から、源内で試用する国内LLMを公募しました。

15件の応募から7モデルを選定しており、対象はNTTデータ、カスタマークラウド、KDDI・ELYZA、ソフトバンク、NEC、富士通、Preferred Networksのモデルです。

審査では、国内開発であることだけでなく、開発経緯を説明できること、行政実務で利用できる性能、初見50問による評価、海外主要LLMとのベンチマーク、安全性、学習データの法令遵守などを確認しています。

さらに、政府職員が機密性2情報を扱えるよう、ガバメントクラウド上の推論環境で動作できることも条件としました。

試用結果が良好なモデルについては、2027年度に政府が有償調達することも検討しています。

政府自身が継続的な需要者になることで、行政からのフィードバック、性能改善、安定需要を生み、AI分野の「日本の自律性」を高めるという政策です。

この部分は、単なる業務効率化ツールとしての源内とは分けて見る必要があります。

源内はデジタル庁で「機密性2」を扱える

政府AIで最も大きな論点の一つが、どの情報まで入力できるかです。

一般公開型の生成AIへ行政内部の機密情報を入力すれば、データの保存先、モデル学習への利用、国外移転、事業者側の管理権限などが問題になります。

デジタル庁は源内について、政府統一基準に準拠したセキュリティ環境を構築し、デジタル庁では「機密性2情報」を含むプロンプト入力に対応していると説明しています。

また、ガバメントソリューションサービス(GSS)を使ったポータルからシングルサインオンできる構成です。

源内の価値は、ChatGPTに似た画面を政府が作ったことより、行政データを一定の管理基準の下でAIへ渡せる「境界」を政府側で作ったことにあります。

セキュリティ対策Labでは、政府が高機密情報をクラウドやAIで扱うための次の基盤として検討している「高機密ソブリンクラウド」と米英の機密クラウド戦略も整理しています。

源内が扱う機密性2と、さらに高い機密情報を扱う将来のクラウド基盤は分けて考える必要がありますが、生成AIの業務利用が進むほど「どのデータを、どの管理境界の中で、どのモデルへ渡せるのか」が重要になります。

シャドーAIの問題

日本政府は2025年、中国企業DeepSeekの生成AIについて、政府機関で利用する際には提供者へのデータ保存や適用法令などを十分確認し、機密情報を扱う場合には政府の生成AI利用ルールに基づく必要があるとして各府省庁へ注意を促しました。

セキュリティ対策Labでも「省庁でのDeepSeekの利用を控えるよう、平デジタル大臣が注意喚起」で当時の対応を取り上げています。

生成AI利用を「禁止・制限する」だけでは、職員が業務効率化のために非承認サービスを使うShadow AIの問題も残ります。

源内、USAi、Humphrey、GPT@ECはいずれも、安全に使える政府管理環境を先に用意し、その中でAI利用を広げようとするアプローチです。

各国に共通する5つの設計

4地域の取組を比較すると、政府AIには共通する設計が見えてきます。

第一は、一般向けAIと行政情報の間に政府管理の利用環境を置くことです。

第二は、特定のLLMだけに固定せず、複数モデルを用途に応じて使えるようにすることです。モデル性能や価格、提供条件が急速に変化するため、基盤とモデルを分離する意味があります。

第三は、汎用チャットから行政専用アプリへ進むことです。

日本は国会答弁、法制度調査、申請審査など、英国は政府コンサルテーション、議会調査、法務、政策文書、EUは法案分析へ対象を広げています。

第四は、人間による最終確認を残すことです。

英国ConsultではAIが分類した後に専門家が検証し、初回実運用では全回答を人間も確認しました。EUのAI4DRPMでも政策担当者が最終出力を完成させます。日本の国会答弁支援についても、デジタル大臣は事実関係を職員が確認し、AI出力をそのまま読み上げるものではないと説明しています。

第五は、利用状況や効果を計測することです。

日本は月間利用率や実行回数を可視化する方針で、米USAiには利用状況を追跡するConsoleがあります。英国も人手との処理時間や一致率を測定しています。

「AIを配布した職員数」だけでは、行政効率化や政策品質への効果は測れません。

政府AIが企業のAI導入にも示すもの

源内は政府向けのシステムですが、その設計は企業の生成AI導入にも参考になります。

企業でも、従業員が各自で生成AIサービスを契約する状態から、会社が管理する共通AIゲートウェイや生成AI環境へ移る動きが進んでいます。

そこで必要になるのは、単にチャット機能を用意することではありません。

どのデータ分類なら入力できるのか、どのAIモデルへ送信するのか、モデル提供者がデータをどう扱うのか、ログをどこまで保存するのか、誰が高リスク用途を承認するのか、AI生成結果の根拠を追跡できるか、といったガバナンスが必要です。

セキュリティ対策Labの「AIガバナンスとは?定義・必要な理由・実装の考え方を解説」では、AIの利用・調達・開発について、誰が判断し、どのリスクをどう管理するかを整理しています。

政府AIの先行事例を見ると、生成AIの本格導入では「安全なチャットを一つ契約する」だけでは終わらず、データ、認証、モデル選択、専用アプリ、人によるレビュー、利用状況の評価まで一つの運用として設計する必要があります。

情報システム・AIガバナンス担当者への示唆

源内、USAi、Humphrey、GPT@ECに共通するのは、生成AIそのものより「AIをどう組織の管理下に置くか」に投資している点です。

企業で同様の環境を整える場合、まず生成AIへ入力できる情報をデータ分類ごとに決める必要があります。

次に、一般業務向けのAIと、機密情報を扱うAIの環境を分けます。モデル提供事業者、推論環境、保存場所、ログ、管理者権限も確認対象です。

複数モデルを採用する場合は、職員や社員が自由に選ぶだけではなく、業務ごとに適切なモデルを割り当て、モデルが変更された場合に品質や安全性を再評価できる運用が必要です。

行政や企業固有のデータを使うAIでは、回答そのものより根拠への追跡性も重要になります。

英国DBT Assistがページ単位の引用を重視し、日本の国会答弁支援AIが過去答弁・根拠資料の検索と矛盾検証を組み込むのは、このためです。

そして、AIを使った最終成果物について誰が責任を持つかを明確にします。

国会答弁、政策文書、法案、審査、顧客向け回答のように影響が大きい業務では、AIが草案を作成しても、最終判断まで自動化するとは限りません。

各国の政府AIは、AIを「人を置き換える独立した意思決定者」としてではなく、政府が管理するデータと手順の中で職員を支援する共通インフラとして実装しています。

2027年度の本格導入を目指す源内でも、今後見るべき数字は約18万人という配布規模だけではありません。

実際にどれだけ利用されたのか、どの行政業務で時間が短縮されたのか、回答品質は維持・向上したのか、誤った出力を人がどこで止めたのか、国産LLMが海外主要モデルと比べて行政実務でどの程度使えるのか。

大規模実証で得られるこれらの結果が、日本のガバメントAIを単なる「政府版生成AI」から行政インフラへ移行できるかを判断する材料になります。

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