米軍、AIの標的選定ミスでイランの小学校を攻撃-米国防総省が調査

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米軍、AIの標的選定ミスでイランの小学校を攻撃-米国防総省が調査

2026年2月28日、米軍の巡航ミサイル2発がイラン南部ミナブ(Minab)のShajareh Tayyebeh小学校とその敷地に着弾し、150人超が死亡しました。Bloombergは9月18日、米国防総省の内部調査に直接関与する当局者らへの取材を基に、死者のうち少なくとも123人が子どもだったと報じました。

Bloombergによると、内部調査では単一の原因ではなく、更新されていない軍事目標データ、古い情報、攻撃計画を短時間で処理する運用、Palantir TechnologiesのAI対応システム「Maven Smart System」への過度な期待、民間人被害を抑える専門体制の縮小が重なったとされています。

一方、国防総省は調査結果をまだ公表しておらず、米政府は9月22日時点でミナブの学校攻撃に対する米軍の責任を正式には認めていません。Pentagonの広報担当者はBloombergに対し、事案は引き続き調査中として詳細なコメントを控えています。

国連のIndependent International Fact-Finding Mission on Iranは9月17日、ミナブの学校と同日に攻撃されたLamerdのスポーツ施設について、米国による攻撃だったと信じる合理的根拠があり、戦争犯罪に当たると信じる合理的根拠もあるとの判断を示しました。米政府は国連側の評価を受け入れていません。

ミナブ小学校攻撃と米国防総省調査のサマリー

確認できている内容:

  • 米中央軍(CENTCOM)は2026年2月28日、イランに対する「Operation Epic Fury」を開始しました。
  • CENTCOMの公式資料では、作戦開始時刻は米東部時間2月28日午前1時15分です。
  • Bloombergによると、同日、Tomahawk巡航ミサイル2発がShajareh Tayyebeh小学校の建物と敷地に着弾しました。
  • Bloombergは150人超が死亡し、少なくとも123人が子どもだったと報じています。
  • 国連調査団は、学校攻撃で150人超、うち約120人の子どもが死亡したとしています。
  • 米国防総省は3月から内部調査を実施していますが、9月22日時点で報告書は公表されていません。
  • Bloombergは、内部調査に関与した当局者らの話として、古い標的情報、AIへの過度な依存、民間人被害対策体制の縮小など複数の要因を報じています。
  • 標的データベースでは学校の場所が旧来のIRGC関連施設として登録されたままだったとされています。
  • Bloombergによると、PalantirのMaven Smart Systemはこのデータを含む情報を処理し、同地点が初日の攻撃候補に含まれました。
  • PalantirはBloombergに対し、基礎となる情報の正確性や情報上の欠陥を発見することは同社の責任ではなく、Maven自体に不具合があった証拠はないと説明しています。
  • 国連調査団は9月17日、米国が学校を軍事目標と確認するために実行可能な措置を尽くさなかったとの見解を示しました。

現時点で確定していない内容:

  • 米国防総省の内部調査の最終結論
  • 調査報告書が全文公開されるか
  • Mavenのソフトウェア不具合が存在したとの事実
  • AIが独立して攻撃を決定したとの事実
  • 個々の担当者や指揮官の責任
  • 米政府による学校攻撃への正式な責任認定
  • 最終的な死者数
項目 内容
攻撃日 2026年2月28日
場所 イラン・Hormozgan州Minab
対象 Shajareh Tayyebeh小学校
使用兵器 Tomahawk巡航ミサイル2発とBloombergが報道
死者 150人超
子どもの死者 Bloombergは少なくとも123人、国連は約120人
米軍作戦 Operation Epic Fury
調査 米国防総省が3月から内部調査
調査報告書 未公表
AIシステム Palantir Maven Smart System
Bloombergが報じた主な要因 古い情報、AIへの過度な期待、審査時間の圧縮、民間人被害対策体制の縮小
Palantirの立場 Maven自体の不具合を示す証拠はないと説明
国連評価 米国による攻撃・戦争犯罪と信じる合理的根拠があると判断
米政府 責任を正式には認めていない

標的データベースでは学校が旧IRGC施設のまま残っていた

Bloombergの調査で中心的な問題として挙げられたのが、標的情報の更新不足です。

同校は、もともとイラン革命防衛隊(IRGC)の施設を含む土地の一部に建てられていました。このため、米軍が使用する主要な情報データベースでは、攻撃前まで同地点がIRGC関連施設として分類されていたとされています。

しかしBloombergが商用衛星画像を分析したところ、学校部分と軍関連施設を分離する壁や出入口の建設は2017年頃までに進んでいました。

2018年の衛星画像では、

  • 明るく塗装された壁
  • サッカー場のライン
  • 児童が整列するための区画
  • 遊び場のマーキング

など、学校として使用されていることを示す外観上の変化が確認できたとしています。

さらに学校はWebサイトを運営し、Google Mapsにも学校として掲載されていました。

つまり、軍事施設として登録された古いデータと、現実の施設利用との間に長期間のずれが生じていました。

2019年には米情報分析官が施設の変化を把握していたと報道

情報更新の機会が全くなかったわけでもありません。

Bloombergは、米情報機関の分析官が2019年には施設の変化を把握していたと報じています。

分析官は変更点を記録したものの、その情報は軍の主要な標的情報データベースとは接続されていない別システムに保存されたとされています。

その結果、攻撃計画時に参照された主要データでは、学校の場所が従来の軍事施設分類のまま残っていました。

この経緯が事実であれば、問題はAIによる画像識別だけではなく、

  • 情報を更新する仕組み
  • 複数データベースの連携
  • 古い情報を失効させる手続き
  • 標的決定前の再検証

という情報管理プロセス全体にあります。





Maven Smart Systemが大量の情報を統合、標的候補の処理時間を短縮

Bloombergは、CENTCOMの一部担当者がPalantirのMaven Smart Systemに過度に依存していたと報じています。

Mavenは、衛星画像、映像、センサー、位置情報など異なるデータを統合し、軍の状況把握や指揮統制、標的に関する分析を支援するシステムです。

米国防総省は2024年5月、Palantir USGとMaven Smart Systemプロトタイプについて最大4億8,000万ドルの契約を締結しました。

2025年5月には、ソフトウェアライセンスについて7億9,500万ドルの追加契約を公表しています。

Bloombergによると、Mavenは150種類を超えるデータ入力を統合し、作戦担当者へ提示します。

過去の軍事作戦では数時間を要することがあった標的候補リストの整理が、対イラン作戦ではMavenを使うことで数分程度に短縮されたケースがあったと、内部調査に関係する当局者らが説明しています。

関連:自衛隊、指揮統制へのAI活用を検討 パランティアとMaven Smart System、ウクライナ・中国の動向を解説

「AIが学校を軍事施設と誤認した」だけではない

今回の問題を「AIが学校を軍事施設と誤認して攻撃した」と単純化するのは正確ではありません。

Bloombergが報じた内部調査では、Mavenへ入力された主要データの段階で、対象地点がIRGC関連施設として分類されたままでした。

一部のCENTCOM担当者は、Mavenが入力情報の古さや矛盾を自動的に検知すると期待していたとされています。

しかし、なぜそのような期待を持っていたのかは明らかになっていません。

PalantirはBloombergに対し、同社は「underlying data(基礎データ)」や情報上の欠陥を特定する責任を負っておらず、Mavenのソフトウェア自体が攻撃の原因になった証拠はないと説明しています。

つまり、現時点で確認できるのは、

「AIが誤った答えを生成した」

という単純な構造ではなく、

「古い軍事情報をAI対応システムへ入力し、人間側がシステムに想定以上の検証能力を期待した可能性がある」

という構造です。

攻撃後、Mavenに情報を再検証する機能を追加とBloomberg報道

Bloombergによると、ミナブの攻撃後、PalantirはMavenに情報を再検証する機能を追加しました。

新たな機能では、標的の基礎情報を再確認し、

  • 標的から除外すべき情報
  • データ間の矛盾
  • 不正確な情報

などを検出し、人間による確認で見落とされる可能性のある問題を表示するとされています。

この機能追加についてはBloombergがPalantir関係者の話として報じたもので、今回の内部調査報告書が公表されていないため、Pentagonの正式な是正措置として確認されたものではありません。

1日で1,000超の標的、判断速度が大幅に上昇

CENTCOMはOperation Epic Furyについて、2月28日に作戦を開始し、最初の7日間で3,000を超える標的を攻撃したと公式発表しています。

Bloombergによると、トランプ政権は作戦開始時に圧倒的な規模の航空攻撃を要求し、最初の24時間だけで1,000を超えるイラン国内の標的が攻撃されました。

この作戦テンポによって、標的情報を更新し、施設の現状を確認し、民間人への影響を評価する時間は圧縮されたと内部調査関係者は説明しています。

AI・データ統合システムによって標的処理能力が増えた場合でも、人間による確認作業や情報更新の能力が同じ速度で増えなければ、確認工程がボトルネックになります。

ミナブ事案は、意思決定速度を上げるシステムと、誤った入力を止める検証機能を別々に設計する必要性を示す事例です。





民間人被害対策チームは10人から1人へ縮小とBloomberg報道

もう一つの論点が、民間人被害を抑えるための組織体制です。

Bloombergによると、PentagonではCivilian Harm Mitigation(CHM)を担当する部門の人員が約90%削減され、20人未満になっていました。

CENTCOMのCHMチームは10人から1人へ縮小されていたとしています。

内部調査に関係した当局者によると、ミナブの標的については、攻撃前にCHM担当者によるレビューが行われませんでした。

この人員削減とミナブ攻撃の因果関係について、国防総省は公式な調査結果を公表していません。したがって、削減が直接の原因だったと断定することはできません。

一方、米国防総省は2022年にCivilian Harm Mitigation and Response Action Planを策定し、民間人保護のため、

  • 民間環境に関する情報の充実
  • 攻撃前後の民間被害評価
  • 報告・データ管理の標準化
  • 専門組織の整備
  • 教育・演習への組み込み

を進める方針を示していました。

現在も国防総省の公式ページにはDoD Instruction 3000.17など民間人被害軽減の政策が掲載されています。

米国防総省監察総監も2026年5月に民間被害対策の改善を要求

ミナブ攻撃後の2026年5月、米国防総省監察総監は「Civilian Harm Mitigation and Response Action Plan」の実施状況に関する評価報告書を公表しました。

報告書では、過去の民間人被害から得られた教訓を各Combatant Commandへ迅速に反映するため、Joint StaffとCivilian Protection Center of Excellenceが、

  • Positive Identificationに関する方針
  • Strike Cellの手順
  • 認知バイアスを軽減する訓練

などの共通ガイダンスを提供するよう勧告しています。

この監察報告はミナブ学校攻撃そのものの調査報告ではありません。

ただし、標的確認、攻撃手順、認知バイアスなど、今回Bloombergが報じた問題と重なる論点が国防総省内部でも改善対象となっていました。

国連調査団「軍事目標か確認する義務を果たさなかった」

国連のIndependent International Fact-Finding Mission on Iranは9月17日、ミナブの学校攻撃について調査結果を公表しました。

国連調査団は、米国が同校を攻撃したと信じる「reasonable grounds(合理的根拠)」があると判断しています。

さらに、民間施設であることが外見上明らかな学校を軍事目標として攻撃する際、米国が「実行可能なあらゆる措置を講じて軍事目標であることを確認する」という国際人道法上の義務を果たさなかったとの見解を示しました。

同調査団は、同日にFars州Lamerdのスポーツ施設・住宅地域を攻撃した事案も調査しています。

両攻撃について、米国が戦争犯罪を行ったと信じる合理的根拠があるとしています。

これは国際刑事裁判所などの司法判断ではなく、国連人権理事会が設置した独立調査団による事実認定です。

米政府はこの評価に反論し、国連人権理事会および調査団の姿勢を批判しています。

米政府は学校攻撃への責任を正式には認めていない

Bloombergの報道では、米国防総省内部では攻撃後数時間以内に米軍が関与したことを把握した関係者がいたとされています。

しかし、米政府は9月22日時点でミナブの学校攻撃に対する責任を公式には認めていません。

Pentagonは内部調査が継続中としており、報告書も公表していません。

Bloombergへの回答で米政権高官は「米国は民間人を標的にしない」と述べています。

したがって、

  • Bloombergが内部調査関係者から確認した内容
  • 国連調査団の評価
  • 米政府の公式な立場

は区別して扱う必要があります。

AI軍事利用で問われるのは「Human in the Loop」だけではない

軍事AIをめぐる議論では、「最終的な攻撃判断を人間が行うか」が中心になりがちです。

今回の事案では、Bloombergの報道が正しければ、人間が意思決定の過程に存在していても、古い情報やAIシステムに対する誤った期待が判断へ影響する可能性が示されました。

企業のAIエージェントや自動化でも構造は共通します。

AIが最終決裁者でなくても、

  1. 古いデータが入力される
  2. AIが高速に候補を絞り込む
  3. 人間がAIの結果を正しいと仮定する
  4. 確認時間が短縮される
  5. エラーを止める独立レビューが存在しない

という条件が重なると、Human in the Loopが形式的な承認作業になる可能性があります。

AIシステムでは、最終承認者を人間にするだけでなく、

  • データの更新日時
  • データソース
  • 不確実性
  • 矛盾する情報
  • 自動化対象外の条件
  • 独立したセカンドチェック

を設計する必要があります。

自衛隊もMaven Smart Systemを含むAI指揮統制を検討

日本でもMaven Smart Systemは無関係ではありません。

2026年8月、共同通信は防衛省が自衛隊の指揮統制へのAI導入を検討し、候補の一つとしてPalantirのMaven Smart Systemが挙がっていると報じました。

一方、防衛省・自衛隊は特定製品の導入を決定したとは公表しておらず、国産技術を含む複数の選択肢を検討しています。

統合幕僚長も、AIを活用する場合でも最終的な判断と責任は人間が担うとの方針を示しています。

関連:自衛隊、指揮統制へのAI活用を検討 パランティアとMaven Smart System、ウクライナ・中国の動向を解説

今回のミナブ事案は、日本で軍事AIを検討する際にも、

  • AIへ入力する情報の鮮度を誰が保証するか
  • 異なる情報システム間で更新情報を同期できるか
  • AIが検証する範囲と検証しない範囲を利用者が理解しているか
  • 処理速度の向上に合わせて人間のレビュー要員を確保できるか
  • 民間施設や非戦闘員に関する情報を独立して確認する仕組みがあるか

という論点を確認する材料になります。

米国の対イラン作戦におけるサイバー・宇宙領域の利用については、以下の記事でも整理しています。

関連:米国の対イラン作戦でサイバー領域が先行―作戦開始前に通信・センサー網を攪乱

情報システム部門・AIガバナンス担当者への示唆

今回の事案は軍事利用ですが、高リスクAIを企業で運用する場合にも確認できる点があります。

  • AIへ入力するマスターデータの更新責任者を明確にしているか
  • 古いデータを自動的に失効・警告する仕組みがあるか
  • AIが「確認してくれるはず」という機能外の期待が現場にないか
  • AIの出力根拠となったデータソースと更新日時を表示できるか
  • 複数システムで矛盾する情報がある場合に処理を停止できるか
  • AIで処理速度が上がった結果、人間のレビュー時間を過度に短縮していないか
  • 高リスク判断にはAI処理と独立した第二のレビューを設けているか
  • ベンダーと利用企業の責任分界を契約・運用の双方で明確にしているか
  • AI導入後に発生した事故からガードレールを更新する手順があるか
  • AIが正常動作していても誤った入力から誤判断が生じることをインシデントシナリオへ含めているか

今回のPentagon内部調査で最大の確認点となるのは、AIそのものの不具合ではなく、AIを含む意思決定システム全体のどこで誤った情報を止められなかったのかです。

国防総省の正式な調査報告書が公開されれば、Mavenの役割、標的審査、人員体制、責任分界について追加の検証が必要になります。

出典