Linuxカーネルに6件の脆弱性「Infinity Core」、5件でroot権限昇格・コンテナ脱出のPoC公開(CVE-2026-98260,CVE-2026-98256)他

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セキュリティ研究者のHyunwoo Kim氏は2026年10月17日、Linuxカーネルの中核機能に存在する6件の脆弱性を「Infinity Core」として公開しました。タイマー、シグナル、メモリ管理、Futex、スケジューラー、SLABの各処理に関係する問題で、うち5件について、一般ユーザー権限からroot権限を取得する概念実証(PoC)が公開されています。残る1件では、カーネルパニックを引き起こす実証コードが公開されました。

脆弱性はコンテナを実行するLinuxホストにも影響する可能性があり、クラウド基盤やKubernetesのノード、複数ユーザーが利用するサーバーでは修正状況の確認が必要です。ただし、いずれもインターネット経由の未認証リモートコード実行を直接可能にする問題ではなく、悪用にはローカルでコードを実行できる状態などの前提条件があります。

Infinity Coreの脆弱性サマリー

  • 研究者Hyunwoo Kim氏が2026年10月17日、情報公開の猶予期間(エンバーゴ)終了後に「oss-security」へ6件を報告しました。
  • 6件のうち5件はローカル権限昇格(LPE)や、条件次第でコンテナからホストへの権限昇格につながります。
  • 残るCVE-2026-97941では、SLABメモリアロケーターの不整合によるカーネルパニックが実証されています。
  • CVE-2026-98260はSamsung Galaxy S26 Ultraでも、通常アプリの実行環境からroot権限を取得できると研究者が報告しています。Android向けの実証コード自体は公開を保留しています。
  • Linux向けのPoCと技術的な説明は研究者本人のGitHubで公開されています。
  • 対象となるカーネルの系列、必要な構成条件、修正済みバージョンは脆弱性ごとに異なります。
  • Linuxカーネル開発側は修正を取り込んだ安定版への更新を推奨しています。
  • 2026年10月21日時点で、本脆弱性群を用いた実際の攻撃について、確認された事例を示す一次情報は得られていません。PoC公開と実悪用確認は別です。
CVE 対象の機能 研究者による実証結果 主な修正済み上流カーネル系列
CVE-2026-98260 Timer/POSIX CPUタイマー root権限昇格、コンテナ脱出、Android権限昇格 6.6.158、6.12.112、6.18.54、7.2.8
CVE-2026-98256 Signal/シグナルキュー root権限昇格、コンテナ脱出 6.18.54、7.2.8
CVE-2026-89754 MM/ページテーブル走査 root権限昇格、コンテナ脱出 6.18.50、7.2.4
CVE-2026-80775 Futex/排他制御 root権限昇格、コンテナ脱出 6.18.47、7.1.11、7.2.1
CVE-2026-98385 Scheduler/スケジューラーキャッシュ 特定構成でroot権限昇格、コンテナ脱出 7.2.9
CVE-2026-97941 SLAB/SLUBメモリ割り当て カーネルパニック(権限昇格の連鎖は未実証) 7.2.7

※上表は上流Linuxカーネルの安定版における主な修正バージョンです。全系列を網羅するものではありません。ディストリビューション独自の修正バックポートや構成条件によって影響判定は異なります。

タイマー・シグナル・メモリ管理など中核処理の競合状態を悪用

今回の6件は、Linuxカーネルのメモリ安全性や処理の競合状態に起因しています。研究者によると、ネットワーク機能やBPF、ユーザー名前空間を必要とする既知の攻撃面を利用せずに引き起こせる点が特徴です。

CVE-2026-98260は、マルチスレッドのプロセスでexec()に失敗した際、POSIX CPUタイマーに関連するメモリ解放と後続処理が適切に整合しない問題です。解放済みメモリを再度参照するUse-After-Freeにつながり、研究者はUbuntu 26.04の特定環境で一般ユーザーからroot権限へ昇格するPoCを公開しました。Linuxカーネルの公式CVE告知によると、問題の処理はカーネル5.7で導入され、その後複数の安定版系列で修正されています。

CVE-2026-98256もexec()とシグナルキュー処理の競合によるUse-After-Freeです。CVE-2026-89754では、ページテーブルの走査処理が再試行状態を正しく処理せず、mincore()の結果バッファを超えた書き込みが発生します。CVE-2026-80775はFutexの内部管理情報の初期化時に競合が生じる問題です。

CVE-2026-98385はスケジューラーのキャッシュ統計に関するUse-After-Freeで、CONFIG_SCHED_CACHEが有効であることに加え、実行時の設定やCPUキャッシュ構成などの条件が必要です。このため、すべてのLinux環境に同じように影響するわけではありません。

一方、CVE-2026-97941はSLABメモリ割り当て処理でリスト構造が破損する問題です。公開されたPoCはカーネルパニックを引き起こしますが、研究者は現時点でroot権限昇格の攻撃連鎖を実装していません。

コンテナを使うサーバーで問題となる理由

コンテナは通常、ホストとLinuxカーネルを共有しています。そのため、コンテナ内でコードを実行できる攻撃者が、カーネルのローカル権限昇格の脆弱性を悪用すると、コンテナの隔離境界を越えてホストへ影響を及ぼす可能性があります。

研究者は5件についてコンテナ脱出につながるPoCを示しています。ただし、攻撃の成立可否はカーネルのバージョン、システムコールの制限、コンテナの権限、各機能の有効化状態などに左右されます。「コンテナを利用していれば必ず脱出できる」という意味ではありません。

また、今回の脆弱性は最初の侵入そのものを保証するものではありません。Webアプリケーションなどを通じて攻撃者がすでにコードを実行できる状態や、共有サーバーで一般ユーザーの実行権限を持っている状態から、さらに高い権限を得る二段階目の攻撃として評価する必要があります。

Galaxy S26 Ultraでも権限昇格を実証、Android向けPoCは公開保留

特にCVE-2026-98260について、研究者はSamsung Galaxy S26 Ultraの一般アプリ用サンドボックス(untrusted_app)からroot権限を取得できたと報告しました。対象とした端末のソフトウェアビルドも研究資料で明示されています。

ただし、Android向けの攻撃コードについては、Samsungによる修正などが行われるまで公開しない方針としており、公開されているのはコードのハッシュ値です。Linuxサーバー向けPoCが公開された事実と、Android向け攻撃コードの公開状況は区別する必要があります。

Linux管理者が確認すべき修正状況と初動対応

対応では、まず共有ホスト、Kubernetesワーカーノード、CI/CDのビルドサーバー、複数ユーザーがログインできるLinuxサーバーなどを優先し、稼働中のカーネルと配布元のセキュリティ情報を照合します。

上流の修正済みバージョンは単一ではありません。Linuxカーネルの公式告知では、例えばCVE-2026-98260は6.6.158、6.12.112、6.18.54、7.2.8などで修正されていますが、Ubuntu、Debian、Red Hat系などでは修正が旧バージョン番号のパッケージへバックポートされる場合があります。uname -rの数字だけで安全性を判断せず、ベンダーのアドバイザリとパッケージのリビジョンを確認してください。

修正済みカーネルを導入した後も、再起動せず古いカーネルで稼働していれば対策は完了しません。停止可能時間を確保して再起動し、実際に起動したカーネルのバージョンと修正適用状態を確認します。

更新まで時間を要する場合は、信頼できないコードを実行するワークロードの配置を見直し、共有ホストへのアクセスを必要最小限に制限します。seccomp、LSM、コンテナの権限抑制などは被害軽減に役立つ可能性がありますが、今回の6件すべてを遮断できると確認された対策ではなく、修正の代替にはなりません。

なお、研究者は従来BPFやユーザー名前空間などへの制限で対処されることの多い攻撃面を今回の研究対象から除外しています。このため、それらを無効化している環境でも安全とは判断できません。

同じ研究者が「Dirty Frag」も報告

Hyunwoo Kim氏は、2026年5月に公表されたLinuxカーネルの脆弱性「Dirty Frag」の研究者としても知られています。セキュリティ対策Labでは、Dirty Fragによるroot権限取得の研究を取り上げています。

さらに、2026年9月には、今回とは別のLinuxカーネルの3件の脆弱性が、実際の悪用を確認されたものとしてCISAのKEVカタログに追加されています。これらについてはLinuxカーネルの3件の脆弱性に関する既報で紹介しています。今回のInfinity Coreの公開PoCと、9月にKEVへ追加された別件の実悪用確認を混同しないことが必要です。

出典