福岡県警は2026年7月22日、日本製鉄(本社:東京都千代田区)の取引先への架空発注を繰り返し、代金をだまし取ったとして元社員2人と取引先会社社長の計3人を詐欺容疑で逮捕しました。逮捕容疑となったのは2024年5月の計6回の架空発注で約420万円をだまし取った疑いですが、捜査関係者によると架空発注は2015年ごろから始まったとみられており、約10年間の被害総額は3億円を超えるとみられています。元社員2人は取引先社長から現金・接待・現金チャージICカードなど合わせて数千万円規模の見返りを受けていたとされており、県警が全容の解明を進めています。翌23日には福岡県警が取引先会社「東光」に家宅捜索に入りました。
サマリー
- 2026年7月22日、福岡県警が元日本製鉄社員2人と取引先社長・計3人を詐欺容疑で逮捕
- 立件容疑は2024年5月の6回分・約420万円の架空発注だが、架空発注は2015年ごろから約10年間続いたとみられる
- 被害総額は3億円超と推定
- 元社員2人は現金・接待・現金チャージICカードなど数千万円規模のキックバックを受けていたとみられる
- 年間必要量の25倍超(多い年は6000本超)の潤滑剤が架空発注されていた
- 2025年2月に日本製鉄が「架空発注で相当な被害が出ている」と警察に相談し発覚
- 日本製鉄は「社員教育を再徹底し、再発防止に努める」とコメント
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 逮捕日 | 2026年7月22日 |
| 逮捕機関 | 福岡県警 |
| 容疑 | 詐欺 |
| 被害企業 | 日本製鉄(九州製鉄所が関連拠点) |
| 不正開始時期 | 2015年ごろ(推定) |
| 架空発注品目 | 製鉄機械用潤滑剤 |
| 立件金額 | 約420万円(2024年5月6回分) |
| 推定被害総額 | 3億円超(約10年間) |
| キックバック | 現金・接待・現金チャージICカード等、数千万円規模(推定) |
| 発覚経緯 | 2025年2月に日本製鉄が警察へ相談 |
| 家宅捜索 | 2026年7月23日、東光(北九州市)に実施 |
目次
何が起きたか
2026年7月22日、福岡県警は設備機器会社「東光」(北九州市八幡西区)の社長・山崎純一容疑者(80)と、日本製鉄の元社員・大津隆吉容疑者(51)、満石隆之容疑者(44)の計3人を詐欺容疑で逮捕しました。いずれも兵庫県加古川市に在住の大津・満石両容疑者は、日本製鉄で製鉄関連資材の発注業務を担当していた元社員です。
逮捕容疑として立件されたのは、2024年5月7日から23日にかけての計6回分です。3人は共謀し、製鉄機械に使用する潤滑剤の発注・納品を架空で行い、日本製鉄から代金として計約420万円をだまし取った疑いが持たれています。3人の認否は明らかにされていません。
翌23日には福岡県警が「東光」に家宅捜索に入りました。
架空発注は約10年間、多い年は年間6000本超
今回立件された2024年5月の420万円という金額は、捜査が解明しようとしている全体像の一部に過ぎません。捜査関係者によると、架空発注は2015年ごろから始まったとみられており、約10年間の被害総額は3億円を超えると推定されています。
架空発注の規模を示す具体的な数字があります。その設備に年間で必要な潤滑剤は240本であったところ、多い年には6000本を超える架空発注が行われていたとされています。年間適正量のおよそ25倍以上が架空で計上されていた計算になります。これだけの数量差があれば在庫や納品記録との突合で検知できるはずとも思えますが、発注担当者自身が不正の実行者であったため、内部の照合プロセスが機能しなかったとみられます。
数千万円規模のキックバック――現金・接待・ICカードを多様に活用
元社員2人は山崎容疑者から多様な方法で見返りを受け取っていたとみられています。現金、接待、そして現金がチャージされたICカードを組み合わせて合計数千万円規模のキックバックを得ていたとされています。だまし取った金は遊興費などに使ったとみて警察が調べています。
ICカードへの現金チャージという手段が使われていた点は、現金や振り込みと比べて記録が残りにくいという特性を意識した可能性があります。このような多様な方法でのキックバックは、金銭授受の追跡を困難にする意図があったと考えられます。
発覚の経緯――日本製鉄が2025年2月に警察相談
事件が表面化したのは2025年2月、日本製鉄が「架空発注で相当な被害が出ている」と福岡県警に相談したことがきっかけです。約10年間にわたって継続していた不正が、どのような経緯で内部に把握されたかは現時点で明らかにされていませんが、この相談を受けて県警が捜査を開始し、逮捕に至るまで約1年半を要しています。
日本製鉄は今回の逮捕を受けて「社員教育を再徹底し、再発防止に努める」とコメントしています。
調達業務担当者の単独権限という構造的リスク
今回の事案でサーバーサイドエンジニア・ネットワークエンジニアとして複数の組織のシステム運用を経験した立場から見てまず気になるのは、発注担当者が単独で取引先への発注を完結させられる業務設計になっていたという点です。
架空発注を実行するには、実際には届かない商品の発注書を起票し、納品書を偽装し、代金の支払いを通す必要があります。これらを単一の担当者が承認なく完結できる環境は、内部不正の温床になりやすい構造です。消耗品・消耗材の調達は製造現場に密接した業務であり、担当者が長年にわたって特定の取引先との関係を深め、他の部門や管理職が実態を把握しにくい状況になりやすいという現場的な感覚は、ネットワーク・インフラを日常的に扱う業務でも同様に感じる部分です。
三方向の突合——発注記録・納品記録・支払い記録を独立した部門が定期的に照合する仕組み——があれば、年間適正量の25倍を超える発注が10年間気づかれずに続くことはなかったはずです。神商鉄鋼販売でも約5年間で25回の架空発注が行われた事案がありましたが、発注業務に対するチェック機能の欠如という点で共通の構造を持っています。
取引先との長期関係がリスクを隠蔽する
もう一つの重要な視点は、取引先との関係性の問題です。東光は日本製鉄に消耗品を長年供給してきた取引先であり、そのような長期的な信頼関係が不正の継続を可能にした側面があります。担当者が特定の取引先と深く結びつき、発注・検収・支払いの全工程に関与できる状態は、調達不正の典型的なリスク構造です。
ガンホー元システム本部長の架空発注事案でも同様に、担当部門の幹部が取引先への発注を管理する立場を悪用したケースが見られます。発注者と取引先の間に形成される長期的な依存関係を制度的に断ち切るためには、担当者のローテーション、発注先の定期的な見直し、そして複数承認制の徹底が有効です。
架空発注を防ぐ観点から情報システム部門が取り組める具体的な施策として、発注数量の過去実績・適正水準との自動照合アラート機能の実装があります。年間適正量の25倍という今回の規模の乖離は、システム的なアラートがあれば早期に検知できたはずです。また、経費精算・発注・支払い承認を分離した権限設計と、独立した内部監査によるサンプリングチェックを組み合わせることが、こうした長期的な内部不正の抑止に実効性を持ちます。








