米OpenAIは2026年8月3日、Appleから営業秘密の不正取得等で提訴されている件について、自社ブログで詳細な反論を公開しました。Appleが訴状で主張していた「2026年2月に懸念を伝えたが返答がなかった」という経緯について、実際にはApple側の外部弁護士が人違いでメールを送っていたことを示すメールのやり取りを公開したほか、被告の1人であるChang Liu氏が退社後にApple社内ネットワークへアクセスしたとされる疑惑についても、実際にはApple側の従業員がLiu氏に手伝いを依頼していたことを示すiMessageのやり取りを公開しています。当サイトでは2026年7月13日の提訴時点の記事に続き、今回の反論内容と、これまでの経緯を時系列で整理します。
この記事のサマリー
- OpenAIは2026年8月3日、Appleの提訴に対する反論をブログで公開し、メールやメッセージのやり取りを証拠として開示しました。
- Appleは訴状で、2026年2月にOpenAIへ懸念を伝えたが返答がなかったと主張していましたが、OpenAIが公開したメールでは、Appleの外部弁護士が二つの似た中国系の姓を混同し、本来連絡すべき相手とは別の人物(OpenAIの法務顧問Che Chang氏)に誤ってメールを送っていたことが示されています。
- OpenAIによれば、Appleの外部弁護士および社内弁護士は、この誤送信を認めたうえで「問題を解決している最中」と伝えており、その後5カ月間音沙汰がないまま今回の提訴に至ったとしています。
- 被告の1人であるChang Liu氏について、Appleは退社後にApple社内ネットワークへ不正アクセスしたと主張していましたが、OpenAIが公開したiMessageのやり取りでは、Liu氏の退社直後にApple側の従業員が本人に対しファイルの所在を尋ね、手伝いを求めていたことが示されています。
- OpenAIは、これは「残存アクセス」と呼ばれる、Apple側の退職者アクセス管理の不備によって生じた問題であり、Liu氏が意図的に情報を持ち出したものではないと主張しています。
- もう1人の被告であるTang Tan氏についても、Appleに24年間在籍した人物であり、他社の機密情報は使用しないと一貫してチームに伝えてきたとして、OpenAIは疑惑を否定しています。
これまでの経緯(時系列)
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2024年 | AppleとOpenAIが、ChatGPTをiPhoneのOSに統合する協業を発表。サム・アルトマンCEOがApple本社を訪問 |
| 2024年2月 | Tang Tan氏(Appleでプロダクトデザイン担当副社長を24年間務めた人物)がAppleを退社 |
| 2025年 | OpenAIが、Appleの元最高デザイン責任者ジョニー・アイブ氏のハードウェアスタートアップ「io」を約65億ドルで買収。アイブ氏、Tan氏を含む50人以上のエンジニア・開発者がOpenAIへ移籍 |
| 2026年1月22日 | Chang Liu氏(Appleでシステム電気技術者を8年間務めた人物)の最終出社日 |
| 2026年1月22日〜2月14日 | (OpenAI開示のiMessageによる)Apple元同僚からLiu氏へ、ファイルの所在確認や業務の引き継ぎに関する複数回のやり取り |
| 2026年2月23日 | Appleの外部弁護士Gabriel Gross氏が、OpenAIの法務顧問Che Chang氏宛てに警告状のメールを誤送信(本来の宛先はLiu氏とは別の元Apple社員だったとされる) |
| 2026年2月23日〜25日 | Che Chang氏が身に覚えのない連絡に困惑し確認を要求。Gross氏および Apple社内弁護士が人違いだったことを認める返信 |
| 2026年2月〜7月 | OpenAI側によれば、Apple側から具体的な追加連絡はなく、約5カ月間音沙汰がない状態が続く |
| 2026年5月 | (Reuters報道)OpenAI側も、ChatGPTとSiriの統合契約を巡りApple側への法的措置を検討していたと伝えられる |
| 2026年7月10日 | Appleが、OpenAI Foundation・OpenAI Group PBC・io Products、およびTang Tan氏・Chang Liu氏を相手取り、営業秘密の不正取得と契約違反で提訴 |
| 2026年7月10日 | OpenAIが提訴に対する初期声明を発表、他社の営業秘密には関心がないと反論 |
| 2026年8月3日 | OpenAIが詳細な反論をブログで公開。メール・メッセージのやり取りを証拠として開示 |
OpenAIが公開した反論の内容
OpenAIの反論は、大きく3つの論点で構成されています。
第一に、Appleが訴状で主張していた「2026年2月にOpenAIへ懸念を伝えたが返答がなかった」という経緯についてです。OpenAIが公開したメールのやり取りによると、Appleの外部弁護士Gabriel Gross氏(Weil, Gotshal & Manges法律事務所)は2026年2月23日、警告状を送付した際、二つの似た中国系の姓を混同し、本来連絡すべきだった元Apple社員とは別の人物であるOpenAIの法務顧問Che Chang氏宛てに誤ってメールを送っていました。Che Chang氏はこの連絡に心当たりがなく、Apple側に確認を求めたところ、Gross氏および Apple社内弁護士の双方から、これが人違いによる誤送信だったことが認められています。OpenAIによれば、Apple側は当時、本来の宛先だった人物とはすでに電話で連絡を取り「問題を解決している最中」と伝えていたにもかかわらず、訴状で主張されている具体的な疑惑がこの時点で提起されたことはなく、その後5カ月間音沙汰がないまま、今回の提訴に至ったとしています。
第二に、被告の1人であるChang Liu氏に関する疑惑についてです。Appleは訴状で、Liu氏が退社後にApple社内ネットワークへ不正アクセスし、機密ファイルをダウンロードしたと主張していました。これに対しOpenAIが公開したiMessageのやり取りでは、Liu氏の最終出社日である2026年1月22日以降、元同僚のApple従業員がLiu氏に対し、ファイルの転送作業やAirDropの操作を依頼し、業務上必要な情報の所在についても複数回にわたり質問を続けている様子が示されています。OpenAIは、これはApple側が退職者のアクセス権限を適切に管理できていなかったことに起因する「残存アクセス」の問題であり、Liu氏が自らの意思で情報を持ち出そうとしたものではないと主張しています。
第三に、もう1人の被告であるTang Tan氏についてです。OpenAIは、Tan氏がAppleに24年間在籍し、同社で最も革新的なリーダーの1人として広く知られていた人物であるとしたうえで、他社の機密情報は使用しないという方針をチームに一貫して伝えてきたと述べ、Appleの主張を否定しています。
OpenAIは声明の中で、Appleからの仮差止命令の請求は誤った情報にもとづくものであり、自社はAppleの営業秘密を保有しておらず、それを望んでもいないとしたうえで、フロンティアを切り拓く革新的な製品・技術の開発に関心を向けていると述べています。
今後の展開・両社の主張の対立点
現時点で、両社の主張は真っ向から対立しています。Apple側は、OpenAIの現従業員から最高幹部に至るまであらゆる階層で組織的な情報窃取が行われ、これがOpenAIの経営陣によって黙認されてきたと主張しています。一方でOpenAI側は、今回開示した証拠によって、少なくとも提訴前の接触経緯についてはApple側の説明が事実と異なっており、Liu氏を巡る疑惑についてもApple自身の退職者アクセス管理の不備が背景にあると反論しています。
OpenAIは声明の中で、Appleがこの一連の経緯を自社に有利な形で説明しようとしており、他の元Apple社員についても曖昧な非難を続ける可能性が高いとの見方を示しています。今回開示された証拠が、今後の訴訟手続きの中でどのように扱われるかは、本記事執筆時点では不明です。
情報システム部門・企業への示唆
今回のOpenAIの反論で示されたLiu氏を巡るやり取りは、企業の退職者アクセス管理という観点からも示唆に富む内容です。OpenAI側の主張が事実であれば、Apple側の従業員自身が、退社した元同僚に対しiCloudアカウントへのアクセスを維持したまま業務の引き継ぎを依頼していたことになります。これは、退職者本人に悪意がなくとも、組織側のオフボーディング(退職時のアクセス権限失効)プロセスが徹底されていない場合、本人の意図とは無関係に情報が流出するリスクを負う可能性があることを示しています。
これは、当サイトが前回の記事AppleがOpenAIを営業秘密窃取で提訴-元幹部が採用面接で「実物部品持参」を指示か、400人超の転職者が焦点にで指摘した、退職予定者の社用端末の返却確認や、退職後のアクセス権限の即時失効といった基本的な統制の重要性を、別の角度から裏づけるものといえます。退職者本人が「引き継ぎのために協力しただけ」と考えていたとしても、組織のアクセス管理が不十分であれば、双方が意図せず法的リスクを負う可能性がある点を、あらためて確認しておく価値があります。








