2026年1月、ロシア語圏のランサムウェアグループ「Everest」が、日産自動車が利用するサードパーティベンダーをハッキングし、910GB(250万件の顧客情報)に及ぶデータの窃取をダークウェブ上で主張しました。Everest側の主張によれば、侵入の根本原因は高度なサイバー攻撃ではなく、長期間放置されたパスワードや多要素認証(MFA)の欠如という基本的な管理の失敗であるとされています。
これに対し日産は2026年4月1日、「日産自身のシステムや顧客情報の侵害は確認されておらず、被害はベンダーに限定されている」との公式声明を発表しました。本記事では、当編集部によるリークデータ独自の調査結果を踏まえ、Everestの攻撃手口、サプライチェーンを狙ったランサムウェアの脅威、そして企業が今すぐ見直すべき認証情報管理の教訓について詳細に解説します。
【サマリー】
- 侵害主体:ロシア系ランサムウェアグループ「Everest」が2026年1月にダークウェブ上に日産自動車(Nissan Motor Corporation)への侵害を公表
- 侵入経路:日産・インフィニティの北米ディーラーネットワーク向けサービスを提供するサードパーティITベンダーのGCSSD(Global Customer Service & Sales Data)FTPサーバー
- 主張規模:910GB・180,000ファイル超・250万件の顧客個人情報(2013年〜2026年1月分)
- 侵入原因:30以上の漏洩データベースで3年以上公開されていた認証情報の未ローテーション+MFA不在
- 日産の対応:2026年4月1日、サードパーティベンダー経由の侵害を認定。「日産のシステムおよび顧客情報の侵害は確認されていない」と声明
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Everestによる犯行声明の概要
2026年1月10日、ロシア語圏のサイバー犯罪グループ「Everest」は自グループのダークウェブ専用リークサイトに、日産自動車(本社:神奈川県横浜市)への侵害を主張する投稿を行いました。投稿には複数のスクリーンショットと内部ファイルのディレクトリ構造が添付されており、ダウンロード可能な形でサンプルデータが公開されました
当編集部が取得したリークサイトの情報には、Uberの車が日産のロゴに激突するビジュアルが表示されており、画面下部のティッカーには「INTERNAL SERVERS COMPROMISED」「CUSTOMER PII & FINANCIAL DATA EXPOSED」「DEALER NETWORK RECORDS LEAKED」「VIN DATABASE & WARRANTY CLAIMS LEAKED」「EMPLOYEE CREDENTIALS」と流れています。これはEverestが後に公開した交渉ログの中で「Uber・Wayve・Nvidiaへの警告」として言及しているものと符合しており、日産と提携しているロボタクシー関連パートナー各社への意図的な風評リスクの拡散を狙ったものと分析されます
Everestは当初、5日以内に対応しなければデータを公開すると警告。日産が応じなかったため、3月末には交渉ログの全文と追加サンプルデータを公開し、「4月3日にすべてのデータを公開する」と最終通告を発しました。
関連:ランサムウェア グループ Everest(エベレスト)とは
セキュリティ対策Labで公開データを調査
セキュリティ対策Labでリークデータを調査すると
公開された画像に含まれるフォルダ名(例:Test_Files_20200613、Already Loaded Files、tempなど)を確認する限り、日産本体の最新の機微な社内情報や、個人情報、中核となる設計・技術データが含まれているようには見受けられません。 むしろ、一般的な運用ファイルや過去のアーカイブデータに近い印象を受けます。


侵害の技術的背景:「高度な攻撃」ではなく「認証情報管理の失敗」
侵入経路:第三者ベンダーのGCSSDシステム
セキュリティ対策Lab(合同会社ロケットボーイズ)が取得したリークサイトのファイル一覧(Images 2〜5)には「Nissan part1:100アイテム」として公開されたディレクトリ構造が確認できます。フォルダ名には以下が含まれています。
| 確認されたフォルダ名 | 示唆される内容 |
|---|---|
| Enrolled_Dealers_Customers | 登録ディーラーの顧客データ |
| GCS Reports / GCS Reports3 | グローバルカスタマーサービスレポート |
| Infiniti_Net | インフィニティネットワーク関連データ |
| Experian_6_28 | 信用情報機関Experianとの連携データ(推定) |
| DealerShop / Canada RO Custom Report | 北米(特にカナダ)ディーラー向け業務データ |
| wholesale_extract / Incentive Reports | 卸売データ・インセンティブレポート |
| Transaction Flag Simulation Report | 金融取引フラグシミュレーションレポート |
| Urgent Executive Data Request / Urgent Request | 経営層向け緊急データリクエスト |
なお、セキュリティ対策Labが確認したスクリーンショットの範囲では、氏名・住所・クレジットカード番号等の個人情報が直接表示されているファイルは見当たりませんでした。
SC Mediaの分析も「可視部分に直接的な個人情報は確認できないが、フォルダ名は業務システムへのアクセスを示唆している」と報告しています。これはEverestが交渉カードとして最も機微なデータを意図的に非公開にしている可能性があります。
侵入を可能にした根本原因:3層の認証管理不備
Everestがダークウェブへの投稿で主張する攻撃の手口は、高度なゼロデイ脆弱性の悪用ではなく、放置されていたり古い認証情報の窃取です
| 問題点 | 内容 |
|---|---|
| 認証情報の放置 | 8組のログイン情報が2023年9月以降、30以上の漏洩データベース上で公開状態にあった。Everestはこれらを収集して使用 |
| パスワード未ローテーション | 「パスワードは少なくとも3年間変更されていなかった」(Everestクレーム) |
| MFA不在 | インターネットに公開されたインフラストラクチャに多要素認証(MFA)が設定されていなかった(Everestクレーム) |
出典:Cybernews、Daily Dark Web
Everestはダークウェブ上の投稿でこれらの問題を強調し、「根本原因は今回も過去のインシデントと同一だ——インターネット接続システム上に公開された認証情報だ」と述べています。これはEverestが法的リスクや風評リスクを最大化する文脈で「日産はデータセキュリティを軽視している」という印象を意図的に形成しようとしていると分析できます。ただし、これらの主張はEverest側の一方的なものであり、すべてがサードパーティベンダーの責任範囲に係るものかどうかも含め、独立した第三者による検証は現時点でなされていません。
日産自動車の公式見解(2026年4月1日)
日産自動車は2026年4月1日、The Record(Recorded Future News)の取材に対して以下の声明を発表しました。
「調査の結果、インシデントはベンダーとそこから提供された情報に限定されていることが判明しました。日産のシステムが侵害された、あるいは日産の顧客情報がアクセスされたり危険にさらされたりした証拠は見つかっていません。ベンダーが調査を完了する中、ベンダーと密接に連携しています。」(日産広報、The Record)
日産はサードパーティベンダー経由の侵害であることを認めつつも、自社システムおよび顧客情報の侵害は否定する立場をとっています。被害を受けた顧客への通知状況、影響を受けた人数、およびベンダー名については現時点で公表していません。SC Mediaも「日産はサードパーティベンダーへの責任転嫁の構えをとっている」と報じています。
Everestランサムウェアグループの概要
Everestは2020年12月頃から活動するロシア語圏の金融目的型サイバー犯罪グループです(HHS Threat Actor Profile、Halcyon)。当初は暗号化型ランサムウェアを展開していましたが、現在はデータ窃取のみによる「二重恐喝(データ公開脅迫)」に特化した手口に移行しており、暗号化ペイロードを実際に展開するかどうかは定かではありません(Ransomlook)。
初期アクセスには、公開されている脆弱なサービスの悪用・フィッシング・認証情報窃取によるリモートアクセスが主に使用されます。また、インサイダーに現金を支払って企業ネットワークへのアクセスを購入するケースも報告されています。過去の主要な攻撃対象には以下が含まれます(HackRead、Halcyon)。
ASUS、クライスラー(Chrysler)、イベリア航空(Iberia Airlines)、アンダーアーマー(Under Armour)、ブラジル国営石油会社ペトロブラス(Petrobras)、AT&T、ダブリン空港(Dublin Airport)、ASRockラック(ASRock Rack・509GB窃取)
2025年に最も活発なランサムウェアグループの一つとして頭角を現し、2026年に入っても活動を継続しています。
日産のサイバー攻撃被害の歴史
Everestは今回の攻撃を「日産の過去のインシデントの根本原因は常に同じだ——インターネット接続システム上に公開された認証情報だ」と主張しており、日産は近年繰り返しサイバー攻撃の標的となっています(HackRead、ThaiCERT)。
| 年 | インシデント概要 |
|---|---|
| 2021年 | Gitサーバーのデフォルト認証情報(admin/admin)によるソースコード流出 |
| 2022年・2023年 | データ侵害が発生。それぞれ22,000人・53,000人の個人情報が露出 |
| 2024年3月 | Akiraランサムウェアによるサイバー攻撃。オーストラリア・ニュージーランドの顧客・従業員約10万人の情報が露出 |
| 2025年8月 | Qilinランサムウェアグループが日産の設計子会社から4TBのデータ窃取を主張 |
| 2025年12月 | 顧客21,000人のデータが露出するインシデントが発生 |
| 2026年1月 | 今回のEverestによる侵害主張(サードパーティ経由) |
出典:HackRead、ThaiCERT、The Record
関連:日産、Red Hatへの不正アクセスによるサイバー攻撃で約2.1万人分の個人情報漏洩の恐れ
セキュリティ担当者への示唆:サードパーティリスクと認証情報管理
今回のインシデントが示す最大の教訓は、サプライチェーン(第三者ベンダー)経由のリスクが依然として最も現実的な侵害ルートであるという点です。Everestが使用した攻撃手法の高度さよりも、「3年以上更新されていないパスワードがインターネット接続システムに使用されていた」「MFAが設定されていなかった」という基礎的なセキュリティ管理の失敗が根本原因である点は、あらゆる規模の組織にとって直視すべき問題です。
特に日本企業にとって注目すべきは、今回の侵害対象となったGCSSDシステムが日本市場の顧客データを含む可能性の有無です。日産は「北米ディーラーネットワーク向けのサービス」としながら侵害規模の詳細を非公表としており、影響範囲が北米に限定されるかどうかは現時点で確認できません。本件の続報を注視する必要があります。
よくある質問(FAQ)
Everestによる日産への侵害の侵入経路は何ですか?
Everestは直接日産のシステムを攻撃したわけではなく、北米の日産・インフィニティディーラーネットワーク向けデータ処理を担うサードパーティITベンダーのGCSSD(Global Customer Service & Sales Data)FTPサーバーへのアクセスを通じて侵害を実行したと主張しています。使用した認証情報は2023年9月以降に30以上の漏洩データベースで公開されていたもので、MFAは設定されておらず、パスワードは3年以上変更されていなかったとされています。
日産の公式見解はどのようなものですか?
日産は2026年4月1日、The Recordの取材に対し「日産のシステムが侵害された、あるいは日産の顧客情報がアクセスされたり危険にさらされたりした証拠は見つかっていない。侵害はベンダーとそこから提供された情報に限定されている」と述べ、サードパーティベンダー経由の侵害であることを認めています。
Everestランサムウェアグループとはどのような組織ですか?
Everestは2020年12月頃から活動するロシア語圏の金融目的型サイバー犯罪グループです。当初は暗号化型ランサムウェアを使用していましたが、現在はデータ窃取のみによる「二重恐喝(データ公開脅迫)」に移行していると見られています。医療・政府・製造業を主なターゲットとし、過去にASUS、クライスラー、イベリア航空、アンダーアーマー、AT&Tなどへの侵害を主張しています。
出典
- Everest Ransomware Claims Breach at Nissan, Says 900GB of Data Stolen – HackRead(2026年1月12日)
- Nissan says stolen data came from third-party vendor after hacking group claims breach – The Record(2026年4月1日)
- Everest ransomware group claims Nissan breach, demands response – SC Media(2026年1月13日)
- Third-party hack affirmed by Nissan after Everest ransomware assertions – SC Media(2026年4月)
- Nissan Investigates 910GB Data Breach and Extortion Attack – Daily Dark Web
- Frantic Everest ransomware gang turns up the heat on Nissan – Cybernews
- Everest Ransomware Claims Breach of Nissan – ThaiCERT(2026年1月14日)
- Ransomware gang Everest claims data breach at Nissan Motor Corporation – Digital Watch Observatory(2026年1月16日)
- 16th January 2026 Cyber Update: Nissan Hit by Everest Ransomware – Cyber News Centre
- The State of Ransomware: January 2026 – BlackFog
- Everest Group Targeting Critical Infrastructure – Halcyon








