「普通の人」を着服・不正受給に走らせない組織的防衛策―「不正のペンタゴン」を完成させないための犯罪心理学的アプローチ

コラム・インタビュー

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「普通の人」を着服・不正受給に走らせない組織的防衛策―「不正のペンタゴン」を完成させないための犯罪心理学的アプローチ

前回の記事では、日ごろ、「真面目」、「優秀」と評価される、「普通の人」であったはずの役職員が、なぜ着服や不正受給(通勤手当等)といった「組織資産の悪用・私物化」の一線を越えてしまうのか、人の倫理・道徳的な行動など幅広い心理学の研究知見を照らし合わせながら、その心理メカニズムを紐解きました。そして、以下の「普通の人」による「組織資産の悪用・私物化」の犯罪心理学モデル(Figure 1)を示しました。

 

Figure 1 「普通の人」による「組織資産の悪用・私物化」の犯罪心理学モデル

普通の人」による「組織資産の悪用・私物化」の犯罪心理学モデル

 

このモデルで注目したいのは、本来は組織にとって望ましいはずの「真面目さ」、「能力の高さ」、「組織への貢献」、「高い倫理観・責任感」といった資質が、心理的な落とし穴に変化する可能性がある点です。この心理的な落とし穴が、役職員が直面する特定の状況(孤立や過度な権限集中などの個々の場面)や、環境(組織における対話のあり方、評価の基準や風土など)の下で、以下の「不正のペンタゴン」の5つの要素(動機・機会・能力・傲慢さ・正当化)と結びついたとき、心理的な準備(言い訳、実行計画など)が整い、「普通の人」であっても、着服や不正受給を実行してしまう可能性が高まります。

それでは、本来は組織にとって望ましいはずの資質は、どのような状況・環境において、心理的な落とし穴に変化し、「不正のペンタゴン」の各要素と結びつくのでしょうか。以下に、4つの状況・環境(Figure 2)を示します。「真面目さ」、「能力の高さ」、「組織への貢献」、「高い倫理観・責任感」の4つの資質は、これら4つの状況・環境の下で、組み合わさったときに初めて心理的落とし穴へと変化し、「不正のペンタゴン」の各要素と結びつきやすくなります。

「普通の人」の資質が「不正のペンタゴン」の各要素と結びつく特定の状況・環境

Figure 2 「普通の人」の資質が「不正のペンタゴン」の各要素と結びつく特定の状況・環境

 

つまり、「不正のペンタゴン」を完成させないためには、組織の中にこれら4つの状況・環境がないかどうかを特定し、それに対して組織的な防衛策(施策、手続きや工夫)を実施することが必要不可欠です。

今回の記事では、犯罪心理学の視点から、「普通の人」を着服や不正受給へ走らせないための組織的防衛策として、以下、順を追って、これら4つの状況・環境とそれに対する具体的な防衛策について解説します。

 

「孤立した状況」に対する防衛策:「真面目さ」と「動機」の結びつきを断つ

【「孤立した状況」とは何か】

「孤立した状況」とは、単に一人で業務を行ったり、職場の懇親会に参加しないといった物理的な孤立を指すのではありません。「問題や悩みを一人で抱え込まざるを得ない」という心理的な状態に追い込まれるあらゆる状況を指します。

本来、「真面目さ」は組織にとって非常に望ましい資質です。しかし、この資質を持つ人ほど「人に迷惑をかけず自力で解決すべきだ」という意識が強く働く傾向があります(DePaulo & Fisher, 1980)。そのため、「相談相手の不在」や「助けを求めると無能・無責任だと思われる不安」といった「孤立した状況」に置かれると、周囲に助けを求めることに強い心理的抵抗を感じます。この状態で生活苦や借金、業務上の悩みや不満を抱えると、誰にも打ち明けずに一人で解決を図ろうとし、「不正のペンタゴン」の「動機(内密に問題を解決したいという欲求)」に結びついていきます。

そこで、この「動機」の形成を防ぐために、「孤立した状況」に対して組織的な防衛策を施す必要があります。

 

【今日からできる組織的防衛策:自己開示を活用したコミュニケーション】

「孤立した状況」に対する組織的な防衛策のポイントは、真面目な人に対して「物事を楽観的に捉えましょう」といった精神論的な声かけをすることではありません。また、よく目にする「相談窓口の設置」や「支援制度の再周知」を行うだけでも不十分です。どれほど体制や制度を整え、周知したとしても、相談すること自体への心理的な「壁」が高ければ、誰も利用せず、最終的に形骸化してしまうからです。

ここで重要なことは、こうした制度を利用する手前の「空気」作りです。「真面目さ」の資質を持つ人が問題や悩みを一人で抱え込まない「空気」を作って初めて、既存の「相談窓口」や「支援制度」が機能します。

こうした「空気」を作る具体的な工夫として、自己開示を活用したコミュニケーションが有効です。よく目にする「何か困ったことがあったら言ってください」といった受動的な声かけや、1on1ミーティングでの単なる雑談では、「真面目さ」の資質を持つ人は、「人に迷惑をかけず自力で解決すべきだ」という意識の働きによって、問題や悩みを打ち明けようとはしません。

自己開示とは、言葉で自身の個人的な情報を他者に伝える行動のことを指します。心理学の先行研究では、相手から自己開示を受けると自分も同程度の自己開示をしたくなる傾向(返報性)が示されています(安藤,1990)。

例えば、昼休みや業務の合い間、移動中の会話などで、上司や先輩から、最近、マイホームを購入した職員に対して、次のような自己開示を行ったとします。「私も結婚してマイホームを購入した時期は、子どもの教育費やローンの返済が重なって経済的にかなり苦労しました。当時はこの動画(または情報サイト)を参考にして、生活費のやりくりをして、乗り切りましたよ」。自己開示を受けた職員も、返報性によって、「実は子どもの教育費やローンの返済に、昨今の物価高が重なり、生活費が予想以上にかかっていて大変です」といった現状を打ち明けやすくなります。

実際、自己開示には、自身の問題・課題を打ち明けたことにより、孤独感が減少するとともに(安藤,1990)、その問題・課題に関わる悩みや苦しみが和らぐ効果(カタルシス効果)があることが報告されています(Pennebaker, 1997)。

なお、「真面目さ」の資質を持つ職員から自己開示されやすくするためには、日ごろから、職場でのコミュニケーションにおいて温かく共感的な反応(例:指摘してくれてありがとう、話してくれてありがとう)を心がけることが効果的です。心理学の先行研究では、温かく共感的な反応が相手の自己開示を促進することが示されています(Truax & Carkhuff, 1965)。

こうした自己開示を活用したコミュニケーションによって、「真面目さ」の資質を持つ人の心理的な「壁」は下がります。周囲からの「一度、組織内の相談窓口に話してみたらどうですか?」、「支援制度があるから、利用してみたらどうですか?」という勧めを受け入れやすくなり、「相談窓口」や「支援制度」の活用へと繋がる可能性が高まります。その結果、「真面目さ」の資質が、「不正のペンタゴン」の「動機」に結びつきにくくなります。

 

「権限や発言力が集中し、業務が属人化した状況」に対する防衛策:「能力の高さ」と「能力」・「機会」の結びつきを断つ

【「権限や発言力が集中し、業務が属人化した状況」とは何か】

「権限や発言力が集中し、業務が属人化した状況」とは、単に管理職や組織内のご意見番であることだけを指すのではありません。「能力の高さ」の資質を持つ人に特定の業務が過度に集中して属人化し、周囲がその業務の手順や内容を把握・検証できず、質問や意見をすることが心理的に困難な状況を指します。

本来、自身の知識や技術を活かし、組織の目標や課題に対して自ら考えて行動する力が高いこと、つまり「能力の高さ」は、組織にとって非常に望ましい資質です。しかし、この資質を持つ人ほど、複雑な問題・課題に対して柔軟に思考できる反面、与えられたルールの「抜け穴」を簡単に見つけ出し、さらにその抜け穴を利用することを巧みに正当化してしまう傾向が指摘されています(Gino & Ariely, 2012)。そのため、周囲が業務の手順や内容を把握・検証できず質問・意見もできない状況に置かれると、自身の知識や技術の高さとそれに伴う組織内の影響力を悪用する可能性が高まります。さらに、業務が属人化することにより、「自分はこの業務を組織に代わり完全にコントロールしている」という錯覚に陥りやすくなります(Fast et al., 2012)。また、自身の判断や行動を把握・検証しようとする組織に対して、強い心理的抵抗感を抱きます(Brehm, 1966)。この状態で、組織の「隙」を見つけると、「不正のペンタゴン」の「能力」(不正を実行し、それを隠ぺいできるだけの専門的知識等)と「機会」(「誰にも見つからずに実行できる」と認識した状態)に結びついていきます。

そこで、この「能力」と「機会」の悪用を防ぐために、「権限や発言力が集中し、業務が属人化した状況」に対して組織的な防衛策を施す必要があります。

 

【今日からできる組織的防衛策:高度な知識・技術の尊重と公開・共有の積極的な評価】

「権限や発言力が集中し、業務が属人化した状況」に対する組織的防衛策のポイントは、性悪説に基づき、「能力の高さ」の資質を持つ人に対する監視・マネジメントを強化することではありません。

また、よく目にする「定期的な人事異動」や「業務マニュアルの作成」を行うだけでも不十分です。こうしたルールは、業務の難易度や専門性が高い場合、形式的な引き継ぎや実効性の低い業務マニュアル作成にとどまりがちです。その結果、「能力の高さ」の資質を持つ人は、後任者に対して、アドバイスや指示をしたり、最悪の場合にはその業務を陰で代行するなど、実質的な影響力を維持し続ける可能性があります。

ここで重要なことは、こうしたルールを設ける手前の「仕組み」作りです。「能力の高さ」の資質を持つ人が、知識・技術を独占するのではなく、むしろ周囲に公開し、共有することに積極的になる「仕組み」を作ることにより、初めて、「定期的な人事異動」や「業務マニュアルの作成」といったルールが機能します。

こうした「仕組み」を作る具体的な工夫として、知識・技術の尊重と公開・共有の積極的な評価が挙げられます。「後任のために、引き継ぎ用の業務マニュアルを作成し、提出してください」といった一方的な命令では、「能力の高さ」の資質を持つ人は「業務の詳細や勘所、例外的な対応とその判断基準は自分にしか分からない」という意識から、形式的な引き継ぎや実効性の低い業務マニュアルを作成しがちです。

その心理的背景として、その人が持つ知識・技術が組織内で共有されない現象である知識隠蔽(Knowledge Hiding)が指摘されています。この現象は、知識・技術の独占によって得ていた影響力や自信が、知識・技術の公開・共有によって低下してしまうことへの恐れから生じることが報告されています(Connelly et al., 2012)。

そこで、役職員の「能力の高さ」の資質を尊重しながらも、知識・技術を独占するより公開・共有する方が自身の影響力や自信の維持に繋がる仕組みを整えることが有効となります。

例えば、難易度や専門性の高い業務において、上司から次のように働きかけます。「あなたの知識・技術は組織の貴重な資産です。今回はチーム全体のレベルアップも兼ねて、都度、あなたが持っている知識・技術を言葉に出しながら業務を一緒に進めてもらえませんか。言葉を記録する係は、他の職員が実施します。知識・技術の公開・共有の質・量が多いほど、そしてチーム全体のパフォーマンスが高いほど、チーム全体に貢献したと高く評価します」。

このように、最初に知識・技術の高さを尊重したうえで、これらを公開・共有する行動を高く評価する姿勢を組織として示します。

実際、自身の知識・技術等に基づき他者に助言する行動によって、自信が高まることが実証されています(Eskreis-Winkler et al., 2018)。

また、他の職員が自身の言葉を記録してくれるため、「能力の高さ」の資質を持つ人は、負担なく、自身の知識・技術を公開・共有することができます。

こうした仕組みによって、「能力の高さ」の資質を持つ人は、自身の影響力や自信を維持しつつも、知識・技術を積極的に公開・共有することができ、組織の資産として蓄積されます。その結果、「定期的な人事異動」や「業務マニュアルの作成」といったルールが上手に機能し、「能力の高さ」の資質が「不正のペンタゴン」の「能力」と「機会」に結びつきにくくなります。

 

「特例を許容する環境」に対する防衛策:「組織への貢献」と「傲慢さ」の結びつきを断つ

【「特例を許容する環境」とは何か】

「特例を許容する環境」とは、単に一部の役職員が甘やかされている状況を指すのではありません。「組織への貢献」の資質を持つ人に対して、それを理由として、業務で必要とされる正式な手続き(例:購買における相見積もりの実施、職務権限に基づく稟申、会議における議事録作成、事前の交際費申請)を省略する等の特例を組織が黙認し、「暗黙の了解」となってしまっている状況を指します。

本来は、「組織への貢献」は、組織にとって望ましい資質です。しかし、組織へ大きな貢献をした人ほど、「これまでの自分の貢献を踏まえれば、この程度の特例は認められて当然だ」と考えがちです。実際、「自分は善い行いをしている」と思っている人ほど、それを心理的な免罪符にして、身勝手な行動をとる傾向(モラル・ライセンシング:Moral Licensing)があることが実証されています(Sachdeva et al., 2009)。

そのため、「特例を許容する環境」に置かれると、「自分は、多少のルール違反を犯しても、許される特別な存在である」という意識が強まります。この状態に歯止めがかからないと、「不正のペンタゴン」の「傲慢さ(過度な自意識等)」に結びついていきます。

そこで、この「傲慢さ」の形成を防ぐために、「特例を許容する環境」に対して組織的な防衛策を施す必要があります。

 

【今日からできる組織的防衛策:手続的公正に基づく特例の承認と管理】

「特例を許容する環境」に対する組織的防衛策のポイントは、組織に大きく貢献した人とその周囲に対して「慢心しないように」と注意することではありません。また、よく目にする「特例の全面禁止」というルールを掲げるだけでも不十分です。現場の業務において特例的な対応が発生することは避けられず、特例を全面禁止にすればするほど、組織が把握していない「裏の特例」が運用されるリスクが高まるからです。

ここで重要なことは、特例を「暗黙の了解」としない「仕組み」作りです。「暗黙の了解」であり続けると、「組織への貢献」の資質を持つ人がその特例を既得権益化し、自分の裁量によって業務を行うリスクが生じます。

こうした「仕組み」を作る具体的な工夫として、手続的公正(Procedural Justice)に基づく特例の承認と管理が挙げられます。心理学では、判断過程やルールの運用が公正で一貫していると感じられる状態を、手続的公正と呼びます。この状態が保たれている組織や集団では、自身が期待した結果(例:自分の企画が採用される、昇進する)が得られなかったとしても、その結果に対して納得しやすくなるとともに、その結果をもたらした集団への信頼感が高まることが示されています(Lind & Tyler, 1988)。この概念を活用して、組織に大きく貢献した人に対する特例的な対応を、規程等に基づく正式な手続き(例:稟申、業務連絡、人事発令)によって承認、管理します。

例えば、上司から次のように働きかけます。「あなたがこれまで組織に大きく貢献してくれたことには深く感謝しており、非常に高く評価しています。だからこそ、あなたの実績や信用を守り、後から疑義が生じないようにするためにも、今回の特例的な対応については理由を明記して稟申し、正式な手続きに基づく組織承認を得ておきましょう。」。

このように、特例的な対応を正式な手続きに則って認めることにより、組織内の手続的公正が保たれます。これにより、一定の手続きと時間はかかりますが、特例的な対応が「暗黙の了解」として運用されるリスクが下がるとともに、組織に大きく貢献した人の納得感や組織への信頼感は維持されます。

実際、手続きを通じて自身の貢献が組織から正当に承認されていると感じると、組織内での自己の存在価値が高まり、言われなくても自発的にルールを遵守し、組織に協力しようとする行動が促進されることが示されています(Tyler & Blader, 2003)。これにより、組織への貢献を免罪符とするモラル・ライセンシング(Sachdeva et al., 2009)が抑制され、「組織への貢献」の資質が「不正のペンタゴン」の「傲慢さ」に結びつきにくくなります。

 

「組織への不満が高く、対話が少ない環境」に対する防衛策:「高い倫理観・責任感」と「正当化」の結びつきを断つ

【「組織への不満が高く、対話が少ない環境」とは何か

「組織への不満が高く、対話が少ない環境」とは、単に役職員が不満を漏らす組織環境を指すのではありません。業務、人事評価やマネジメント等に問題・課題があり、その不満を解決しようと、役職員が意見や改善を提案しているにもかかわらず、真摯に受け止めて対話する機会が閉ざされている組織環境を指します。

本来、「高い倫理観・責任感」は、組織にとって望ましい資質です。この資質を持つ人ほど、「自分は道徳的な人間でありたい」というポジティブな自己像を維持しようとします。しかし、意見や改善を提案しているにもかかわらず、対話の機会が閉ざされている環境に置かれると、自身の道徳心から目を背け、自分に都合の良い解釈を行い、不正をしやすくなります(Mazar et al., 2008)。

さらに、対話がなく不満が蔓延した環境では、周囲の同僚も不正に手を染めやすくなります。同じ集団の他者が公然と不正を行う姿を目撃すると、「この集団では許される」と社会規範に対する認識が変化し、「周りもやっている」という環境そのものが心理的な免罪符となります(Gino et al., 2009)。

こうして本来は望ましいはずの「高い倫理観・責任感」の資質は、「不正のペンタゴン」の「正当化」へと結びついていきます。

そこで、この「正当化」の形成を防ぐために、「組織への不満が高く、対話が少ない環境」に対して組織的な防衛策を施す必要があります。

 

【今日からできる組織的防衛策:手続的公正に基づく意見・改善提案の受容とフィードバック】

「組織への不満が高く、対話が少ない環境」に対する組織的防衛策のポイントは、単に役職員の不満を和らげるために懇親会を増やすことでも、不満を漏らす役職員を注意することでもありません。また、よく目にする「意見箱の設置」や「アンケートの実施」を行うだけでも不十分です。役職員から提案された意見や改善に対して、組織がどのように受け止め、行動しようとしているのかという「対応の過程」が見えなければ、むしろ「どうせ言っても組織には理解してもらえない」という無力感や不信感が強まるばかりです。

ここで重要なことは、不満そのものを無くすことではなく、役職員が意見や改善を提案した際に「真摯に受け止めてくれている」と感じられる「対応の過程」を誠実に提示することです。

こうした「対応の過程」を提示する具体的な工夫として、先に解説した手続的公正(Lind & Tyler, 1988)に基づく意見・改善の受容とフィードバックが挙げられます。心理学の先行研究では、自身の意見を述べる機会が与えられているという感覚や、物事の決定理由とその過程が十分かつ丁寧に説明されることが、たとえ自身にとって望ましくない結果(意見・改善提案の不採用等)であっても、不満を和らげ、組織を裏切るような不正行為を抑制することが実証されています(Folger, 1977; Greenberg, 1990)。

例えば、部下から担当プロジェクトの課題について意見・改善提案を受けた際、上司は次のように働きかけます。「あなたの問題意識からこうした意見・改善提案を出してくれたことに、まずは深く感謝します。検討した結果、予算や体制の制約があるため今回は意見・提案の通りに実施することは難しいのですが、あなたが指摘してくれた課題自体は非常に重要です。そのため、あなたと一緒に、予算や体制の制約を考慮した代替案を改めて検討させてください」。

このように、提案を即座に却下したり、放置したりするのではなく、「意見・改善提案を出してくれたことへの感謝・承認」と「不採用に至った客観的な理由」を丁寧にフィードバックします。

こうした「対応の過程」を誠実に提示することによって、不満が緩和され、「どうせ言っても組織には理解してもらえない」という身勝手な言い訳(Mazar et al., 2008)に転じづらくなります。これにより、「高い倫理観・責任感」の資質が、「不正のペンタゴン」の「正当化」に結びつきにくくなります。

 

おわりに

今回の記事では、「真面目さ」、「能力の高さ」、「組織への貢献」、「高い倫理観・責任感」という資質が、「不正のペンタゴン」の各要素と結びつく心理的な落とし穴に変化する特定の状況・環境を分析し、その組織的な防衛策を提案してきました。

犯罪心理学のアプローチによる組織的防衛策の本質は、役職員を疑って監視を強めることではありません。「真面目」で「優秀」な「普通の人」が不正に走ってしまう悲劇を、その人が置かれた状況や環境の心理的側面に働きかけることにより未然に防ぐことにあります。

今回の記事で提案した防衛策が、役職員と組織資産の両方を守り、健全な組織運営を行うための一助となれば幸いです。

 

引用文献

安藤 清志 (1990). 「自己の姿の表出」の段階 中村 陽吉(編) 「自己過程」の社会心理学 (pp.143-198) 東京大学出版会

Brehm, J. W. (1966). A theory of psychological reactance. Academic Press.

Connelly, C. E., Zweig, D., Webster, J., & Trougakos, J. P. (2012). Knowledge hiding in organizations. Journal of Organizational Behavior, 33(1), 64-88. https://doi.org/10.1002/job.737

DePaulo, B. M., & Fisher, J. D. (1980). The costs of asking for help. Basic and Applied Social Psychology, 1(1), 23-35. https://doi.org/10.1207/s15324834basp0101_3

Eskreis-Winkler, L., Fishbach, A., & Duckworth, A. L. (2018). Dear Abby: Should I give advice or receive it? Psychological Science, 29(11), 1797-1806. https://doi.org/10.1177/0956797618795472

Fast, N. J., Sivanathan, N., Mayer, N. D., & Galinsky, A. D. (2012). Power and overconfident decision-making. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 117(2), 249-260. https://doi.org/10.1016/j.obhdp.2011.11.009

Folger, R. (1977). Distributive and procedural justice: Combined impact of voice and improvement on experienced inequity. Journal of Personality and Social Psychology, 35(2), 108-119. https://doi.org/10.1037/0022-3514.35.2.108

Gino, F., & Ariely, D. (2012). The dark side of creativity: Original thinkers can be more dishonest. Journal of Personality and Social Psychology, 102(3), 445-459. https://doi.org/10.1037/a0026406

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Greenberg, J. (1990). Employee theft as a reaction to underpayment inequity: The hidden cost of pay cuts. Journal of Applied Psychology, 75(5), 561-568. https://doi.org/10.1037/0021-9010.75.5.561

Lind, E. A., & Tyler, T. R. (1988). The social psychology of procedural justice. Plenum Press.

Mazar, N., Amir, O., & Ariely, D. (2008). The dishonesty of honest people: A theory of self-concept maintenance. Journal of Marketing Research, 45(6), 633–644. https://doi.org/10.1509/jmkr.45.6.633

Pennebaker, J. W. (1997). Opening up: The healing power of expressing emotions (Rev. ed.). Guilford Press.

Sachdeva, S., Iliev, R., & Medin, D. L. (2009). Sinning saints and saintly sinners: The paradox of moral self-regulation. Psychological Science, 20(4), 523-528. https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2009.02326.x

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Truax, C. B., & Carkhuff, R. R. (1965). Experimental manipulation of therapeutic conditions. Journal of Consulting Psychology, 29(2), 119-124. https://doi.org/10.1037/h0021927

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