近年、個人情報の取り扱いに関して、企業に対する社会的な要請は一層高まっています。顧客や取引先からは適切に管理されていることを証明することが求められる場面が増え、その手段のひとつとしてプライバシーマーク(Pマーク)の取得が広く利用されています。
一方で、Pマークの取得には体制整備や運用の手間、コストも伴うため、単純に取っておけば安心というものではありません。メリットとデメリットを正しく理解した上で、自社に本当に必要かを見極めることが大切です。
本記事では、Pマーク取得のメリット・デメリットを整理し、どのような企業にとって有効なのかを解説します。
目次
Pマークとは
プライバシーマーク(Pマーク)制度とは、事業者が個人情報を適切に取り扱う体制を整備していることを第三者機関が認証する仕組みです。認証を受けた事業者はPマークのロゴを使用でき、対外的に個人情報保護への取り組みを示すことができます。
制度は一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)が運営しており、審査はJIPDECから指定を受けた審査機関が実施します。審査基準はJIS Q 15001(個人情報保護マネジメントシステム要求事項)に基づいており、組織的・技術的な管理体制の整備、法令遵守、教育・訓練など幅広い対応が求められます。
取得後も2年ごとに更新審査が必要となり、運用を継続していることを確認される点が特徴です。単なる一度きりの認証ではなく、継続的に個人情報保護を実践している企業であることを証明できる制度といえます。
※制度の仕組みや具体的な要求事項については、こちらの記事で詳しく解説しています。
Pマーク取得のメリット
Pマークを取得することで得られる利点は、顧客や取引先からの信頼獲得にとどまらず、取引条件への対応、社内体制の強化、そして法改正へのキャッチアップといった複数の側面にまで及びます。
信頼性の向上
Pマークを取得していることは、第三者機関によって個人情報を適切に管理していると認められた証明になります。顧客にとっては安心材料となり、取引先に対しても信頼性を示すことができます。また、採用活動や広報活動の場でも、個人情報保護への取り組みをアピールする要素として活用できる点もメリットです。
取引・入札での要件
大手企業や自治体では、委託先や取引先に対してPマークの取得を条件とするケースがあります。特にBtoBサービスや受託業務を担う企業にとっては、Pマークを持っているかどうかが競争力の差につながります。認証の有無が取引の前提条件になる場合もあるため、営業活動や入札の機会を広げる上で有効です。
JIPDEC公表資料によれば、入札情報検索サービスで入札公告文書内に「プライバシーマーク」の文言が含まれていた件数が、2021年の7200件から2024年には9200件と、25%増加しています。
社内体制の強化
Pマークを取得するためには、個人情報の取り扱いルールや管理体制を整備し、社員教育を行う必要があります。その過程で、社内に情報管理の意識が浸透しやすくなり、インシデント発生時の対応力向上にもつながります。単なる認証取得のためではなく、実務上の改善を伴って社内体制を強化できる点は大きなメリットです。
法改正への備え
Pマークの運用は、個人情報保護法や関連ガイドラインの改正に応じて更新されます。認証を維持するためには定期的な見直しが求められるため、結果的に最新の基準に沿った運用を継続することが可能です。自社だけで法改正を逐一キャッチアップするのは負担が大きいため、認証を通じて自然に備えられる点は安心材料となります。とくに、個人情報保護法は3年ごとに見直しが行われるため、Pマークを取得していれば必然的に対応できる仕組みとして機能します。
Pマーク取得のデメリット
Pマークは多くのメリットをもたらす一方で、取得・維持には一定のコストや制約が伴います。導入を検討する際には、これらのデメリットも理解しておくことが重要です。
取得・維持コストがかかる
Pマークの審査には、初回・更新時それぞれで費用が発生します。審査機関への支払いだけでなく、文書作成や体制整備、教育・訓練にかかる社内工数も少なくありません。社内に専門知識を持った人がいない場合は外部のコンサルタントなどに依頼することも考えられ、特に中小企業にとっては、金銭的・人的リソースの負担が大きなハードルになります。
文書作成などの事務作業が増える
認証取得にあたっては、規程や手順書、記録類の整備が求められます。その結果、日常業務の中で書類のための作業が発生し、実務に即していない運用が形骸化してしまうリスクもあります。実質的なセキュリティ向上よりも形式的な書類準備に追われる点はデメリットです。
対象範囲が限定的
Pマークは「個人情報保護」に特化した認証制度であり、ISMSのようにさまざまな情報資産を包括的にカバーするものではありません。そのため、個人情報以外の情報(営業秘密や知財情報など)を重視する企業にとっては、網羅性が不足する点が課題となります。
認証取消のリスク
万が一、重大な個人情報漏えいや規程違反が発生した場合には、Pマーク認証の取消や停止措置が取られる可能性があります。認証取消が公表されれば、顧客や取引先からの信頼失墜につながり、ビジネス上の大きな打撃を受けるリスクがあります。
2024年には、NTT子会社が内部不正による情報持ち出しの事件によって認証の停止処分を受けたこともあります。
取得に向いている企業
Pマークの取得はすべての企業に必須ではありません。しかし、業種や事業形態によっては取得による効果が大きく、事実上の必須条件となる場合もあります。以下のような企業は特にPマークの取得を検討する価値があります。
個人情報を大量に扱う企業
コールセンター、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)、人材紹介・派遣業、EC事業者など、顧客や利用者の個人情報を日常的に取り扱う企業は、Pマーク取得によって外部への説明責任を果たしやすくなります。また、このような業界の場合、取引要件にPマーク取得が含まれていることも多く、実際にこれらの業界に属する企業はPマークを取得していることが多い傾向にあります。
BtoB取引を行うサービス提供企業
大手企業や公共機関との取引を目指す場合、委託条件や入札要件としてPマークが求められるケースがあります。特にシステム開発、クラウドサービス、マーケティング支援など、取引先の顧客データに関わる業務を担う企業は取得が実質的に必須となりやすいです。一方で、個人情報を多く扱うわけではない場合はISMSまたはPマークのいずれかを取得していれば良い場合も多いため、取得前にしっかりと要件を確認し、自社で取得するべきはどちらなのか、よく検討する方が良いでしょう。
信頼性を競争力とする企業
金融、保険、不動産、医療などの業界では、顧客が企業を選ぶ基準に「情報の安心感」が直結します。Pマークを掲示することで信頼を示し、営業や採用での優位性を確保しやすくなります。Pマークはロゴからも個人情報の保護を連想しやすく、個人に対するイメージアップの効果が期待できるため、個人向けサービスで、個人のセンシティブな情報を扱う場合には高い効果が期待できます。
まとめ
Pマークは、顧客や取引先からの信頼獲得、入札や取引要件への対応、社内体制の強化、さらには法改正へのスムーズなキャッチアップといった多面的な効果を持ちます。
一方で、取得や維持にはコストや工数がかかり、場合によっては取り消しリスクもあるため、すべての企業にとって必須というわけではありません。大切なのは、自社の事業領域や顧客の期待、取引先の要件を踏まえて、本当にPマークが必要かどうかを見極めることです。場合によってはISMSやその他の認証の方が適しているケースもあります。
特に、顧客の個人情報を多く扱う企業や、公共機関・大手企業との取引を目指す企業にとって、Pマークは事実上の必須条件となるケースが少なくありません。信頼性を武器にしたい企業にとっては、取得が大きな競争力につながるでしょう。
取得に向けた判断は一社ごとに異なるため、専門家に相談して客観的なアドバイスを受けるのも有効です。
今すぐは必要ない場合でも、今後の事業展望によっては取得が必要になる可能性があります。取得しようと動き出しても取得までに1年近くかかるケースも少なくないため、事業計画とともに取得の必要性も検討してみてください。







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