2026年4月、英国政府は、ロシアの潜水艦と深海工作部隊が英国周辺で実施していた活動の詳細を異例の形で公表しました。英国国防省の説明によれば、ロシア側はアクラ級攻撃型潜水艦を前面に出しつつ、その裏側で、ロシア海軍の深海工作部門GUGIの特殊潜水艦が重要海底インフラ周辺で秘匿活動を行っていたとされます。英国はこれを把握した上で、あえて「監視されていること」をロシア側に認識させる対応に切り替え、ロシア側は作戦を秘匿のまま完遂できず帰投した、と説明しています。
この発表の意味は、単に「ロシア潜水艦を追跡した」という軍事ニュースではありません。英国政府は、GUGIが平時には海底インフラを調査し、有事にはそれを妨害・破壊する能力として整備されてきたと明言しています。海底ケーブル、パイプライン、海底通信網は、もはや海軍だけの問題ではなく、金融、通信、データ流通、国家機能そのものを左右する戦略インフラです。英国は今回、その脅威を可視化することで、ロシアの秘匿性と否認可能性を削ぐ「情報公開型の抑止」に踏み切ったと言えます。
【エグゼクティブ・サマリー:本稿の核心】
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異例の暴露作戦: 2026年4月、英国政府はロシアのアクラ級潜水艦と深海工作部隊「GUGI」による重要海底インフラ周辺での秘匿活動を同盟国と連携して追尾・公表。「見ている」ことを明示し、ロシアの作戦を阻んだ。
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GUGIの真の目的: 英国の公式認識では、GUGIは平時に海底ケーブルやパイプラインを調査し、有事にこれを妨害・破壊するための国家戦略部隊として位置付けられている。
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国家の急所「海底ケーブル」: 英国の国際データの99%、1日約10兆ドルの金融取引を支える海底インフラは、もはや海軍の管轄を超えた「国家機能の要」である。
目次
英国政府が公表した「異例の暴露」:アクラ級の裏に潜む本命
2026年4月9日、英国防省はハイ・ノース(極北)の国際水域において、ロシア海軍のアクラ級攻撃型潜水艦を追尾していた事実を公表しました。しかし、この発表の真の焦点は、目立つ攻撃型潜水艦の動きではありませんでした。
ジョン・ヒーリー国防相は、アクラ級が陽動(カバー)として動く裏側で、ロシア海軍の深海工作部門「GUGI(深海調査総局)」に所属する特殊潜水艦が、英国の重要海底インフラ周辺で秘匿任務を行っていたと明言しました。英国は同盟国とともにこの動きを完全に把握し、あえてその事実を公表(暴露)したのです。
この対応は、従来の「静かに追尾して情報を集める」という対潜水艦戦(ASW)のセオリーから逸脱しています。英国の狙いは、ロシアに対して**「海底工作はもはや否認可能なグレーゾーン行為ではなく、政治的コストを伴う露見リスクがある」と突きつけることでした。作戦の秘匿性を剥奪(暴露)すること自体を「抑止力」へと変換する、極めて高度な情報戦の遂行だと言えます。
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GUGI(深海調査総局)とは何か:海底インフラを狙う見えない脅威
英国が最も警戒しているのが、この「GUGI(Glavnoye Upravlenie Glubokovodnykh Issledovanii)」の存在です。
英議会における2025年11月の答弁記録によれば、
GUGIはロシアの深海活動を統括する極秘部門であり、「平時には海底インフラの構造や脆弱性を調査・マッピングし、紛争(有事)にはそれを物理的・サイバー的に妨害・損傷させる能力」として明確に位置付けられています。
過去にもロシアの海洋調査船「ヤンタリ(Yantar)」などが、大西洋の海底ケーブル網の上を不自然に徘徊する様子が度々確認されてきました。英国防省は、こうした動きを「偶発的な航行」ではなく、将来の破壊工作を見据えた「平時から進行するハイブリッド戦の準備行為」として断定しています。海底工作は有事に突然始まるのではなく、平時の接近、測位、監視というフェーズですでに開戦しているという認識です。
なぜ海底ケーブルが「国家の急所」なのか
英国がこれほどまでに強硬な姿勢を示す理由は、標的となっている海底インフラが、現代の国家機能そのものを担っているからです。
2026年1月の英議会国家安全保障合同委員会の議論では、以下の衝撃的な事実が共有されています。
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英国に出入りする国際データの99%が海底ケーブルを経由している。
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世界全体で1日あたり約10兆ドル規模の金融取引を海底ケーブルが支えている。
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英国に接続する64本の海底ケーブルのうち、45本が国際接続である。
つまり、海底ケーブルや海底パイプラインの切断は、単なる「インターネットの通信遅延」や「動画が見られない」といった問題ではありません。金融システムの麻痺、クラウドサービスのダウン、行政・医療機能の停止、そして軍事指揮統制の断絶へと直結します。
かつて島国である英国は「海(イギリス海峡)」によって大陸の脅威から守られていましたが、デジタル経済下においては、逆に「海底への絶対的な依存」が最大の脆弱性(アキレス腱)となっています。だからこそ、ロシアの潜水艦活動は一軍種の枠を超え、国家の存亡に関わる最優先課題として扱われているのです。
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英国の対抗策「Atlantic Bastion(大西洋の防壁)」
この見えない脅威に対し、英国政府は2025年末から**「Atlantic Bastion(アトランティック・バスティオン)」**構想を前面に押し出しています。
ガイ・ジェンキンス第一海軍卿(First Sea Lord)がNATO会議等で説明したこの構想は、一言で言えば**「海底版の統合抑止」**です。
【Atlantic Bastionを構成する複合システム】
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音響センサー網(SOSUSの現代版): 海底に敷設された広範な監視グリッド。
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自律型無人潜水艇(UUV)/無人水上艇(USV): AIを搭載し、長期間にわたって不審な動向をパトロール。
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P-8Aポセイドン等の哨戒機・軍艦・潜水艦: センサー情報に基づく迅速な実力行使と追尾。
英国は、海底戦を「潜水艦 vs 潜水艦」という旧来のハードパワーの競争から、AI・無人システム・センサー網、そして「情報公開による政治的圧力」までを含めたマルチドメイン(複合領域)の防衛へと拡張しました。今回のGUGI作戦の暴露は、このAtlantic Bastionの思想がすでに机上の空論ではなく、実戦的運用のフェーズに入っていることを証明しています。
日本への示唆:通信行政から「国家の安全保障戦略」へのパラダイムシフト
英国の一次情報が示す現実は、同じく四方を海に囲まれた海洋国家・日本にとって対岸の火事ではありません。
日本もまた、国際通信の99%を海底ケーブルに依存し、台湾海峡、東シナ海、太平洋へのシーレーン上に膨大なインフラを抱えています。これらは通信・物流・軍事の境界をまたぐ致命的な脆弱点です。英国の事例が警告するのは、**「インフラへの脅威は有事のミサイル攻撃だけでなく、平時の深海での秘匿接近と調査として、すでに進行している」**という事実です。
したがって、日本に必要なのは以下のパラダイムシフトです。
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「通信行政」から「安全保障」への格上げ: 海底ケーブル防護を、総務省や個別通信事業者(キャリア)のBCP(事業継続計画)任せにするのではなく、国家安全保障会議(NSC)マターとして一元的に扱う。
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官民連携と同盟国とのインテリジェンス共有: 海洋観測データ、通信事業者の障害検知データ、自衛隊の対潜情報を統合し、日米台豪で「海底の状況認識(SDA:Subsea Domain Awareness)」をリアルタイムで共有する。
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「可視化による抑止」メカニズムの構築: 英国のように、異常行動やグレーゾーンでの工作活動を探知した場合、同盟国と連携して速やかに政治的に「暴露(アトリビューション)」し、相手国にコストを強要する仕組みを整備する。
結論
英国が公表したロシア潜水艦活動の全貌は、海底インフラ防護が「平時のハイブリッド戦の中心戦域」となっていることを白日に晒しました。英国は「Atlantic Bastion」構想を通じ、深海を可視化することで、否認可能性(やっていないと言い逃れできる状況)を奪い、抑止力に転化しようとしています。
日本にとって重要なのは、この事案を「欧州の特殊事情」として片付けないことです。海底ケーブルの防護は、金融、物流、軍事の境界を超えて国家の持続性そのものを左右します。この見えない最前線を守り抜く総合的な防衛戦略の構築こそが、21世紀の日本の国家防衛における最優先任務と言えるでしょう。
出典・参考資料
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UK exposes covert Russian submarine operation in and around UK waters(GOV.UK)
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Defence Secretary No9 speech – 09 April 2026(GOV.UK)
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UK unveils new undersea warfare technology to counter threat from Russia(GOV.UK)
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Russian Ship “Yantar”(Hansard, UK Parliament)
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Subsea telecommunications cables: resilience and crisis preparedness(Joint Committee on the National Security Strategy, UK Parliament)
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Subsea Telecommunications Cables: Resilience and Crisis Preparedness(Hansard, UK Parliament)
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First Sea Lord’s speech to the International Sea Power Conference(GOV.UK)
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The National Security Strategy(Joint Committee on the National Security Strategy, UK Parliament)
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Defence in the Grey Zone: Government Response(UK Parliament)








