なぜ企業や公的機関は中国製 Webカメラやルーターなどの通信機器を排除する必要があるのか

インテリジェンス

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なぜ企業や公的機関は中国製 Webカメラやルーターなどの通信機器を排除する必要があるのか

通信インフラは現代の国家にとって心臓部にあたる存在であり、その安全性を確保することは経済安全保障における最優先課題のひとつとなっています。企業や公的機関が中国製の通信機器を重要インフラや調達ネットワークから排除すべき理由は、単なる技術的な脆弱性への懸念にとどまりません。中国の政治・法的体制そのものに起因する構造的なリスクが存在するためです。米国・英国・イスラエル・日本という主要な同盟国は、それぞれの国情に応じて排除政策を進める一方、排除と同時に自国産業をどう育成するかという難題にも直面しています。本稿では、複数の公的機関・権威ある情報源をもとに、この問題の全体像を整理します。

サマリー

  • 中国製通信機器を排除すべき最大の理由は、2017年施行の中国「国家情報法」第7条にある。同法は組織・国民に国家の情報活動への協力義務を課しており、中国企業が政府からのデータ提供等の要求を拒否できるかについて構造的な懸念が指摘されている
  • 米国は2022年11月のFCC規則、そして2026年6月26日の追加規則により、Huawei・ZTE・Hikvision等の機器の輸入・販売を旧型機器も含めて全面禁止する体制を構築した
  • 英国はNCSCの提言により2027年末までのHuawei機器完全撤去を法制化する一方、2億5,000万ポンドの基金でオープンRANの育成を進めている
  • イスラエルは中国と経済的に協力しながらも、米国との安全保障上の関係を優先しており、INSSの分析では5Gインフラへの中国技術の採用可能性は極めて低いと評価されている
  • 日本は2018年の政府調達方針を皮切りに、2026年の総務省令改正による自治体IT機器の認証制調達義務化、そして国家情報会議設置法の成立という形で対応を段階的に強化してきた
  • Huaweiは排除包囲網の中でも世界市場で高いシェアを維持しており、単純な締め出しだけでは市場の寡占構造が変わらないというジレンマがある。排除と同時にオープンRAN等による自国・同盟国産業の育成が不可欠とされている
項目 内容
法的根拠(中国側) 国家情報法第7条(2017年施行)
米国の主な規制 FCC Covered List規則(2022年11月・2026年6月26日)
英国の主な規制 Huawei機器の2027年末までの完全撤去義務化(NCSC提言)
日本の主な規制 2018年政府調達方針・2026年総務省令改正(自治体IT機器)
対象となる主要企業(中国) Huawei・ZTE・Hikvision・Dahua・Hytera
関連する非中国系リスクベンダー Kaspersky(ロシア、FCC Covered List掲載)
Huaweiの世界シェア(2025年上半期) グローバル市場全体で高いシェアを維持(Dell’Oro Group調査)
排除の代替策 オープンRAN(Open RAN)による通信インフラのオープン化・分散化
日本の産業育成策 NEDO「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」

なぜ排除すべきなのか

中国製通信機器の排除論の核心にあるのは、単なる製品の技術的な欠陥への懸念ではなく、中国の国内法制度そのものが持つ構造的なリスクです。

2017年に施行された中国の国家情報法第7条は、いかなる組織および国民も法に基づき国家の情報活動を支持・援助・協力しなければならず、国家情報活動の秘密を守らなければならないと定めています。この条文自体は情報活動への協力義務を課すものですが、外国の企業や政府からみれば、中国企業が政府からの要求を実務上どこまで拒否できるのか、その透明性がどこまで確保されているのかという点に構造的な懸念が残ることが、排除論の根拠として指摘されています。

技術面でも懸念は具体的です。

製品の設計図やソースコードが不透明なまま製造・運用されることで、ファームウェアのアップデートや遠隔保守の経路を通じて、潜在的な不正アクセスや機能停止のリスクが懸念されています。これにより企業の機密情報・知的財産・顧客の個人情報が流出する恐れが生じるほか、これらの機器が乗っ取られてDDoS攻撃等の踏み台として悪用されるリスクも懸念されています。

こうした懸念は抽象論にとどまりません。

中国系デジタルサービス全般に対する米当局の懸念例として、米連邦捜査局(FBI)のクリストファー・レイ長官(当時)は、中国企業が運営する動画アプリ「TikTok」について、米国市民の個人データ流出、アプリを通じた世論への影響工作、そして何百万台ものデバイスを制御するサイバー能力の行使に対する深刻な懸念を議会で表明しています。


これは通信機器そのものではなくアプリ・データの文脈での懸念ですが、中国系企業と中国政府の関係性に対する不信感を象徴する事例として位置づけられます。通信機器メーカーに関しては、米司法省(DOJ)がHuaweiを対イラン制裁回避に関連する詐欺容疑等で起訴しており、同社はこれを否定していますが、2025年時点でも米連邦判事が訴追の大部分の継続を認めています。Hikvisionなど一部の中国企業はFCCの排除決定を不服として訴訟を提起し対抗姿勢を示していますが、欧米諸国の不信感は決定的なものとなっています。

さらに、実務上の経済的リスクも軽視できません。

米国政府は国防権限法(NDAA)第889条に基づき、特定の中国製品を利用する企業との連邦調達契約を厳しく制限しています。

この規制は米国政府機関による直接調達だけでなく、対象機器を使用する企業との契約全般に影響し得るため、米国政府・連邦資金・防衛関連の取引を持つ日本企業にとっても実務上のリスクとなります。中国製通信機器を使い続けること自体が、米国企業やその取引先とのビジネス継続を困難にする現実的な要因となり得ます。

アメリカ・イギリス・イスラエルの状況

米国・英国・イスラエルは、それぞれの国情と安全保障戦略に応じて中国製品の排除政策を進めています。

米国は最も強力な締め出しを実行している国です。FCCは2022年11月、Huawei・ZTEについては通信機器全般を、監視カメラ大手のHikvision・Dahua・無線機大手のHyteraについては公共安全・政府施設の警備・重要インフラの物理監視等の用途に限定するかたちで、機器の新規販売・輸入を禁止する規則を採択しました。

当初は新モデルのみが対象でしたが、当サイトで既報のとおり、2026年6月26日には既存の機器認証を遡及的に無効化する新規則が発表され、旧モデルも含めた輸入・販売の禁止措置へと拡大されています。

この規則はあくまで新規の輸入・販売・機器認証を対象とするもので、すでに設置・稼働中の機器の撤去そのものを義務付けるものではない点には注意が必要です。財政面では、ユニバーサルサービス基金(USF)から中国製機器の購入を禁じるとともに、地方キャリアが保有する既存の中国製通信機器を撤去するための予算(Rip and Replaceプログラム)を投じてきました。これに加えて国土安全保障省(DHS)による契約禁止措置や、商務省産業安全保障局(BIS)による輸出管理規則(EAR)を通じた半導体製造技術へのアクセス制限も組み合わされています。外交面では、中国の通信網を切り離し「クリーンな」キャリア・アプリ・クラウド・海底ケーブルのみで世界をつなぐ「クリーンネットワーク」構想を提唱し、多くの同盟国に参加を呼びかけてきました。

英国は当初、ハイリスクベンダーのネットワーク内での使用比率を一定水準に制限する穏健な方針をとっていましたが、米国の対中圧力を受けて方針を転換しました。英国は2020年末までにHuawei製新規5G機器の購入を禁止し、国家サイバーセキュリティセンター(NCSC)の提言のもと2027年末までに既設機器を完全に撤去することを法的義務としており、2022年には35の通信事業者に対して法的な通知(direction)が出されています。一方で、排除に伴う市場の急激な寡占化を防ぐため、2020年に「5G供給網多様化戦略」を発表し、2億5,000万ポンド規模の「オープンネットワーク研究開発基金」を設立して、特定の巨大ベンダーに依存しないオープン仕様の通信規格「オープンRAN」の開発を加速させています。





中立的なテスト環境を提供する「SONIC Labs」の設立や、韓国政府と連携した省電力オープンRAN技術の共同研究開発も進められています。

イスラエルにとって、中国製5G機器の排除は自国の安全保障と、最大の後援国である米国との関係を守るための最優先事項でした。米国政府はイスラエルに対し、Huawei・ZTEがイスラエル国内に5Gネットワークを構築すれば両国間の軍事・インテリジェンス協力が制限されると明示的に警告したと報じられています。イスラエル政府は中国との経済協力関係に配慮し、公式に中国企業を名指しして排除する発表は行っていません。ただしイスラエルの国家安全保障研究所(INSS)の分析では、イスラエルの5Gインフラに中国の技術が採用される可能性は極めて低いと評価されています。イスラエルは自国の高度な技術開発企業群を強みに、欧米の安全なサプライチェーン連合に積極的に参画し、米中対立のバランスを取りながら同盟国としての地位を維持しています。

日本の状況

日本の対応も、中央政府の調達方針から地方自治体、サプライチェーンの各要素へと段階的に浸透してきました。

日本政府は2018年末、政府調達におけるセキュリティ確保の方針を定め、Huawei・ZTEの製品を中央官庁・自衛隊・重要インフラから事実上排除することを決定しています。これを受け、NTTドコモ・KDDI・ソフトバンクといった国内携帯キャリア大手は、5G基地局やコア設備への中国製品の採用を見送る姿勢を固めました。

この中央における排除方針は、2026年に入り地方自治体の現場にまで踏み込んだ規制として導入されることになります。当サイトで既報のとおり、複数の国内報道によれば、2026年4月、総務省は全国の地方自治体に対し、政府がサイバーセキュリティを評価・認証したIT製品(安全認定製品)のみに調達を限定する方針を固めたとされています。報道では、総務省が2026年6月にも省令を改正し、2027年夏から本格的な義務化運用を開始する見通しと伝えられています。認定制度の中核として想定されているのは、IPA(情報処理推進機構)が運営するJC-STAR(IoT製品向けセキュリティ適合性評価制度)ですが、自治体調達制度全体の対象範囲がJC-STARのみで完結するのかは、正式な省令改正の内容を待って確認する必要があります。

この決定が急がれた背景には、地政学的な緊張の高まりがあります。2026年2月24日、中国商務部は三菱重工グループ・川崎重工グループ・防衛大学校・宇宙航空研究開発機構(JAXA)を含む日本の20の企業・団体を輸出規制の「管理リスト」に、SUBARU・TDK・日野自動車等の20の企業・団体を「注視リスト」に、それぞれ追加すると発表しました。

合計40の企業・団体が対象となったこの措置は、日本企業がこのような形で中国の規制リストに名指しされた初めての事例であり、日本政府が佐藤啓官房副長官(当時)を通じて「決して容認できず、極めて遺憾」と強く抗議する事態に発展しています。これは経済的相互依存を他国への圧力手段として悪用する、いわゆる「エコノミック・ステイトクラフト(経済的威圧)」の典型例と位置づけられます。


こうしたインテリジェンス機能の強化を制度面で支えるものとして、2026年5月27日に国家情報会議設置法が成立しています。
内閣総理大臣を議長とする「国家情報会議」と、内閣情報調査室を格上げした事務局「国家情報局」を設置するこの法律は、サイバー攻撃・偽情報拡散といった安全保障上の脅威の変化に対応するための体制強化として位置づけられています。プライバシー侵害への懸念から法曹団体が批判している側面もあり、詳細は当サイトの既報記事で解説しています。

地方自治体や調達を担う公的機関にとって重要なのは、2027年夏の義務化に向けて、サポート年限の明記・署名付きアップデート・ログ取得機能・多要素認証(MFA)対応・ソフトウェア部品表(SBOM)の提供・脆弱性通知体制の確立・インシデント時の国内窓口の整備といった具体的なセキュリティ要件を、調達仕様書に事前に組み込んでいくことです。既存ITアセットの棚卸しと優先順位付けが、業務停止や情報漏洩を避ける現実的な対応となります。

中国製通信機器の高いシェア

これほど深刻な安全保障上のリスクが指摘されているにもかかわらず、中国製通信機器は世界市場で高いシェアを保持し続けている点が、この問題を複雑にしています。市場調査会社Dell’Oro Groupが公開したデータによれば、Huaweiは2025年の通信機器市場において引き続き高いシェアを維持しており、北米市場を除いた地域でのHuaweiの収益シェアは41%に達しているとされています。米国などによる締め出しが徹底されている中国以外の市場に限定してもHuaweiは高いシェアを維持しており、北米市場を除く地域ではHuaweiとZTEを合わせた中国ベンダーのシェアがさらに大きくなるとの分析もあります。



Huaweiがこれほどのシェアを維持できている背景には、地政学的制約の緩い新興国市場への積極的な展開、莫大な研究開発投資に支えられた技術的優位性、そしてブロードバンドアクセス・マイクロ波・光伝送・モバイルコア・RAN・ルーター/スイッチという通信インフラの主要領域すべてでトップクラスの包括的ソリューションを維持している強みがあります。しかし、こうした一部の巨大中国ベンダーによる寡占体制は、サプライチェーンの不透明さやハイリスク国家によるデータ支配のリスクの温床となります
。一方で、これらのベンダーを急激に排除しようとすると、短期的には供給元の選択肢が極めて限定され、サプライチェーンの「もう一つの集中リスク」が発生するというパラドックスも指摘されています。

排除と同時に自国産業として発展させなければならない

中国製機器の単なる排除は一時的なリスク軽減にはつながっても、中長期的な解決策にはなりません。通信機器市場の健全性と国家主権を維持するためには、並行して自国および同盟国における通信技術・製品の開発力を高め、代替サプライチェーンを確立する必要があります。

最大の懸念は「独占と寡占」の弊害です。

中国製ベンダーを排除した結果、世界のキャリアが採用できる完成品ベンダーが欧州の少数企業に集約されてしまうという懸念が指摘されています。この寡占状態は健全な価格競争を阻害し、通信インフラのコスト上昇を招き、次世代通信の普及速度を鈍化させかねません。また、特定メーカーのクローズドな製品パッケージに依存し続けると、再び「ベンダーロックイン」が発生し、そのサプライチェーン内で生じる脆弱性や倒産リスクに対して脆弱なインフラとなる懸念もあります。





そこで重要になるのが「オープンRAN」に代表される、オープンで多様な市場環境の構築です。オープンRANは基地局の構成要素であるハードウェアとソフトウェアを分離し、標準化されたインターフェースで接続することを可能にする通信アーキテクチャです。これにより、通信事業者は単一メーカーからシステム全体を買い揃える必要がなくなり、自社のニーズに合致する最適な組み合わせを構築できます。特定企業や高リスク国家の政治的理由による供給途絶が生じた際にも他社製品への入れ替えが速やかに実行できるため、システム停止へのレジリエンスが向上するほか、オープンな規格ゆえに世界中のセキュリティ研究者による第三者検証が容易になり、バックドア等の不審なコードの検知・修正が迅速化するというメリットも指摘されています。加えて、伝統的な巨大ベンダーしか手がけられなかった市場に、専門性の高いソフトウェア企業や中小の機器ベンダー・半導体メーカーが新規参入できるようになり、通信分野全体のイノベーションが活性化することも期待されています。

こうした通信インフラの構造改革を実現するため、主要国は公的資金を投じて研究開発を後押ししています。米国ではCHIPS及び科学法に基づき、無線サプライチェーンの技術革新を支援する基金が設立され、テスト・評価体制の構築やオープンRU(無線部)の商用展開に向けた研究支援が進められています。日本では経済産業省がNEDOを通じて「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」を実施しており、2025年11月時点で累計164テーマが採択され、光通信・電子部品などの基盤技術の高度化に加え、オープンRANを支える仮想化制御技術や、国内での先端ロジック半導体のシステム設計・製造能力を復活させるプロジェクトが包括的に展開されています。日仏レアアース共同調達協定のような資源分野での「排除と自国産業育成の一体化」戦略とも軌を一にする動きといえます。

結論-経済安全保障時代の通信インフラ戦略

中国製通信機器の排除は、通信データそのものの安全性を守り、地政学的な強要に対抗するために必要不可欠な、主権国家としての自衛の手段です。しかし、単なる締め出し(デカップリング)だけでは、調達コストの上昇や特定ベンダーへの依存深化という別のリスクを招く可能性があります。この構造的なジレンマを乗り越え、真にセキュアで強靭な通信環境を手に入れるためには、「排除と産業育成の一体化」という戦略的なアプローチが欠かせません。オープンRANへの技術的な移行を推進し、同盟国・友好国間の相互依存関係を強化(フレンドショアリング)することは、これからの時代のインフラ運用における必須条件となります。

公的機関や企業の実務担当者においては、2027年夏に予定されている地方自治体向け調達規制の運用開始を契機として、既存IT機器のセキュリティ検証と棚卸しを今すぐ開始すること、そして将来のマルチベンダー環境に対応可能な、高度かつセキュアな調達仕様を確立することが求められます。

出典

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