東京大学教授を懲戒処分、大学院サイトに中国からの閲覧を妨げる文字列を埋め込む 問題の構造と技術的背景

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東京大学教授を懲戒処分、大学院サイトに中国からの閲覧を妨げる文字列を埋め込む 問題の構造と技術的背景

東京大学は2026年8月4日、所属する専攻と研究室のウェブサイトのソースコードに不適切な言葉を書き込んだとして、60代の教授を出勤停止3日の懲戒処分にしたと発表しました。書き込まれていたのは天安門事件に関連するキーワードで、中国当局の検閲システムによって、当該ページが中国国内から閲覧しにくくなる可能性があるとされています。2024年に毎日新聞の報道で表面化して以降、東京大学が進めてきた内部調査の結果、今回の処分に至りました。

この記事のサマリー

  • 東京大学は2026年8月4日、大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻の入試関連サイトのソースコードに不適切な言葉を書き込んだとして、60代の教授を出勤停止3日の懲戒処分にしたと発表しました。
  • 書き込まれていたのは天安門事件を指す「六四天安門」という文字列で、令和2年から令和3年ごろに専攻のサイトに、令和5年11月までに教授の研究室のサイトに、それぞれ書き込まれていたとされています。
  • この種の文字列は、中国当局が運用する検閲システム(いわゆるグレート・ファイアウォール)によって、該当ページが中国国内からアクセスしにくくなる場合があるとされています。
  • 問題は2024年12月、東京大学新聞社(学生新聞)の取材と毎日新聞の報道によって表面化しました。当時、東京大学は既に該当箇所を修正し、内部調査を進めていました。
  • 東京大学の国際学生数は5,104人で、そのうち67%が中国籍の学生とされています(英Times Higher Education報道)。
  • 東京大学新聞社が設けた意見募集フォームには、書き込みを問題視する声のほか、中国当局による検閲体制そのものを批判する意見や、安全保障上の観点から留学生受け入れに慎重であるべきとする意見など、複数の立場からの意見が寄せられました。

整理表

項目 内容
公表日 2026年8月4日
公表機関 東京大学
対象者 60代の教授
処分内容 出勤停止3日(教職員就業規則第39条第3号)
処分理由 教職員就業規則第38条第1項第5号「大学法人の名誉又は信用を著しく傷つけた場合」
書き込まれていた文字列 六四天安門(天安門事件を指す語句)
書き込み時期(専攻サイト) 令和2年~令和3年ごろのいずれかの時点
書き込み時期(研究室サイト) 令和5年11月までのいずれかの時期
対象サイト 大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻および教授の研究室のホームページ
表面化の経緯 2024年12月、東京大学新聞社の取材・毎日新聞の報道により発覚
東京大学の国際学生数(参考) 5,104人、うち67%が中国籍(Times Higher Education報道)

何が起きたか

問題があったのは、大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻が開設していたサイトのうち、入試に関連するページなどのHTMLソースコードです。ソースコードはページの表示内容を規定する設計図にあたる部分で、通常は利用者の目に触れません。ここに、天安門事件を指す六四天安門という文字列が書き込まれていました。

東京大学の発表によると、教授は令和2年から令和3年ごろのいずれかの時点で専攻のホームページのソースコード内に、また令和5年11月までのいずれかの時期に、自身が主宰する研究室のホームページのソースコード内に、それぞれこの文字列を書き込んでいました。

この問題が広く知られるようになったのは2024年12月です。東京大学新聞社(学生新聞)が、インターネットアーカイブに保存された過去のページを調べる中でこの文字列を発見し、毎日新聞も同時期に報道しました。報道当時、東京大学は既にキーワードを埋め込めないようシステムを変更しており、書き込んだ人物の特定に向けた内部調査を進めていました。それから約1年半後の2026年7月29日付で、今回の懲戒処分が行われています。

なぜこの文字列で中国からの閲覧が妨げられるのか

中国当局は、国内から海外の情報にアクセスする際の内容を検閲する仕組みを運用しています。この仕組みは一般に、いわゆるグレート・ファイアウォールと呼ばれています。具体的な手法としては、特定のドメインやIPアドレスを丸ごとブロックする方法のほか、通信内容やページの中身に含まれる特定のキーワードを検知して、該当するページへのアクセスを妨げる方法が知られています。

天安門事件に関連する語句は、この検閲システムが検知対象とする代表的なキーワード群の一つとされています。ページの見た目には表示されないソースコード内の文字列であっても、検閲システムが通信内容やページのソースを走査する過程で検知される場合には、ページ全体が中国国内から閲覧しにくくなる可能性があるとされています。

今回のケースでは、この文字列が入試関連のページに書き込まれていたことから、中国国内にいる受験希望者が、出願に必要な情報を確認できなかった可能性があると指摘されています。

東京大学の対応

東京大学は2024年の報道を受けて、該当箇所を速やかに修正するとともに、内部調査を開始しました。今回の懲戒処分の公表にあたり、山本隆司理事・副学長は、本学教員としてあるまじき行為であり、決して許されるものではないとしたうえで、大学として厳粛に受け止め、再発防止に取り組むとしています。あわせて、2024年の報道当時には、特定の国からのアクセスを妨げる意図で文字列が混入されたのであれば不適切な行為であり大変遺憾であるという趣旨のコメントも、大学の広報担当者から出されていました。

浮かび上がった複数の論点

この問題をめぐっては、複数の異なる立場からの意見が示されています。東京大学新聞社が2024年12月に設けた意見募集フォームには、書き込みを問題視し、大学が掲げる多様性の尊重や包摂性の推進に反するとする意見が寄せられた一方で、そもそもの原因である中国当局の検閲体制そのものを批判する声や、安全保障上の観点から留学生の受け入れ方針を見直すべきだとする意見もあわせて寄せられています。

海外メディアの報道では、大学関係者の一人が、中国籍学生の増加に対する反感が動機の一つとして考えられるとしつつも、これはあくまで推測であり大学が調査を進めている段階だとする匿名のコメントを伝えています。また、東京大学では2019年にも、中国人の採用を拒否する意向を公言した准教授が懲戒解雇された事案があり、今回の件は日中間の緊張が学術分野にも及んでいるとする文脈の中で報じられています。中国人留学生らが、この問題を受けて中国人学生への差別に反対する内容の看板を制作し、キャンパス内で活動したことも報じられています。

情報システム部門にとっての示唆

本件は政治的な背景を持つ事案ですが、組織のウェブサイト運用という観点からも、示唆に富む点があります。

第一に、大学の入試関連ページという重要な公式サイトのソースコードに、個人が長期間にわたり無断で文字列を書き込める状態にあった点です。組織の公式サイトについて、コンテンツの変更履歴や差分を定期的に確認する体制、複数人によるレビューを経てから公開する運用フローが整っているかを、あらためて点検する価値があります。

第二に、発覚のきっかけがインターネットアーカイブ(Wayback Machine等)に保存された過去のページの比較調査であった点です。自組織の公式サイトについて、意図しない改変が過去に行われていないかを、同様の手法で遡って確認することも一つの方法です。

第三に、SEO対策やメタキーワードの設定など、通常は利用者の目に触れないソースコード上の記述であっても、検索エンジンのインデックスや、今回のような検閲システムの挙動に影響を与え得るという点です。ページの見た目だけでなく、ソースコード全体を対象にした定期的な点検体制を持つことは、意図しない設定や第三者による改変の早期発見につながります。

今後注目すべき点

本記事執筆時点で、教授が文字列を書き込んだ具体的な動機については公式には明らかにされていません。今後は以下の点が焦点になると考えられます。

  • 教授本人からの説明や、動機に関する続報の有無
  • 東京大学における再発防止策の具体的な内容と、他の学内サイトへの点検状況
  • 中国国内、および中国人留学生コミュニティからの反応の推移
  • 同様の手口が他の教育機関・組織で確認されるかどうか

出典

懲戒処分の公表について——東京大学

東大、60代教授を懲戒処分 サイトに中国から閲覧しにくい細工——毎日新聞(Yahoo!ニュース掲載)

UTokyo’s Graduate School Admissions Website Controversy Over “June 4 Tiananmen” Keyword——東京大学新聞オンライン

University of Tokyo investigates Tiananmen Square website reference——Times Higher Education