AIとドローンが変える現代戦 米欧・米韓演習から読み解く機甲戦・指揮統制・防空の再設計

インテリジェンス

投稿日時: 更新日時:

AIとドローンが変える現代戦 米欧・米韓演習から読み解く機甲戦・指揮統制・防空の再設計

AIとドローンによる戦場の変化とは、無人機がセンサーと攻撃手段を前線へ大量に分散させ、AIが膨大な映像や位置情報の処理を支援することで、発見、判断、攻撃、効果確認のサイクルが短縮されることです。変化の本質は、AI搭載兵器が人間に代わることではありません。これまで見つからなかった部隊や補給拠点が継続的に監視され、発見後に移動・防護する猶予が短くなった点にあります。

ドイツで実施された米陸軍主導の多国間演習「Combined Resolve 26-07」では、実戦経験を持つウクライナのドローン要員が参加し、米機甲部隊に多数の撃破判定を与えたと報じられました。韓国で行われた米韓合同演習「Freedom Shield 26」でも、偵察・攻撃ドローンを想定した渡河作戦、分散型指揮所、基地防空が組み込まれています。

二つの演習が示すのは「ドローンによって戦車が不要になった」という単純な結論ではありません。

機甲、歩兵、工兵、防空、電子戦、通信、無人機を接続し、敵より速く状況を把握して戦術を更新できる組織が優位に立つという、戦い方の再設計です。

AIとドローンによる戦場の変化のサマリー

  • 小型ドローンの普及により、前線、補給路、指揮所を低コストで継続監視できる範囲が広がっています
  • AIはドローン映像から目標候補を抽出し、位置推定、優先順位付け、射撃案の作成を支援することで、意思決定を短縮します
  • ドローン脅威下では、戦車を含む重部隊にも分散、偽装、電子戦、近距離防空、頻繁な陣地転換が求められます
  • Combined Resolve 26-07では、米陸軍がFPVドローン、偵察、電子戦を組み合わせる専用対抗部隊を投入しました
  • ウクライナ要員が米機甲部隊を短時間で多数の撃破判定に追い込んだことは報道されていますが、米軍は勝敗や損害数を公表していません
  • ウクライナ第412無人システム旅団のAI活用例は別の公式資料で確認できますが、Combined Resolve 26-07でAIが使われたことを示す公開資料はありません
  • Freedom Shield 26では、米韓両軍が模擬ドローン脅威下の渡河、分散型指揮所、基地対ドローン防御を訓練しました
  • 防御側には、レーダー、電波検知、光学センサー、電子的対処、近距離防空、物理防護を重ねる階層型防御が必要です
  • 戦果は破壊数だけでなく、敵に強いた分散、移動停止、通信制限、補給遅延、指揮所移転まで含めて評価する必要があります
  • 今後の優位性を左右するのは、機体の性能だけでなく、センサーから意思決定、火力、効果確認、調達改善までを接続する組織能力です
戦場機能 従来の前提 ドローンがもたらす変化 AI・データ基盤の役割 新たに必要となる能力
偵察・監視 高価な航空機や限定的な偵察部隊が担う 小型機を分散し、低高度から継続監視する 映像の選別、目標候補の抽出、位置推定 偽装、欺瞞、電波・熱・移動のシグネチャ管理
意思決定 情報集約と人手の分析に時間を要する 前線から映像と座標が直接届く 優先順位付け、射撃案、状況図の更新 人間による承認、誤認時の停止、監査ログ
攻撃 少数の高価な精密兵器に依存する FPVなど低コスト手段の攻撃回数が増える 飛行支援、目標追尾、効果分析 電子戦、近距離防空、重要目標の物理防護
指揮統制 大規模な固定指揮所へ情報を集中する 指揮所自体が発見・攻撃されやすくなる 分散拠点間の情報統合と共通状況図 小型・分散・移動型指揮所、代替通信
組織学習 教訓を演習後や作戦後に反映する 攻撃映像と運用データが大量に残る 成功・失敗を比較し、次の調達へ戻す ソフトウェア、戦術、教育を短周期で更新する体制

戦場は「見つからないこと」が難しい空間へ

小型ドローンが戦場にもたらした最大の変化は、空から見る能力を一部の専門部隊から小部隊へ広げたことです。歩兵や砲兵が自らドローンを飛ばし、遮蔽物の裏側、道路上の車列、陣地の出入りを確認できるようになりました。機体を失っても補充できる価格帯で運用できれば、同じ地域を繰り返し監視できます。

この環境では、一度の偽装だけでは十分ではありません。車両の熱、土煙、走行跡、発電機、アンテナ、無線通信、補給車両の往来など、複数の情報を組み合わせることで部隊の存在や役割を推定できるためです。ドローンが直接攻撃しなくても、位置情報を砲兵や他の火力へ渡せば攻撃につながります。

一方、ドローンが増えるほど運用は複雑になります。味方のFPV、偵察用固定翼機、ヘリコプター、砲迫火力が同じ低高度空域を使えば、衝突や誤認、電波干渉が生じます。敵の電子戦によって衛星測位や通信が妨害される状況では、飛行許可、識別、使用高度、飛行回廊を簡潔な手順に落とし込まなければ、味方の無人機が多いこと自体が作戦テンポを下げかねません。

Combined Resolveが示した機甲部隊の新たな脆弱性

Combined Resolve 26-07は、2026年4月9日から5月10日までドイツ・ホーエンフェルスの統合多国籍即応センターで実施されました。7カ国から3,600人超が参加し、米側では第1騎兵師団第3機甲旅団戦闘団が訓練対象となり、第3歩兵師団が上級司令部を担いました。

対抗部隊には、米陸軍のEerie Companyが投入されました。同部隊は2025年12月に設けられ、FPVドローン「Archer Neros」、固定翼型の「eBee Vision」、電子戦、歩兵戦術を組み合わせ、ウクライナ戦争を含む現代的な脅威を訓練環境で再現する役割を担います。

米陸軍が演習前に公開した資料では、ウクライナの小型無人機専門家から実地のフィードバックを受ける計画も示されました。Wall Street Journalは、ウクライナ要員が米軍の車両や兵員を速いペースで発見し、演習統裁官が多数の撃破判定を出したため、撃破扱いとなった部隊や車両を演習へ戻す措置が取られたと報じています。

ただし、これは実戦の損害ではありません。米軍の公式資料は、勝敗、撃破数、損害率、演習統裁規則を公表していません。ドローンが目標を発見した時点で撃破とするのか、実際の弾頭、航続距離、通信維持、迎撃可能性まで評価したのかも公開情報からは判断できません。「米機甲旅団が壊滅した」という表現は、演習上の判定と実際の戦闘損害を混同するおそれがあります。

それでも、重部隊が発する熱、騒音、土煙、無線、補給車列が持続監視にさらされるという問題は残ります。車両の装甲が厚くても、集結地点、燃料補給、整備、橋梁通過、指揮所との通信が可視化されれば、部隊全体の行動を止められる可能性があります。

戦車が不要になったのではなく、単独で生き残れなくなった

ドローンの戦果から「戦車は時代遅れになった」と結論付けるのは早計です。Combined ResolveとFreedom Shieldの訓練内容は、機甲戦力を廃止する方向ではなく、他の機能との統合を強める方向を示しています。

重部隊が生存性を維持するには、車両同士の間隔を広げ、移動と停止のパターンを変え、上空と側面を歩兵が警戒し、電子戦で敵の通信や測位を妨害し、近距離防空で攻撃ドローンへ対処する必要があります。工兵は障害処理や渡河を短時間で行い、補給部隊も小規模に分散しなければなりません。

これは戦車の価値が消えるというより、戦車単体の性能だけでは部隊の価値を測れなくなったことを意味します。装甲、防御力、火力に加え、どれだけ低いシグネチャで移動できるか、ドローンを探知・妨害・迎撃できるか、指揮統制が切断されても行動できるかが重要になります。

AIが変えるのは兵器よりキルチェーンと学習速度

ドローンが大量の映像を収集しても、人間がすべてを監視することはできません。AIの役割は、映像から車両や陣地らしき対象を抽出し、位置を推定し、過去の情報と照合して、対応の優先順位を人間へ提示することです。発見から火力要求までの情報転記を減らせれば、目標が移動する前に対処できる可能性が高まります。

米陸軍のProject Shrikeは、その具体例です。米陸軍によると、Shrikeはドローン映像から目標を検出・識別・位置推定し、砲撃のための射撃案を提示します。従来は分単位だった砲撃要請を秒単位へ短縮し得る一方、提案を承認または拒否する判断は人間に残されています。同システムは2025年のCombined Resolve 25-02などで試験されました。

ウクライナ国防省も2025年7月、当時の第412連隊NEMESISが、ドローン作戦で使用するAIとデジタル戦闘システムをドイツ国防省関係者へ提示したと公表しています。ただし、これらはCombined Resolve 26-07とは別の公表です。同演習でAIによる自動目標認識や射撃支援が使われ、米機甲部隊への撃破判定を決定付けたことを示す公開資料は確認できません。

AIの効果は、判断の高速化だけではありません。どの機体、通信方式、弾頭、地形、部隊運用が成功したかを記録し、次のソフトウェア更新、調達、教育へ戻すことで、組織の学習速度を高めます。一方、誤認識、欺瞞、偏った訓練データ、通信断が起きれば、誤った判断を高速に拡大する危険があります。AIの推奨を人間が検証できる設計、判断根拠と操作履歴の保存、異常時に自動処理を停止する手順が不可欠です。

関連:軍事 ドローンのサプライチェーンに潜む中国依存の深刻な実態と日本の対応とデュアルユースの必要性

米韓Freedom Shield 26が示した防御側の変化

米韓両軍はFreedom Shield 26を2026年3月9日から19日まで実施しました。在韓米軍と韓国合同参謀本部は、近年の紛争教訓と厳しい戦場環境をシナリオへ反映し、連合・統合・全領域作戦と大規模な実動訓練を行ったと説明しています。

3月14日に臨津江周辺で行われた渡河訓練には、韓国陸軍と米第2歩兵師団・米韓連合師団から700人超、K1A2戦車、K200A1装甲車、ストライカーなど200両・基以上が参加しました。韓国軍のKM3自走架橋装備と米軍のImproved Ribbon Bridgeを初めて統合し、渡河から対岸確保、部隊合流までを検証しました。

渡河部隊には模擬ドローン脅威が付与されました。韓国国防日報によると、対抗部隊は偵察・攻撃ドローンを使用し、訓練部隊は分散型指揮所によって指揮の継続性と生存性を点検しました。橋梁や渡河点は人員と車両が集中するため、ドローンによる監視と攻撃を受けやすい場所です。短時間で橋を構築する技術だけでなく、煙幕、偽装、防空、指揮所の分散を同時に機能させる必要があります。

烏山空軍基地では、米空軍第51警備中隊と米陸軍第35防空砲兵旅団が、接近する模擬敵性ドローンをAN/TWQ-1 Avengerで検知、追尾、交戦しました。大型脅威には上位の防空システムを温存し、小型ドローンを近距離防空で処理する階層型防御を確認した訓練です。車載システムが使えない場合には、Stingerを携行チームへ移して防空を継続する手順も訓練しました。

演習後の5月7日には、米第2歩兵師団・米韓連合師団の米兵がCamp HumphreysでFPVドローン課程を受講しました。教室教育、シミュレーター、実飛行を組み合わせ、ドローン技能を一部の専門職だけでなく広い部隊へ浸透させる動きです。

関連:米防衛企業 アンドゥリルが日産 追浜 工場の取得を協議 – 軍用ドローンの超大規模生産拠点に転換する アーセナルJ 構想

ドローンの戦果は「破壊数」だけでは測れない

ドローンによる直接的な戦果は、車両や陣地への攻撃だけではありません。上空から監視されている可能性があるだけで、部隊は車両の間隔を広げ、短時間で移動し、通信を制限し、指揮所や補給拠点を頻繁に移す必要があります。偽装、防空、電子戦へ人員と装備を振り向ければ、本来の任務に使える資源も減ります。

このため、ドローンの効果は少なくとも次の五つに分けて評価する必要があります。

効果 観測する指標の例
直接的な攻撃効果 攻撃、命中、損傷、機能停止、破壊を分けた件数
行動の制約 移動停止時間、分散による進出速度の低下、経路変更
指揮統制への影響 通信停止時間、指揮所の移転回数、代替通信への切り替え時間
防御コストの増加 迎撃弾、電子戦装備、警戒要員、物理防護に必要な資源
組織学習 発見から戦術・ソフトウェア・調達を更新するまでの日数

ウクライナ国防省は、2025年に「Army of Drones.Bonus」で81万9,737件の攻撃結果を映像で確認したと発表しました。内訳には人員、軽装備、重装備、攻撃・偵察ドローンが含まれます。また、敵目標の80%超がドローンで破壊されているとの大統領発言も掲載しています。

これらは交戦当事国であるウクライナ政府の集計であり、第三者が全件を検証した数字ではありません。「映像で攻撃を確認した」ことと、目標の破壊や人員の死傷が確認されたことも同じではありません。ただし、映像、部隊評価、報奨、調達を接続する仕組みは、戦果データを次の戦術と生産へ戻す現代戦の特徴を示しています。

AI・ドローン戦で優位を決める5つの特徴

Combined ResolveとFreedom Shieldの公開情報を踏まえると、AI・ドローン戦の優位性は、単一の高性能機ではなく次の五つの能力で決まります。

  1. 持続的な監視です。安価な機体を交代させながら運用し、相手が移動や補給のために露出する瞬間を捉えます。
  2. 意思決定の短縮です。映像、座標、部隊情報を結び、AIによる候補抽出を使いながら、人間が短時間で対処を決めます。
  3. 消耗を前提とした量です。機体を失うことを前提に、部品、操縦者、通信、弾頭、修理を継続的に供給します。
  4. 攻撃と防御の同時運用です。自軍のドローンを飛ばしながら、敵のドローンを探知、妨害、欺瞞、迎撃し、低高度空域を管理します。
  5. 学習の速度です。作戦データを現場から開発・調達部門へ戻し、ソフトウェア、機体、戦術、教育を短い周期で更新します。

AIはこの循環を加速しますが、センサー、通信、電子戦、火力、補給が接続されていなければ効果を発揮できません。反対に、AIを導入していなくても、分散型のドローン運用と迅速な現場判断によって高い効果を得ることは可能です。「AIを使ったか」だけでなく、情報がどこから入り、誰が判断し、どの手段で対処し、結果をどのように次へ反映したかを見る必要があります。

インテリジェンス評価

公開情報から、現時点では次のように評価できます。

評価 確度 根拠と留意点
小型ドローンと電子戦は、米軍と米韓連合軍の通常訓練へ組み込まれている 高い 米陸軍、在韓米軍、韓国合同参謀本部、国防日報が複数の訓練を公表しています
ドローン脅威は、重部隊に分散、偽装、指揮所の小型化、近距離防空を強制する 高い 欧州の対抗部隊運用と米韓渡河訓練で共通する対応が確認できます
ウクライナ要員がCombined Resolveで米機甲部隊に多数の撃破判定を与えた 中程度 有力報道の関係者証言に基づく一方、公式の勝敗、損害数、統裁規則は非公開です
AIがCombined Resolve 26-07の結果を決定付けた 低い 第412部隊のAI運用経験は別資料で確認できますが、当該演習での使用記録はありません
ドローンの普及によって戦車や有人航空機が不要になる 低い 公開された演習は、有人・無人、機甲、工兵、防空、航空の統合を強化しています

最も重要な兆候は、ウクライナで得られたドローン戦の教訓が、欧州と朝鮮半島の標準的な演習条件へ移されていることです。訓練の焦点は「ドローンを導入するか」から、敵味方の無人機が密集し、通信や衛星測位が妨害される環境でも、移動、補給、指揮、防空を続けられるかへ変わっています。

日本の防衛・重要インフラ部門への示唆

日本の防衛組織や重要インフラ事業者も、ドローンの保有数や個別製品の性能だけでなく、検知から対応までの運用全体を見直す必要があります。

  • 演習や対策の評価を「何機飛ばしたか」「何台導入したか」ではなく、探知、識別、判断、対処、効果確認に要した時間で測る必要があります
  • 対抗訓練では、ドローン、電子戦、サイバー、欺瞞を組み合わせ、通信や衛星測位が使えない条件を標準化する必要があります
  • 重要拠点は、レーダー、電波検知、光学センサー、電子的対処、近距離防空、ネットや遮蔽物などの物理防護を階層化する必要があります
  • 指揮所、データセンター、通信拠点、燃料・物流拠点は、分散、移動、偽装、代替通信を前提にし、電波や熱を含むシグネチャ管理を運用指標に加える必要があります
  • 味方ドローンの増加に備え、低高度空域、機体識別、飛行許可、有人機との優先順位を簡潔な手順として整備する必要があります
  • AIには候補抽出と推奨を担わせ、最終判断、停止権限、監査ログ、誤認時の検証責任を人間側に残す必要があります
  • 戦果や対策効果を評価する際は、攻撃、命中、損傷、機能停止、破壊を区別し、映像やAI出力だけで結論を出さないことが重要です

AIとドローンは、単独で戦争の勝敗を決める万能技術ではありません。しかし、戦場を継続的に可視化し、発見から対処までの猶予を短くし、現場のデータを次の改善へ戻すことで、部隊の行動様式を変えています。今後の優位性を決めるのは、高価な装備の有無だけではなく、敵より速く学び、戦術、ソフトウェア、調達、教育を更新できる組織能力です。

出典