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7月から8月にかけては、保険業界で退職者による顧客情報の持ち出しが相次いで刑事事件に発展したほか、AppleとOpenAIという著名IT企業同士が営業秘密の不正取得を巡って正面から対立するという異例の展開もありました。国内では公務員による内部不正が目立ち、神奈川県警の警部補による暴力団への捜査情報漏洩、航空自衛隊岐阜基地の隊員によるSNSへの部内限り情報投稿、千葉県君津市の消防士による庁内システムへの不正アクセス、静岡県長泉町職員による公文書の無断持ち帰りと、地方公務員から自衛隊員まで幅広い立場での職権悪用・守秘義務違反が続きました。企業間でも、アイフルとライフカードのグループ内における信用情報の目的外利用が発覚するなど、外部からの攻撃ではなく組織内部の人間・グループ企業間の情報管理の問題が引き続き表面化しています。
2026年に発生した主要な情報漏洩事例を年間で確認したい方は「2026年 サイバー攻撃・情報漏洩の最新事例」をご覧ください。
目次
2026年7月・8月 情報漏洩(機密情報・営業秘密)事例インシデント一覧
| 公表日 | 組織・対象名 | 被害の概要 | 件数・特記事項 |
|---|---|---|---|
| 8/27(処分8/25) | 静岡県長泉町 | 職員が公文書約2万枚を無断で自宅へ持ち帰り懲戒免職 | 個人情報含む、流出は未確認 |
| 8/18(事案8/17) | アイフル・ライフカード | 信用情報を保険案内の選定にグループ内で目的外利用 | 対象94万6,056件、外部漏えいなし |
| 7/24 | 神奈川県警(警部補) | 暴力団組員へ捜査情報を漏洩、地方公務員法違反 | 停職6か月、家宅捜索・逮捕状情報 |
| 7/22(処分) | 航空自衛隊岐阜基地 | 空士長が部内限り情報をSNSに複数回投稿、コミケで書籍販売 | 停職8日、自衛隊法違反 |
| 7/22(逮捕7/21) | 山形県警(損保代理店) | 元代理店関係者4名を営業秘密領得の疑いで逮捕 | 約5,000件、被害額約2億円 |
| 7/21 | 千葉県君津市消防本部 | 消防士長が他者の認証情報を無断使用し人事情報を閲覧 | 戒告処分、地方公務員法違反 |
| 7/17(逮捕7/16) | アクサ生命保険 | 元従業員が顧客情報を持ち出し転職先で悪用、逮捕 | 契約者・受取人情報が対象 |
| 7/13 | Apple、OpenAIを提訴 | 未発表ハードウェア事業の営業秘密不正取得を主張 | 元Apple社員2名も被告 |
退職者による営業秘密持ち出し
アクサ生命保険、顧客情報を持ち出した元従業員が逮捕
アクサ生命保険株式会社は7月16日、2025年9月25日に公表していた元従業員による顧客情報漏えい事案について、当該元従業員が不正競争防止法違反の容疑で兵庫県警察に逮捕されたと公表しました。2024年8月に退職した元従業員が在籍中に社外秘の顧客情報を無断で持ち出し、同じく2024年6月に退職していた元同僚(保険募集代理店に転職済み)へ漏えいしていたもので、情報を受け取った側は2025年1月、転職先の保険募集活動でこの顧客情報の一部を実際に使用していたことが判明しています。公表から逮捕まで10か月近くを要しており、社内調査で不正が判明してから刑事事件として立件されるまでの時間の長さがうかがえます。契約者氏名・保険金受取人氏名・契約内容といった機微な情報が、退職後も別の営業活動に転用されるリスクがある以上、退職時の誓約書だけに頼らず、業務上取得した顧客リストへのアクセスログを退職後も一定期間追跡できる体制が有効な抑止力になります。
▶ 詳細記事:アクサ生命保険、顧客情報を持ち出した元従業員が不正競争防止法違反容疑で逮捕
山形県警、損保代理店の元関係者4人を逮捕
山形県警は7月21日、不正競争防止法違反(営業秘密領得)の疑いで、山形県内の損害保険代理店に勤務していた武田剛容疑者(62)ら4人を逮捕しました。逮捕容疑は2024年9月8日から30日にかけて、当時勤務していた代理店から損保会社が管理するコンピューターへアクセスし、顧客情報約5,000件を不正に取得したというものです。4人は2024年10月ごろから県内の別の保険代理店に再就職しており、県警は転職先での顧客情報の使用を視野に捜査を進めています。発覚の端緒は、解約が相次いだ元の代理店が2025年6月に県警へ相談したことで、情報を管理していた損保会社の代理店側は解約による被害額を約2億円と申告しています。在職中に正規のアクセス権限を用いて取得した情報であっても、退職後の競合での利用を目的としていたと認められれば不正競争防止法上の「営業秘密領得」に該当する点は、保険業界に限らず顧客リストを扱う業種全般に共通する注意点です。
▶ 詳細記事:損保顧客情報5千件を不正取得か、山形県警が元代理店関係者ら4人を逮捕
公務員の職権悪用・守秘義務違反
神奈川県警、警部補が暴力団組員へ捜査情報を漏洩
神奈川県警は7月24日、川崎警察署に勤務する男性警部補(52歳)を地方公務員法違反(守秘義務違反)の疑いで書類送検し、同日付で停職6か月の懲戒処分としたと発表しました。警部補は2025年10月23日から30日ごろにかけて、知人の暴力団組員に対し、別の暴力団組員が容疑者となる事件の家宅捜索や逮捕状に関する情報を電話などを通じて事前に漏らしていた疑いが持たれています。動機について「捜査情報を教えることで、個人的に暴力団に対する優位性を保ちたかった」と説明しており、金銭の授受は確認されていません。見過ごせないのは発生時期で、神奈川県警は2025年春以降、捜査員による暴力団関係者への連絡を禁止する指示を出していましたが、今回の行為はその指示の後に発生しています。家宅捜索・逮捕状という情報は事前に対象者へ伝われば証拠隠滅や逃亡に直結する極めて深刻な内容であり、金銭目的ではなく人間関係上の優位性を動機とする情報提供は、資金の流れからの検知が働かないため、通信記録の監査や担当者のローテーションといった行動を物理的に制約する仕組みが必要になります。
▶ 詳細記事:神奈川県警の警部補が暴力団組員へ捜査情報を漏洩
航空自衛隊岐阜基地、空士長が部内限り情報をSNSに投稿しコミケで書籍販売
航空自衛隊岐阜基地は7月22日、装備品試験・研究開発を担う飛行開発実験団整備群に所属する空士長が、職務上知り得た部内限りの情報をXを含む3つのSNSに複数回投稿したとして、停職8日の懲戒処分を行ったと発表しました。投稿は2023年12月から半年間にわたって行われており、さらに同時期に2度、自身が制作した書籍をコミックマーケットで販売する自衛隊法違反行為も確認されています。書類送致は2024年11月29日で、そこから懲戒処分の確定まで約1年8か月を要しました。本人は動機について「趣味・趣向に基づく好奇心や自己顕示欲を満たすためだった」と説明しており、金銭目的でも外部からの依頼でもない点が特徴です。同部隊は次世代戦闘機の実証試験など防衛力整備の根幹に関わる情報を扱うだけに、投稿内容自体は非公開とされていますが、情報の格付け(部内限り等)が職員個人にどこまで正確に理解されているかという教育面の課題を浮き彫りにする事案です。
▶ 詳細記事:航空自衛隊 飛行開発実験団の空士長が部内限り情報をSNSに複数回投稿し情報漏洩の恐れ
千葉県君津市、消防士長が他者の認証情報を無断使用し人事情報を閲覧
千葉県君津市消防本部は7月21日、消防署の男性消防士長(31歳)が庁内情報システムに不正アクセスしていたとして戒告の懲戒処分を行ったと発表しました。以前の業務で知り得た他所属のID・パスワードを無断で使用し、閲覧権限のない人事関連の内部情報を、自身の異動先を事前に把握する目的で閲覧していたものです。異動情報の取得には至らなかったものの、続けて幹部職員の個人IDでのログインを試み、パスワードの誤入力でアカウントがロックされたことが発覚の直接の契機でした。最初の不正アクセス自体はシステム側で能動的に検知されておらず、有効な認証情報を使われた場合は正規のログインと区別がつかないという構造的な弱点が浮き彫りになっています。業務終了時に認証情報を確実に変更・無効化する運用と、認証と認可を分離したロールベースのアクセス制御が、同種被害を防ぐ基本的な対策です。
▶ 詳細記事:千葉県君津市の消防士が庁内情報システムへ不正アクセス
静岡県長泉町、職員が公文書約2万枚を無断で自宅へ持ち帰り懲戒免職
静岡県長泉町は8月25日、廃棄対象の公文書を無断で自宅へ持ち帰り、町のコピー機を私的に利用するなどした教育委員会の女性主査を懲戒免職にしたと公表しました。持ち帰った文書には個人情報を含むもののほか、町の意思決定・財務事務に関する文書も含まれていましたが、公文書そのものの外部流出は確認されていません。報道によれば持ち帰られた公文書は約2万枚に及び、うち約1万2千枚は個人的に借りた小説の複写用紙として、勤務時間外に町のコピー機の裏面が使われていたとされています。廃棄予定の文書であっても正式な廃棄処理が完了するまでは組織の管理対象であり、職員が個人の判断で持ち出せるものではないという原則が、実際には長期間見過ごされていたことになります。機密性の高い意思決定文書・財務文書の管理という観点からも、廃棄プロセスの物理的な統制がアクセス権限管理と同じくらい重要であることを示す事例です。
▶ 詳細記事:静岡県長泉町職員、公文書約2万枚を無断で自宅へ持ち帰り懲戒免職
グループ内での機密情報の目的外利用
アイフル・ライフカード、信用情報を保険案内の選定に不適切利用
アイフル株式会社とグループ会社のライフカード株式会社は8月17日、指定信用情報機関から取得した顧客の信用情報を、保険商品の案内対象者を選ぶ目的で利用していたと公表しました。信用情報は返済能力の確認などに限って利用すべきところ、アイフルが2024年6月から7月にかけて分析した17万1,032件と、案内対象者情報として2024年7月から2026年1月にかけてライフカードへ提供した88万824件(重複除外後の合計94万6,056件)を、保険商品のマーケティングという別目的に使っていました。両社グループ外への漏えいや信用評価への影響は確認されておらず、内部監査部門の調査で発覚しています。本件は不正な持ち出しではなく、正規の権限で行われたデータ分析・グループ内連携が利用目的を外れたことで発生した点が特徴です。データ項目ごとに取得元・利用目的・提供可能な相手を台帳化し、提供側だけでなく受領側にも利用目的の確認を義務付けるといった、権限内での目的外転用を防ぐ統制が必要になります。
▶ 詳細記事:アイフル、信用情報を保険案内の選定に不適切利用
海外動向
Apple、OpenAIを営業秘密窃取で提訴
米Appleは7月10日、米OpenAIおよび元Apple社員2名(Tang Tan氏、Chang Liu氏)を相手取り、営業秘密の不正取得と契約違反を理由に米カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所へ提訴しました。Appleは、OpenAIが開発中の未発表の消費者向けハードウェア事業のために自社の営業秘密が組織的に窃取されたと主張しています。Tan氏はAppleでiPhone・Apple Watchのプロダクトデザイン担当副社長を24年間務めた人物で、かつて生成AIの統合を巡って協業関係にあった両社が法廷で正面から対立するという異例の展開です。国内事案ではありませんが、退職した経営幹部・技術幹部が競合他社へ転じる際の情報管理という論点は、日本企業にとっても他人事ではありません。採用面接時の情報提供の範囲や、退職時のセキュリティ対応(社内ネットワークへのアクセス権限の即時停止等)を、経営層・技術幹部クラスでどこまで厳格に運用できているかが問われる事案です。
▶ 詳細記事:AppleがOpenAIを営業秘密窃取で提訴
まとめと対策のポイント
退職者による営業秘密の持ち出しは、発覚から立件まで長期化する前提で監視体制を設計する必要があります。 アクサ生命保険の事案では公表から逮捕まで10か月、山形県警の事案でも代理店からの相談から逮捕まで1年以上を要しています。退職時の誓約書だけに頼らず、業務上取得した顧客情報へのアクセスログを一定期間追跡できる仕組みが、事後の事実確認を早める鍵になります。
金銭目的ではない情報漏洩は、財務監査では検知できないことを前提に対策する必要があります。 神奈川県警や航空自衛隊岐阜基地の事案のように、人間関係上の優位性の保持や自己顕示欲といった非金銭的な動機による漏洩は、資金の流れを追う監査では発見できません。通信記録の監査、SNS投稿に関する具体的な禁止事項の周知、アクセスログの異常検知体制が対策の中心になります。
正規の権限内で行われるデータ利用・グループ内連携にも、目的外利用を防ぐ承認プロセスが必要です。 アイフル・ライフカードの事案や千葉県君津市の事案のように、不正な持ち出しを伴わなくても、当初の取得目的から外れた利用は重大な問題になります。データの利用目的と提供・受領範囲を事前に確認・承認するプロセスを、現場任せにしない統制として設計する必要があります。
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投稿者:三村
セキュリティ製品を手がける上場企業にて、SOC(セキュリティオペレーションセンター)運営およびWebアプリケーション脆弱性診断の営業に8年間従事。その後、システムエンジニアへ転身し、MDMや人事系SaaSの開発に携わる。
8年の実務経験と開発者としての知見を活かし、「セキュリティ対策Lab」ではダークウェブ調査、セキュリティインシデントの分析、および高度なセキュリティ対策解説の執筆・編集を統括しています。
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