ウクライナのドローン攻撃を受け、ロシアのIT大手Yandex(ヤンデックス)のデータセンターが相次いで停止しました。2026年10月9日、Yandexはリャザン州サソヴォの拠点が全面停止し、カルーガ州の拠点も一部停止したと公表。11日にはウラジーミル州の施設でも停止が報じられています。
同時期にはYandexのネットワークから発生する自動通信も大幅に減少しました。データセンターへの物理攻撃が、検索・クラウドサービスだけでなく、AIの計算基盤や情報流通に及ぼす影響が見え始めています。
Yandexのデータセンター攻撃とサービス障害の概要
- 9月23日:ロシア軍の攻撃で、ウクライナ・キーウ周辺のデータセンターや通信設備が被害を受け、約10万世帯のインターネット接続に影響。
- 10月8日:Yandexのサソヴォ拠点がドローン攻撃を受け、全面停止。
- 10月8日:ゼレンスキー大統領が、ロシアによるデータセンター攻撃への対抗措置だと説明。
- 10月9日:Yandexがカルーガ拠点の一部停止も公表。
- 10月11日:ウラジーミル州の別拠点でも停止が報じられる。
- 10月11日:英国の分析で、Yandexの主要ネットワークからのHTTP通信が基準期間比約94%減少。
ロシアによる通信インフラ攻撃にウクライナが対抗
ウクライナでは9月23日、キーウ周辺のデータセンターや通信設備がロシア軍の攻撃で損傷しました。約10万世帯の通信障害については、セキュリティ対策Labのキーウのデータセンター攻撃に関する記事でも報じています。
ウクライナ大統領府は9月25日、通信インフラの防護強化に向けた措置を発表。10月8日にはゼレンスキー大統領が、ロシア側のデータセンターに対する攻撃を、ウクライナへの攻撃に対する「鏡写しの対応」と位置付けました。
サソヴォで全面停止、カルーガとウラジーミル州にも被害
Yandexによると、10月7日から8日にかけての夜間、サソヴォのデータセンターが深刻な損傷を受け、施設全体の稼働を停止しました。9日朝にはカルーガ拠点も攻撃され、設備の一部が使用できなくなりました。両施設の従業員に負傷者はいないとしています。
被害は同社のサービスやインフラに依存する外部事業者にも波及しました。Financial TimesやReutersは複数のWebサービスで障害が発生したと報道。さらに11日には、ウラジーミル州のデータセンターも停止したと伝えられています。
AIスーパーコンピューターへの影響とGPU調達の壁
サソヴォ拠点には、YandexがAIモデルの開発に使用するスーパーコンピューター3基のうち2基が置かれていると報じられています。同社が公開した技術資料には、NVIDIA A100 GPUを使用する計算基盤が紹介されています。
仮にGPUや周辺機器の交換が必要となれば、ロシアへの半導体・高性能機器などの供給を制限する英国の対ロ制裁が、復旧の障害となり得ます。通常のサーバーとは異なり、AI向け計算設備は同等の機器を調達するだけでも時間とコストを要します。
Yandexは設備の状態を調査しており、具体的な復旧時期は示していません。停止した施設内のGPUそのものがどの程度損傷したかは、今後の復旧規模を左右します。
Yandexの自動通信が約94%減少
データセンターへの攻撃と前後して、Yandexのネットワークから送信される通信にも大きな変化が生じました。
英国の金融情報メディアValdransは、Cloudflare Radarのデータを基に、Yandexの主要ネットワーク「AS13238」のHTTP通信が9月14~30日の平均に比べ、10月8日に約25%、9~10日に約35%、11日には約94%減少したと分析しています。
Yandexは検索エンジンを運営しており、その通信には検索結果を更新するためのWebクローラーなど、機械による大量のアクセスが含まれます。施設停止と同時期にこうした通信が急減したことは、データセンター障害が外部ネットワークへ広く波及したことを考える上で重要な指標です。
ロシアの情報工作にも影響する可能性
英国外務・英連邦・開発省(FCDO)は、ロシア政府と関係する組織がSNSのBOT、偽ニュースサイト、AI生成コンテンツを組み合わせて情報工作を展開していると指摘しています。
Yandexのような大規模な検索・クラウド基盤の停止は、Web情報の収集や自動投稿、コンテンツ生成などの処理にも影響し得ます。ロシア系の情報工作ネットワークが関連インフラに依存していれば、X(旧Twitter)上での発信頻度や運用にも変化が生じる可能性があります。
ただし、Cloudflare Radarが示す約94%の減少はYandexのネットワーク通信量であり、Xの情報工作アカウント数や投稿数の減少を測定した数値ではありません。情報工作への波及を評価するには、対象アカウントの投稿頻度などの継続的な観測が必要です。
データセンターへの物理攻撃が示すクラウド・AI基盤のリスク
今回の事案は、サイバー攻撃によるシステム侵害とは異なり、施設への物理攻撃によって検索・クラウド・AI関連サービスが連鎖的に停止したケースです。
企業側でも、クラウドやAIサービスの依存先が特定の施設に集中していないか、障害時に別リージョンへ切り替えられるか、データと計算能力の両方を復旧できるかを確認する必要があります。特に高性能GPUを使うAI基盤では、データのバックアップだけでは元の処理能力を再現できず、機器調達や地政学上の制約が復旧期間を左右します。
出典
- ゼレンスキー大統領、Yandexデータセンターへの攻撃を「鏡写しの対応」と説明(2026年10月8日)―Ukrinform
- データセンター・通信インフラの保護強化を決定(2026年9月25日)―ウクライナ大統領府
- Ukraine strikes Russian tech giant’s data centres(2026年10月10日)―Financial Times
- Yandexデータセンター被害に関する公式発表(2026年10月9日)―Yandex
- Yandex Supercomputers―Yandex
- ロシア対外情報工作への英国の対応―英国外務・英連邦・開発省
- Russia sanctions: guidance―英国政府
- Countering Russian sanctions evasion: guidance for exporters―英国政府
- Cloudflare Radarを用いたYandex通信量分析(2026年10月11日)―Valdrans
- Bot Traffic from AS13238―Cloudflare Radar
- Bot vs. human trafficの分類方法―Cloudflare Radar
- ウラジーミル州Yandexデータセンターの停止(2026年10月11日)―Reuters








