英国のアンディ・バーナム首相は2026年10月、2016年のEU(欧州連合)離脱をめぐる国民投票について、ロシアによる介入があったとの認識を明らかにしました。英国のポッドキャスト番組「The Rest Is Politics」のインタビューで述べたもので、英ITV News、Reuters、The Guardianなどが10月11~12日に報じています。
バーナム首相は、2026年7月の首相就任後、2016年の国民投票へのロシアの介入について政府内で確認したところ、介入があったという明確な回答を得たと説明しました。ただし、その回答を示した機関、情報の内容、具体的な介入手法は公表していません。また、ロシアの活動によって国民投票の結果が変わったと証明されたわけでもありません。
今回の発言は、2020年に英国議会の情報安全保障委員会(ISC)が指摘した調査の不足を踏まえ、2016年の問題を改めて公の場に持ち出したものです。
ロシアによる英国EU離脱国民投票への介入をめぐる主な事実
- 2016年6月23日、英国のEU離脱国民投票が行われ、離脱51.9%、残留48.1%となりました。
- 2020年7月、英国議会のISCは、ロシアによる国民投票への介入可能性について、政府が十分に調査・評価していなかったと指摘しました。
- 2020年当時の英国政府は、国民投票に対する「成功した介入」の証拠は確認していないと説明していました。
- 2026年10月、バーナム首相は2016年の国民投票へのロシアの介入があったとの認識を公表しました。
- 発言の根拠となった情報資料や具体的な攻撃・工作の手法は公表されていません。
- 10月12日には英国のスティーブン・ドーティ外務省閣外相が、ロシアの介入の試みは成功していないとの認識を示したと英ラジオ局LBCなどが報じました。
- 英国政府は現在、偽ニュースサイト、偽造文書、SNS上のボットなどを用いるロシアの情報操作活動を公的文書で具体的に指摘しています。ただし、2026年に公表された手法を2016年の国民投票にそのまま当てはめることはできません。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 新たな発言 | 2026年10月11~12日に報道 |
| 発言者 | 英国のアンディ・バーナム首相 |
| 対象 | 2016年6月の英国EU離脱国民投票 |
| 発言内容 | ロシアによる介入があったという回答を政府内で得たと説明 |
| 判断根拠 | 情報提供元・証拠資料・具体的手法は非公表 |
| 投票結果への影響 | 介入によって投票結果が変わったとは確認されていない |
| 英国の過去の対応 | 2020年ISC報告書が事後評価の不足を批判 |
| ロシア側の立場 | ロシア政府は従来、英国のEU離脱国民投票への介入を否定 |
バーナム首相「政府内で確認し、介入があったとの回答を得た」
英国のITV Newsが伝えたインタビューによると、バーナム首相は首相官邸に入った際にロシアによる2016年の国民投票への介入について質問し、介入があったとの明確な回答を受けたと述べました。
首相は今回の発言について、ドイツやフランスの有権者にも、外国から民主的な政治過程に働きかける活動の存在を知ってもらう意義があると説明しています。欧州各国での政治的な影響工作を念頭に置いた発言です。
一方、発言したという事実と、介入の内容が公開資料によって検証可能であることは別です。英国のReutersやThe Guardianは、首相が情報の提供者や証拠を明らかにしていない点を報じています。
10月12日には、スティーブン・ドーティ外務省閣外相が英ラジオ局LBCのインタビューで、ロシアは干渉を試みたものの成功しなかったとの認識を示しました。首相の「介入があった」という説明と「結果を左右したかどうか」は、英国政府内でも区別されています。
2020年の英国議会報告書は何を指摘していたのか
2016年のEU離脱国民投票を巡るロシアの関与は、今回初めて提起された問題ではありません。
英国議会の情報安全保障委員会(ISC)は2020年7月に「Russia Report」を公表し、英国の民主的な政治過程に対するロシアの影響工作について、政府や情報機関が問題の評価に十分取り組んでいなかったと批判しました。
特にEU離脱国民投票については、政府から国民投票後の包括的な介入評価が提供されていない点を問題視し、情報機関による評価と、その公開可能な要約の公表を求めました。
これに対し、当時の政府は2020年9月、英国議会請願サイトに掲載した公式回答で、EU離脱国民投票への「成功した介入」を示す証拠は確認していないと説明。過去の国民投票について遡及的な評価を公表する計画はないとの立場を示していました。
したがって、2020年の議会報告書だけで「2016年の離脱結果はロシアによって作られた」と結論づけることはできません。今回の首相発言が従来と異なるのは、政府のトップが介入の存在について肯定的な判断を表明した点です。
英国政府が警戒するロシアの情報戦―偽サイト、ボット、偽造文書
英国外務・英連邦・開発省(FCDO)は2026年7月13日更新の政策文書「UK action against Russian foreign information warfare」で、ロシアによる外国情報操作・干渉(FIMI)の実態と関連組織への制裁を整理しています。
同文書は、信頼できるメディアを装う偽サイトやSNSアカウント、偽造文書、AIで作成したコンテンツなどを使い、政治的な対立や不信を広げる手法を指摘しています。
具体例として、英国政府は「Doppelgänger」と呼ばれる情報操作ネットワークについて、実在する報道機関のサイトに似せたページを作り、偽造された内容を拡散する活動を説明しています。関与が指摘されたSocial Design Agency(SDA)などに対しても制裁を実施しています。
また、政府の同文書は「Rybar」や「Storm-1516」などのネットワークにも言及し、出所を隠したメディアアカウント、偽の調査報道、AI生成コンテンツ、偽サイトなどを利用する活動を記載しています。
こうした活動は現在のロシアの情報操作を理解するための資料ですが、これらの組織が2016年のEU離脱国民投票に関与したと今回の発言で認定されたわけではありません。 国民投票への介入の詳細と、その後に政府が帰属した個別の情報操作は区別する必要があります。
外国からの政治介入に対する英国の制度的対応
英国では2023年の国家安全保障法(National Security Act 2023)によって、外国の国家に関連した干渉などを取り締まる法的な仕組みが整備されています。
2026年3月には、外国からの資金提供と英国政治への干渉を対象とする独立レビュー「Rycroft Review」が公表されました。同レビューは、外国からの不透明な資金の流入、政治活動への影響力行使、監視・執行体制などを検証し、17項目の提言を示しています。
今回の首相発言は、EU離脱そのものの評価に加えて、外国からの政治的な影響工作への対応と、情報機関による分析をどの範囲まで公開するかという問題も浮かび上がらせました。
日本の企業・メディアが確認したい情報操作への対策
外国による情報操作では、ネットワークへの不正侵入がなくても、偽サイトやSNS上の偽装アカウントを通じて企業や公的機関の信用が利用されることがあります。
報道機関や企業の情報システム・広報部門では、自社の公式サイトと酷似したドメインの出現、実在しないプレスリリースの流通、なりすましアカウントの活動などを監視対象にできます。疑わしい情報が広まった場合には、公開元の真正性と一次資料を確認し、必要に応じて訂正や削除申請につなげる体制が考えられます。
今回の英国首相発言は、日本の選挙や企業に対する特定のロシアの介入を新たに認定したものではありません。一方、英国政府が公開したDoppelgängerなどの活動手法は、政治・安全保障に関する情報の発信元を検証する際の参考になります。
関連:ロシア政府系メディア「Sputnik」と情報操作の背景
出典
- Burnham says it is ‘clear’ Russia interfered in Brexit referendum — ITV News(2026年10月12日)
- UK PM Burnham says Russia interfered in 2016 Brexit vote — Reuters(2026年10月11日)
- Andy Burnham says it is clear Russia interfered in Brexit vote — The Guardian(2026年10月11日)
- Russian efforts to meddle in Brexit vote were unsuccessful, minister tells LBC — LBC(2026年10月12日)
- Burnham to urge MPs to support drive for closer EU relationship — ITV News(2026年10月12日)
- Russia Report — Intelligence and Security Committee of Parliament(2020年7月21日)
- Government response to petition on potential Russian interference in the EU referendum — UK Parliament/Cabinet Office(2020年)
- UK action against Russian foreign information warfare — Foreign, Commonwealth & Development Office(2026年7月13日更新)
- The Rycroft Review: Countering foreign financial influence and interference in UK politics — UK Government(2026年3月25日)
- Report: 23 June 2016 referendum on the UK’s membership of the European Union — Electoral Commission








