中国の人口が2100年に約3億2,000万人まで減少するという見通しが注目されています。発端は、中国出身の人口研究者・易富賢(Yi Fuxian)氏が2026年に示した独自推計です。ただし、これは中国政府や国連が採用した人口予測ではありません。国連の「世界人口推計2024年版」は、同じ2100年の中国人口を約6億3,337万人と推計しており、両者には約3億1,000万人の開きがあります。
一方、中国国家統計局が公表した2025年末の人口は14億489万人で、前年末から339万人減少しました。出生数の減少と高齢化は、推計モデルの違いにかかわらず確認できる現実です。人口構造の変化は中国の労働力、社会保障財政、製造業や軍の人材確保に影響を与えます。ただし、「人口減少が中国の軍事行動を早める」「近く中国経済が崩壊する」といった結論は、人口統計だけからは導けません。
中国の人口減少と経済安全保障のサマリー
- 中国国家統計局による2025年末人口は14億489万人。前年末比339万人減で、出生792万人に対し死亡は1,131万人でした。
- 同年末の60歳以上人口は3億2,338万人(23.0%)、65歳以上は2億2,365万人(15.9%)。16~59歳人口は8億5,136万人(60.6%)でした。
- 易富賢氏の「2100年に3億2,000万人」は、中国の現在人口が政府統計より約1億3,000万人少ないとの見方と、今後の低出生率を前提とした独自予測です。過大計上の主張も含め、公式に確認された事実ではありません。
- 国連「World Population Prospects 2024」の中位推計は、2100年の中国人口を6億3,336万8,113人としています。
- 米RANDは2026年、人口高齢化が社会保障、経済成長、長期的な軍事人材の確保に影響すると分析。一方、兵員不足は直ちに顕在化する問題ではなく、自動化や技術投資による補完も可能としています。
- 台湾国家発展委員会も2026年8月、台湾自身の人口が中位推計で2075年に約1,215万人へ減少すると発表しています。これは中国本土の推計ではありません。
- 英国政府は台湾海峡の安定と供給網の強靱性を安全保障課題と位置付けています。中国の人口減少だけを根拠に、対中依存リスクが縮小すると判断することはできません。
「3億2,000万人」説と国連推計の違い
| 指標 | 人口・数値 | 性格と対象時点 |
|---|---|---|
| 中国国家統計局 | 14億489万人 | 2025年末の中国本土人口の政府統計 |
| 国連・中位推計 | 約6億3,337万人 | 2100年の中国人口推計、WPP 2024 |
| 易富賢氏の独自予測 | 約3億2,000万人 | 2100年の中国人口を想定した研究者のシナリオ |
| 易富賢氏による政府人口統計への疑義 | 約1億3,000万人の過大計上を主張 | 同氏の見解であり、独立して確定された実人口との差ではない |
易氏は、学校の入学・卒業者数、予防接種や出生・死亡に関する統計、戸籍情報、地方と全国の数値などを突き合わせ、中国の人口統計は従来考えられているより過大であると主張しています。これを基礎人口と出生率の仮定に反映させ、2100年に約3億2,000万人という見通しを示したと、同氏の研究を取材した米ニュースメディア『Newsweek』関係者の解説で紹介されています。
国連の中位推計も、中国人口が今世紀末までに大幅に減少するという方向では一致しています。争点は人口減少の有無ではなく、現在人口の推定値、将来の出生率と減少の速度です。
中国国家統計局が示す2025年の出生減と高齢化
中国国家統計局の2025年国民経済・社会発展統計公報では、出生数792万人、死亡数1,131万人で、自然減は339万人でした。人口全体ではなお14億人を超え、16~59歳人口も8億5,136万人に上りますが、高齢層の比率は上昇しています。
同局は2026年1月の人口統計解説で、豊富な労働力、高度化する教育水準、人口の都市集中などを、中国の経済発展を支える要素として強調しています。2025年の実質GDP成長率は政府統計で5.0%でした。人口減少をもって、直ちに経済活動全体が縮小したとみなすことはできません。
一方、出生数の低迷が続けば、将来の新規就業者が減り、地方の公共サービス、医療・介護、年金支出を現役世代が支える構造に負担が生じます。生産年齢人口だけではなく、実際の就業率、生産性、教育水準、地域間の人口移動を合わせて見る必要があります。
経済安全保障への影響――労働力減少と製造業の競争力は別問題
人口高齢化による負担は、まず国内市場の構成と財政に表れます。若年層の減少は住宅・教育・育児関連需要に影響し、高齢者の増加は医療・介護需要を押し上げます。地方による状況の差も大きく、中国の市場を一括して「縮小する市場」とみなすことは適切ではありません。
輸出産業では、生産人口の減少がそのまま工場の供給能力低下につながるとは限りません。英王立国際問題研究所(Chatham House)は2026年9月の研究で、中国製造業が自動化、産業ロボット、低価格での大量生産、関連産業の集積を競争力として維持していると分析しました。労働投入量が減る場合でも、生産性の上昇や政策支援によって一部を相殺できます。
日本企業にとって想定すべきリスクは二方向です。第一に、中国向け消費財や設備投資関連の需要構造が変化すること。第二に、中国企業が国内市場の伸び悩みを輸出拡大で補おうとした場合、第三国市場での価格競争が強まることです。後者は起こり得る経路の分析であり、すべての業種で輸出拡大が起きるとの予測ではありません。
調達面でも、中国人口の減少を理由にサプライチェーン上の依存が自然に解消するわけではありません。重要鉱物、電子部品、機械設備、電池・関連材料については、供給の集中度、代替調達先の実効性、在庫と輸送経路を別途評価する必要があります。
米RANDの分析――軍事力への制約は長期的、直ちに脅威が消えるわけではない
米国の政策研究機関RANDは2026年3月の報告書で、中国の人口高齢化が安全保障にもたらす課題を、軍事安全保障、社会・経済を支える構造的安全保障、政権運営上の安定性に分けて分析しました。
若年人口が縮小すれば、将来的には軍の募集対象や高度技能を持つ人材を確保しにくくなる可能性があります。年金や医療への支出増加と防衛投資の競合も論点です。ただし、RANDは兵員確保を差し迫った問題とは位置付けておらず、兵器の無人化や自動化、軍の効率化で人数面の制約を一定程度補えるとしています。
このため、中国の人口構造から短期的な台湾侵攻の時期を計算したり、「高齢化する前に戦争を決断するはずだ」と断定したりする根拠はありません。台湾海峡の軍事リスクは、政策指導部の意図、部隊の能力、周辺国の抑止力、偶発的衝突、経済的コストなどを個別に評価すべき問題です。
米国防総省も2025年の中国軍事力報告書で、中国の軍事的近代化と技術活用を分析しています。人口が長期的に縮小しても、ミサイル戦力、宇宙・サイバー能力、無人システムの発展まで一律に弱体化すると決めつけることはできません。
台湾側も人口減少――海峡情勢への影響を単純化できない理由
台湾国家発展委員会は2026年8月28日、最新の「中華民国人口推計(2026~2075年)」を公表しました。中位推計では、台湾人口は2026年の約2,319万人から2075年に約1,215万人へ減少し、同年の65歳以上人口比率は52.9%となる見通しです。これは台湾政府が台湾の人口について行った推計であり、中国本土の人口規模とは別の数字です。
台湾も労働市場、社会保障、医療、人材育成に負担を抱えるため、中国側の人口減少だけを見て軍事的な力関係が自動的に改善するとはいえません。防衛上は、双方の人員だけでなく、教育・訓練、兵器・補給体制、半導体や通信インフラの強靱性などが関係します。
英国の2025年国家安全保障戦略も、台湾海峡と南シナ海を世界貿易・サプライチェーンに関わる海域と捉え、武力・威圧による現状変更に反対すると明記しています。人口減少という長期現象が進む一方で、地域の軍事・サイバー・経済的摩擦には引き続き備えが必要です。
セキュリティ対策Labでは、台湾の国防投資と社会機能の継続に関する政策や、中国の国防動員制度とデータ・サイバー分野への拡大についても、公表資料に基づき解説しています。
日本企業が注視したい指標と備え
中国の人口推計の違いを自社の経営・安全保障判断につなげる場合は、2100年の人口総数だけでなく、次の動きを継続して確認する必要があります。
- 市場の変化:出生数、就業人口、年齢別消費、地域別の人口移動、中国国内の需要と設備投資。
- 供給網の変化:工場の稼働状況、産業ロボット導入、生産性、重要部材の中国依存度、輸出規制・物流寸断時の代替可能性。
- 安全保障上の変化:軍事・サイバー能力の更新、台湾海峡での活動、輸出管理や経済的威圧、重要インフラへの影響。
- 事業継続の準備:主要調達品の代替先検証、契約先の地理的な集中把握、在庫・輸送ルート・基幹システムの停止を想定した訓練。
人口減少は中国の成長と国家財政を長期的に制約し得ます。しかし、人口が減る過程でも自動化により特定産業の競争力が高まり、軍事・技術投資が継続する可能性があります。日本の経済安全保障では、人口減少を脅威の消滅と捉えるのではなく、需要、供給、産業技術、防衛・サイバー能力の各指標を切り分けて追う必要があります。
出典
中国・国連/人口推計
- 2025年国民経済・社会発展統計公報(2026年2月28日)―中国国家統計局
- 2025年の人口規模と労働力についての解説(2026年1月19日)―中国国家統計局
- World Population Prospects 2024 ― 国連人口部
- 中国・2100年中位推計「633,368.113千人」― UNdata
3億2,000万人予測の出所
- China Decoded: Will China shrink to 320 million people?(2026年10月10日)― Newsweek関係者による易富賢氏の研究紹介
- Contemporary China Review(易富賢氏が研究を発表したとされる媒体)
台湾
米国
- China’s Aging Population and the Implications for China’s Security(2026年3月12日)― RAND
- Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2025 ― 米国防総省








