令和8年(2026年)版防衛白書、「戦後最大の試練」と位置づけ 中国空母3隻体制の太平洋進出、中露北の連携深化を明記

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令和8年(2026年)版防衛白書、「戦後最大の試練」と位置づけ 中国空母3隻体制の太平洋進出、中露北の連携深化を明記

防衛省は2026年8月4日の閣議で、令和8年版防衛白書「日本の防衛」を公表しました。「未来につながる安全保障」をテーマに掲げた今回の白書は、国際社会が戦後最大の試練の時を迎えているとの認識を示したうえで、中国が空母3隻体制で太平洋への進出を強め、中国・ロシア・北朝鮮の軍事的な連携が深化している実態を、具体的な事例とともに記述しています。あわせて、防衛産業へのサイバー攻撃リスクや、デュアルユース技術による経済成長への貢献など、企業活動に直結する論点も新たに厚みを増して盛り込まれています。

この記事のサマリー

  • 防衛省は2026年8月4日、令和8年版防衛白書を公表しました。対象期間は2025年4月から2026年3月まで(一部重要事象は5月まで)です。
  • 白書は、国際社会が戦後最大の試練の時を迎え、新たな危機の時代に突入しているとの認識を示しています。
  • 中国の海警船は、尖閣諸島周辺の接続水域内での確認日数が2012年の91日から2025年には357日に増加し、1,000トン級以上の海警船の勢力も40隻から175隻に拡大しています。
  • 中国は空母「遼寧」「山東」に加え3隻目の「福建」を運用しており、2025年6月には空母が硫黄島以東の海域で活動したことを初めて確認・公表しています。
  • 中国とロシアは、爆撃機の共同飛行や艦艇の共同航行、軍事演習への相互参加を継続しており、2025年12月には両国の爆撃機が東シナ海から太平洋上の四国沖まで長距離にわたり共同飛行しています。
  • 北朝鮮は、ロシアへの武器・弾薬提供や兵士派遣と引き換えに、ミサイル精度向上のためのデータやミサイル・核関連技術を獲得するおそれがあると指摘されています。
  • 防衛省は、無人アセットを多層的に活用する沿岸防衛体制「SHIELD」の構築を進めており、防衛関連企業へのサイバー攻撃リスクや、デュアルユース技術が経済成長にも貢献する点についても新たに記述を厚くしています。

整理表

項目 内容
公表日 2026年8月4日(閣議)
白書の対象期間 2025年4月〜2026年3月(一部重要事象は5月まで)
今年のテーマ 未来につながる安全保障
中国海警船の接続水域内確認日数 2012年91日→2025年357日
中国海警船(1,000トン級以上)の隻数 2012年40隻→2025年175隻
中国軍・海警船の領海侵入件数 2022年27件→2025年23件
中国の空母保有数 3隻(遼寧・山東・福建)
特筆すべき中国軍の動き 2025年6月、空母が硫黄島以東の海域で活動したことを初めて確認・公表
中露の連携 海軍共同演習(2012年以降ほぼ毎年)、爆撃機共同飛行(2019年以降毎年)、艦艇共同航行(2021年以降毎年)、軍事演習への相互参加(2018年以降)
中露爆撃機の特筆すべき飛行 2025年12月、共同飛行として初めて太平洋上を四国沖まで長距離飛行
北朝鮮の核実験回数 過去6回
北朝鮮の軍事目標(2026年2月党大会) 核戦力の不断の強化に加え、無人アセットや電子戦システムなど多様な装備体系の開発
令和8年度防衛関係費(整備計画対象経費、契約ベース) 8兆8,093億円

白書が示す基本認識——「戦後最大の試練」

白書は第Ⅰ部第1章の冒頭で、普遍的価値やそれに基づく政治・経済体制を共有しない国家が勢力を拡大し、力による一方的な現状変更やその試みが既存の国際秩序への深刻な挑戦となっているとの認識を示しています。国際社会は戦後最大の試練の時を迎え、新たな危機の時代に突入しており、グローバルなパワーバランスの変化に伴い、米中の国家間競争が今後一層激しさを増す可能性があるとしています。

あわせて、科学技術の急速な進展により安全保障のあり方が根本的に変化しつつあること、サイバー領域などにおけるリスクの深刻化や情報戦の展開、領域をめぐるグレーゾーン事態が恒常的に生起し、軍事的・非軍事的手段を組み合わせたハイブリッド戦がさらに洗練された形で実施される可能性があることも指摘されています。こうした環境認識のうえで、ウクライナ侵略と同様の深刻な事態が、将来インド太平洋地域、とりわけ東アジアにおいて発生する可能性は排除されないとしています。

中国の軍事動向——空母3隻体制と第一列島線を越えた活動拡大

白書は、中国の対外的な姿勢や軍事動向を、わが国と国際社会の深刻な懸念事項であるとともに、これまでにない最大の戦略的な挑戦と位置づけています。中国は過去30年以上にわたり、透明性を欠いたまま継続的に高い水準で国防費を増加させ、核・ミサイル戦力や海上・航空戦力を中心に軍事力の質・量を広範かつ急速に強化しているとしています。

尖閣諸島周辺では、中国海警船などの勢力が2012年の40隻から2025年には175隻へと拡大し、接続水域内での確認日数も91日から357日に増加しています。あわせて、無人機(推定含む)の活動公表回数も、2021年の4回から2025年には16回に増えており、東シナ海を中心に活動が活発化しています。白書は2024年8月の情報収集機による男女群島沖領空侵犯、2022年4月以降の海軍測量艦による屋久島周辺領海内の航行(9回)、2025年5月の中国海警船発艦ヘリによる領空侵犯、2025年12月の中国軍戦闘機による自衛隊機への約30分にわたる断続的なレーダー照射など、具体的な事案を列挙しています。

活動範囲は東シナ海にとどまらず、いわゆる第一列島線を越え、第二列島線に及ぶ全体に拡大しています。中国は空母「遼寧」「山東」に加え、3隻目となる「福建」を就役させており、2025年6月には空母が硫黄島以東の海域で活動したことを初めて確認・公表しました。同月には空母2隻の太平洋上での活動や、中国軍戦闘機による自衛隊機への特異な接近も発生し、7月には戦闘爆撃機による特異な接近、12月には空母による沖縄本島東方から奄美大島東方の太平洋上にかけての活動が相次いで確認されています。白書は、中国軍機の特異な接近が偶発的な衝突を誘発する可能性があること、レーダー照射が航空機の安全な飛行に必要な範囲を超える危険な行為であることを、極めて遺憾だとしています。

南シナ海においても、不法な海洋権益の主張に基づき活動を活発化させ、軍事化を推進しているとし、南シナ海に主要なシーレーンを抱える日本のみならず国際社会全体の正当な関心事項だと位置づけています。

台湾情勢——中台軍事バランスが中国有利に急速傾斜

白書は、中国の国力伸長によるパワーバランスの変化により、米中の政治・経済・軍事にわたる競争が近年一層顕在化していると指摘したうえで、中台の軍事バランスは全体として中国側に有利な方向に急速に傾斜する形で変化しているとしています。中国は台湾を中国の一部とする原則を堅持し、武力行使を放棄していない旨をたびたび表明しつつ、台湾周辺での軍事活動をさらに活発化させています。白書は、中国が海警船を前面に展開させ、グレーゾーンでの台湾封鎖を行う可能性にも警戒感が高まっていると記述しています。

中国・ロシア・北朝鮮の連携深化

白書は、中国とロシアが軍事面での連携を一層強化していると指摘しています。両国は2012年以降ほぼ毎年、海軍共同演習「海上協力」を実施しており、年々内容が充実しているとされます。2019年以降は爆撃機の共同飛行を毎年1〜2回実施し、2025年12月には中露の爆撃機が東シナ海から沖縄本島と宮古島の間を通過し、共同飛行として初めて太平洋上を四国沖まで長距離にわたり飛行しました。このほか、2021年以降は艦艇の共同航行を毎年実施し活動海域を拡大させているほか、2018年以降は両国が主催する軍事演習への相互参加も継続しています。2025年9月の「中国人民抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利80周年記念大会」では、習近平国家主席、プーチン大統領、金正恩国務委員長の3人が並び立つ姿が示されました。白書は、こうした度重なる共同活動が日本に対する示威活動を明確に意図したものであり、安全保障上重大な懸念があるとしています。

北朝鮮についても、ウクライナ侵略が続くなかロシアへ弾道ミサイルを含む武器・弾薬を提供し、兵士を派遣するなど軍事協力を進めていると指摘しています。ウクライナへの攻撃に使われている弾道ミサイルは、ロシアから提供されたデータにより精度が向上したとされ、ドローンなどを使った新しい戦い方の経験が北朝鮮軍全体に普及するおそれがあるほか、ロシアへの支援と引き換えに核兵器やミサイルに関する技術が北朝鮮へ移転するおそれについても、深刻に懸念されるとしています。

北朝鮮の核・ミサイル開発

白書は、北朝鮮の軍事動向がわが国の安全保障にとって従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威であり、大量破壊兵器などの不拡散の観点からも国際社会全体にとって深刻な課題だとしています。北朝鮮は過去6回の核実験を実施しており、技術的には日本を射程に収める弾道ミサイルに核兵器を搭載して攻撃する能力を保有しているとみられます。近年は変則的な軌道で飛翔する弾道ミサイルや、いわゆる極超音速ミサイルの発射を続け、核兵器の搭載を念頭に置いた長距離巡航ミサイルの実用化も追求しています。

2026年2月の朝鮮労働党第9回大会では、今後5年間の軍事的な目標として、核戦力を不断に強化していく姿勢が改めて示された一方、無人アセットや電子戦システムなど核・ミサイル以外の各種兵器の開発目標にも言及されており、多様な装備体系の開発を目指していくものとみられています。

米国と中東情勢

白書は、2025年1月に成立した第2期トランプ政権が、同年12月に「国家安全保障戦略」を、2026年1月に「国家防衛戦略」を発表したことを紹介しています。「アメリカ・ファースト」を掲げ、「力による平和」の回復を掲げつつ、本土防衛を最優先としながらインド太平洋地域にも重点を置く方針が示されているとしています。

中東情勢については、2025年6月および2026年2月以降、イスラエル・米国とイランによる攻撃の応酬が発生し、イランがホルムズ海峡の封鎖を宣言する一方、米国もイラン港湾に出入りする船舶への海上封鎖を発表するなど緊迫した局面があったとしつつ、同年4月の2週間停戦合意を経て、6月には双方が戦闘終結などに関する覚書署名に至ったことを記述しています。ガザ情勢についても、トランプ大統領の包括的計画のもとで当事者間の合意が成立し、停戦と人質解放が実現するなどの進展があったとしています。

日本の対応方針——SHIELDの構築とデュアルユース技術

白書は、防衛力強化の具体策として、陸・海・空の各分野で多数のドローンを重ねて活用する防衛体制「SHIELD(Synchronized, Hybrid, Integrated and Enhanced Littoral Defense)」の構築を紹介しています。艦載型・水上艦発射型・小型攻撃用など多様な無人機(UAV)に加え、小型多用途の無人水上艇(USV)・無人潜水機(UUV)を組み合わせ、自衛隊員の被害を抑えながら対処する体制を目指すとしています。あわせて、AIなどを活用して大量のデータをリアルタイムに処理・分析し、指揮官が相手よりも早く正確に意思決定できる「意思決定の優越」の確保にも取り組むとしています。

注目されるのは、今回新たに「部」として位置づけ直された防衛生産・技術基盤に関する記述です。白書は、自衛隊の装備を製造する企業がサイバー攻撃を受け、装備に関する秘密情報が盗まれたり自衛隊の機能に支障が生じたりするおそれがあると指摘したうえで、このようなリスクは自衛隊や関係企業に限らず日本のすべての企業や組織で発生しうるとし、日本全体での連携が必要だと述べています。また、防衛と民間の両方に使えるデュアルユース技術の拡大を踏まえ、製造基盤への投資が国内外市場における日本企業の競争力強化につながり、ドローンの国内調達が経済成長にも貢献しうるとしています。具体例として、警備会社セコムのAI搭載監視ドローンが、民生技術を防衛装備に応用する「スピンオン」と、防衛分野の研究開発成果を民生分野に還元する「スピンオフ」の両方の事例として紹介されています。

経済安全保障・企業にとっての含意

今回の白書が示す内容は、防衛・安全保障分野に直接携わらない企業にとっても、いくつかの点で示唆に富んでいます。

第一に、防衛関連企業へのサイバー攻撃リスクが、自衛隊や防衛産業に限らず日本のすべての企業・組織に及びうるリスクとして、白書の中で明確に位置づけられた点です。サプライチェーンの中に防衛関連の取引が含まれる企業はもちろん、そうでない企業にとっても、経済安全保障の観点から自社のセキュリティ水準を見直す一つの契機になります。

第二に、デュアルユース技術への投資が、防衛力強化と経済成長の両面に資するという位置づけが、今回の白書でより明確に打ち出された点です。ドローンやAI、センサー技術など、民生分野で培われた技術が防衛分野で応用される「スピンオン」、その逆の「スピンオフ」の両方の流れが、今後の政府調達や研究開発支援の方向性に影響を与える可能性があります。

第三に、中国の海警船勢力拡大や台湾周辺での軍事活動の活発化は、中国・台湾との取引やサプライチェーンを持つ日本企業にとって、地政学リスク評価やBCP(事業継続計画)の観点から継続的に注視すべき動向です。中台軍事バランスが中国有利に急速に傾斜しているとの白書の評価は、台湾有事の蓋然性そのものについての断定ではないものの、リスクシナリオの前提条件として参照する価値があります。

今後注目すべき点

白書は、2026年中に「三文書」(国家安全保障戦略・国家防衛戦略・防衛力整備計画)を前倒しで改定するとしています。今後は以下の点が焦点になると考えられます。

  • 「三文書」改定の具体的な内容と、防衛力整備計画への反映状況
  • 防衛装備移転三原則の改正(いわゆる「5類型」の撤廃を含む)が、実際の装備移転にどう反映されるか
  • 中国の3隻目の空母「福建」の運用実態や、さらなる遠方海域への進出の有無
  • 中露北の3か国連携が、今後さらに制度化・常態化するかどうか
  • SHIELDをはじめとする無人アセット防衛能力の整備の進捗状況

出典

令和8年版防衛白書「日本の防衛」——防衛省

防衛白書トップページ——防衛省

令和8年8月4日 防衛大臣記者会見——防衛省