ベルギーで半導体技術のスパイ容疑、元BelGaN幹部を逮捕 GaNの企業秘密が中国企業へ移転した可能性を捜査

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ベルギーで半導体技術のスパイ容疑、元BelGaN幹部を逮捕 GaNの企業秘密が中国企業へ移転した可能性を捜査

ベルギー連邦検察は2026年9月7日、同国の半導体メーカーBelGaNで研究部門の幹部を務めていた52歳の男を、スパイ行為や企業秘密の不正開示などの疑いで捜査していることを明らかにしました。

容疑者は中国出身で、ベルギーと中国の国籍を持つと報じられています。2026年5月、ブリュッセル・ザベンテム空港から北京へ向かう航空機に搭乗しようとした際に逮捕され、その後も勾留されています。

ベルギー連邦検察によると、容疑者はBelGaNで窒化ガリウム(GaN)半導体の研究に関わる上級職に就く一方、同種の製造事業を行う中国企業の役員も兼ねていた疑いがあります。その中国企業は、容疑者がBelGaNで勤務を始めた数か月後に設立され、中国の投資ファンドから資金提供を受けていたとされています。

捜査当局は、電気自動車(EV)、航空・宇宙、軍事用途などに使われるGaN半導体の製造に関する専門的な知的財産や企業秘密が、国外へ不正に移転された可能性を調べています。

ただし、9月8日時点で企業秘密の移転が裁判で認定されたわけではありません。また、中国政府や中国の情報機関が本件を指示・運営したとする公式確認もありません。

BelGaN半導体スパイ事件のサマリー

確認できている内容:

  • ベルギー連邦検察は2026年9月7日、BelGaN元幹部に対するスパイ事件の捜査を公表しました。
  • 容疑者は52歳で、BelGaNの研究部門で上級職を務めていました。
  • 2026年5月、北京へ向かおうとしていたところをブリュッセル・ザベンテム空港で逮捕されました。
  • 容疑はスパイ行為、犯罪組織への参加、会社資産の不正利用、企業秘密の不正開示などです。
  • 容疑者はBelGaN在籍中、同種の半導体を製造する中国企業の役員を兼務していた疑いがあります。
  • その中国企業は、容疑者がBelGaNで勤務を始めた数か月後に設立され、中国の投資ファンドから資金提供を受けていたとベルギー連邦検察が説明しています。
  • 捜査当局は、GaN半導体の製造に関する専門的な知的財産と企業秘密が国外へ不正に移転された可能性を調べています。
  • GaN技術はEV、航空・宇宙、軍事分野などで利用されています。
  • 捜査ではデータ保存媒体や電子通信記録が押収され、分析が続いています。
  • もう1人の容疑者も捜査対象となっており、9月7日時点で当局が行方を追っています。
  • BelGaNは2024年7月に破産しています。

現時点で確定していない内容:

  • どの企業秘密が実際に中国側へ渡ったのか
  • 情報移転の具体的な手段
  • 移転されたデータ量や文書数
  • 中国企業が取得した情報を製品開発へ使用したか
  • BelGaNの破産と情報移転との因果関係
  • 中国政府・中国情報機関による指示や関与
  • もう1人の容疑者の役割
  • 容疑者に対する最終的な有罪・無罪
項目 内容
公表日 2026年9月7日
捜査当局 ベルギー連邦検察
対象企業 BelGaN BV
対象技術 窒化ガリウム(GaN)半導体
容疑者 BelGaN元研究部門幹部、52歳
逮捕 2026年5月、ブリュッセル・ザベンテム空港
主な容疑 スパイ行為、犯罪組織への参加、会社資産の不正利用、企業秘密の不正開示など
中国企業との関係 同種技術を扱う中国企業の役員を兼務していた疑い
情報流出 専門的な知的財産・企業秘密が国外へ不正移転した可能性を捜査中
中国政府の関与 公式確認されていません
2人目の容疑者 捜査当局が行方を追っている
BelGaN 2024年7月に破産

BelGaNはGaN半導体を製造していた

BelGaNはベルギー東フランデレン州オーデナールデに拠点を置いていた半導体メーカーです。

ベルギー連邦検察の説明として複数の報道機関が伝えたところでは、同社は窒化ガリウム(GaN)半導体の製造を専門としていました。

GaNはシリコンより高い耐圧や高速スイッチング性能を実現しやすく、高効率な電力変換用途で利用されています。

今回、検察当局はGaN技術について、

  • 電気自動車
  • 航空
  • 宇宙
  • 軍事

などで使用される技術と説明しています。

そのため、単なる製造ノウハウの流出事件ではなく、経済安全保障やデュアルユース技術の保護という観点でも捜査されています。

ただし、BelGaNが保有していたすべてのGaN技術が軍事機密だったという意味ではありません。

容疑者はBelGaNと中国企業の双方で役職を持っていた疑い

ベルギー連邦検察が公表した捜査内容で焦点となっているのは、容疑者の「二重の役割」です。

検察によると、容疑者はBelGaNで研究部門の上級職に就いていた一方、同様の半導体製造事業を行う中国企業でも役員を務めていた疑いがあります。

さらに、その中国企業は容疑者がBelGaNで勤務を開始してから数か月後に設立され、中国の投資ファンドから資金提供を受けていました。

捜査当局は、この関係を通じてBelGaNの知的財産や企業秘密が国外へ移転した可能性を調べています。

現時点では、兼務そのものが違法と認定されたわけではありません。

問題となるのは、BelGaNで職務上アクセスできた非公開情報を、権限や契約に反して別企業へ提供したかどうかです。

「企業秘密の流出」はまだ裁判で確定していない

AFPの記事では「企業機密を流出か」と報じられていますが、ベルギー連邦検察の表現はより慎重です。

検察は、捜査によって「GaNチップ製造に関する専門的な知的財産および企業秘密が国外へ不正移転した可能性が示される」としています。

したがって、9月8日時点で確認できる状態は次のとおりです。

  • 企業秘密の不正移転を捜査している
  • 複数の捜索を実施している
  • データ保存媒体や電子通信記録を押収している
  • 1人を勾留し、もう1人を追っている

一方、

  • どの情報が移転したか
  • いつ移転したか
  • 誰が受け取ったか
  • 実際に中国企業の製造へ使われたか

は公表されていません。

情報流出が確認された事件として扱うのではなく、捜査中の産業スパイ事件として整理する必要があります。

中国政府・情報機関の関与は確認されていない

今回の事件では、中国企業と中国の投資ファンドが登場します。

また、ベルギー国家保安局(VSSE)は中国による経済スパイ活動を継続的に警戒しています。

しかし、本件について「中国政府が指示した」「中国情報機関が工作した」とする公式確認は、9月8日時点ではありません。

AFP、Reuters、Euronewsなども、ベルギー連邦検察の発表をもとに、中国に関連するスパイ事件として報じていますが、中国国家機関の直接関与を事実として認定した報道ではありません。

企業側のリスク管理でも、国籍や出身地だけを理由に従業員をリスクとみなす対応は適切ではありません。

確認すべきなのは、

  • 競合企業との兼職・兼業
  • 利益相反
  • アクセス権限
  • 機密情報への大量アクセス
  • 外部送信
  • 私物端末やクラウドへのコピー
  • 共同研究や外部企業との情報共有
  • 退職・異動時の権限

など、行動と権限に基づくリスクです。

ベルギー国家保安局が警戒する「Copy to China」

今回の事件と同時に注目されているのが、ベルギー国家保安局(VSSE)が2025年の年次報告書で取り上げた「Copy to China」です。

VSSEは2026年1月に公表した「Intelligence Report 2025」で、中国による経済スパイと政治的干渉について独立した章を設けています。

同報告書では、中国が戦略技術の獲得に用いる可能性のある方法として、

  • 「Copy to China」型企業
  • 研究者の派遣
  • 投資・買収
  • 研究機関との協力
  • 経済スパイ

などを挙げています。

VSSEは、中国が半導体、AI、バイオテクノロジーなどで世界的なリーダーになることを目標とし、西側企業や研究機関が持つ技術へアクセスしようとしていると分析しています。

特に、資金調達に課題を抱えながら有望な技術を持つ企業、研究機関、スピンオフ企業への投資を通じ、特定技術へのアクセスを得るリスクを指摘しています。

その後、中国国内で同じ技術をより大規模に生産する企業を立ち上げる形を「Copy to China」と表現しています。

今回のBelGaN事件が「Copy to China」と確定したわけではない

VSSEの年次報告書と今回の事件には類似する構造があります。

今回、公表されている要素は、

  • 欧州の半導体企業
  • 中国企業
  • 中国投資ファンド
  • 同じ分野の製造活動
  • 研究部門幹部の兼務
  • 企業秘密の国外移転疑惑

です。

一方、VSSEやベルギー連邦検察が「BelGaN事件はCopy to Chinaの実例である」と正式認定したことは、9月8日時点で確認できません。

事件と一般的な脅威分析を混同しないことが必要です。

VSSEの報告書は、中国による技術獲得リスクを説明する情報機関の評価です。今回の刑事事件で個々の容疑を立証する証拠とは別のものです。

サイバー攻撃ではなく「正規アクセスを持つ人」による技術流出が焦点

今回の公表内容には、外部からネットワークへ侵入した、マルウェアを設置した、脆弱性を悪用したといった説明はありません。

捜査の中心は、BelGaN内部で研究部門の上級職にあった人物が、職務上アクセスできる知的財産や企業秘密を別企業へ移転したかどうかです。

これは、企業が技術流出対策を「サイバー攻撃対策」だけで考えると不足することを示しています。

EDR、SIEM、WAFなどを導入していても、正規アカウントを持つ研究者や管理職が、本来の権限内で機密文書を閲覧できる場合があります。

そのため、技術流出対策では、

  • 誰がアクセスできるか
  • なぜアクセスが必要か
  • どの情報を外部へ持ち出せるか
  • どの操作をログに残すか
  • 異常な大量取得を検知できるか

を設計する必要があります。

日本でも「人を通じた技術流出」が政策課題になっている

日本の経済産業省は2026年4月27日、「技術流出対策ガイダンス第2版」を公表しました。

同ガイダンスでは、企業の技術流出リスクを次の4つの場面に分けています。

  1. 生産拠点の海外進出
  2. 人を通じた技術流出
  3. 共同研究
  4. すり合わせ

第2版では特に「人を通じた技術流出」を拡充し、共同研究と調達時のすり合わせを新たに追加しています。

今回のBelGaN事件で疑われている構造は、このうち「人を通じた技術流出」と関連して見ることができます。

ただし、経済産業省のガイダンスは中国人従業員や外国籍従業員を一律に警戒するものではありません。

対象となるのは、

  • 採用
  • 配置
  • 在職中
  • 兼業
  • 転職
  • 退職
  • 共同研究
  • 取引先との技術共有

など、人や企業関係を通じて技術へアクセスできる状況全体です。

日本企業でも半導体・AI・研究開発分野で技術流出事件が発生

日本企業・研究機関にとっても、今回の事件は海外の特殊事例ではありません。

セキュリティ対策Labでは、これまで次の技術流出事案を取り上げています。

Googleの元エンジニア、AI技術の窃取・漏洩と中国へのスパイ活動で有罪判決では、AI関連の営業秘密を中国企業へ持ち出したとして、米国で元Googleエンジニアに経済スパイなど14件の有罪評決が出ています。

産業技術総合研究所の元主任研究員、中国企業への情報漏洩事件で有罪判決では、日本の国立研究機関が保有する営業秘密を中国企業へ漏えいしたとして、不正競争防止法違反で有罪判決が出ています。

TSMC元エンジニア4名に最長10年の実刑、2nm先端技術の営業秘密漏洩では、台湾の先端半導体技術をめぐり、元従業員と関係企業の責任が問われました。

退職直前に顧客情報を同業他社へ漏洩か、半導体関連会社の元営業課長を逮捕では、退職直前の情報持ち出しリスクを扱っています。

これらに共通するのは、外部攻撃者だけでなく、正規のアクセス権を持つ従業員・研究者・元従業員が技術流出の経路になり得る点です。

セキュリティ・クリアランスだけで民間企業の営業秘密すべてを守れるわけではない

日本では2025年5月、「重要経済安保情報保護活用法」に基づくセキュリティ・クリアランス制度が施行されています。

同制度は、安全保障上特に秘匿する必要がある「重要経済安保情報」を政府が指定し、その情報を扱う人物や事業者に一定の保全措置を求める仕組みです。

ただし、民間企業が独自に持つ研究成果、製造条件、設計データ、顧客情報などが、すべて自動的に重要経済安保情報となるわけではありません。

企業独自の営業秘密については、

  • 営業秘密管理
  • アクセス制御
  • 契約
  • 人事管理
  • ログ監視
  • DLP
  • 退職・異動時の措置

などを別途実施する必要があります。

関連記事:セキュリティ クリアランス制度が運用開始 経済安保情報の保護と企業への影響

研究開発企業が確認したい「兼務・利益相反」

今回の事件で日本企業が確認しやすいのは、研究者や管理職の兼業・外部役職です。

研究開発職や技術責任者が、

  • 競合企業
  • 出資先
  • スタートアップ
  • 大学発ベンチャー
  • 海外法人
  • 取引先

などで役員、顧問、研究者を兼務するケースは珍しくありません。

兼務自体を禁止するのではなく、機密情報との関係を確認します。

確認項目 確認内容
外部役職 競合・取引先・出資先で役職を持っていないか
利益相反 自社の研究テーマと外部活動が競合していないか
情報アクセス 外部活動に不要な自社機密へアクセスできないか
NDA 秘密保持義務と成果物の帰属が明確か
発明 職務発明と外部活動の成果を区別できるか
外部送信 私用メール、クラウド、外部ストレージへの送信を監視できるか
共同研究 開示範囲と再利用範囲を契約で定義しているか
退職・異動 権限削除とデータ返却・削除を確認しているか

特に、研究責任者や製造プロセス担当者は、個々の文書だけでなく「製造条件の組み合わせ」や「失敗した試験結果」など、再現に必要な知識を持っています。

ファイル単位の持ち出し監視だけでは不足する場合があります。

M&A・投資時は技術だけでなくアクセス権も確認する

VSSEの年次報告書は、技術を持ちながら資金面で課題を抱える企業や研究機関への投資・買収を通じて、戦略技術へアクセスするリスクを指摘しています。

これは日本企業のM&Aや資本提携でも確認できます。

技術系スタートアップや研究開発企業が外部資本を受け入れる場合、

  • 出資者が得る取締役指名権
  • オブザーバー権
  • 技術資料へのアクセス
  • データルームの閲覧範囲
  • 共同研究契約
  • IPライセンス
  • 製造委託
  • 人材交流

によって、実際の技術アクセス範囲が変わります。

「株式を何%保有しているか」だけではなく、「誰がどの技術へアクセスできる契約になっているか」を確認します。

情報システム・セキュリティ部門への示唆

半導体、製造業、AI、宇宙、防衛、素材、バイオなどの研究開発企業では、次の項目を確認できます。

  • 研究開発データを機密度別に分類しているか
  • 最重要技術へアクセスできる人数を把握しているか
  • 研究責任者や管理職にも最小権限を適用しているか
  • 兼業・外部役職・競合関係を人事と法務が把握しているか
  • 大量ダウンロードや大量コピーを検知できるか
  • USB、私用メール、個人クラウドへの持ち出しを制御しているか
  • Git、研究データ基盤、ファイルサーバーの操作ログを保存しているか
  • 外部共有リンクの発行と閲覧を追跡できるか
  • 退職・異動前後のアクセス増加を確認できるか
  • 共同研究先に開示する情報を必要最小限にしているか
  • M&A・出資時に技術アクセス権までデューデリジェンスしているか
  • インシデント発生時に証拠保全できるログが残っているか
  • 営業秘密として保護する情報について秘密管理措置を説明できるか
  • 経産省「技術流出対策ガイダンス第2版」のチェックリストと自社運用を照合したか

内部不正対策では、従業員を過度に監視するのではなく、「機密情報へアクセスできる権限」と「持ち出しにつながる操作」を対象に統制します。

国籍や出身国ではなく、アクセス権限、利益相反、行動、契約関係を基準に設計することが、実務上の再現性があります。

今後確認したいポイント

本件は捜査中です。

今後、次の情報がベルギー当局や裁判手続きで明らかになるかを確認する必要があります。

  • 実際に移転したとされる知的財産の内容
  • 移転経路
  • 中国企業の正式な関与
  • 中国投資ファンドの役割
  • 2人目の容疑者の身柄確保
  • BelGaNの破産との関係
  • 中国政府・情報機関との関係の有無
  • 起訴内容
  • 裁判所による事実認定

現段階では、「中国がBelGaNの技術を国家主導で盗んだ」「GaN技術が中国へ完全流出した」と断定できる状態ではありません。

確認されているのは、ベルギー連邦検察が、BelGaN元幹部による企業秘密の国外移転の可能性をスパイ事件として捜査していることです。

出典