ニセ社長詐欺とは?手口・見分け方・対策を解説

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ニセ社長詐欺とは?手口・見分け方・対策を解説

自社の社長や経営層になりすました人物から、SNSやビジネスチャットのグループ作成を指示され、そのまま送金指示に従ってしまう「ニセ社長詐欺(BEC詐欺)」。2026年に入り、上場企業から地方の中小企業まで、被害が全国で相次いでいます。この記事では、警察庁の注意喚起をもとに、ニセ社長詐欺の手口の仕組み、見分け方、企業が取るべき対策を整理します。

この記事のサマリー

  • ニセ社長詐欺は、実在する社長や経営層になりすました人物が、メールなどを通じてSNS・チャットグループの作成を指示し、そのグループ内でのやり取りを通じて送金を指示する手口です。
  • 警察庁は2026年2月13日、SOS47特殊詐欺対策ページで「法人を対象とした詐欺(ニセ社長詐欺)に注意!」と題した注意喚起を公開しています。
  • 手口は大きく3段階で構成されており、(1)経営者になりすましたメール等での接触、(2)SNS・チャットグループの作成指示、(3)グループ内での送金指示、という流れをたどります。
  • 被害は上場企業から地方の中小企業まで、業種・企業規模を問わず発生しており、1件あたりの被害額が数千万円から億単位に達するケースもあります。
  • トレンドマイクロの調査によると、この種の攻撃は2025年12月から急増し、国内で少なくとも6,000以上の法人組織が標的になっています。AIによる自動化で攻撃側の運用コストが下がったことで、これまで狙われにくかった中小企業も含めた「バラマキ型」の攻撃へと変質しているとみられます。
  • 見分け方の最大のポイントは、正規の業務連絡でSNS・チャットグループの新規作成を求められることは通常ないという点です。
  • 対策の基本は、送金指示を受けた際に、メール・チャット以外の経路(電話等)で本人に直接確認することです。

整理表——ニセ社長詐欺の手口

段階 内容 見分けるポイント
第1段階:接触 社長・経営層になりすました人物から、メール等で連絡が入る。会社のドメインと異なるフリーアドレスが使われることが多い 送信元アドレスが正規の社内・関係者のものと異なっていないか確認する
第2段階:グループ作成 「業務連絡のため」などの名目で、SNSやビジネスチャットのグループ作成と、招待用QRコードの返信を指示される。振込権限を持つ経理担当者を含めるよう求められる場合もある 正規の業務連絡で新規グループの作成を求められることは通常ない
第3段階:送金指示 グループ内でのやり取りを通じて口座残高を確認させたうえで、取引先への支払い代行や、事業資金の急な必要性を名目に送金を指示される。複数回に分けて送金を求められることもある 緊急性を強調する送金依頼は、実行前に必ず別経路で確認する

ニセ社長詐欺とは

ニセ社長詐欺は、実在する企業の社長や役員になりすました第三者が、従業員をだまして送金させる詐欺の一類型です。ビジネスメール詐欺(BEC:Business Email Compromise)の一種として位置づけられますが、近年国内で確認されている事案の多くは、最初の接触はメールで行われるものの、その後の実際のやり取りはLINEやビジネスチャットなどのSNS・メッセージアプリへ移行するという特徴を持っています。

攻撃者は、企業の公開情報(役員紹介ページ、登記情報、IR資料等)から代表者名や役員名を調べ上げ、これになりすます形でメールを送信します。実在する氏名や会社名が使われるため、受信者が違和感を覚えにくい点が、この詐欺の厄介なところです。

手口の3段階

警察庁が2026年2月13日に公開した注意喚起によると、ニセ社長詐欺の手口は次の3段階で構成されています。

まず、経営者になりすました人物から、インターネット等で公開されている法人のメールアドレス宛てに電子メールが届きます。次に、新しいプロジェクトや業務連絡などを理由に、SNSやビジネスチャットのグループ作成と、招待用QRコードの返信を指示されます。この際、振込権限を持つ経理担当者をグループに含めるよう求められる場合もあります。最後に、SNS・チャットグループ内でのやり取りを通じて法人の口座残高を確認させたうえで、事業資金の急な必要性や取引先への支払い代行などを名目に、指定口座への送金を指示します。

この3段階の型は、当サイトが報じてきた全国の被害事例でも繰り返し確認されています。愛媛県東温市の企業(200万円)、静岡市の介護施設(約5,400万円)、佐賀県鳥栖市の企業(500万円)、鹿児島県内の複数企業(1,000万円、550万円、1,100万円)など、被害額や業種は異なっても、手口の骨格はほぼ共通しています。

なぜ被害が後を絶たないのか

ニセ社長詐欺が繰り返し成功してしまう背景には、いくつかの心理的な仕掛けがあります。

第一に、社長という組織内で最も高い権限を持つ人物になりすましている点です。従業員は指示の正当性を疑いにくく、確認を後回しにしてしまいがちです。第二に、SNS・チャットグループという閉じた空間の中で指示が完結するため、第三者の目が入りにくいという点です。メールであれば複数人がCCで確認できる場合でも、新規に作成されたグループでは、参加者が攻撃者の作り出した文脈の中に閉じ込められてしまいます。第三に、緊急性を演出する業務上自然な文脈(取引先への支払い、事業資金の急な必要性等)が使われる点です。急いで対応しなければならないという心理状態は、通常であれば疑うはずの不自然さを見落とさせます。

AIによる「バラマキ型」攻撃への変質

トレンドマイクロの公式解説記事「社長を騙りLINEに誘導する『CEO詐欺』の手口を解説」によると、この種の攻撃は2025年12月上旬から日本国内で急増しており、12月15日頃には1日あたり1,000件程度、2026年1月5日には1日で1万件を超える検出があったとされています。同社の調査では、国内で少なくとも6,000以上の法人組織(ドメイン)にこの新型のCEO詐欺メールが送付されており、対象となる企業規模は数万人規模の大企業から数人程度の小規模事業者まで、業種・規模を問わないことが確認されています。

トレンドマイクロは、この変化の背景についてこう分析しています。従来のビジネスメール詐欺は、標的企業ごとの事前調査や継続的なやり取りに一定の工数がかかっていたため、攻撃者にとっては得られる金額が大きい大企業を狙うほうが費用対効果が高い攻撃でした。しかし新型のCEO詐欺では、非常に多くの中小企業も標的に含まれています。トレンドマイクロは、AIの悪用により標的組織の事前調査・文面作成・やり取りの自動化が進み、攻撃側の運用コストが低下した結果、企業規模を問わず多数の標的に対してバラマキ的に攻撃が行われていると推測しています。

この分析を裏づけるように、トレンドマイクロは攻撃者側の自動化ミスとみられる痕跡も報告しています。実在する企業とは社名が微妙に異なる宛先へ送信されていたケース(例:「トレンドマイクロ」宛てのはずが「マイクロトレンド」という社名で送られていた)や、送信者の表示名に簡体字の中国語で「代表者未找到(代表者が見つかりません)」「{重要人员}(主要人物)」といったプレースホルダーがそのまま残っていたケースが確認されています。これらは、AIによって組織情報がWebページ等から自動収集されているものの、処理エラーが発生し、そのまま送信されてしまったことを示唆していると同社は分析しています。

当サイトが実施したトレンドマイクロへのインタビューでも、同様の傾向が語られています。TrendAIのセキュリティエバンジェリスト、佐藤健氏は、AIによって攻撃者の能力が「攻撃のスピード」「攻撃のコスト」「攻撃できる範囲」の3点で向上していると指摘しており、これまでは攻撃コストや精度の問題から狙われにくかった対象にも、AIを使うことで攻撃が成立する可能性があると述べています。詳細は【インタビュー】AIによりサイバー攻撃はどう変わるのか?トレンドマイクロに聞く企業がとるべき対策をご参照ください。かつては大企業を中心とした標的型の攻撃だったニセ社長詐欺が、AIによる自動化を経て、企業規模を問わないバラマキ型の攻撃へと変質しつつあることがうかがえます。

なお、トレンドマイクロ製品によるビジネスメール詐欺(BEC)全体の検出数は、2022年の約38万件から2024年には約50万件へと増加しており、この種の攻撃が一過性のものではなく、継続的に拡大している脅威であることも示されています。

見分け方——ここに気づけば被害を防げる

  • 社長・役員からのメールで、SNSやビジネスチャットの新規グループ作成を指示された場合は、その時点で詐欺を疑ってください。正規の業務連絡でグループの新規作成を求められることは通常ありません。
  • 送信元のメールアドレスが、会社の正規ドメインと異なっていないか確認してください。フリーメールアドレスからの連絡は特に注意が必要です。
  • グループ内で口座残高の報告を求められた場合、それ自体が不自然な要求である可能性を疑ってください。
  • 「至急」「今すぐ」といった緊急性を強調する送金依頼には、いったん立ち止まって確認する習慣をつけてください。
  • 振込先の口座名義が、取引先の正式名称と異なっていないか確認してください。

対策——企業が今すぐ実施すべきこと

  • 送金に関する社内ルール(承認フロー、複数人での確認、送金先変更時の確認手順)を整備し、メール・チャット上の指示にも例外なく適用してください。
  • 緊急の送金依頼や取引先への支払い代行を求められた場合は、メールやチャット以外の方法(電話など、あらかじめ確認済みの連絡先)で本人に直接確認する運用を徹底してください。
  • 経営層・役員に対しても、この種の詐欺の手口を周知し、自身の名前が悪用された際の対応(従業員からの確認への迅速な回答等)についてあらかじめ共有しておいてください。
  • 経理・財務担当者を対象に、ニセ社長詐欺を想定した訓練・注意喚起を定期的に実施してください。
  • 自社の代表者名・役員名・組織図などの公開情報が、なりすましに悪用されるリスクを踏まえ、公開範囲や情報の粒度についてもあらためて検討する価値があります。

前述のとおり、ニセ社長詐欺はAIによって攻撃の速度・コスト・範囲が変化し続けている脅威です。年1回のEラーニングのような単発の研修だけでは、最新の手口に追随できません。標的型攻撃メール訓練を、教育予算ではなくセキュリティ対策予算の中で継続的に運用する必要性については、標的型攻撃メール訓練は「教育」ではない――Eラーニングと同じ予算枠で考えると失敗する理由で詳しく解説しています。また、訓練ツール・サービスを選定・見直す際に確認すべき具体的な項目については、標的型攻撃メール訓練ツール/サービスの比較と選び方をあわせてご参照ください。

被害に遭ってしまった場合の対応

万が一送金してしまった場合は、気づいた時点で速やかに、送金先の金融機関へ組戻し依頼を行ってください。あわせて、所轄の警察署へ相談し、被害届の提出を検討してください。警察相談専用電話(#9110)も利用できます。上場企業の場合は、適時開示や特別調査委員会の設置など、対外的な対応も必要になります。

実際の被害事例

当サイトでは、ニセ社長詐欺の被害事例を継続的に取材・報道しています。上場企業関連の事例を含む被害総額の全体像については、ビジネスメール詐欺やなりすましチャットによる不正送金被害まとめで、手口別・企業別に整理しています。個別の事例としては、静岡市の介護施設が親会社「社長」を名乗る詐欺で5,400万円被害、メッセージアプリのグループ作成が起点に鹿児島県内の企業がニセ社長詐欺で1,100万円被害、LINEグループ作成から2段階の送金指示愛媛県東温市の企業がニセ社長詐欺で200万円被害、SNSグループ作成から送金指示などをご参照ください。

まとめ

ニセ社長詐欺は、技術的な脆弱性を突く攻撃ではなく、人間の心理的な隙を突くソーシャルエンジニアリングの一種です。手口の型はある程度パターン化されているため、「社長からのSNSグループ作成依頼」「グループ内での送金指示」という2つのサインさえ知っておけば、多くの被害は未然に防げます。自社の送金プロセスが、こうした手口を前提とした確認体制になっているか、あらためて点検することをおすすめします。

 

出典

法人を対象とした詐欺(ニセ社長詐欺)に注意!——警察庁・SOS47特殊詐欺対策ページ

社長を騙りLINEに誘導する「CEO詐欺」の手口を解説——トレンドマイクロ

【インタビュー】AIによりサイバー攻撃はどう変わるのか?トレンドマイクロに聞く企業がとるべき対策——セキュリティ対策Lab

標的型攻撃メール訓練ツール/サービスの比較と選び方——セキュリティ対策Lab

ビジネスメール詐欺やなりすましチャットによる不正送金被害まとめ——セキュリティ対策Lab