2026年5月に中国・大連で富士電機グループの日本人社員2名が拘束され、その後正式逮捕された事件について、事件発覚の経緯が2026年7月20日の日本テレビ(NNN)の独自取材で明らかになりました。報道によると、富士電機側はレアアース磁石を取り外しがしやすい方法でモーター等の製品に組み込んで日本へ輸出し、日本で磁石だけを取り外した後、製品の残りの部分を再び中国へ送り返していたとされます。中国当局はこの循環的な輸出入の動きを検知し、事件の発覚につながったということです。本稿では、前回記事の続報として発覚の経緯を整理するとともに、米国および台湾の公的機関・シンクタンクの分析を参照しながら、中国側の法的対応にどこまでの根拠と合理性があるのかを検証します。
サマリー
- 2026年7月20日、NNNの独自取材により富士電機グループ社員2名の逮捕事件の発覚経緯が判明した
- 報道によると、レアアース磁石を取り外しやすい形でモーター等に組み込み日本へ輸出し、日本で磁石を取り外した後に残部を中国へ送り返す循環スキームを中国当局が検知したとされる
- NNN報道によると、モーター等の製品としてであれば輸出が可能なケースがあることを利用した手法とされ、日本政府関係者は中国当局が悪質な手口と判断したとの見方を示している。ただし完成品が常に規制対象外となるわけではなく、2025年4月以降の管制は磁石を含むレアアース関連物項にも及ぶ
- 中国の輸出管理法(2020年施行)、両用物項輸出管制条例(2024年12月施行)、2025年4月の中重希土類7品目管制という法体系の積み上げにより、条文上は摘発の根拠が成立しうる構造にある
- 一方で米CSISや台湾・国防安全研究院の分析は、中国のレアアース管制が法執行の枠を超えて地政学的な圧力手段として運用されている実態を指摘しており、対日適用の選択的性格が際立つ
- NNN報道によると中国側関係者は日本に対する新たな輸出規制の検討にも言及しており、対日圧力は今後も継続する可能性がある
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 続報の報道日 | 2026年7月20日(NNN独自取材) |
| 対象事件 | 富士電機グループの日本人社員2名の拘束・逮捕(大連、2026年5月18日・25日拘束、6月中下旬に正式逮捕) |
| 適用容疑 | 国家輸出入禁止貨物密輸罪(中国刑法第151条第3項) |
| 報道された手法 | レアアース磁石を取り外し可能な状態でモーター等に組み込み日本へ輸出、磁石取り外し後に残部を中国へ返送 |
| 発覚の契機 | 一連の循環的な輸出入の動きを中国当局が検知(報道ベース) |
| 中国側の法的根拠 | 輸出管理法(2020年12月施行)、両用物項輸出管制条例(2024年12月1日施行)、商務部・海関総署公告(2025年4月4日、中重希土類7品目) |
| 日本政府関係者の見方 | 中国当局はレアアース磁石だけを目的とした悪質な手口と判断したとみられる(NNN報道) |
| 今後の見通し | 中国側関係者が新たな対日輸出規制の検討に言及(NNN報道) |
目次
発覚の経緯-取り外し可能な磁石の循環輸出を中国当局が検知
今回のNNN報道で新たに判明したのは、中国当局が何を捉えて摘発に踏み切ったのかという点です。複数の関係者への取材によると、富士電機側はレアアース磁石をモーターなどの製品に取り外しがしやすい方法で組み込んだ上で日本へ輸出し、日本国内でレアアース磁石だけを取り外した後、製品の残りの部分をさらに中国へ送り返していたとされます。中国当局はこの一連の輸出入の往復を検知し、事件の発覚に至ったということです。
前回記事の時点では、業界内に「取り外しが不可能な加工品はレアアース輸出管理の適用対象外」という慣行的理解があり、グレーゾーンの刑事犯罪化という側面を指摘しました。しかし今回の報道が事実であれば、単に磁石を組み込んだ製品を輸出したのではなく、磁石の回収を目的として意図的に取り外し可能な設計とし、抜き取り後の残部を中国へ返送するという反復的なスキームが存在したことになります。
NNN報道は、中国からのレアアース輸出が規制されている中でも、モーターなどの製品としてであれば輸出が可能であると伝えています。ただし、完成品であれば一律に規制対象外となるわけではない点には注意が必要です。2025年4月以降の管制は中重希土類の金属・合金・磁石材料などレアアース関連物項を広く対象としており、実際にどこまでが許可対象となるかは品目分類や含有物の該非判定に依存します。日本政府関係者がNNNに対し、中国当局はレアアース磁石だけを目的とした悪質な手口と判断したのだろうと指摘しているのは、非管制と整理されうる製品形態を利用して管制対象の磁石を持ち出す構造を踏まえたものです。
なお、この輸出スキームの詳細はあくまで報道ベースの情報であり、富士電機および日中両政府から輸出手法に関する公式な確認は現時点で出ていません。中国当局が起訴に至った場合、起訴状や判決でどのような事実認定がなされるかが確定的な判断材料になります。
検知の構造に注目すると、単発の輸出申告だけを見れば適法な完成品輸出でも、同一品目の輸出と残部の再輸入が反復するトランザクションを時系列で突合すれば、磁石の抜き取りという実態が浮かび上がります。中国税関がこの種の往復パターンを検知できる体制を整えていたこと自体が、後述する2025年以降の執法強化の帰結といえます。
中国側の法的根拠-輸出管理法から刑法151条まで積み上げられた規制体系
中国側の対応に法的根拠があるのかを検証するには、規制の階層構造を確認する必要があります。
土台となるのは2020年12月に施行された輸出管理法です。
同法は管制品目のリスト管理制度を明文化し、国家の安全と利益を保護目的として掲げています。その下位規範として2024年12月1日に両用物項輸出管制条例が施行され、管制品目の範囲、許可申請手続き、違反時の措置が細分化されました。同日には両用物項輸出管制リストが整備され、管制コードによる統一管理が始まっています。
レアアースについては、2025年4月4日に商務部と海関総署がサマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウムの中重希土類7品目とその関連物項を輸出管制対象とする公告を出しました。以降、許可なく管制対象物項を輸出する行為は行政処罰の対象となるだけでなく、刑事訴追の対象にもなります。その受け皿が、今回の2名に適用された中国刑法第151条第3項の国家輸出入禁止貨物密輸罪です。
執法の実態も強化されています。
中国の法律事務所による2025年の輸出管制年次レビューによると、2025年には税関・司法機関・商務部の協働執法体制が形成され、戦略鉱物・レアアース関連製品・黒鉛を重点領域として、品目申告の不正確さや無許可輸出が集中的に摘発されました。同年には国家禁止輸出入貨物密輸罪での刑事判決が複数件確定しており、輸出向け密輸の立件数も前年から増加しています。さらに中国政府は2026年7月1日、レアアース等の輸出に関わる違法行為の通報を奨励する制度を施行し、摘発の網を市民レベルにまで広げました。
この積み上げを前提にすると、報道された取り外し可能な磁石の循環輸出という手法は、管制対象物項(磁石)を非管制の完成品に偽装して持ち出す許可逃れと構成でき、中国法の条文上は密輸罪の構成要件に該当しうる行為類型です。つまり、法的根拠そのものが存在しないとは言い切れません。問題は、その法をどのような文脈で、誰に対して行使しているかという運用面にあります。
米国の分析が示す構造-法執行と戦略的レバレッジの一体化
米国の主要シンクタンクは、中国のレアアース管制を純粋な法執行制度としてではなく、戦略的な圧力手段と一体化した制度として分析しています。
戦略国際問題研究所(CSIS)は、2025年4月の中重希土類と永久磁石への輸出規制が同盟国の防衛・産業サプライチェーンに急速な混乱をもたらしたと分析し、規制発動から1年を経た2026年の検証レポートでも、中国への依存構造が残る限りレアアースが交渉レバレッジとして機能し続けると評価しています。
また、2025年10月に商務部が公告第61号で導入した域外適用ルールについては、米国が半導体規制で用いてきた外国直接製品ルール(FDPR)を中国が初めて採用したものであり、交渉力の強化を狙った措置だと位置づけました。
中国原産レアアースを価値比0.1%以上含む一定の外国製品まで許可対象とするこの仕組みは、ジョージタウン大学CSET(安全保障・新興技術センター)が公告の全訳を公開しており、条文レベルで域外の企業活動に管轄を及ぼす設計であることが確認できます。なお、2025年10月の一連の措置はその後の米中交渉を経て一部が停止・猶予されていますが、法的枠組み自体は維持されており、いつでも再発動できる状態にあると各分析は指摘しています。
これらの分析が示すのは、中国の輸出管制が国内法の体裁を整えつつ、実際の運用では外交・通商上の対立相手に照準を合わせて発動されてきたという構造です。2025年の対米発動、そして2026年の対日適用は、同じ制度基盤の上で対象を切り替えた連続的な動きとして理解できます。
台湾の公的研究機関の評価-管制対象の際限ない拡張と対日圧力
中国の隣に位置し、経済安全保障上の圧力を最も直接的に受けてきた台湾の分析は、日本にとって参考価値が高いものです。
台湾の国防部系シンクタンクである国防安全研究院(INDSR)は、2025年10月の一連の公告について、管制範囲が特定金属からサプライチェーン全体へと拡大し、原材料、生産の各段階、生産技術・設備、さらに第三国間の移転までを含む総合的管理体制が構築されたと分析しています。
同研究院の網路安全・決策推演研究所長は台湾公共電視の取材に対し、日本製の精密モーターやドイツ製の風力発電機、ベトナムで組み立てられた電子製品であっても、中国産レアアースが関与していれば管制対象に取り込まれると指摘しました。また同研究院の別の評析は、中国がレアアース精錬の9割超を握る一方で原料鉱石の一定割合を米国等からの輸入に依存する構造も指摘しており、管制カードの威力と限界の双方を冷静に見積もっています。
台湾中央通訊社(中央社)は2026年7月の分析記事で、中国の輸出管制が防拡散義務の履行を目的とした第1段階、2010年の尖閣沖漁船衝突事件後の対日レアアース輸出制限という第2段階を経て、現在は関鍵鉱物とサプライチェーンの隘路を狙って外交・地政学の道具として運用する第3段階に入ったと整理しています。
同記事は、中国商務部が2026年に日本の20の企業・団体を輸出管制対象に加えた措置を、日本のいわゆる新型軍国主義への対抗と明示的に結びつけた点にも言及しており、対日運用の政治的性格を裏付けています。この20社リストの詳細は中国、輸出禁止リストに20の企業を追加で解説しています。
法的対応の合理性をどう評価するか-条文上の根拠と選択的運用の乖離
以上を踏まえて、中国の法的対応の合理性を三つの層に分けて評価します。
第一に、条文上の根拠という層では、中国側の対応には一応の法的基礎があります。輸出管理法から両用物項条例、2025年4月公告、刑法151条へと連なる規制体系は形式的に整備されており、報道された取り外し可能な磁石の循環輸出が事実であれば、管制品目の許可逃れとして構成要件に該当しうることは否定できません。米国のFDPRや迂回輸出(re-export)規制と比較しても、許可逃れを取り締まるという規制目的自体は各国の輸出管理制度に共通する論理です。輸出管理の潜脱行為を処罰すること自体は、国際的にみて異例とはいえません。
第二に、規制の予見可能性という層では、合理性に重大な疑問が残ります。前回記事で指摘したとおり、磁石を組み込んだ加工品の輸出は長年グレーゾーンとして事実上黙認されてきた慣行であり、どの時点からどのような態様が刑事罰の対象になるのかについて、中国当局から事前の明確な線引きは示されていませんでした。事後的な解釈変更によって過去の慣行を刑事事件化する運用は、罪刑法定主義の観点からも、企業のコンプライアンス実務の観点からも、法の支配の水準を満たしているとは評価しがたいものです。
第三に、執行の選択性という層では、政治的動機が色濃く表れています。摘発のタイミングは高市首相の台湾有事関連発言に端を発する日中外交危機のさなかであり、CSISが指摘するレバレッジとしてのレアアース運用、台湾の各機関が指摘する地政学的道具化の文脈と整合します。NNN報道によれば中国側関係者は新たな対日輸出規制の検討にも言及しており、本件が個別の法執行にとどまらず、対日圧力パッケージの一部として位置づけられていることは明らかです。同一の行為が米欧企業によって行われた場合に同等の刑事摘発がなされるのかという執行の平等性は、現時点でまったく担保されていません。
結論として、中国の対応は「法的根拠がない恣意的な拘束」と切り捨てられるものではなく、条文上は成立しうる摘発を、政治的に選択されたタイミングと対象に対して発動したものと評価するのが正確です。この構造こそが在中事業のリスクの本質です。合法・違法の境界線が事前に読めず、境界線の運用が外交情勢に連動する以上、条文を守る努力だけではリスクを消せません。
経営層と管理部門への示唆-規制の隙間を突く最適化の危険性
今回報道されたスキームは、規制の文言上は完成品輸出という適法形式を取りながら、実質において管制品目を抜き出すという、いわば規制の穴を突いた業務最適化です。仮に現地法人や現場レベルの判断でこうしたスキームが構築・継続されていたのだとすれば、本社のガバナンスが輸出実務の実態を把握できていなかったことになり、これは輸出管理の問題であると同時に内部統制の問題です。
企業が取るべき対応の方向性は三つあります。一つ目は、中国関連の輸出入フローについて、形式上の品目分類だけでなく実質的な目的と反復パターンを含めて棚卸しすることです。当局が往復のトランザクションを検知して立件した以上、自社の物流データを同じ視点で分析し、疑義を持たれうるフローを特定しておく必要があります。二つ目は、グレーゾーン慣行の全面的な洗い出しです。業界慣行として続いてきた処理ほど、解釈変更による事後的な犯罪化のリスクを抱えています。三つ目は、駐在員・出張者の人身リスクを前提とした渡航管理と危機対応体制の維持です。この点は前回記事で詳述した渡航前リスクアセスメント、緊急対応プロトコルの整備がそのまま当てはまります。
なお、中国の域外適用型の法制がもたらすリスクの全体像については、中国が民族団結進歩促進法を制定——日本への影響とはもあわせてご覧ください。
出典
- 【独自】レアアース磁石を無許可で輸出か、中国で日本人2人逮捕 発覚の経緯明らかに – 日テレNEWS NNN
- 富士電機の日本人社員2人、中国で拘束 レアアース規制違反か – 日本経済新聞
- 中国当局、富士電機社員を逮捕 レアアース関連の違法行為の通報強化 – 日本経済新聞
- Rare Earth Export Restrictions One Year Later – CSIS
- China’s New Rare Earth and Magnet Restrictions Threaten U.S. Defense Supply Chains – CSIS
- Ministry of Commerce Notice 2025 No. 61(英訳) – CSET, Georgetown University
- 國防安全研究院 即時評析(2025年10月の稀土輸出管制7公告の分析) – 台湾・国防安全研究院
- 國防安全雙週報(中国の稀土サプライチェーン支配構造の分析) – 台湾・国防安全研究院
- 中國擴大稀土出口管制 方法與對全球供應鏈影響一次看 – 台湾・公視新聞網(PTS)
- 中國出口管制反守為攻 稀土成為地緣政治工具 – 台湾・中央通訊社(CNA)
- 中國祭出稀土出口管制,反制美國關稅 – 台湾・科技政策研究與資訊中心(STPI)
- Annual Review of China’s Export Controls in 2025 – Lexology
- 商务部公告2025第62号 公布对稀土相关技术实施出口管制的决定 – 中国商務部








