杏林大学は2026年8月10日、同大学の公式サイトへのリンクを無断で掲載している海外医薬品個人輸入ホームページの存在を確認したとして注意喚起しました。公表文では、これらのホームページと杏林大学は一切関係がないと明記されています。
本件は、杏林大学の公式サイトが改ざんされた、または杏林大学から個人情報が漏えいしたという発表ではありません。問題は、大学や病院など信頼性の高い組織へのリンクを外部サイトが掲載し、閲覧者に「公的・医療機関と関係があるサイトかもしれない」と誤認させる点にあります。情報システム部門にとっても、自社・自組織の公式サイトが第三者の不審サイトに権威付けとして使われるリスクをどう監視するか、考えるべき事案です。
杏林大学公式サイトへの無断リンク掲載問題のサマリー
- 杏林大学は、同大学の公式サイトへのリンクを無断で掲載している海外医薬品個人輸入ホームページを確認したとして、2026年8月10日に注意喚起しました。
- 当該ホームページと杏林大学は一切関係がなく、商品注文や代金振込、個人情報・クレジットカード情報の入力を行わないよう呼びかけています。
- 杏林大学側で情報漏えいが発生したという発表ではなく、第三者サイトが公式リンクを掲載して信頼性を装うタイプのリスクとして捉える必要があります。
- 海外医薬品の個人輸入サイトは、商品不着、偽造品、カード情報の不正利用、個人情報の悪用、マルウェア感染など複数の被害につながる可能性があります。
- 情報システム部門は、自社名・学校名・病院名・ブランド名が不審サイトに無断利用されていないか、検索結果、被リンク、SNS、広告を継続的に確認する体制が必要です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 公表日 | 2026年8月10日 |
| 公表組織 | 杏林大学 |
| 確認された内容 | 杏林大学公式サイトへのリンクを無断で掲載している海外医薬品個人輸入ホームページを確認 |
| 杏林大学との関係 | 杏林大学は当該ホームページと一切関係がないと説明 |
| 想定される被害 | 個人情報の不正取得、商品不着、偽造品の送付、クレジットカード情報の不正利用、個人情報の悪用・拡散、マルウェア感染など |
| 利用者への呼びかけ | 関係があるかのように見せかけたサイトで商品の注文や代金振込を行わないよう注意喚起 |
| 被害時の対応 | 杏林大学広報室への連絡と、最寄りの警察署への相談を案内 |
| 情報漏えいの有無 | 杏林大学から個人情報が漏えいしたとの発表ではない |
| 個人情報保護委員会への報告状況 | 個人情報漏えい事案としての公表ではないため、公式発表上で報告に関する記載は確認できません |
何が起きたか
杏林大学は、同大学の公式サイトへのリンクを無断で掲載している海外医薬品個人輸入ホームページの存在を確認しました。公表文では、これらのホームページと杏林大学は一切関係がないと説明しています。
大学名や病院名、研究機関名は、医療や健康に関する情報を探している利用者にとって信頼の手がかりになりやすいものです。第三者サイトがその公式サイトへのリンクを掲載すると、閲覧者は「このサイトは大学と関係があるのではないか」「医学的な裏付けがあるのではないか」と受け取ってしまう可能性があります。
今回の公表で重要なのは、杏林大学の公式サイト自体が侵害されたという話ではない点です。外部のホームページが大学公式サイトへのリンクを勝手に掲載し、大学と関係があるように見せる構図です。これは、企業や公的機関のロゴ、社名、公式リンク、所在地などを利用して信頼性を装う偽サイト・なりすましサイトの問題と近い構造を持っています。
セキュリティ対策Labでも、過去に株式会社kubell、偽サイトを注意喚起やすき家の公式サイトを装う偽サイトを確認、個人情報入力に注意喚起として、社名やブランドを無断利用したサイトのリスクを取り上げてきました。今回のような「公式サイトへのリンクを掲載して信頼性を装う」手口も、利用者の判断を誤らせるという意味では同じ線上にあります。
なぜ公式サイトへのリンク掲載が問題になるのか
Webサイトに外部リンクを掲載すること自体は、一般的なインターネット上の行為です。ところが、医薬品、金融、行政、教育、医療など、信頼性が利用者の判断に直結する分野では、リンクの見せ方が問題になります。
たとえば、不審な海外医薬品個人輸入サイトが大学病院や大学公式サイトへのリンクを掲載していた場合、利用者は「この大学が推奨しているのかもしれない」「関係機関なのかもしれない」と誤認する可能性があります。公式リンクは、本来は情報源を示すためのものですが、悪用されると信頼の借用になります。
攻撃者や悪質な事業者から見ると、ゼロから信用を作るよりも、既に信用されている組織の名前やリンクを画面上に配置した方が早く利用者を安心させられます。これは、ECサイトの偽サイトが有名企業のロゴや商品画像を無断利用する構造と似ています。自社サイトへの被リンクは通常SEOの観点で語られがちですが、セキュリティの観点では「どのようなサイトから、どのような文脈でリンクされているか」も確認対象になります。
海外医薬品個人輸入サイトで起こり得る被害
杏林大学は、当該ホームページを利用した場合、個人情報の不正取得、商品が届かない、偽造品が送付される、入力したクレジットカード情報が不正利用される、個人情報が不正利用・拡散される、コンピュータウイルスに感染する、といった被害のおそれがあると注意喚起しています。
海外医薬品の個人輸入については、厚生労働省も注意を呼びかけています。日本国内で正規に流通している医薬品などは、医薬品医療機器等法に基づき品質、有効性、安全性が確認されています。一方、個人輸入される外国製品については、同じ水準の保証があるとは限りません。医薬品としての危険性に加え、ECサイトとしての詐欺リスクも重なる点が厄介です。
サイバーセキュリティの観点では、入力フォームの存在が特に問題になります。氏名、住所、電話番号、メールアドレス、クレジットカード情報、配送先情報がまとめて入力されると、商品未着だけでなく、フィッシング、架空請求、なりすまし、別の詐欺勧誘に使われる可能性があります。医薬品に関する購入履歴や関心領域は、健康状態を推測できる情報にもなり得ます。
消費者庁も、正規のECサイトの商号、デザイン、商品写真などを無断でコピーした偽サイトによる被害について注意喚起しています。大学や病院のリンクを使った権威付けは、商品写真やロゴの無断利用とは手段が異なりますが、利用者を安心させて取引や入力へ誘導する点では共通しています。
本件は情報漏えいではなく、ブランド悪用と信頼悪用の問題
今回の事案は、個人情報漏えいやランサムウェア被害とは性質が異なります。杏林大学が管理するシステムから情報が流出したという発表ではなく、第三者のホームページが杏林大学公式サイトへのリンクを無断で掲載している、という注意喚起です。
それでも、情報システム部門が軽く見てよい話ではありません。自社や自組織の名称が、詐欺的な通販サイト、海外医薬品サイト、投資勧誘サイト、採用なりすましサイトなどに使われると、利用者から見た信用が毀損します。問い合わせ対応、削除要請、検索結果の確認、法務・広報・CS部門との連携が必要になり、結果として組織の運用負荷も高まります。
この種の問題は、ドメイン名の悪用だけではありません。公式サイトへのリンク、公式SNSへのリンク、住所や電話番号の転載、ロゴ画像の無断使用、過去のプレスリリース引用など、複数の要素を組み合わせて「本物らしさ」が作られます。見た目が雑な偽サイトであっても、利用者が検索結果から直接アクセスした場合、冷静に確認せず入力してしまうことがあります。
セキュリティ対策Labの偽サイトに関する注意喚起カテゴリで扱ってきた事例でも、公式サイトに似せたドメイン、ロゴの無断利用、正規サービスへのリンク掲載、問い合わせ情報の転載などが繰り返し確認されています。攻撃者は、技術的に高度な侵害だけでなく、利用者の信頼判断を崩す見せ方を使ってきます。
利用者が確認すべきポイント
利用者側では、大学や病院へのリンクが掲載されているだけで、そのサイトが安全であるとは判断しないことが重要です。特に、海外医薬品や健康食品、薄毛治療薬、ダイエット薬、睡眠薬、性的機能に関する医薬品などを扱うサイトでは、販売者情報、所在地、問い合わせ先、決済方法、返品条件、医薬品に関する説明の妥当性を慎重に確認する必要があります。
公式機関との関係を強調する表示がある場合は、その公式機関側のサイトで本当に提携や推奨が公表されているかを確認すべきです。外部サイトに掲載されたリンクではなく、検索やブックマークから公式サイトへ直接アクセスし、公式のお知らせを確認するのが安全です。
クレジットカード情報や本人確認書類、健康状態に関する情報を入力した後で不審に気づいた場合は、カード会社への連絡、警察への相談、迷惑メールや不審電話への警戒が必要です。パスワードを入力していた場合は、同じパスワードを使っている他サービスも含めて変更すべきです。
情報システム部門への示唆
情報システム部門は、自組織の公式サイトが外部からリンクされること自体を完全に止めることはできません。ただし、悪質な文脈で自社名や公式リンクが使われていないかを定期的に確認することはできます。企業名、学校名、病院名、サービス名、役員名、ドメイン名を組み合わせた検索監視、ブランドモニタリング、フィッシングサイト検知サービスの活用は現実的な対策です。
特に医療機関、大学、金融機関、自治体、公共性の高い事業者は、公式リンクやロゴが「信用の部品」として悪用されやすい立場にあります。偽サイトや不審サイトを確認した場合に、法務、広報、CS、情シス、経営層の誰が判断し、どの窓口へ削除要請や注意喚起を行うのか、平時に決めておく必要があります。
自社サイト側でも、公式SNS、公式EC、公式アプリ、公式問い合わせ窓口を分かりやすく掲載し、利用者が本物を確認しやすい導線を用意することが重要です。偽サイトや無断リンク掲載への注意喚起を出す場合は、「当社とは関係ありません」だけでなく、利用者が何をしてはいけないのか、被害に遭った場合にどこへ連絡すべきか、入力してしまった情報別にどう対応すべきかまで書いた方が実務的です。
被リンクの監視はSEO担当だけの仕事ではありません。ブランド保護、フィッシング対策、問い合わせ対応、インシデント広報の接点にある業務です。今回の杏林大学の注意喚起は、自組織が侵害されていなくても、外部サイト上で信用が悪用されるリスクを示した事例として受け止めるべきです。








