2026年7月19日、中国海軍とロシア海軍の合同艦隊が西太平洋で共同航行を実施し、その過程で中国海軍の駆逐艦が日本最南端の沖ノ鳥島周辺、日本が排他的経済水域(EEZ)と主張する海域内で実弾射撃訓練を行いました。
防衛省が中国軍による日本のEEZ内での実弾射撃訓練を公式に確認・公表したのはこれが初めてです。小泉進次郎防衛大臣は事案発生の翌日、日本国内ではなく訪問先の英国で開催されていたファンボロー国際航空ショーの場でこの事実を公表し、中露の軍事連携の強化に警鐘を鳴らしました。
今回の事案は、単なる偶発的な演習にとどまらず、沖ノ鳥島のEEZ地位を巡る法的な現状変更の試み、台湾有事を見据えた接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力の実証、そして台湾情勢を巡り対立を深める日本政府への政治的圧力という、複数の狙いが重なり合った事案として受け止められています。
サマリー
- 2026年7月16日、中国海軍艦艇3隻とロシア海軍フリゲート艦1隻からなる合同艦隊が宮古海峡を南下し、東シナ海から太平洋へ進出しました
- 7月19日、この艦隊のうち中国海軍のミサイル駆逐艦1隻が、沖ノ鳥島の南西約180キロメートルの海域、すなわち日本が主張するEEZの内側で機関銃による実弾射撃訓練を実施しました
- 日本政府は外交ルートを通じて中国側に懸念を伝達し、防衛省は中国軍による日本EEZ内での実弾射撃訓練を初めて公式に確認・公表しました
- 参加艦艇には中国海軍最大級のレンハイ級(055型)ミサイル駆逐艦、防空能力に優れたルーヤンIII級(052D型)ミサイル駆逐艦、外洋での長期作戦を可能にするフチ級(903型)総合補給艦が含まれ、ロシア側はステレグシュチイ級フリゲートが参加しました
- 中国は2004年以降、沖ノ鳥島はUNCLOS上のEEZを有する島ではなく岩にすぎないと主張しており、今回の実弾射撃はこの法的立場を実力で誇示する法律戦の一環と位置づけられています
- 沖ノ鳥島周辺は台湾有事の際に米軍がグアムから台湾・沖縄方面へ向かう進出ルート上にあり、今回の行動は米軍来援を阻止するA2/AD能力の実証という軍事的な狙いも指摘されています
- 2025年11月の高市早苗首相による台湾有事に関する存立危機事態を巡る国会答弁以降、日中関係は緊張状態にあり、今回の事案は対日政治圧力としての側面も指摘されています
- 小泉防衛相は英国でこの事実を公表し、欧州とインド太平洋の安全保障が不可分であると強調するとともに、日英伊のGCAP(グローバル戦闘航空プログラム)推進や防衛生産基盤の国際連携強化を訴えました
目次
整理表
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発生日 | 2026年7月19日(実弾射撃)、7月16日から数日間の共同航行 |
| 参加艦艇 | 中国海軍3隻(レンハイ級・ルーヤンIII級ミサイル駆逐艦、フチ級総合補給艦)、ロシア海軍ステレグシュチイ級フリゲート1隻 |
| 実弾射撃の実施艦 | 中国海軍ルーヤンIII級(052D型)ミサイル駆逐艦 |
| 射撃実施場所 | 沖ノ鳥島南西約180キロメートル(日本が主張するEEZ内、領海の外側) |
| 経路 | 宮古海峡→東シナ海→フィリピン海→沖ノ鳥島周辺 |
| 日本側の対応 | 外交ルートで中国に懸念を伝達、防衛省が中露艦艇によるEEZ内実弾射撃訓練を初めて公式確認・公表 |
| 公表の場 | 小泉防衛大臣が訪問先の英国、ファンボロー国際航空ショーで公表(7月20日) |
| 中国の沖ノ鳥島に関する立場 | 2004年以降、EEZ・大陸棚を有さない「岩」であると主張(UNCLOS第121条3項) |
| 背景にある日中対立 | 2025年11月の高市首相による台湾有事・存立危機事態を巡る国会答弁を契機とする日中外交危機 |
| 小泉防衛相の主な発信内容 | 中露の軍事連携強化への警鐘、欧州・インド太平洋の安全保障の不可分性、GCAP等の防衛産業連携強化 |
何が起きたか-共同航行のタイムラインと沖ノ鳥島EEZ内での実弾射撃
防衛省統合幕僚監部や各国のインテリジェンス機関の報告を総合すると、今回の事案は数日間にわたる一連の戦略的な機動として展開されました。2026年7月16日、中国海軍の艦艇3隻とロシア海軍のフリゲート艦1隻の計4隻からなる合同艦隊が、沖縄本島と宮古島の間に位置する宮古海峡を南下し、東シナ海から太平洋へと進出しました。宮古海峡は国際海峡としての性質を持つ一方、中国軍にとっては第一列島線を突破するための主要な経路として位置づけられている海域です。
その後、艦隊はフィリピン海を南西へ進み、7月19日午前2時ごろ、沖ノ鳥島の南西約330キロメートルの海域を北東に向けて航行しているところを、警戒監視にあたっていた海上自衛隊の護衛艦が確認しました。同日、この合同艦隊のうち中国海軍のミサイル駆逐艦1隻が、沖ノ鳥島の南西約180キロメートルの海域、すなわち日本が国連海洋法条約(UNCLOS)に基づき設定しているEEZの境界内において、機関銃を用いた実弾射撃訓練を実施しました。船舶等への被害は報告されていませんが、日本政府は周辺船舶の航行に危険を及ぼしかねないとして、外交ルートを通じて中国側に重大な懸念を伝達しました。防衛省が、中国軍による日本のEEZ内での実弾射撃訓練を公式に確認・発表したのは今回が初めてです。
参加艦艇が示す戦術的能力
今回の艦隊構成は、単なる哨戒活動というより、対空・対艦・対地攻撃能力と長期の外洋作戦能力を兼ね備えた実戦的な部隊でした。中国海軍最大にして最強の水上戦闘艦とされるレンハイ級(055型)ミサイル駆逐艦は、112セルの垂直発射システムを備え、高度な防空能力と対地・対艦巡航ミサイルの運用能力を持ちます。実際に実弾射撃を実施したルーヤンIII級(052D型)ミサイル駆逐艦は、米海軍のイージス艦に匹敵するフェーズドアレイレーダーを搭載する中国の主力防空駆逐艦です。あわせて随伴したフチ級(903型)総合補給艦は、中国海軍が第一列島線を越えた外洋で長期的に作戦を継続する能力を持つことを示しています。ロシア側から参加したステレグシュチイ級フリゲートは、沿岸から外洋まで運用可能な新型艦で、中露両海軍間の戦術データリンクや相互運用性の検証という役割を担ったとみられます。
米国のシンクタンクである戦略国際問題研究所(CSIS)の分析では、中国人民解放軍が2025年から2026年にかけて、台湾海峡や南シナ海だけでなく、第一列島線を越えたフィリピン海やオーストラリア周辺にまで作戦範囲を急速に拡大させている一環として、今回の動きが位置づけられています。台湾の国防部や国防安全研究院(INDSR)の分析も、中国軍が台湾本島を包囲する形での海空域封鎖作戦の準備と、外部からの介入を拒否する演習を連動させており、今回の沖ノ鳥島周辺での行動もその外周防衛線構築の一環とみなしています。
中露の狙い(1)-沖ノ鳥島のEEZ地位を巡る法律戦
今回の実弾射撃が持つ第一の狙いは、日本が主張する沖ノ鳥島のEEZとしての地位を実力で否認し、海洋法秩序を自国に有利な形に変更しようとする、いわゆる法律戦(Lawfare)の実行だと分析されています。
沖ノ鳥島は東京から南へ約1,700キロメートルに位置する太平洋上の環礁で、日本の国土面積を上回る約40万平方キロメートルのEEZの基点となっています。しかし中国は2004年の日中二国間協議において、沖ノ鳥島はUNCLOS第121条3項が定める、人間の居住や独自の経済活動を維持できない岩にすぎず、EEZや大陸棚を有さないとの立場を公式に示すようになりました。中国海軍の駆逐艦が、領海(12海里)の外側でありながらEEZ(200海里)の内側にあたる沖ノ鳥島から約180キロメートルの海域であえて実弾射撃を行ったという事実は、この海域を公海とみなし日本の管轄権や主権的権利を一切認めないという物理的なメッセージだと受け止められています。実弾射撃という行為自体が周辺航行船舶への危険を伴うため、国際法上の航行の自由を根拠にしつつ、沿岸国である日本に強い心理的圧力をかけるグレーゾーン戦術の典型例といえます。
中露の狙い(2)-台湾有事を見据えたA2/AD能力の実証
第二の狙いとして指摘されているのが、軍事・作戦面における接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力の実証と、台湾有事における介入阻止ラインの押し上げです。
地理的に見て、沖ノ鳥島周辺のフィリピン海は、台湾有事の際に米軍がグアムを拠点として台湾・沖縄方面へ向かう進出ルート上に位置しています。台湾のINDSRや米国のシンクタンクの分析によれば、中国人民解放軍はウクライナ戦争の教訓を踏まえ、台湾に対する短期決戦が困難になった場合に備えた大規模な海上・航空封鎖作戦の準備を加速させています。今回のような最新鋭駆逐艦がこの海域で活動を見せたことは、有事の際にグアムやハワイ方面から来援する米海軍の空母打撃群を第二列島線の内側で迎え撃ち、接近を阻止するための外洋防空・対艦ミサイル網構築のテストだとみられています。ロシアのフリゲート艦が同行した点についても、中露が西太平洋における戦術的な連帯を誇示し、日米同盟の対応リソースを北のオホーツク海・日本海方面と、南の東シナ海・フィリピン海方面の二正面に分散させようとする戦略的な狙いの表れだと分析されています。
中露の狙い(3)-高市政権への政治的圧力
第三の狙いとして指摘されているのが、2025年秋に発足した高市早苗政権に対する政治的な威圧としての側面です。当サイトで既報の中国による日本企業への輸出禁止措置の拡大や富士電機社員の拘束事案でも触れたとおり、日中関係は2025年11月、高市首相が国会答弁で、中国による台湾の海上封鎖や武力攻撃が発生した場合、日本の存立が脅かされ国民の生命や権利が根底から覆される明白な危険がある事態、いわゆる存立危機事態に該当し得ると言及したことを契機に、極度の緊張状態に陥っています。この発言は、日本がこれまで維持してきた台湾有事を巡る戦略的な曖昧さを大きく後退させるものであり、中国側はこれを内政干渉だとして強く反発し、水産物の禁輸やレアアース等の輸出規制、渡航制限といった経済的な圧力を強めてきましたが、高市政権はこれまでのところ発言の撤回に応じていません。
今回、日本がEEZと主張する海域内で行われた中国艦艇の実弾射撃とロシア艦艇の共同機動は、こうした外交・経済的圧力に応じない日本政府に対し、仮に日本が台湾有事に介入すれば日本自身のEEZやシーレーン、南西諸島が直接の戦場になり得るという物理的なリスクを可視化する試みだとの見方も出ています。日本の政策決定者や世論に心理的な圧力をかけ、日米間の連携に楔を打ち込もうとする、情報戦・認知戦の一環として機能し得るという指摘です。
小泉防衛相が英国で公表した戦略的な意味
小泉防衛大臣は事案発生の翌日にあたる7月20日、日本国内での定例会見ではなく、訪問先の英国南部で開催されていたファンボロー国際航空ショーの基調講演の場でこの事実を公表しました。この選択には、現代の戦略的コミュニケーションにおける計算が働いているとみられます。
中国はしばしば、他国の管轄海域内での威圧的な軍事行動を国際法に則った通常の訓練だと正当化し、抗議する沿岸国を過剰反応だと非難するナラティブを展開してきました。世界の防衛関係者やメディアが集まる英国の航空見本市という場で、中国駆逐艦が日本周辺のEEZ内で実弾を用いた事実をいち早く公表したことは、こうした不透明な軍事行動を公にさらす狙いがあったと考えられます。
この結果、今回の事案は日中間の局地的な海洋摩擦という枠を超え、法の支配に基づく自由で開かれたインド太平洋という国際的な安全保障上の論点として位置づけられることになりました。
小泉防衛相は講演の中で、欧州・大西洋とインド太平洋の安全保障は一体不可分であると強調しました。
ウクライナ侵略を続けるロシアと、台湾海峡・東シナ海で威圧を強める中国が、日本のEEZ周辺で共同で軍事機動を行っているという事実は、NATO諸国にとって説得力のある脅威の証左として受け止められています。あわせて、この発表の場がファンボロー航空ショーであったことは、日英伊が共同で進めるグローバル戦闘航空プログラム(GCAP)とも密接に関連しています。小泉防衛相は英国のヒーリー国防相やイタリアのクロセット国防相と会談し開発の加速を確認したほか、一国のみで防衛産業を完結させることは不可能だとしたうえで、日本政府が新たに防衛生産・技術基盤戦略を策定する方針を欧州の地で発表しました。
日本の防衛政策・日米同盟への影響
高市首相による存立危機事態を巡る答弁により、中国側は台湾侵攻作戦の初期段階から日本および在日米軍の介入を想定した計画の修正を迫られたとの指摘があります。日本の元将官の分析によれば、日本の介入閾値が下がったことで、中国は米日による本格的な介入が始まる前に短期決戦を収める必要が生じ、より大規模な兵力動員という兵站上の困難に直面しているとされます。
その裏返しとして、有事の初期段階で中国軍が日本の南西諸島や西太平洋のシーレーンに対する先制的な攻撃・封鎖を試みるリスクも高まっているとの見方があります。日本には、米軍を支援するだけでなく自衛隊自身が長射程ミサイルを用いて侵攻艦隊への対処にあたる主体的な役割が求められるとの指摘もあり、統合防空ミサイル防衛の実効性確立が急務とされています。作戦面では、中露艦艇の活動海域が東シナ海から沖ノ鳥島周辺の西太平洋深部へと常態的に拡大していることに伴い、海上自衛隊・航空自衛隊の警戒監視負担が増大しており、無人水上艦や衛星コンステレーションを活用した広域の海洋状況把握(MDA)能力の強化が課題となっています。
経済安全保障・リスク管理の観点から見た留意点
今回の事案は、純粋な軍事領域にとどまらない経済安全保障上の含意も持っています。中国が沖ノ鳥島を岩とみなしEEZを否認する立場は、将来的な海底資源の探査や漁業権益にも影響を及ぼし得るものです。日本政府はフィリピンとのEEZ境界画定協議の強化や、ロシアとの地先沖合漁業交渉の難航にも直面しており、水産・実体経済への波及もすでに顕在化しています。
より広い文脈では、当サイトで既報の軍事ドローンのサプライチェーンに潜む中国依存や、G7で提唱された重要鉱物の共同備蓄構想でも取り上げたとおり、日本政府はレアアース等の重要物資における対中依存脱却を経済安全保障政策の柱の一つに据えていますが、中国側はデュアルユース製品の輸出規制や日本企業・大学の制裁リスト化といった対抗措置をエスカレートさせています。軍事的な圧力と経済的な威圧が連動する局面が続く中、中国・ロシアとの取引やサプライチェーン上の接点を持つ企業にとっては、地政学的リスクの高まりを踏まえた調達先の多様化やBCP(事業継続計画)の再点検が、引き続き重要な経営課題になると考えられます。また、当サイトで既報の中露の爆撃機・戦闘機による日本周辺での共同飛行にもみられるとおり、中露の軍事的連携は海上だけでなく空中でも常態化しつつあり、日本周辺における中露両国の共同活動そのものを継続的にモニタリングしていく視点が、経済安全保障上のリスク評価においても欠かせなくなっています。
出典
- 中国とロシアの艦艇、日本のEEZ内で実弾射撃訓練 海自が警戒監視 – 朝日新聞・日刊スポーツ
- China, Russia navies hold live-fire drills within Japan’s EEZ: minister – Kyodo News
- Chinese destroyer held live-fire drill in Japan’s exclusive economic zone, Japan says – The Straits Times
- 中露両軍、日本のEEZ内で実弾用い実戦演習…小泉防衛相「中露の軍事連携は強化されている」と警鐘 – 読売新聞
- 中国、日本EEZ内で射撃訓練 ロシア艦艇も付近航行 – 時事通信
- Tracking China’s Increased Military Activities in the Indo-Pacific in 2025 – ChinaPower, CSIS
- Japan Should Help Sink China’s Invasion Fleet – RAND
- The US-Japan-China Mistrust Spiral and Okinotorishima – Asia-Pacific Journal
- Takaichi and a shift in ‘strategic ambiguity’ over Taiwan – CIGS Canon
- 中国、輸出禁止リストに20の企業を追加-日本の安全保障・産業サプライチェーンに圧力 – セキュリティ対策Lab
- 中国で富士電機社員2名拘束→逮捕か-密輸罪の拡大解釈と2026年7月施行 民族団結進歩促進法が生む新リスク – セキュリティ対策Lab
- 軍事ドローンのサプライチェーンに潜む中国依存の深刻な実態と日本の対応とデュアルユースの必要性 – セキュリティ対策Lab
- 米イラン停戦後に日本が向かうべき自立的安全保障-G7で高市首相が提唱した重要鉱物共同備蓄 – セキュリティ対策Lab
- 中露爆撃機と戦闘機が共同で日本の空域を飛行-2026年6月27日に日本海・東シナ海・西太平洋まで広範囲飛行 – セキュリティ対策Lab







