米国政府がDeepSeekを連邦機関から排除、派生製品も対象に 中国製AIのリスクと日EU共同声明、ソブリンAIが必要な理由

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米国政府がDeepSeekを連邦機関から排除、派生製品も対象に 中国製AIのリスクと日EU共同声明、ソブリンAIが必要な理由

米国土安全保障省(DHS)は2026年10月20日、中国のAI企業DeepSeek(Hangzhou DeepSeek Artificial Intelligence Co., Ltd.)の製品・サービスを、米連邦文民政府機関の調達と情報システムから排除する命令を米連邦官報に掲載しました。対象にはDeepSeekの関連企業が開発した製品だけでなく、DeepSeekの実装技術を使用して開発された第三者の製品・サービスも含まれます。

今回の措置は、個々の職員によるチャットアプリ利用の問題にとどまりません。行政機関が利用するAIの提供者、組み込まれた基盤モデル、データの保存先、供給元まで把握し、機密性の高い情報を扱う環境からリスクの高い技術を切り離す、AIサプライチェーン上の判断です。

一方、日本と欧州連合(EU)は2026年5月、信頼できるAIやデータ流通、デジタル基盤で協力する共同声明を発出しています。日本政府も10月20日に政府向け生成AI「源内」のAIエージェント機能と「源内基準」を公表しました。米国によるDeepSeek排除と日EUの協力、日本のAI主権をそれぞれ整理すると、政府や日本企業がAI製品を採用・制限する際の判断軸が見えてきます。

米DHSによるDeepSeek排除命令のサマリー

  • 公表日:2026年10月20日。米連邦官報(Federal Register)第91巻、66346~66350ページに掲載。
  • 発出主体:米国土安全保障省(DHS)。連邦調達サプライチェーン安全保障法(FASCSA)に基づく命令。
  • 対象組織:DHSの権限が及ぶ米連邦文民行政機関。民間企業・一般利用者への一律の利用禁止ではありません。
  • 調達規制:DeepSeekと対象となる関連企業のIT製品・サービスを政府調達から排除。
  • システムからの排除:DeepSeek・関連企業の製品に加え、DeepSeekの実装を利用して開発された第三者製品・サービスも対象。
  • 執行・例外:DHSは対象製品の除去を指示し、例外申請はCISAが審査する仕組みを示しています。
  • 背景:米政府は利用者情報や政府の機微データが中国の法制度・インフラの影響を受けるリスクを問題視しています。
  • 日本の関係機関:個人情報保護委員会は2025年、DeepSeek公式サービスのデータが中国国内のサーバーに保存され、中国法が適用される点を注意情報として公表しています。
項目 内容
命令名 Notice of Order Regarding Exclusion and Removal of DeepSeek Products From Federal Civilian Executive Branch Information Technology Systems and Procurements
官報文書番号 FR Doc. 2026-21447
ドケット番号 DHS-2026-0628
公表日 2026年10月20日
法的根拠 Federal Acquisition Supply Chain Security Act of 2018(FASCSA)
対象製品 DeepSeek・対象関連企業の製品およびDeepSeek実装を使用した第三者製品・サービス
対象機関 米連邦文民行政機関のうち当該命令の対象となる機関
一般消費者・民間企業 今回の命令による一律の利用禁止対象ではない

米政府はDeepSeek本体だけでなく第三者の派生製品も排除

政府調達からの除外と既存システムからの除去は別の措置

米連邦官報に掲載された命令は、調達の段階での排除と、すでに行政機関のIT環境に導入されている対象製品の除去を分けています。前者は、DeepSeekおよび対象となる関連企業が開発したIT製品・サービスを新規調達に含めないための措置です。後者は、既存環境で使われている対象技術にも対応するものです。

官報の本文は、DeepSeek実装を用いて開発された第三者の製品・サービスも除去対象に明示しています。このため、製品名に「DeepSeek」と表示されていなくても、内部の生成AIエンジンやAPI、組み込み機能に同社の技術が使われていれば、政府機関にとって確認対象となり得ます。具体的な適用範囲や例外の判断は、各製品の実装と命令の定義に照らして行う必要があります。

例えば、業務支援チャット、ソースコード生成ツール、文書検索システム、顧客対応SaaSなどにAIモデルが組み込まれている場合、利用組織が直接DeepSeekと契約していなくても、技術の採用状況を把握できないことがあります。これは一般的なソフトウェアの依存ライブラリと似た、AI固有のサプライチェーン管理の課題です。

米国の措置は、DeepSeekのモデルを利用している製品すべてに対して、日本企業も直ちに使用を停止しなければならないという法令ではありません。ただし、米連邦機関と取引する事業者は、契約上の調達条件や納入システムの構成について個別確認が必要となります。

民間でのDeepSeek全面禁止ではない

今回の官報は、DHSの対象となる連邦文民政府機関の情報システムと調達を扱っています。米国の個人が家庭でDeepSeekのチャットを利用すること、日本の企業が自社環境でオープンウェイトモデルを評価することを、一律に違法とするものではありません。

また、2025年に米議員が提出した政府端末でのDeepSeek禁止に関する法案など、過去の提案と、2026年10月に官報へ掲載された行政上の排除命令は区別が必要です。今回はDHSが実際に公表した調達・除去措置である点が新しい動きです。

なぜ米政府は中国製AIを政府システムから排除するのか

DeepSeek公式サービスの入力データは中国で保存・処理される

DeepSeekが公開するプライバシーポリシーは、利用者が入力したテキスト、アップロードしたファイル、会話履歴、アカウント情報などを取得し得ることを説明しています。サービスの提供、改善、モデルの学習なども利用目的として示しています。また、同社が取得した情報を中国国内のサーバーに保存すると記載しています。

日本の個人情報保護委員会も2025年2月3日付の注意情報(同年3月5日更新)で、DeepSeekの利用に伴い取得される個人情報を含むデータが中国のサーバーへ保存され、中国法の適用を受けると説明しました。適用法令の例には、中国の個人情報保護法、サイバーセキュリティ法、データセキュリティ法、国家情報法などが挙げられています。

政府や企業にとって、入力データがどの国の法的管轄に置かれ、事業者が誰の要請に基づいて開示する可能性があるのかは、契約だけでは完結しない検討項目です。

iOSアプリには第三者のセキュリティ調査で問題が指摘された

米モバイルセキュリティ企業NowSecureは2025年2月、当時のDeepSeek iOSアプリを独自に解析し、一部通信の暗号化不足、古い暗号方式や固定された鍵の使用、認証情報の不適切な保存、端末識別情報の収集、ByteDance関連サービスへのデータ送信などを報告しました。

これは調査時点の特定バージョンに対する技術的な評価です。2026年10月時点のすべてのアプリ版で同じ問題が未修正のまま存在すると断定する資料ではありません。また、ByteDance関連サービスとの通信を、直ちに中国政府への情報送信と同一視することもできません。

それでも、行政機関がモバイルアプリや外部AIサービスを調達する際に、通信先、保存先、端末内のデータ保護、サードパーティSDKまで確認する必要があることを示した調査といえます。

政府調達で問われるのは現在の脆弱性だけではない

政府が扱う情報は、職員の業務文書、インフラ運用計画、政策立案資料、契約情報、システム構成、アクセス権限に関する資料など多岐にわたります。AIへ投入するプロンプトや添付資料には、単独では秘匿性が低くても、組み合わせることで機微性が高まる情報が含まれます。

海外サービスの利用が問題になるのは、特定の国の製品であることだけが理由ではありません。国外でのデータ保存、事業者による学習への利用、管理者の監査権限、再委託先、法執行機関の開示要求、サービス停止時の代替手段などが、業務の許容水準と一致するかが判断基準です。米国政府は今回、そのリスクをDeepSeekを政府調達・既存環境から排除すべき水準と評価しました。

「中国製AIを利用しない」という判断が合理的になる条件

中国製という属性だけで、個々の製品の安全性や不正行為を一律に断定することはできません。中国製AIを調達候補から外す判断は、組織が扱う情報、契約上の義務、監査可能性、代替製品の有無を組み合わせて行います。

例えば、次の条件に当てはまる業務では、DeepSeekなどの中国拠点事業者が提供するクラウド型AIサービスを使用しない方針に合理性があります。

判断の観点 利用を避ける理由・条件 組織で確認する資料
政府・防衛・重要インフラ情報 情報区分や契約条件が国外事業者への送信を認めない 情報区分、調達・委託契約、政府基準
個人情報・医療・顧客情報 保存国、処理国、越境移転、再委託に関する説明や法的整理が不足する プライバシーポリシー、DPA、委託先一覧
営業秘密・開発資産 プロンプト・ソースコード・設計資料の学習利用や保存を制御できない 学習利用条件、ログ保管・削除規程
AIサプライチェーン 第三者製品の内部モデルや外部APIを把握できない モデル構成表、API接続先、SBOM等
技術的安全性 アプリやSDKの通信先・暗号化・アクセス権限を監査できない セキュリティ評価、脆弱性検査結果
事業継続 政策・法規制・契約変更で利用停止となった場合に業務を移せない 代替モデル、エクスポート仕様、移行計画

逆に、公開済みの一般情報だけを扱う検証環境で、外部送信を遮断したモデルを自社管理の環境内で動かす場合と、公式のクラウド型チャットに機密資料をアップロードする場合では、データ管理上のリスクは異なります。

ただし、自社環境内で動かすオープンウェイトモデルであっても、モデルファイルの入手先、配布物の改ざん、推論プログラム、導入時の依存パッケージ、プラグイン、ネットワーク通信、ライセンスなどは別途検証する必要があります。オンプレミス化だけで安全性が保証されるわけではありません。

日本とEUは2026年5月の共同声明で信頼できるAI・データ協力を確認

第4回日EUデジタルパートナーシップ閣僚級会合の内容

2026年5月5日、日本とEUはブリュッセルで第4回日EUデジタルパートナーシップ閣僚級会合を開催し、共同声明を発出しました。日本側はデジタル庁、総務省、経済産業省が参加し、EU側では欧州委員会の技術主権・安全保障・民主主義を担当する上級副委員長らが参加しました。

経済産業省が公表した共同声明の概要によると、双方は以下の分野で協力を進めます。

  • AI:安全で信頼できるAI、責任あるイノベーション、AIガバナンスの情報交換、公共部門でのAI導入事例の共有。
  • データ:日EUデータ戦略ワーキンググループの立ち上げ、相互運用できるデータスペース、DFFT(信頼性のある自由なデータ流通)の推進。
  • サイバーセキュリティ:サイバー分野での協力や能力構築、接続機器のセキュリティ認証制度をめぐる連携。
  • 半導体・通信基盤:半導体供給網の早期警戒、5G/6G、海底ケーブルなどのレジリエンス強化。
  • デジタルID:認証・電子署名の相互運用性に向けた協力。

日本とEUは、政府AIでのベストプラクティス交換や、安全・安心で信頼できるAIを推進する協力文書に向けたコミットメントも確認しています。これは米国がDeepSeekを排除したことへの直接の対抗措置として発表されたものではなく、2022年から進む日EUデジタルパートナーシップの一環です。

日EUの共同声明は中国製AIの一律禁止宣言ではない

米国の今回の対応が特定企業の技術を政府システムから排除する措置であるのに対し、日EUの共同声明は、信頼できるデータ流通と技術協力、供給網の強靱性を高める枠組みです。特にDFFTは、信頼性を確保しつつ国境を越えるデータ流通を促進する考え方であり、外国製技術を国籍だけで排除する構想とは異なります。

重要なのは、どのAI製品を利用しても同じリスクとして扱うことではなく、各提供者の法域・契約・技術的統制を透明化し、求められる安全水準に合致しないものは採用しないことです。日EUの連携は、その判断を各組織が実行できる制度と技術基盤を整える取り組みとして位置付けられます。

ソブリンAIはなぜ国家安全保障・経済安全保障で必要なのか

ソブリンAIは、国や組織がAIのデータ、計算基盤、モデル、運用ルールを自律的に管理できる状態を目指す考え方です。国産モデルを使うことだけが条件ではなく、海外モデルを利用する場合でも、データ処理・運用停止・モデル変更について自ら管理・選択できることが焦点となります。

管理対象 AI主権上の確認事項 依存した場合に起こり得る問題
データ 保存国・処理国、学習利用、削除、鍵管理を制御できるか 機密情報が許容範囲外の法域や事業者へ移転する
モデル 適用モデルやバージョンを把握し、代替先へ切り替えられるか 特定事業者の方針変更で業務が停止する
計算基盤 推論環境、GPU・クラウド、通信経路を管理できるか 国際規制やサービス障害が長期停止につながる
運用 ログ監査、アクセス制御、インシデント対応を自組織で実行できるか 問題発生時に原因調査や封じ込めができない
調達・供給網 モデル提供元、開発者、依存技術、再委託先を把握できるか 第三者製品に含まれる制限対象技術を見落とす

政府にとってAIは、今後の行政文書作成や資料検索だけでなく、法令調査、予算・調達、重要インフラ監督、緊急時の意思決定など、多数の業務と接続する基盤になります。生成AIが業務アプリやエージェントとして組み込まれるほど、外部APIの提供停止が行政機能へ与える影響も大きくなります。

また、AI基盤への依存は企業の経済安全保障にも直結します。半導体やクラウド、モデルの利用条件、特定国の輸出管理・制裁、ソフトウェア更新の停止などにより、契約上は利用可能だった技術が短期間で使えなくなる場合があります。国産化だけでこれらを解決することは難しく、複数の提供元を利用できる設計と、国内で一定の処理を継続する能力の両方が必要です。

日本政府の「源内」とAI主権の関係

デジタル庁は2026年10月20日、政府向け生成AI環境「源内(げんない)」のAIエージェント機能と運用基準を公表しました。政府職員が使用する共通環境を整備し、利用者・管理者・開発者の責任分担やデータの取扱いを管理する取り組みです。

セキュリティ対策Labは、同日の「源内」にAIエージェントを導入したニュースとソブリンAIの安全保障上の論点で、行政データの管理、海外事業者への依存、モデルの切り替え、実行権限の制御を詳しく整理しています。

「源内」のような政府共通基盤と、米DHSのDeepSeek排除命令は手段が異なります。前者は承認されたAIを管理された環境で使うための仕組み、後者は政府が容認できないと判断した供給元を調達・システムから除去する措置です。両方を組み合わせることで、業務利用の利便性を確保しながら、機密保全と供給網の管理を強められます。

日本の高機密領域向けクラウド整備や、AIサービス停止時に備えた自律性については、高機密ソブリンクラウドとAI・データ主権の解説も参考になります。

日本企業はAIの提供国ではなくデータと機能ごとに利用可否を決める

情報システム部門が最初に確認すること

第一に、社内でどの生成AIが実際に使われているかを把握します。公式チャットやAPIだけでなく、ブラウザ拡張、エディターのAI補助、RPA、SaaS内のAI要約、社内で試験導入したローカルモデルも対象です。アプリの画面に表示される商品名と、実際の基盤モデルや外部接続先が一致しない場合があります。

第二に、扱う情報を公開情報、社内限り、個人情報、顧客預かり情報、営業秘密、機密性の高い行政・インフラ情報に分け、AIへ入力できる内容を定めます。「社内向けAIは利用可」とするだけでは、利用者が何を貼り付けてよいか判断できません。

第三に、公式サービスか、第三者SaaS経由か、自社内ホストかを区別します。同じDeepSeek系モデル名でも、プロンプトの送信経路、保存者、外部学習への利用可能性、更新担当者は提供形態によって異なります。

禁止だけで終わらせないための運用対策

  • 調達審査:モデル名、提供者、関連企業、API接続先、再委託先、データの保存国・処理国を申告させる。
  • 利用統制:承認済みAI一覧を設け、組織管理端末では未承認アプリや拡張機能を管理する。
  • ネットワーク:必要に応じてAIサービスへの通信をプロキシ、DNS、CASB、SASE等で可視化し、用途別に制御する。
  • 情報保護:機密データをAIへ渡す前に秘匿化・マスキングし、APIキーやパスワード、個人データの投入を制限する。
  • 技術検証:モデル重み、推論基盤、プラグインや依存ライブラリの改ざん・脆弱性を確認する。
  • 監査:利用者、モデル、時刻、外部送信先、ツール実行履歴を必要な範囲で記録する。ただし監査ログ自体に機微情報を過剰保存しない。
  • 代替性:AIベンダーやモデルを切り替える場合の出力品質評価、移行費用、業務再開手順を事前に確認する。
  • 教育:制限されたAIの代わりに使用できる承認済みサービスを用意し、個人アカウントへの業務情報入力を防ぐ。

AI製品の具体的な審査項目は、セキュリティ対策Labの主要AI製品のデータ保護・安全性比較でも整理しています。

経営層が確認したい導入判断

経営層は、「中国製AIだから禁止」「米国製だから安全」といった国籍だけのルールで完結させず、業務上の情報価値と許容リスクを設定する必要があります。国や地域ごとの法的な開示リスクは評価項目ですが、米国・EU・日本のAIサービスにも、個人情報、営業秘密、運用停止、供給網に関する別のリスクがあります。

防衛・公共・重要インフラ・医療などの機密情報について、事業者の説明だけではデータ処理や監査が検証できない場合は、導入を見送る、閉域環境へ限定する、承認済みの代替技術へ切り替えるなどの判断が考えられます。一方、公開情報のみの試験利用であれば、用途を限定した評価が可能な場合もあります。

米DHSの今回の命令は、AIを単なるソフトウェア機能ではなく、政府の調達・データ管理・供給網のリスクとして扱う動きです。日本企業でも、AIを選ぶ時点だけでなく、導入後にモデルの出自や接続先が変わったときに気づける管理体制が問われています。

<!– SEOディスクリプション案:米国DHSが2026年10月20日、DeepSeekと関連・派生製品を連邦文民機関の調達・IT環境から排除する命令を公表。公式の一次情報から対象範囲、中国でのデータ保存、日EU共同声明、ソブリンAIの重要性、日本企業のAI調達・セキュリティ対策を解説します。 –>

出典