防衛省、衛星喪失に備え小型ロケットの即応打ち上げを調査へ―米宇宙軍・中国の対衛星能力と宇宙領域の攻防

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防衛省、衛星喪失に備え小型ロケットの即応打ち上げを調査へ―米宇宙軍・中国の対衛星能力と宇宙領域の攻防

防衛省が、有事などで人工衛星の機能が失われた場合に備え、短期間で製造・打ち上げできる小型ロケットの調査研究に乗り出す方針を固めたと、読売新聞が2026年10月9日に報じました。衛星を失ってから新たな機体を準備するのではなく、代替衛星を迅速に軌道へ投入し、通信や情報収集などの機能を回復させることが目的です。

日本では2025年7月の「宇宙領域防衛指針」で、即応打ち上げ可能な小型ロケットと短時間で稼働できる衛星の技術獲得が、すでに政策目標として示されています。今回報じられたのは、その具体化に向けた調査です。米国が実証を進める「Tactically Responsive Space(戦術的即応宇宙)」や、中国・ロシアの対衛星能力の拡大を背景に、宇宙は衛星を保有するだけでなく、妨害や喪失後にも機能を維持・復旧する能力が問われる領域になっています。ウクライナ戦争では、衛星インターネットによる前線通信とAIによる大量の偵察データの分析が、ドローン運用や部隊の指揮統制を支えています。一方で衛星通信は妨害やサイバー攻撃の標的にもなっており、日本の即応打ち上げ構想を考えるうえでも具体的な教訓があります。

※2026年10月9日時点。調査の着手時期、予算、ロケット方式などの個別計画は同日付の読売新聞報道に基づきます。防衛省がすでに公表した政策方針と、今回新たに報じられた具体的な事業計画を区別して記載しています。

防衛省の小型ロケット開発調査のサマリー

  • 2026年10月9日、読売新聞は、防衛省が短期間で製造可能な小型ロケットに関する調査研究を始める方針と報じました。
  • 報道によると、2026年10月中の事業者公募を目指し、2027年2月に研究を開始、2028年3月までに基本的な考え方をまとめる計画です。
  • 2026年度当初予算から約7,000万円を充て、3Dプリンターによる部品製造、供給網・部品備蓄、組み立て工程などを検討するとされています。
  • 車載、洋上、航空機からの発射なども検討対象として報じられていますが、具体的な発射方式や開発企業が決定したという発表ではありません。
  • 防衛省は2025年7月の「宇宙領域防衛指針」で、失われた衛星機能を即応的に補う体制と、即応型マルチミッション衛星技術の獲得を掲げています。
  • 米宇宙軍は2023年の「VICTUS NOX」で打ち上げ指示から27時間後の打ち上げを実証し、2026年6月には「VICTUS HAZE」の打ち上げも実施しました。
  • 中国の軍事宇宙能力について米宇宙軍は、情報収集・監視・偵察(ISR)に利用できる衛星が510機以上あると2026年7月時点で評価しています。
  • ウクライナ戦争では、衛星インターネットがドローンや部隊の通信を支え、DELTAなどの戦場データ基盤がAIによる情報分析を運用しています。一方、2022年のViasatへのサイバー攻撃は、衛星通信の地上側が脆弱になり得ることを示しました。

7,000万円はロケット量産費ではなく調査研究費―2028年3月までに基本方針

読売新聞によると、検証の中心は安価な小型ロケットを短期間に製造できる仕組みです。3Dプリンターを活用した部品製造に加え、必要部品の備蓄や調達先の確保、組み立てを迅速化する手法を調べるとされています。固定式の発射場だけに依存しない運用も視野に、車載式、洋上式、航空機からの発射といった選択肢を検討する方針です。

また、衛星自体についても、軌道投入後に短時間で機能を発揮できる小型衛星を想定しています。ロケットを速く打ち上げても、衛星の製造や初期点検に長期間かかれば、失われた機能を即時には回復できないためです。

報道で示された約7,000万円は調査研究に充てる費用であり、この金額で新型ロケットを完成・量産し、実運用へ移行するという意味ではありません。基本方針の策定後に必要となる開発費、試験計画、打ち上げ能力、契約方式などは、今後の判断事項です。ロケットの開発・保有については、民間企業が担う方向だと報じられています。

なぜ「衛星を守る」だけでなく「失った衛星を補う」必要があるのか

人工衛星は、軍事作戦の通信、部隊の位置把握、ミサイルなどの兆候監視、艦艇や航空機の捜索・追跡を支えています。衛星の利用可能性が低下すれば、地上の兵器や部隊が健全でも、状況認識や指揮統制、遠隔地との通信に制約が生じます。

対衛星攻撃は、衛星本体の物理的破壊に限りません。通信や測位信号への電波妨害、偽信号の送信、衛星搭載センサーへのレーザー照射、軌道上での接近行動、地上局・衛星管制システムへのサイバー攻撃などが想定されています。英国防省の「Defence Space Strategy」は、電磁戦、サイバー攻撃、指向性エネルギー兵器、同軌道型・直接上昇型の対衛星兵器を脅威として列挙しています。

対処には、妨害されにくい通信、複数の衛星・軌道への機能分散、地上側の防護、衛星の状態を監視する宇宙領域把握(SDA)に加え、機能喪失時の代替手段が必要です。即応打ち上げは、このうち「失われた機能の補充」を担います。電波妨害やサイバー攻撃の最中に、新たな衛星を打ち上げるだけで問題が解決するわけではありません。

ウクライナ戦争が示した衛星インターネットの必要性―通信が切れれば情報も届かない

ウクライナ軍は、地上の通信設備が破壊・妨害される環境でも部隊や無人機を接続する手段として、衛星インターネットを利用しています。ウクライナ国防省は2025年11月、エストニアが前線部隊向けのスターリンクシステム調達に350万ユーロを拠出すると公表しました。同省は、安定した衛星通信が部隊間の連絡や無人航空機などの運用を支えると説明しています。衛星通信は単なるインターネット接続ではなく、前線の状況を後方に伝え、指揮所からの情報を部隊へ返すための経路になっています。

一方、商用衛星通信への依存は新たな課題も生みます。2026年2月、ウクライナ国防省は、ロシア側によるStarlink端末のドローンへの不正利用に対処するため、SpaceXと協力して端末の登録・許可制(ホワイトリスト)を導入したと発表しました。味方の接続を維持しながら敵による同じ通信サービスの利用を制限する措置であり、戦場の通信確保には端末の認証・利用管理も必要になることを示しています。

さらに衛星通信は、地上局や利用端末への攻撃によって機能を失う場合があります。ロシアがウクライナへ全面侵攻した2022年2月24日、米Viasatの衛星通信ネットワーク「KA-SAT」はサイバー攻撃を受けました。英国政府と国家サイバーセキュリティセンター(NCSC)は、攻撃は侵攻のおよそ1時間前に始まり、ウクライナ軍の通信妨害が主な狙いだったと評価しています。被害はウクライナの利用者だけでなく、欧州のインターネット利用者や風力発電設備にも及びました。衛星本体の破壊がなくても、通信サービスを停止させられるという事例です。

地上回線にも脆弱性があります。セキュリティ対策Labが2026年9月に報じたキーウのデータセンター・通信設備の損傷と約10万世帯のインターネット障害は、地上設備への攻撃が民間通信を止めた事例です。この障害が軍の指揮系統を停止させたと確認されたわけではありませんが、地上回線と衛星回線の双方に代替手段が必要な理由を示しています。

AIは戦場の映像を判断材料に変える―ウクライナ軍のDELTAとAvengers

ドローンや偵察衛星から映像を大量に取得しても、部隊がその情報を共有できなければ作戦にはつながりません。ウクライナ国防省によると、戦場認識システム「DELTA」は地図や映像などの情報を部隊間で共有し、指揮統制と作戦計画を支援します。2025年8月には、軍のすべての階層へDELTAを導入する方針が発表されました。

AIは、膨大な映像を人間が確認する負担を減らすために利用されています。ウクライナ国防省が2026年8月に公表した説明では、AIシステム「Avengers」はDELTAに取り込まれる無人機映像を月10万ストリーム以上分析し、敵の軍用装備の検出を支援しています。同省は対象の70%をリアルタイムに検出すると説明していますが、これは同省が示した運用上の数値であり、あらゆる環境で70%の識別精度を保証するものではありません。標的に対する最終的な攻撃判断は人間が担うという方針も示しています。

この仕組みでは、センサーによる撮影、通信回線での伝送、データ基盤への集約、AI分析、現場の判断が連続しています。衛星インターネットなどの接続が途絶えれば、映像のリアルタイム共有や後方での分析に制約が生じます。ただし、すべてのAI処理に常時インターネットが必要なわけではありません。端末や無人機の内部で処理を続けられる設計と、通信回復後に情報を同期する手段も、通信妨害下での運用には欠かせません。

ウクライナ軍の無人地上車両による補給・後送については、セキュリティ対策LabのAIと無人地上車両を活用した24,500件のミッションに関する記事で扱っています。また、ドローン映像、通信、AIによる意思決定の関係はAIとドローンが変える現代戦の記事でも整理しています。

こうした軍事データの利用は同盟国にも広がっています。ウクライナ国防省は2026年9月25日、英国が戦場映像を基にAIを訓練する「Avengers Labs」に参加する最初の海外パートナーとなったと発表しました。英国企業は保護された環境内でモデルの訓練・評価を行い、通信や衛星測位が制限される戦場環境での無人機運用も研究対象としています。

ウクライナの事例が日本の即応打ち上げ構想に示すのは、衛星を速く再投入するだけでは、通信や情報処理の機能は完成しないという点です。衛星、地上局、部隊の通信端末、データ共有基盤、AI分析をつなぎ、それぞれに代替経路とサイバー防御を用意する必要があります。なお、今回報じられた日本の小型ロケット調査が、Starlinkと同種の大規模衛星コンステレーションを構築する計画だと公表されたわけではありません。

米宇宙軍は打ち上げ指示から27時間で衛星投入―2026年も実証継続

米宇宙軍(U.S. Space Force)は、宇宙監視、衛星通信、測位などの能力を軍事作戦に統合するとともに、敵対行動に対応して必要な衛星を迅速に投入する「Tactically Responsive Space(TacRS)」を進めています。

2023年9月の実証ミッション「VICTUS NOX」では、米宇宙軍が最終的な軌道要件を提示して打ち上げを命令した後、27時間で衛星を打ち上げました。軌道投入後の初期確認にも37時間を要したと公表されています。あらかじめ衛星や打ち上げシステムを準備し、命令から打ち上げまでの時間を短縮した事例であり、衛星そのものを27時間でゼロから製造したわけではありません。

さらに米宇宙軍の宇宙システム軍団(Space Systems Command)は2026年6月、ニュージーランドからRocket LabのElectronロケットで「VICTUS HAZE」を打ち上げたと公表しました。同ミッションでは、軌道上での接近・近傍活動(RPO)をめぐる状況認識と対応を検証します。迅速な打ち上げだけでなく、軌道上で何が起きているかを識別し、必要な判断につなげる訓練も対象になっています。

米国の取り組みから分かるのは、即応性がロケットの製造速度だけでは決まらないという点です。衛星の事前製造・試験・保管、発射場の利用、打ち上げ要件の決定、軌道投入後の試験までを一連の運用として短縮する必要があります。

中国はISR衛星網と対衛星能力を増強―米宇宙軍が2026年に評価

米宇宙軍が2026年7月時点の情報としてまとめた「Space Threat Fact Sheet」は、中国人民解放軍が利用できる光学、レーダー、電波情報などの情報収集・監視・偵察(ISR)機能を持つ衛星を510機以上と評価しています。これらの衛星は、空母打撃群、航空部隊、遠征部隊などの位置を把握し、長距離精密打撃を支援する能力につながるとするのが米側の分析です。

同資料は、中国が衛星に接近・操作する技術、衛星センサーを妨害し得る地上配備レーザー、衛星通信・測位に対する妨害装置、対衛星ミサイルの能力を発展させていると説明しています。2007年には中国が老朽化した気象衛星を直接上昇型対衛星ミサイルで破壊したと指摘しています。ただし、接近・点検や軌道上サービスを行う技術は民生用途も持つため、衛星が接近行動を実施しただけで攻撃が行われたと判断することはできません。

中国にとって宇宙は、米軍・同盟国の活動を把握するための情報源であると同時に、相手の情報優位を低下させるための作戦領域です。中国・ロシアの能力に関する評価は米宇宙軍が公表したものであり、中国政府が個別能力の保有や軍事目的をすべて認めたという意味ではありません。

英国は2026年の新宇宙戦略で「宇宙へのアクセス」と宇宙監視を重点化

英国政府は2026年9月8日に「UK Space Strategy」を公表しました。衛星通信、宇宙領域把握(SDA)、軌道上での整備・組み立て・製造、宇宙へのアクセス(Access to Space)の4分野を、能力整備を加速する対象に指定しています。

英国はすでに2024年5月、国防省と英国宇宙庁などが連携する「National Space Operations Centre(NSpOC)」を設立しました。民間と軍の担当者が協力し、人工衛星の衝突、宇宙ごみ、宇宙物体の再突入、衛星に関する脅威などを監視する体制です。即応打ち上げの開発だけでなく、衛星の動きを把握して被害を回避し、地上のインフラへの影響を抑える取り組みを進めています。

米国が緊急打ち上げと軌道上での対応を実証するのに対し、英国は民軍の宇宙監視基盤、衛星通信の抗たん性、国内から宇宙へアクセスする能力の確保などを政策の柱にしています。

イスラエルは国産偵察衛星を運用―実戦での目標把握を重視

イスラエル国防省は2025年9月2日、国産の「Shavit」ロケットで偵察衛星「Ofek 19」を打ち上げました。Ofek 19は合成開口レーダー(SAR)を用いた観測衛星で、昼夜や一定の悪天候下でも地表の情報収集が可能です。衛星とロケットはイスラエル航空宇宙産業(IAI)などが開発し、衛星は軌道上試験を経て軍の地理空間情報部門で運用する計画と発表しました。

2026年3月5日には、イスラエル国防省が、イランとの戦闘に関する衛星画像を地上局で確認し、情報収集や目標生成、作戦の迅速化に衛星の能力を活用していると説明しました。これは、偵察衛星が平時の監視にとどまらず、実際の軍事作戦に密接に組み込まれていることを示す、イスラエル政府自身の説明です。

ただし、イスラエルが打ち上げから短時間で衛星機能を復旧する技術を、今回の日本の調査と同じ条件で実証したことを意味しません。イスラエルの例から確認できるのは、衛星・ロケットの国内開発と、地上の情報処理・軍事運用との接続です。

日本は2025年の指針ですでに即応打ち上げを明記―「宇宙のレジリエンス」を具体化

防衛省の2025年7月「宇宙領域防衛指針」は、宇宙領域における機能保証(Mission Assurance)の一環として、対衛星ミサイルなどで機能を失った衛星を即応的に補完する体制を検討すると明記しています。また、即応打ち上げ可能な小型ロケットの能力向上に加え、軌道投入後の機能確認期間を大幅に短縮する「即応型マルチミッション衛星」技術の獲得も掲げています。

日本はこれとは別に、スタンド・オフ防衛能力のための衛星コンステレーション、次期防衛通信衛星、SDA衛星、地上施設の分散、宇宙システム全体のサイバーセキュリティ強化なども進めています。今回のロケット調査は、衛星の監視・防護・分散に「喪失後の補充」を加える取り組みとして位置付けられます。

セキュリティ対策Labでは、関連する防衛省の大容量衛星通信とサイバー防御に関する記事や、米宇宙軍の宇宙制御能力と中国・ロシアの動向も掲載しています。

即応打ち上げの課題は「製造・発射・運用」を切れ目なくつなげられるか

ロケットの準備を短縮しても、代替衛星の在庫や搭載機器、発射条件、地上局、運用システムが確保できなければ、必要な衛星機能は復旧しません。今回の調査研究では、少なくとも次の点が実際の運用能力を左右します。

主な検討対象 即応運用で問われる事項
ロケット製造 部品供給先、備蓄、組み立て工程、試験設備を含めて所要時間を短縮できるか
代替衛星 搭載機器と衛星本体を事前に準備し、喪失した機能を代替できるか
発射場・方式 発射地点、天候、安全管理、打ち上げ許可、必要な軌道への投入をどう確保するか
軌道投入後の運用 衛星の初期確認、地上局との接続、データ配信をどの程度短縮できるか
前線との通信経路 地上回線や商用衛星通信が妨害された場合も部隊間のデータ共有を継続できるか
AI・指揮統制 衛星・無人機からの映像を地上のデータ基盤へ渡し、通信断でも必要な分析・判断を維持できるか
妨害・サイバー対策 新たに投入した衛星や地上の管制・データ処理系が、同じ手段で再び妨害されないか

特に衛星の制御権限や暗号鍵、地上局との通信経路、製造・試験環境へのアクセス管理は、宇宙システムのサイバーセキュリティ上の点検対象です。英国防省も宇宙戦略で、サイバー攻撃が衛星データを遮断・妨害・欺瞞する可能性を指摘しています。

打ち上げ能力の整備と並行して、衛星の分散配置、地上設備の冗長化、電波妨害への耐性、代替データ調達に加え、前線通信とAI分析を接続する経路を維持できるかが、機能喪失時の作戦継続を左右します。

出典

国内の報道・防衛省の一次情報

ウクライナ戦争と衛星通信・AIに関する一次情報

米国の一次情報

英国の一次情報

イスラエルの一次情報