イエメン政府、フーシ派へ大規模反攻「Dawn of Yemen」開始―バブ・エル・マンデブ奪還を主張、紅海安全保障は新局面

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イエメン政府、フーシ派へ大規模反攻「Dawn of Yemen」開始―バブ・エル・マンデブ奪還を主張、紅海安全保障は新局面

イエメンの国際的に承認された政府を率いる大統領指導評議会(PLC)は2026年10月5日、フーシ派(アンサール・アッラー)に対する大規模軍事作戦「Dawn of Yemen(Fajr al-Yemen/イエメンの夜明け)」の開始を発表しました。

イエメン政府軍は同日、紅海とアデン湾を結ぶ要衝バブ・エル・マンデブ海峡周辺やドゥバブ、モカ方面で前進したと発表しています。サウジアラビア主導の連合軍も航空支援を開始し、100機の戦闘機が作戦に参加、324の「高価値目標」を破壊したと主張しました。

ただし、これらは戦闘当事者側の発表を含みます。フーシ派側は政府軍の進撃規模を否定しており、個々の戦果について独立した確認が取れていないものがあります。

2026年10月6日8時58分時点で確認できる英国、米国、イエメン政府の公的・準公的資料と主要報道をもとに、今回の反攻が紅海の海上交通と地域安全保障に持つ意味を整理します。

「Dawn of Yemen」のサマリー

  • イエメン大統領指導評議会は10月5日、フーシ派支配地域を奪還する「Dawn of Yemen」作戦を開始
  • ラシャド・アル・アリミPLC議長は、国家機関の回復と首都サナアの奪還を作戦目標として掲げた
  • 政府軍はバブ・エル・マンデブ周辺、ドゥバブ、モカ方面で前進したと発表
  • サウジ主導連合は100機の戦闘機が参加し、324の高価値目標を攻撃したと発表
  • 英国下院図書館は10月5日、2026年半ば以降にフーシ派が紅海沿岸で支配地域を拡大し、航行の自由への脅威が高まったと分析
  • 英国政府はサウジアラビアとイエメン政府の自衛権を国際法の範囲内で支持
  • 米情報機関は2026年の年次脅威評価で、フーシ派を「米国とパートナー国の利益に対する強靭な挑戦者」と評価
  • 米国務長官マルコ・ルビオ氏は10月5日、サウジアラビアにはフーシ派の攻撃から自国を防衛する権利があるとの立場を示した
  • バブ・エル・マンデブ周辺の領域を政府側が確保しても、フーシ派のミサイル・無人機による海上交通への脅威が直ちに消えるわけではない

情報の確度

情報 評価
「Dawn of Yemen」作戦の開始 高:PLC議長、イエメン国営通信SABAが公式発表
政府軍のドゥバブ進出 高~中:政府軍発表に加え主要国際報道も前進を確認
バブ・エル・マンデブ周辺の支配回復 中:政府軍が発表、主要報道も前進を報道する一方、フーシ派は進撃規模を否定
モカの奪還 中:政府側発表と主要報道あり。戦況は流動的
100機の戦闘機参加、324目標破壊 中:サウジ主導連合の公式発表だが、個々の戦果は独立確認されていない
米軍の直接的な攻撃参加 未確認:米政府は作戦への具体的な軍事関与を公表していない

フーシ派の紅海沿岸での前進に対する大規模反攻

今回の反攻は、突然始まったものではありません。

英国下院図書館が10月5日に更新したイエメン情勢の調査資料によると、2022年の停戦以降、フーシ派とイエメン政府側の主要戦線は長期間ほぼ固定されていました。

しかし2026年半ばから戦闘が再び激化し、フーシ派はサウジアラビアへのミサイル・無人機攻撃や海上封鎖を主張するとともに、イエメン西部の紅海沿岸で支配地域を拡大しました。

英国下院図書館は、フーシ派による紅海沿岸での前進が「航行の自由に対する脅威」を生じさせていると評価しています。

セキュリティ対策Labでも7月、フーシ派によるサウジアラビア向け海上封鎖の宣言と、紅海側のエネルギー輸送への影響を整理しています。

フーシ派によるサウジアラビア向け海上封鎖と紅海側エネルギー輸送への影響

9月にはフーシ派の攻勢がさらに進み、紅海沿岸やバブ・エル・マンデブ周辺の政府側支配地域が圧迫されました。

イエメン政府の反攻は、この沿岸部の支配を取り戻すと同時に、フーシ派によるサウジアラビアへの越境攻撃と紅海の海上交通に対する圧力を弱める狙いがあるとみられます。

イエメン政府は「首都サナアの奪還」まで作戦目標に設定

イエメン国営通信SABAによると、PLC議長で軍最高司令官でもあるラシャド・アル・アリミ氏は10月5日、「Dawn of Yemen」作戦の開始を正式に発表しました。

政府側が掲げた目標は、バブ・エル・マンデブ周辺の限定的な奪還にとどまりません。

アリミ氏は、

  • 国家機関の回復
  • 首都サナアの奪還
  • イエメン全土への国家権限の回復

を掲げています。

サナアは2014年以降フーシ派が支配しており、北西部の人口密集地域も引き続きフーシ派の統治下にあります。

そのため、「Dawn of Yemen」が沿岸部を確保する限定作戦で終わるのか、複数戦線を通じてサナアまで圧力を拡大する長期作戦となるのかが、今後の戦況を左右します。

バブ・エル・マンデブとモカ方面で政府軍が前進

イエメン政府軍は10月5日、政府側部隊がバブ・エル・マンデブ周辺とドゥバブ空港を確保し、ドゥバブとモカを結ぶ道路を遮断したと発表しました。

その後、政府側はモカについても支配を回復したと発表しています。

Reutersも政府側部隊がバブ・エル・マンデブ周辺からモカ方面へ前進したと報じていますが、フーシ派は政府側が主張する進撃の規模を否定しています。

戦時下の領域支配は短時間で変化するため、「政府軍がバブ・エル・マンデブを完全に奪還した」と固定的に判断する段階ではありません。

一方、政府側がドゥバブとモカを安定して維持できれば、フーシ派がバブ・エル・マンデブ南部沿岸から海上交通へ直接圧力をかける能力には一定の制約が生じます。

サウジ主導連合、100機の戦闘機で航空支援と発表

イエメン国営通信SABAによると、サウジアラビア主導の「イエメン正統性支援連合」は、100機の戦闘機が「Dawn of Yemen」作戦に参加したと発表しました。

連合軍報道官トゥルキ・アル・マリキ少将は、

  • 324の高価値目標を破壊
  • バブ・エル・マンデブ上空の航空防護
  • 地上のイエメン政府軍に対する24時間の航空支援

を実施しているとしています。

324目標という数字は連合軍側の戦果発表であり、個々の攻撃結果について第三者による独立確認が取れているわけではありません。

ただし、今回の作戦が政府軍だけによる地上反攻ではなく、サウジアラビアの航空戦力を組み合わせた統合作戦であることは明確になっています。

なぜバブ・エル・マンデブの奪還が安全保障上の焦点なのか

バブ・エル・マンデブ海峡は、紅海とアデン湾を結ぶ世界有数の海上チョークポイントです。

英国下院図書館は、同海峡を世界の石油の約7%が通過するとしています。

アジアから欧州へ向かう船舶がスエズ運河を利用する場合、原則としてバブ・エル・マンデブを通過します。

フーシ派が2023年以降に紅海の商船を相次いで攻撃した際には、多くの海運会社が紅海を避け、アフリカ南端の喜望峰を迂回しました。

2026年はホルムズ海峡の輸送制約も重なっているため、紅海側の経路は従来以上に重要になっています。

セキュリティ対策Labでは、9月にサウジアラビアの東西原油パイプラインへの攻撃によって、ホルムズ海峡を避けてヤンブーから紅海へ輸出するルートにもリスクが生じたことを整理しています。

サウジアラビアの東西原油パイプラインへの攻撃と紅海輸送への影響

バブ・エル・マンデブ周辺の支配は、イエメン国内の領土争いだけではなく、サウジアラビアの原油輸出と欧州・アジア間の物流に直接関係します。

米情報機関はフーシ派を「強靭な挑戦者」と評価

米国家情報長官室(ODNI)が2026年3月に公表した「Annual Threat Assessment」は、フーシ派について、米国とそのパートナーの利益に対する「resilient challenger(強靭な挑戦者)」と評価しています。

米情報機関が重視しているのは、単純な支配地域の広さではありません。

フーシ派は、

  • 紅海に面する地理的条件
  • 弾道ミサイル
  • 巡航ミサイル
  • 無人航空機
  • 対艦攻撃能力

を組み合わせることで、自らより大きな軍事力を持つ国家や国際海運に対して非対称な圧力をかけることができます。

米議会調査局(CRS)も2026年2月、フーシ派が国際海運、イスラエル、周辺諸国を攻撃できる能力を実証しており、長期的な脅威となり得ると整理しています。

この評価からみれば、政府側がバブ・エル・マンデブ周辺の地上支配を取り戻したとしても、フーシ派の軍事能力そのものが失われたことを意味しません。

米国はサウジの自衛権を支持、直接参戦は公表せず

米国務長官マルコ・ルビオ氏は10月5日、フーシ派の攻撃を受けるサウジアラビアには自国を防衛する権利があるとの認識を示しました。

また、イエメン政府軍についても、フーシ派に奪われた領域を取り戻そうとしているとの見方を示しています。

一方、米国が今回の「Dawn of Yemen」でどの範囲まで軍事支援を行っているかについて、米政府は具体的な作戦内容を公表していません。

Reutersは作戦準備段階で米国が情報面で支援していると報じていますが、米軍による直接的な攻撃参加が公式に確認されたわけではありません。

この点は、米国が2025年に実施したフーシ派への直接空爆とは区別する必要があります。

英国はサウジ・イエメンの自衛権を支持、航行の自由を重視

英国政府は2026年9月10日、フーシ派によるサウジアラビアへの攻撃とイエメン国内での軍事行動の再拡大を非難しました。

英国外務・英連邦・開発省(FCDO)は、サウジアラビアとイエメンには「国際法に従って自国の安全と主権を守る権利がある」としています。

9月22日のG7外相声明でも英国、米国、日本などは、

  • フーシ派によるサウジアラビアへの攻撃停止
  • 民間船舶への攻撃停止
  • バブ・エル・マンデブの航行の自由
  • イエメンの国際的に承認された政府への支持

を確認しました。

英国の安全保障上の関心は、イエメン政府の領土回復そのものだけではなく、紅海とバブ・エル・マンデブを国際海運が継続して利用できる状態を維持する点にあります。

インテリジェンス評価:フーシ派の敗北を意味する作戦ではない

現段階で「Dawn of Yemen」をフーシ派に対する決定的反攻と評価するのは早い状況です。

第一に、フーシ派は首都サナアを含む北西部の主要地域を依然として支配しています。

第二に、対艦ミサイルや長距離無人機は、海峡の直近に部隊を配置しなくても運用できます。バブ・エル・マンデブ周辺の地上支配を失っただけで、紅海の船舶に対する攻撃能力が消滅するわけではありません。

第三に、政府側の弱点は軍事力だけではありません。

英国下院図書館は、イエメン政府を構成するPLCについて、複数の勢力から成る分裂した組織であることが有効性を損なってきたと指摘しています。

政府側が短期的に領土を奪還できても、異なる部隊を統合して占領地域を維持し、行政と治安を再構築できなければ、軍事的前進を政治的成果へ転換できません。

今回の作戦の成否を見るうえでは、「何キロ前進したか」だけでなく、

  • モカとドゥバブを継続的に維持できるか
  • バブ・エル・マンデブ周辺でフーシ派の対艦攻撃が減少するか
  • サナア方面へ実際に戦線が拡大するか
  • 政府側各部隊が統一された指揮系統を維持できるか
  • フーシ派のミサイル・無人機発射能力がどこまで低下するか

を確認する必要があります。

日本企業が確認したい紅海リスク

日本企業にとって直接的な影響が出やすいのは、イエメン国内の領土変化より海上物流です。

紅海情勢が再び悪化した場合、

  • スエズ運河経由船舶の喜望峰迂回
  • 輸送日数の延長
  • 海上保険料の上昇
  • コンテナ運賃の上昇
  • サウジアラビアの紅海側エネルギー輸出への影響
  • 航空便や中東出張への影響

が想定されます。

9月には米国務省も、フーシ派とサウジアラビアの衝突が急速にエスカレートする可能性に言及し、中東での航空便欠航や空域閉鎖に備えるよう警告していました。

米国務省によるサウジアラビア情勢と航空便への注意喚起

今回の反攻でバブ・エル・マンデブの地上支配が政府側へ移ったとしても、紅海のリスクを直ちに平時水準へ戻す材料にはなりません。

海運会社の航路選択、UKMTOなどの海上警報、サウジアラビア国内へのミサイル・無人機攻撃、フーシ派の対艦攻撃能力を継続して確認する必要があります。

出典

イエメン

英国

米国

戦況確認