みずほフィナンシャルグループ(FG)が、銀行口座開設で運転免許証の顔写真などを使う画像ベースの本人確認方式を廃止する方針を固めたと、毎日新聞が2026年10月16日に報じました。りそなホールディングスも同様の対応を前倒しする方向で、両グループの切り替え時期は現時点で明らかになっていません。一方、あおぞら銀行は同日、対象となるWeb口座開設サービスで10月29日から公的個人認証サービス(JPKI)へ切り替えると正式に案内しています。
背景には、本人確認書類の画像を含む大量の個人情報漏えいと、画像を利用したなりすましへの懸念があります。金融庁は10月9日、金融機関に対してサイバーセキュリティ対策の点検と本人確認の厳格化を要請。2027年4月1日の犯罪収益移転防止法施行規則の改正を待たず、ICチップ情報の読み取りを用いる方式への「可及的速やかな対応」を求めました。
ここで廃止されるのは、主として運転免許証の券面画像と申込者の顔画像を撮影・送信して照合する本人確認方法です。「運転免許証そのものが法令上すべての銀行で本人確認書類として使えなくなる」という意味ではありません。どの書類を受け付けるか、どの方式へ移行するかは銀行・手続きごとに確認が必要です。
銀行の本人確認方式見直しのサマリー
- 毎日新聞は10月16日、みずほFGとりそなHDが、口座開設時の運転免許証画像を用いる本人確認方式を前倒しで廃止する方針だと報道しました。実施日は未定です。
- あおぞら銀行は「BANK預金口座WEB開設サービス」の本人認証を2026年10月29日からJPKIへ変更します。
- 同サービスでは10月28日で「本人確認書類と本人の容貌を撮影・送信する方式」を終了し、29日からはマイナンバーカードが必須になります。運転免許証や運転経歴証明書は利用できません。
- 金融庁は10月9日、オンラインの本人確認について画像の不自然な点の確認徹底、ICチップ読み取り方式への早期移行、委託先管理を含むセキュリティ点検を要請しました。
- 2027年4月1日の法令改正で、非対面における本人確認書類画像の送信を受ける方式などが見直されます。具体的な法定確認方法は手続きごとに異なります。
- タイムズカーの不正アクセスでは約660万アカウントの情報取得が確認され、うち約160万アカウントで運転免許証画像等の本人確認書類の漏えいが確認されました。約160万件のすべてが運転免許証画像という意味ではありません。
- タイムズカーは10月16日、従来は会員期間中および退会後7年間保存していた本人確認書類画像について、登録確認完了後に削除するルールへ変更し、現存画像を10月末までに削除すると発表しました。
| 金融機関・グループ | 2026年10月18日時点の対応 | 実施時期・注意点 | 情報の根拠 |
|---|---|---|---|
| みずほFG | 免許証の顔写真等による口座開設時の画像ベース本人確認を廃止する方針 | 前倒し方針、時期は未定 | 毎日新聞10月16日報道 |
| りそなHD | 同方式の廃止を前倒しする方向 | 時期は未定 | 毎日新聞10月16日報道 |
| あおぞら銀行 | BANK預金口座WEB開設サービスでJPKI方式へ移行 | 10月29日から。対象サービスではマイナンバーカード必須 | あおぞら銀行公式案内 |
※「前倒し方針」と「実施日が確定したサービス変更」を区別しています。みずほFG・りそなHDについては、報道で示された範囲を超えて対象口座・受付チャネル・開始日を断定していません。
あおぞら銀行、10月29日からWeb口座開設をJPKIに切り替え
あおぞら銀行の公式発表で、対象と実施日が明確になっています。2026年10月29日以降、「BANK預金口座WEB開設サービス」では、スマートフォンでマイナンバーカードのICチップを読み取り、公的個人認証サービスを利用して本人確認を行います。10月28日をもって、スマートフォンなどのカメラで本人確認書類と申込者の顔を撮影・送信する方式は終了します。
同行は、変更後の同サービスでは運転免許証・運転経歴証明書を本人確認書類として利用できないと案内しています。これは当該Web口座開設サービスの受付条件であり、すべての金融機関の窓口や本人確認手続きで免許証が一律に使用禁止となるわけではありません。
金融機関が採用する方式の違いは、利用者の手続きにも影響します。ICチップ対応スマートフォン、カードの保有状況、読み取り不能時の代替手続き、住所変更直後の取り扱いなどを決めたうえで、申込画面・FAQ・窓口案内を整合させる必要があります。10月29日の切り替えが発表済みなのは、あおぞら銀行が案内した上記サービスです。
金融庁は10月9日、2027年4月を待たない対応を求める
金融庁が10月9日に公表した注意喚起は、単なるeKYC方式の変更要請にとどまりません。金融機関等に対し、①外部公開システムや委託先、インシデント対応態勢を含めたサイバーセキュリティ対策の点検、②非対面本人確認における書類画像・容貌画像の不自然な点の確認徹底、③ICチップ情報の読み取り方式への速やかな移行を求めています。
通常の法改正対応であれば、各社は2027年4月の施行日に向けて移行計画を組みます。しかし今回の要請は、大量の本人確認情報が漏えいしている現状を踏まえ、施行日前の残存リスクにも対応するよう促すものです。切り替え完了までの間、現在採用している確認方式を無条件に安全とみなすのではなく、画像改ざんの兆候、同一端末・連絡先からの反復申込、不自然な申込行動を検知する運用も点検対象になります。
制度の対象となる本人確認方式や施行規則の改正内容については、セキュリティ対策Labの既存記事「犯収法の本人確認、2027年4月に大幅変更―身分証の画像・コピーからICチップ確認へ」で整理しています。また、金融庁の要請の原文と具体的な注意点は「金融庁、本人確認書類の画像漏えいを受け対策強化を要請」を参照してください。
タイムズカー約660万アカウントの情報漏えい、本人確認書類画像の長期保有も見直し
本人確認の前提となる書類画像自体が漏えいした事例として、タイムズカーの事件があります。タイムズモビリティが運営する同サービスでは9月に不正アクセスが発生し、約660万アカウントの情報が第三者に取得されたことが確認されています。9月29日付の第3報では、約160万アカウントで運転免許証画像、現住所確認書類画像、学生証画像、家族確認書類画像などが漏えいしたと公表しました。
顔写真や住所、生年月日などの情報は、パスワードと異なり簡単には変更できません。もっとも、書類画像が漏えいしたからといって、その画像だけで銀行口座を開設できると確定するわけでもありません。危険なのは、流出画像が改変されたり、別の個人情報と組み合わされたりして、画像中心の本人確認や審査を狙うための材料になり得ることです。被害の詳細は既存記事「タイムズカーの不正アクセスと本人確認書類の漏えい」「運転免許証情報が漏えいした場合の悪用シナリオ」で扱っています。
タイムズカーは10月16日、第4報で本人確認書類画像の保存ルールを変更すると発表しました。従来は会員期間中と退会後7年間保有していた画像を、今後は会員登録の確認完了後に削除する運用とし、現在保存している画像も本人の申し出を待たず10月末までに削除するとしています。変更は同社の判断であり、金融機関に同じ保存ルールがそのまま適用されるわけではありません。
金融機関では、犯収法上の確認記録や取引記録の保存義務と、書類画像の複製を保存し続ける必要性を区別して検討する必要があります。法令や監督上必要な記録は保持しつつ、業務上の必要性がなくなった原本画像、作業用コピー、外部委託先の一時保存データまで残していないかを把握することが論点になります。
金融機関が確認したい5つの実務課題
1. 廃止対象の本人確認フローをチャネル別に棚卸しする
Web口座開設、アプリ、店舗、ローン、投資商品、代理人申込、郵送などの手続きを「eKYC」の一語でまとめず、各手続きが現在採用している法定の確認方法と利用書類を記録します。本人確認ベンダーの製品名だけでは、どの方式が廃止対象になるか判断できません。予定している切り替え日、暫定対応、顧客への告知をひとつの移行表に整理します。
2. ICチップを使っても不正口座対策は完了しない
電子的に本人確認書類の真正性を確認できるようになっても、他人が正規の本人確認書類を使うケースや、口座開設後に口座が不正利用される問題まで一括して解消するわけではありません。口座開設段階の本人特定と、開設後の取引モニタリング、異常送金検知、端末・ログイン認証の強化は別の管理策として運用します。
3. IC読み取りの失敗・非保有者への対応を決める
マイナンバーカードを保有していない顧客、カードを読み取れない端末、暗証番号ロック、本人確認情報の変更直後など、正常系以外の取引をどう処理するか決めます。例外手続きが「本人確認書類の写真をメールで送ってください」という無審査の抜け道にならないよう、許容する代替手段と承認権限を明文化します。
4. 書類画像と確認結果の保存先を委託先まで追跡する
本人確認画像がアプリ、クラウドストレージ、本人確認ベンダー、コールセンター、ログ基盤、バックアップのどこに複製されるかを確認します。閲覧権限、ダウンロード権限、アクセスログ、削除・保存期間、委託先からの再委託の有無を含めた棚卸しが必要です。法定保存が必要な記録の削除と、不要な画像ファイルの削除を混同してはいけません。
5. 切り替え後の本人確認と顧客案内を一体で管理する
切り替え後の障害発生時に申込をどのように受け付けるか、申込途中の案件を旧方式で完了できるか、窓口担当者とコールセンターの説明が一致しているかを確認します。顧客に新しい本人確認を要求する連絡はフィッシングに悪用される可能性もあるため、公式サイト・アプリから手続きへ進む案内を基本とし、メールやSMSのリンク先に依存しない導線を用意します。
本人確認の見直しは、情報を「どう確認し、どこまで保有するか」の判断へ
今回の動きで金融機関が区別すべきなのは、①画像を用いた本人確認から電子的な真正性検証へ移ること、②取得した本人確認情報の保存量・保存場所を必要最小限に見直すこと、③不正口座の開設・利用を継続的に監視することの3点です。
みずほFGとりそなHDの対象サービスや前倒し時期は続報の確認が必要です。あおぞら銀行のように実施日を示した金融機関が現れたことで、他の金融機関でも法施行日から逆算した対応ではなく、残存する画像方式のリスクを評価した移行順序が問われます。








