岐阜県下呂市の企業、ニセ社長詐欺(BEC詐欺)で約200万円被害 社長名のメールからLINEへ誘導

セキュリティニュース

投稿日時: 更新日時:

岐阜県下呂市の企業、ニセ社長詐欺(BEC詐欺)で約200万円被害 社長名のメールからLINEへ誘導

岐阜県下呂市の企業が、実在する社長を名乗る人物からのメールをきっかけにLINEグループを作成し、指定された口座へ約200万円を振り込む詐欺被害に遭いました。名古屋テレビが2026年8月17日、下呂警察署から提供された情報として報じました。

攻撃者は「会社の口座に300万円を入金する」と伝えたうえで、「これから200万円の支払いがある」と送金を指示していました。予定されていた300万円が入金されなかったことから従業員が不審に思い、警察への相談で被害が発覚しています。

今回の手口は、警察庁と情報処理推進機構(IPA)が注意を呼びかけている「ニセ社長詐欺」またはビジネスメール詐欺(BEC)の経営者なりすまし型に該当します。ただし、会社や社長本人のメールアカウントが侵害されたとの情報は公表されていません。

下呂市で発生したニセ社長詐欺のサマリー

  • 確認済み:2026年8月17日、下呂市でサービス業を営む企業に、実在する社長を名乗る人物からメールが届きました
  • 確認済み:メールでは「今後の連絡に使う」として、LINEグループの作成を求めていました
  • 確認済み:従業員がLINEグループを作成すると、社長を名乗る人物が送金を指示しました
  • 確認済み:攻撃者は「会社の口座に300万円を入金する」と伝えた後、「これから200万円の支払いがある」と説明しました
  • 確認済み:従業員は指定された口座へ約200万円を振り込み、現金をだまし取られました
  • 確認済み:予定された300万円が入金されなかったことから不審に思い、警察に相談して被害が発覚しました
  • 確認済み:警察は、社長を名乗るメールからSNSへ誘導された場合は詐欺を疑うよう注意を呼びかけています
  • 未確認:被害企業の名称、送信元メールアドレス、振込先口座、正確な被害額は公表されていません
  • 未確認:会社や社長本人のメールアカウントが侵害された事実は確認されていません
  • 未確認:個人情報や機密情報の流出、他の従業員への同種メール、被害金の回収状況は公表されていません
項目 内容
報道日 2026年8月17日
発生日・確認日 2026年8月17日
対象組織 岐阜県下呂市でサービス業を営む企業。社名は非公表
インシデント 実在する社長になりすました人物による送金詐欺
初回接触 社長を名乗るメール
誘導先 LINEグループ
被害額 約200万円
被害発覚の契機 攻撃者が入金すると説明した300万円が入金されなかったこと
警察への相談 下呂警察署へ相談したことが報じられています
メールアカウント侵害 確認できませんでした
情報流出 確認できませんでした
被害金の回収 確認できませんでした

社長を名乗るメールからLINEグループへ誘導

名古屋テレビによると、8月17日、下呂市でサービス業を営む企業に、実在する社長を名乗る人物からメールが届きました。メールには「今後の連絡に使うのでLINEグループを作成してください」などと記載されていました。

従業員が指示に従ってLINEグループを作成すると、社長を名乗る人物は「会社の口座に300万円を入金する」と説明しました。続けて「これから200万円の支払いがあるので指定する口座に振り込んでほしい」と送金を指示しています。

従業員は指示された口座へ約200万円を振り込みました。しかし、攻撃者が入金すると説明していた300万円は会社の口座に入らず、不審に思ったことから警察へ相談し、詐欺被害が判明しました。

報道では、メールの送信元アドレス、LINEグループへの具体的な招待方法、振込先の名義や国、社内の承認状況は明らかにされていません。攻撃者が会社のメール環境へ侵入したのか、公開情報から社長名を調べて表示名だけを偽装したのかも不明です。

「入金予定」を示して送金への心理的抵抗を下げた可能性

今回の特徴は、攻撃者が先に「会社の口座へ300万円を入金する」と説明し、その後に約200万円の支払いを指示した点です。

これは、会社の資金が差し引きで減らないように見せ、従業員が送金を承認しやすい状況を作るための説明だった可能性があります。ただし、攻撃者の意図や、従業員が送金を判断した具体的な経緯は公表されていません。

結果として、入金予定の300万円が確認できなかったことが被害発覚の契機となりました。入金予定と支払いを組み合わせた指示では、振込先の確認だけでなく、入金の着金を銀行口座上で確認するまで支払いを保留する運用が必要です。振込明細の画像やSNS上の説明は、着金確認の代わりにはなりません。

警察庁が警告していたニセ社長詐欺の型と一致

警察庁は2026年2月13日、法人を対象とした「ニセ社長詐欺」への注意喚起を公表しています。警察庁が示した手口は、次の3段階です。

  1. 実在する経営者名や会社名を使い、公開されている法人のメールアドレスへ連絡します
  2. 業務上のプロジェクトなどを装い、SNSグループの作成や招待用QRコードの返信を求めます
  3. SNS上で口座残高などを確認し、「事業資金が至急必要」「取引先への支払いを代行してほしい」などと送金を指示します

警察庁の注意喚起で掲載された実際のメールは、岐阜県警察から提供されたものです。下呂市の今回の被害も、実在する社長名を利用したメール、LINEグループへの誘導、業務上の支払いを装った送金指示という流れで、この類型と一致します。

IPAも2026年3月、社長などをかたるメールからLINEグループを作成させ、グループ内で多額の振り込みを業務指示する事例を確認したとして注意を呼びかけています。

BECの経営者なりすまし型に該当 メール侵害は未確認

IPAはBECを大きく「取引先との請求書の偽装」と「経営者等へのなりすまし」に分類しています。今回の下呂市の被害は、後者のCEO詐欺、企業幹部詐欺、なりすまし詐欺に該当する手口です。

BECの名称には「メール侵害」を意味するCompromiseが含まれますが、すべての事案で正規メールアカウントへの侵入が確認されるわけではありません。表示名を社長名にする、無料メールを利用する、正規ドメインに似たドメインを使用するなど、アカウントを侵害せずになりすます手口もあります。

本件では、会社または社長のメールアカウントが侵害されたとの発表はありません。このため、「メールアカウントが乗っ取られた」「社内情報が流出した」とは断定できません。確認されているのは、実在する社長を名乗るメールとLINE上の指示により、約200万円が詐取された事実です。

ニセ社長詐欺とBECの関係、典型的な手口については「ニセ社長詐欺とは?手口・見分け方・対策を解説」で整理しています。

同様のニセ社長詐欺が全国で続く

社長や代表者を名乗るメールからLINEなどへ誘導し、送金を指示する被害は全国で相次いでいます。セキュリティ対策Labが確認・記事化した関連事例には、次のようなものがあります。

地域・対象 被害額 手口 関連記事
岐阜市の機械小売会社 4,500万円 社長を名乗るメールからLINEへ誘導し、経理担当者を加えて送金を指示 岐阜市の機械小売会社がニセ社長詐欺で4,500万円被害
山口市の法人 9,600万円 社長を名乗り、メッセージアプリ上で送金を指示 山口県内で連続するBEC詐欺の手口を解説
鹿児島県内の企業 合計1,100万円 LINEグループ作成後、2段階で送金を指示 鹿児島県内の企業がニセ社長詐欺で1,100万円被害
愛媛県東温市の企業 200万円 代表者を装うメールからLINEへ誘導 東温市の企業がニセ社長詐欺で200万円被害

これらは公表・報道された被害の一部です。被害額や誘導方法を横断的に確認する場合は「ビジネスメール詐欺(BEC)・ニセ社長詐欺の不正送金被害まとめ」を参照してください。

また、生成AIによる自然な日本語作成や標的調査の効率化が手口へ与える影響は「多発するニセ社長詐欺(BEC詐欺)の事例を交えて解説」で解説しています。ただし、下呂市の本件で生成AIが使われたとの情報は確認されていません。

メールセキュリティだけでは防ぎきれない理由

この手口は、最初のメールに不正な添付ファイルやフィッシングサイトへのリンクを含めず、LINEグループの作成だけを求める場合があります。その場合、一般的な迷惑メールフィルターやマルウェア対策製品が明確な悪性要素を検出できない可能性があります。

やり取りが個人のLINEへ移ると、企業のメールセキュリティ、監査ログ、アーカイブ、送信制御の範囲から外れます。メール上では金銭を要求せず、セキュリティ管理の弱いチャネルへ移動してから送金を指示することが、この手口の重要な特徴です。

対策の中心は、メールを完全に遮断することではなく、どのチャネルから指示されても、送金処理の段階で詐欺を止められる業務統制にあります。

情報システム・経理部門が実施すべき対策

IPAは、送信者とされる人物へ確認する場合、受信したメールへ返信せず、電話など別の方法で確認するよう求めています。また、振込時の二重チェック、不審メールの報告手順、社内教育を対策として挙げています。

企業では、次の対策を情報システム部門と経理・財務部門が共同で実施する必要があります。

  • 社長や役員が個人用SNSで送金を指示しないことを社内規程として明文化します
  • LINEやメールで届いた送金指示は、社内電話、対面、登録済みの電話番号など別経路で本人確認します
  • 新規口座への振込、振込先変更、一定額以上の送金には複数人の承認を必須とします
  • 「至急」「秘密」「他の社員へ相談しない」といった条件が付いた場合も、承認手続きを省略しないようにします
  • 入金予定を根拠に支払う場合は、インターネットバンキング上で着金を確認するまで送金を保留します
  • 振込依頼者と承認者を分離し、一人の従業員だけで送金を完結できない権限設計にします
  • メールの外部送信者表示、SPF・DKIM・DMARC、多要素認証、不審な自動転送ルールの監視を実施します
  • 不正URLや添付ファイルがない「LINEグループを作成して」というメールも訓練シナリオに含めます
  • 代表者名、役員名、従業員のメールアドレスなど、Web上の公開情報が攻撃に利用される前提で教育します

不審な送金が実行された場合は、振込先金融機関と自社の取引銀行へ直ちに連絡し、組戻しや口座凍結の可否を確認する必要があります。あわせて、警察へ相談し、メールのヘッダー、本文、LINEのトーク画面、送金記録、時刻、振込先情報を削除せず保全します。

本件では、予定された入金がなかったことが発覚のきっかけとなりました。しかし、着金確認を送金前の必須条件にしていれば、被害を防げた可能性があります。メール対策、従業員教育、送金承認、金融機関との連絡手順を分けず、一つの業務プロセスとして設計することが重要です。

出典