2026年7月24日、ランサムウェアグループ「Qilin」がダークウェブ上のリークサイトに医療技術大手Stryker Corporation(NYSE: SYK、stryker.com)を被害組織として掲載し、不正アクセスによるサイバー攻撃を主張しました。本稿執筆時点でのリークサイトの閲覧数は8,515件で、社内の機密文書とみられるサンプル画像を13点公開しています。
Strykerは現時点でこの主張を公式に確認しておらず、同社の広報から声明は出ていません。2026年3月11日にはイラン系ハクティビストグループ「Handala」によるウィパー攻撃(端末の一斉消去)を受けており、今回のQilinの犯行声明が事実であれば、わずか4か月半で2度目の大規模サイバー攻撃となります。
QilinによるStrykerへの犯行声明サマリー
- 2026年7月24日11:31(UTC)、QilinのリークサイトにStrykerが掲載(Manufacturing)
- 閲覧数:8,515件(本稿執筆時点)、公開サンプル:13点
- リークサイトに公開された文書とみられる画像にはTÜV審査報告書・滅菌バリデーション・技術図面・骨接合材料仕様書等の機密性の高い内部文書が含まれるとみられる
- Strykerは現時点で公式に未確認。声明なし
- Qilinは窃取データ量や身代金の要求額を開示していない
- 2026年3月11日にはHandala(イラン系)によるウィパー攻撃を受けており、4か月半での2度目となる可能性
- ransomware.liveは本エントリーを「Duplicate Entry(重複エントリー)」と記録
整理表
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 被害主張組織 | Stryker Corporation(stryker.com)、Manufacturing |
| Strykerの業態 | 医療技術大手(整形外科インプラント・手術器具・神経技術・ICU機器等) |
| 攻撃グループ | Qilin(ロシア語圏を拠点とするRaaSグループとみられる) |
| 犯行声明の日時 | 2026年7月24日 11:31(UTC) |
| リークサイト閲覧数 | 8,515件(本稿執筆時点) |
| 公開されたとみられる文書 | 13点(TÜV審査報告書・滅菌バリデーション・技術図面・骨接合材料仕様書等) |
| Strykerの公式確認 | なし(本稿執筆時点) |
| 過去の攻撃 | 2026年3月11日:Handala(イラン系)によるウィパー攻撃、SECに8-K提出 |
| Qilinの最近の侵入手法 | CVE-2026-0257(Palo Alto Networks GlobalProtect VPN)の悪用(2026年6月確認) |
何が起きているか——犯行声明の内容と公開文書の性質
Qilinのリークサイトへの掲載は、身代金を支払わなければ窃取データを完全公開するという圧力をかけるための公開的な脅しです。リークサイトには現時点でサンプルとして13点の画像が公開されており、当メディアが確認した限りでは以下の性質の文書が含まれているとみられます。
ドイツの第三者認証機関TÜVによるStryker GmbH(ドイツ子会社)に対する機密審査報告書とみられる文書、手術器具の滅菌バリデーションに関する報告書、「PROTOTYPE」の記載を含む技術図面、Stryker Orthopedics(整形外科部門)が明示した材料仕様書(GADS Vitalium Alloy、Tantalum Beads等)、そしてTitanium Locking Plate System(骨固定器具)に関する技術資料が確認されています。


これらは製品の設計・製造・品質保証に直結する高度な機密性を持つ書類です。Qilinは窃取した具体的なデータ量や身代金の金額を公開しておらず、GalaxyWardenが報告しているように「公開前に非公開での交渉圧力をかける段階にある可能性がある」とされています。
Strykerとは——世界61カ国で展開する医療技術大手
Stryker Corporationは米国ミシガン州カラマズーに本社を置くFortune 500企業で、2025年の売上高は約250億ドルです。56,000名以上の従業員が世界61カ国以上で勤務しており、人工股関節・人工膝関節などの整形外科インプラント、手術器具・ロボット手術システム(Mako)、神経科学デバイス、ICU・救急医療機器を主力製品として製造・販売しています。
日本でもStrykerの製品は多数の医療機関で使用されており、同社は日本法人(stryker.com/jp/ja)を通じて整形外科・神経科・クリティカルケアの各分野で事業を展開しています。
2度目の標的——2026年3月Handala Wiper攻撃との関係
今回のQilinの犯行声明が特に注目される背景には、Strykerが2026年に入ってすでに一度、壊滅的なサイバー攻撃を受けていたという事実があります。
2026年3月11日午前3時30分(米国東部時間)、イラン系ハクティビストグループ「Handala」がMicrosoft Inruneの正規のリモートワイプ機能を悪用し、Strykerの世界中の端末に一斉消去コマンドを送信しました。アイルランド(Strykerの米国外最大拠点、約5,500名が勤務)を含む79カ国でシステムが停止し、従業員は業務端末にアクセスできなくなりました。Strykerは同日中にSECに8-Kを提出し、「Microsoft環境に対する深刻なグローバルな混乱」を認めています。なお同社はランサムウェアやマルウェアの関与は確認されていないと述べており、Handalaの「200,000台以上のデバイス消去・50TBのデータ窃取」という主張についてStrykerは確認していません。
Handalaはイランと米国・イスラエルの武力衝突(2026年2月28日の「Operation Epic Fury」)を背景にした報復攻撃であると声明を出しています。今回7月24日のQilinの犯行声明が別の独立した侵害によるものなのか、3月の攻撃と何らかの関連があるのかは現時点では不明です。いずれにせよStrykerが複数の攻撃グループから繰り返し標的にされている状況は、同社が高い「攻撃価値」を持つ組織と見なされていることを示しています。
関連:イランの代理サイバーハッキング作戦の全貌-ハッカー グループとの繋がりや認知戦/物理的破壊作戦まで
Qilinが2026年6月以降に使用している侵入手法
Qilinの攻撃手法と実像で詳述しているように、QilinはRaaS型の組織で、コアグループがインフラを管理しアフィリエイトが実際の侵入・攻撃を担う分業体制をとっています。
セキュリティ企業Arctic Wolfは2026年7月、同年6月に観測した複数のQilinによる侵入において、Palo Alto Networks製ファイアウォールの脆弱性「CVE-2026-0257」が初期アクセスの手段として一貫して使用されていたことを確認・公表しています。侵入後には、C:\PerfLogs\へのランサムウェアのステージング、PsExecを使った管理共有経由の横展開、パスワード保護されたランサムウェアペイロードの展開、ログ消去ルーティンの実行が共通して確認されています。今回のStrykerへの侵害でCVE-2026-0257が使われたかどうかは未確認です。
医療機器メーカーへの攻撃が持つ特別な意味
Qilinによるオオサキメディカルへの攻撃の際にも指摘されているように、Qilinは医療機器分野への攻撃を繰り返しています。医療機器メーカーへの侵害が他業種と異なる重大性を持つ理由は3点あります。
まず製品仕様書・製造プロセスという知的財産の喪失リスクです。今回のリークサンプルにはインプラント材料の組成・滅菌バリデーション手法・骨接合器具の設計図が含まれているとみられており、これらは競合他社への漏洩が知財上の重大損失となります。次に規制コンプライアンスへの影響です。TÜV認証書・ISO 13485審査報告書などは、医療機器の市場承認を維持するための根拠文書であり、外部流出した場合、規制当局との関係においても影響が生じる可能性があります。最後に患者安全への間接的なリスクです。手術に使われる器具・インプラントの設計仕様が外部に出ることで、模倣品製造への悪用という長期的なリスクがあります。
Qilinによる日本・医療分野への攻撃の背景
ランサムウェアグループQilinの概要が示すとおり、Qilinは2022年後半に登場し2023年2月からRaaSとして本格稼働を開始しています。2025年下半期以降は世界で最も被害組織数の多いランサムウェアグループの一つとなっており、国内でもアサヒグループホールディングス・日産子会社・オオサキメディカル・スーパーバリュー等への攻撃を主張しています。
直近では2026年6月29日に武蔵野大学への攻撃を主張するなど活動を継続しており、医療・教育・製造業を問わず幅広い業種を標的としています。
関連:ランサムウェア グループ Qilinが宇都宮セントラルクリニックへの不正アクセスと情報窃取を主張
情報システム部門・Stryker製品使用医療機関への注意
Strykerが今回の件を現時点で公式確認していないため、Stryker製品を使用している病院・医療機関が取るべき緊急の対応はありません。ただし、Stryker社からの公式声明・プレスリリース・SEC開示情報(8-K等)を継続的にモニタリングし、取引先企業としての対応を要するかどうかを判断できる体制を整えておくことを推奨します。
自組織でPalo Alto Networks製ファイアウォールのGlobalProtect VPNを使用しており、CVE-2026-0257のパッチ適用が完了していない場合は、優先度を上げて対応してください。
出典
- Stryker Corporation日本法人
- Qilin Ransomware Targets Stryker Manufacturing——DeXpose(2026年7月)
- Stryker Listed by Qilin Ransomware Group——GalaxyWarden(2026年7月24日)
- Cookie Crumbles: How Exploitation of CVE-2026-0257 Leads to Qilin Ransomware——Arctic Wolf(2026年7月)
- Stryker Systems Disrupted in Cyber Attack; Handala Group Claims Responsibility——Arctic Wolf(2026年3月)
- Epic Fury Update: Stryker Attack Highlights Handala’s Shift——LevelBlue(2026年3月)
- ランサムウェアグループQilin(キリン)とは——セキュリティ対策Lab
- ランサムウェアグループQilinの攻撃手法・実像——セキュリティ対策Lab
- QilinがオオサキメディカルへのサイバーAttackを主張——セキュリティ対策Lab
- Qilinが武蔵野大学への攻撃を主張——セキュリティ対策Lab







